地平線の向こうから大きな朝日が昇って来る。
光が山や麓の町を照らし、それは下界を優しく見守っている様に見えた。
「わーっ、綺麗な景色だねぇ」
「ですよね~……日が昇る所見たのって初めてですけど、何て言うか、上手く言えないですけど、人間って本当に小さな存在なんだなって……感動しちゃいますね」
両側のさやかと奈尾が感嘆しているのを見て、ヤマネも微笑んだ。
「そういってもらえるとうれしいな。ここはずっとむかしからわたしたちをみまもってきてくれた、特別な場所だから」
深い山の中、木々が開けて光が差し込む場所で、3人は倒木に腰掛けて日の出を見ていた。死にゆく者の心境、と言うやつの影響もあるだろうが、何度訪れてもこの山の情景は心に染みる程大らかで、
(それはきっと、よそからこの町にやってきたこのふたりにも伝わるんだよね)
木漏れ日と冷えた空気の
自分は既にこの世の者では無くなっていると告げられ、『円環の理』へのナビゲートをすると突然言われて、戸惑い、慌て、さっきまで取り乱していたヤマネだったが、大好きな山の空気を吸い込んだ今では、
(…………わたし、ちゃんと成仏できるのかな)
―――――――――――――――なんて、落ち着いた気持ちで、いっそ他人事の様に、ぼんやりと考えることさえ出来るのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「『円環の理』へのナビゲーションを担当させて頂く、芽育奈尾です」
「美樹さやかです」
と突然現れたこの二人に恭しくお辞儀をされても、ヤマネはまだ自らの現状を受け入れられなかった。当たり前だ。現に自分は今ここに立っているのに、魔力を使い果たして消滅したなんて。
「分かってらっしゃるとは思いますが、魔力を使い果たした全ての魔法少女の魂は、『円環の理』に導かれないといけない事になってるんです。でないと希望を求めた因果がこの世に呪いをもたらしちゃったりなんかしちゃったりして、ちょっと収拾が付かなくなっちゃうんでね」
「はいっ、その魂を天上まで連れて行くのがあたしの役目ね」
「だけど『円環の理』の中って言うのは、神の世界、所謂天国なんで、
「………………あのー、これってやっぱり、ドッキリかなにかじゃないんですか」
「あのねえ、何処のテレビ局がこんなの仕掛けるってのよ。魔法少女は一般人には秘密の存在なのよ?
ほら、みんな本気で悲しんでるでしょ」
さやかに言われて向こうを見れば、確かにリホやルル達、ヤマネの仲間達が、こちらを全く気に掛けずに言い争っている。
「馬鹿な事言ってんじゃ無いわよ、ルル」リホがルルに掴み掛かった。
「はっきりした根拠も無いのに、適当な事ばっか、ぺらぺら、ぺらぺら………」
「はっきりした根拠ならある。みんながそれを見た。みんなも、あんたも」一方のルルは、リホの事などお構い無しで、調子を変えない。
「……………仮にそうだとして、何であんた、そんな平気な顔してられるの!?…………」
リホの声に嗚咽が混じり始めた。
「みんなだって同じよ………みんな、ヤマネの事が心配じゃないの?………ヤマネに、もう………二度と………会えないかもしれないって………云うのに………みんなは悲しくないの?………
ねぇみんな、ヤマネとあたし達は………」
(なんの最終回なの?これ)
「ねえ、リホちゃん、ルルちゃん、みんな!もう冗談はいいよ、わかったよ!わ~おもしろかった、おもしろかったからもうおわりにしよう、っていうか、おもしろくなんかないよ!冗談だとしても、たちが悪すぎるよ!この子たち一体だれなの⁉みんなの友だちなの?わたしにも紹介してよ!
ねえ泣かないでよみんな、そこに私はいないよ、眠ってなんかいないよ!
ここにいるよ!ここにいるよ!ここだよ!」
「あの、ヤマネさん、ちょっと落ち着いて…」取り乱しているヤマネを奈尾がなだめようとする。
「さわらないでっ‼ねえ、みんなぁ‼」
奈尾を振り切ってリホ達に突進していったヤマネだったが、その身体は涙をこぼす仲間達をすり抜け、反対側に通り抜けてしまった。
山ガールのヤマネちゃん。
彼女の台詞は平仮名を多目にして、柔らかい感じを出そうとしています。