まどマギ式☆霊界ナビ   作:サムズアップ・ピース

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13 渡物語ワタシモノガタリ

 こちらこそよろしくお願いします、とさやかさんたちに告げた後、来た時と同じ様な白い光で目が眩んで、気がついたら路地裏で大の字に倒れていた。

 薄く目を開けると、杏子さんたちが心配そうな顔で、或いは心底驚いた表情で私を見下ろしているのが見えた。キュゥべえはやっぱり無表情だった。

「芽育……さん?大丈夫?」

 体に力が入らない私を、マミさんが助け起こしてくれた。

 まだ完全に頭が働いてない私は、しまらない口調でマミさんに尋ねた。

「……私、さっきまでどーなってました?」

「キュゥべえに願いを言った後、急に芽育さんがいたあたりが強く光って、気がついたら芽育さんの

 姿が消えていたの。どこだどこだって慌ててみんなで探したんだけど、その後もう一度辺りが光って、またもとの位置に芽育さんが現れたわ。ほんの数秒の出来事だったけど」

 アバウトな感覚だが、『円環の理』の中には少なくとも三十分以上は居た筈だ。現世とあちらでは時間の流れる早さが違うのだろうか。

 何だか長い夢を見ていた気がしたが、現に私の手の中にはソウルジェムがある。磨き込まれた様な金色で、皿に乗った卵のような宝石の上に、乾電池みたいな小さなシンボルがちょこんとくっついている。

 自分のソウルジェムをギュッと強く握りしめてみた。さやかさんと再会出来て、これからも合える

 と言う事。ナビゲーターという、大事な使命を引き受けてしまった事。色んな事が頭の中をぐるぐるしていて、今はまだ考えがまとまらない。家に帰ったら、ゆっくりと向き合う事にしよう。

「一体何が……?」

 珍しくプチパニックを起こしているらしいほむらさんに答えて、杏子さんが呟いた。

「だからさ、会って来たんだろ、その、恩人とやらに」

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 私が契約を終え、晴れて魔法少女になった後、さて、私が少し休んだら早速魔獣退治に行こう、どうすればいいか分からないだろうから今はまだ見ているだけでいい、まずは体験授業だ、という段になったが、それを待ち構えていたかの様に、いきなりザーッと、バケツをひっくり返したみたいな雨が降り始め、

『ちょっと……やっ、やだっ、雨だなんて天気予報で言ってた⁉』

 急遽みんなで雨宿り出来る場所を探し、この後の活動について緊急会議となった。

『あたしゃもう帰りたいね。こちとらまだ蓄えはあるんだ。あんたらもこんな雨ん中歩き回って、風邪でも引いたらそれこそ大変だろ』

『そうしたい所だけど……でも天気が悪いと、人の心が不安定になるから魔獣が出やすいじゃない?一匹でも二匹でも、増殖されないうちにいたら潰しておいた方が、

 …………分かった、じゃあ今日はお休みにしましょう。私は軽く街を見回ってから帰るわね』

『私も同行させて貰うわ』

『あら、ありがとう暁美さん』

 マミさんが魔法のリボンを束ね、鮮やかな黄色い傘を作り出してさす。ほむらさんを傘の下に誘ったが、プイッとそっぽを向くほむらさん。マミさんはちょっとだけしょんぼりとしながら、もう一本傘を作ってほむらさんに渡した。それから、杏子さんと私にも傘をくれた。

『……あーもう、分かったよ。あたしも行く。奈尾を家まで送って行ったらな。

 奈尾、あんたはもう家に帰りな。あんたには色々教える事はあるが、そいつはまた今度だ』

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 ということがあったのが一週間位前かな?

 私は家の―――私をちゃんと家族の一員として受け入れてくれる、何も気を遣う必要のない日番谷の家で、自分の部屋でゆったりごろごろしながら、マンガやなんか見たりしていた。

 私は数日前、ナビゲーターとしての初めての仕事を終わらせたばかりだった。山音(ヤマネ)さんと言う、ちょっと不安定な所もあったがとっても優しくて、そして他の人にない物を持っている人を担当した。

 最初は上手く行っていたかと思っていたが途中でヤマネさんの思わぬ事情が発覚し、最終的にかなり強引な方法で何とか無理矢理収集をつけた。

 正直言って、いい仕事をしたとは言えないと自分では思う。私は最初、ヤマネさんが心に抱えている闇の気配を薄々感じつつも、気づいて対応する事が出来なかった。いつもあんな事では、死者の魂を導くナビゲーターなんてやっていられない。

 もっと経験を積まなきゃ。ナビゲーターとしても、それから魔法少女としても。

 もっと人が助けられる様になりたい。そうしてもっと周りに広げて行きたい。

 あの日、さやかさんに貰った、暖かい気持ちを……

 

 そう思ったら、何だか急に不安になって来た。これがプレッシャーと言う奴か。

 家にいる時はのんびりして英気を養いたいのだが、一度考えだすと不安感は私の心を侵食していき、段々マンガの内容も頭に入らなくなって来た。

 私、大丈夫かな。うまくやって行けるかな。

 

 その時だった。

「奈尾~、お~い」

 部屋の外から呼ぶ声が聞こえた。

「は~い」

 

「お母さん、どうしたの」

 このお母さんと言うのは、もちろんこの家に最初から住んでいる、「今の」お母さんだ。

 あっこは両親の事を「たんたん」「まーちゃん」とまるで友達の様に呼ぶ。

 最初は私もそう呼んでいいよと言われたのだが、流石にいきなり「まーちゃん」とかはハードルが高く、かと言って、「拓真さん」「摩耶さん」ではよそよそしすぎる。

 最終的にスタンダードに「お父さんお母さん」に落ち着いた次第である。 

「いや、今、宅配便?が届いてさ」

「宅配便がどうかした?」

「奈尾宛てに」

「え?」

 お母さんが指さした大きな段ボール箱に目をやる。

 一見普通の宅配便に見えるが、確かに私の名前と住所が書いてある。孤児院の住所じゃなく、お父さんやお母さんの名前でもなく。

 私がこの家に来てからまだそんなに日にちは経っていないというのに、一体誰が私に荷物なんか送って来たんだろう。そう思いながら差出人の名前を見て二度驚いた。

 

「ヤマネさん⁉」

「友達?」

 

 差出人の名前の所にはなんと「渥美山音」とだけ書いてあり、住所は空欄になっていた。

 お母さんの話によると、チャイムに答えて外に出てはみたが誰もおらず、家の前に荷物だけが置いてあったらしい。

「取り敢えず、開けてみちゃったら?」

 思いがけない贈り物にびっくりしつつ、お母さんに言われてテープを剥がして箱を開けてみると……

「「わぁーっ、さくらんぼだぁ!」」

 箱の中にはつやつやとした大粒のさくらんぼが、綿に包まれて一杯に詰まっていた。

 それから、便箋に綺麗な字で書かれた手紙も。

 

「芽育奈尾さま

 

 暑さもだいぶやわらいでまいりましたが、いかがおすごしでしょうか。奈尾ちゃんの住んでいるまちでも、おひさまは照っていて、ひまわりやあさがおの花は咲いていたでしょうか。

 突然おくりものをさせていただいてごめんなさい。この前はおせわになったから、どうしてもあらためてお礼をしたかったんだ。

 奈尾ちゃんが守ってくれたあの山の自然は、わたしだけじゃなくて、市のみんなにとっての宝でした。これからもずっと守られていってほしい。守られて行くと信じてる。

 おかげでわたしも、未練なくここまで来ることができました。

 そんな感謝のきもちをこめて、野乃中市の名物のさくらんぼを送らせてもらいました。

 いつか、もういちどわたしのまちにきてほしいな。派手なものはないけど、きっとこころがやすまる場所だとおもうから……

 奈尾ちゃんの健康とご長寿をこころからおいのりしております。

 かしこ。

 

 渥美山音」

 

「つまり仕事の報酬……って事かなぁ」

「なになに?奈尾の学校の話?」

 つい、口をついて出た独り言にお母さんが反応したので、笑って誤魔化した。

 まあ、何とかなるだろう。改めて感謝の気持ちを受け取ったら、何だか急にそう思える様になった。

 大丈夫だ。きっと一つ一つの仕事に真剣に向き合ってさえいれば、相手に気持ちは伝わる。

 ハッスル、ハッスル。やるしかないなら、やり切るだけでしょ?

 そんな感じで、私は明日も生きて行く。みんなを助ける為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奈尾は山音から報酬としてさくらんぼを手に入れた

 お仕事完了。お疲れさまでした

 

 まだまだ新人ですが、これからの仕事もよろしくお願いします!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

㊙個人情報に付き持出厳禁

 

 

【挿絵表示】

 

 

名前:芽育(めぐみ)奈尾(なお)

年齢:13

出生地:風見野市 西風区(にしかぜく) 花ヶ丘町(はながおかちょう)(現在の活動拠点は見滝原市)

誕生日:12/12

血液型︰A

 

好きな物事、趣味:中華料理、特に杏仁豆腐。ハンバーグ。ボーカロイドが歌う楽曲、好きなPはれるりり、じん、ナユタン星人。ラブライブ!のアニメ。歌やダンス。ジャンル・年代問わず漫画全般、特に好きなのは「僕のヒーローアカデミア」。Vtuberの月ノ美兎。たこパ、即ちたこ焼きパーティ。他、多趣味。

嫌い・苦手な物事:あらゆる豆類、特にグリーンピース。うなぎ(うなぎそのものも、食べるのも)。上から目線な相手。自分を甘く見られる事。叱られる事。球技全般、特にバスケ。絵を描く事(壊滅的)。

口癖:「ハッスル、ハッスル」

特技:歌。こぶしやビブラートも綺麗にこなす他、喉がかなり丈夫でいくら大声を出しても声が枯れない。

 

ソウルジェムについて:単一乾電池に似た形をしており、帽子に収まっている。タイガーアイの様な金色。

武器:ペン。空中に魔方陣を描き、そこから火炎弾を発射する事で攻撃する。また、ペン自体を剣や槍に変形させる事も可能。

契約時の願い:「かつて自分を助けてくれたさやかにもう一度会いたい」。結果的に『円環の理』までワープしてしまった。

固有魔法:「霊なる世界への干渉」。『円環の理』までジャンプ出来るのみならず、霊的存在を視認したり、自身が霊化する事も出来る。生と死を越えたイレギュラーな能力であると言え、ソウルナビゲーターとしての仕事に役立っている。

 

 明るく前向きで、思考がシンプル、ちょっとドジな所もあるが、あまりくよくよと悩んだりしない性格。

 そうした現在の性格があるのも、暗い過去を乗り越えた経験があればこそである。抑圧されていた時期からの反動か、好奇心が強く、興味を持った物には取り敢えず手を出してみるタイプ。

 常に他人の顔色を窺う事を強制される環境にいたせいか、相手の本質や善悪を見抜く洞察力・共感能力に優れている。

 かなり器用で、大抵の事は一時間習えば基礎は覚えてしまう。

 同い年の子と比べても背が低く、見た目が幼い。

記述:さやか




 と言う事で、主人公の自己紹介編でした。長らくお待たせし過ぎでしたね。
 私はまどマギやその外伝の世界には自分の感情を伝えたり、相手の気持ちを汲んだりする事に普通の人より長けている人間が一定の割合でいると思っていて(ほむらの心中の空虚さを感じ取ったさやかや、織莉子に敗れかけていたマミ・杏子を奮起させたゆまなんかがその部類だと思います)、奈尾はそう言った人種の中でも、特に強い能力を持ったキャラと言うつもりで描いています。

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