どうしても魔法少女になりたい奈尾と、それを認めない杏子!
奈尾「魔法少女になりた~~~い!」
杏子「うぜぇ‼」
…………………と言う出来事があったのが数週間前の事。
「……ったく、柄にもなく散々言って聞かせてやったってのに」
キュゥべえと真っ直ぐ向かい合った私の後ろで、杏子さんがぼそりと呟いた。
あれから杏子さんからは何度も思いとどまる様に説得されて、それでも私は諦めなかった。
どんなリスクがあったとしても、それでも私はやりたかったのだ。人を助ける事。誰かの役に立つと言う事を。
「えへへ。そりゃあ、覚悟なら、あの時杏子さんの教会に行った時から決めてましたから」
私は振り返って告げる。
杏子さんも自分の身の上話を聞かせてくれた。家族の為を思ってした事が裏目に出て、全てを
「ちっ………良いか、魔法少女になるからにはみっちり鍛えてやるからな、覚悟しなよ?」
「はい!よろしくお願いします!」
大きな声で元気に言ってから、私はキュゥべえの方に向き直った。
「………ハッスル、ハッスル………」
深呼吸をして、その後なるべくみんなに聞こえないように、小声で口の中で呟く。
お母さんが教えてくれた、ここ一番、気合を入れなきゃならない時に使う、呪文みたいな物だ。
「解き放ってご覧……君のソウルジェムは、どんな願いで輝くのかい?」
キュゥべえが私に告げる。無表情な声が今は却って
願いなんて別にナシでも良いが、叶えてくれると言うのならあの事以外にはない。
「私の願いは、あの時私を助けてくれた、あの人に……!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「もう一度、あの時私を助けてくれた、あの魔法少女に会いたい!」
――胸の中心に触れられる感覚があり、その
目を開けると、私は真っ白な空間に出た。
と、最初は思ったが、すぐに真っ白なんじゃなく、この場所が放っている強い光にまだ目が慣れていないんだと理解した。
目を
私は遥か遠くにある蒼い人影に向かってまっすぐ突き進んだ。
「あの、すいません!」
数メートルまで距離を詰めた後に声をかけると、あの時とまるで変わっていない、ショートカットのあの人は、きょとんとした様子で振り返った。
胸が一杯になって、つっかえて上手く言葉が出て来ない。
「あんた………?」
「あの、あの、私あの、昔貴女に助けて貰った、」
「……ああ!あの夜の……」
「はい………!」
「………ふふふっ」
「?」
「いやね、随分良い笑顔する様になったなと思ってね……そっか。幸せな人生を手に入れる事が出来たんだね?」
「はい。貴女と会えた……お陰です」
「あんたも魔法少女になったんだ。って言うか、口調が随分丁寧になったねぇ」
「やっぱり恩人とはちゃんとした言葉遣いで話したかったから……」
「恩、人か………」
「えと、お名前、聞いても良いですか?私は、芽育奈尾って言います」
「あたしは、美樹さやか」
「みき、さやか、さん………
……あの時は本当にありがとうございました。
……やっと伝えられた……!
この瞬間を、ずっとずっと待っていた。
「……ごめんね、あの、ちょっと……っ」
感極まってしまったのか、さやかさんが顔を押さえた。
さやかさんはあの時、よくは分からないけど、深く悩んでいたんだろう。今も悩んでいるのだろう。あるいは、悩みのない人間なんていないのだろう。
だから、拙い言葉でもいい、私の口から教えてあげたいと思った。貴女に救われた人間が確かに存在する事を。彼女と同じ魔法少女になりたかったのは、そう言う理由もあった。
『――
その時だった。耳にさやかさんではない、誰かの声が聞こえた気がした。
気のせいかと思ったが、そこから一気に知らない誰かとだれかとダレカと誰かと誰かと誰かと―――
『誰だ?』『どうやッテこコニ来た?』『ちいさくてカワイイー』『ダレダ?』『ダレだ?』『わたしたちと『同じ』じゃナイ?』『だあれ、ドチラサマー?』『おなまえはー?いくつ?』『誰だ?』『やめようよ、こわがってるよ』『ダレ?』『だれ?』『
そして私は、いつの間にか妖怪みたいな謎の生物の大群に周りをぐるりと取り囲まれていた事に気付く。
「……うわああああああああああああああっ⁉」
腰が抜けた。人間の悪夢から抜け出して来たかの様な姿をしたそのイキモノ達は、二つとして同じ姿をした者はおらず、まるで人間そっくりにお喋りをしていた。
魔獣とは違う、じゃあこいつらは一体……
その中の数匹が、泣き出してしまったさやかさんに寄り添う。
「……何だよぉ、もぉ。みんなして集まってくんなよぉ。暇かよあんたらぁ」
あの、すいませんさやかさん、何でこの状況下で照れてる以外の反応がないんですか……と言おうとしたが、口がぱくぱく動くだけで「あ、あわわわ……」みたいな、情けない言葉しか出て来なかった。
「……みんな、下がって」
今度は、何処か高い所から、さっきのとは雰囲気の違う、澄んだ声が聞こえて来る。
バケモノ達がそれに反応し、一斉に動きを止める。
バケモノの群れが私達から離れると上空の視界が広がり、何もないと思っていた空中にあった物に目が行った。
ベッド。巨大なベッドが、数本のロープで吊られて空中に浮かんでいる。
『エンカンさま』『えんかん様だ』『えんかんさまがなにかいうぞ』
………
何かを思い出せそうな気がした。
高空のベッドの上から、誰かがぴょこっ、と顔を出して、下を覗いている。
「驚かせてごめんなさい。あなたのお話を、もっと聞かせてほしいな。
あなたにお願いしたい事があるの」
遥か下からでも、金色の瞳が輝いているのが分かった。