マギレコをやっている方は、推しキャラとか居ますか?
「あんた、自分の命は大切にしなきゃいけないよ」
そう彼女が言ったのが耳に届いた数秒後には、もう熾烈なチャンバラ戦が始まっていた。
レーザーの様な細い光線をかいくぐり、蒼い光が闇の中を飛び回って細長い二本のサーベルで怪物の大群を輪切り、撫で斬り、滅多切りにする。巨大な人影が
当然怪物達も黙ってやられるつもりは無いらしく、数匹が仲間を盾にしつつ、マントの少女が着地した瞬間をよく狙って同時に光線を照射した。
「がふ………っ!げほ、げほ」
「あ…………………………………………」
身体に風穴を開けられ、血を吐く少女。
地面に倒れた少女に
「な、め………………………………んな」
ボロキレと化していた少女の身体が、ぴくり、と動く。そこから先は、信じ難い光景だった。
今にも死にそうな全身にぶるぶる震わせながら力を込め、剣を杖にして立ち上がると、彼女の身体を包むぼうっとした蒼い光が
怪物達が後ずさりし始めた。
「待ちなさいよあんた達…………………花も恥じらう美少女の身体に穴開けて、
彼女は怪物達が離れてしまう前に、驚異的な早さで、冗談を飛ばす余裕が出来る程にまで回復を終えると、今度は空中に剣を大量に召喚して魚雷よろしく撃ち出した。怪物の巨体が次々倒れて行き、間一髪で直撃を免れた数匹が闇の中に逃げて行こうとするも、高く跳躍したマントの少女が空中でその行く手を塞ぐ。しなやかな肉体が月光を受けて輝いた。
「一匹も逃がさないっ‼」
一閃、二閃。素早い剣戟が残り全ての怪物共の首をズンッと刈り飛ばす…………………戦いが始まってからここまでが、殆ど一瞬の出来事だった。
彼女が地面に着地すると、数秒遅れて、何やら黒い物が大量にザラザラと降って来る。
一瞬
はっ、はっと肩で大きく息をしながら、彼女が真っ直ぐこっちを見ながら近づいて来て、私のすぐ目の前で立ち止まった。
直前まで眼前で行われていた活劇に見とれていた私は、急速に現実の世界に意識が戻って来ると、お礼を言うでも無くそっぽを向いた。
「余計な事…………………して」
「助けてやってそれは無いんじゃないの」
「……………………………………………」
「死のうとしてたね?」
下を向いたまま何も言わずにいると、いきなり両肩を掴まれて前を向かされた。
「死ぬ勇気があるんならちゃんと生きろ!」
それでも私が答えないので、勇者の格好をした彼女は続ける。
「何があったか知らないけど、そんな簡単に自分の身を捨てちゃ駄目だよ!
「…………………」
「例えどんな事があったって、自分だけは泣かせるな!」
「………ふざけてんのか、この銃刀法違反野郎」
マントの少女が「え」と言葉を詰まらせる。
反応に困っている間に私は一気にまくし立てた。
「なぁにが『自分だけは泣かせるな』、だよ。こっちが黙ってりゃあ余計な事ばっかぱぁぱぁぱぁぱぁ言いやがって。こっちを助けてヒーローごっこやりたいだけなら一人でやれよ。死にたい奴に構うんじゃねーよこのアホウ。家も家族もあるお嬢さんはこんな夜遅くまで出歩いてないで帰ってクソして寝てろよ!」
…………………恥ずかしながら、この時の私はめっちゃ口が悪かった。
勿論学校の先生と話す時とか、敬語を使う事が無い訳ではない…………………だけど、仮にも命の恩人に対して、何を考えていたんだろうこの時の私は………………。
ガキの私のガキらしい他愛も無い悪口を聴いて、しかし私の恩人は、少しならざるショックを受けた様子だった。言葉を飲み込んで、唇を噛んで、苦虫を嚙み潰した様なとは、あんな顔の事を言うのだろうか。
そこから暫く、暴言を吐きっぱなしだった。
彼女は私が自然に落ち着くまで待つ事にしたらしく、ただただ私の酷い言葉を聴いてくれていた。
「舐めんじゃねぇ……ふざけやがって……」
「うん、分かった。ごめんね」
「良いから死なせろよ…もう絶望しかねーよ本当…」
「そんな事無いって。ほら、あそこに座ろ」
「くそ…くそぉ…!何でだよもう何もかも…!
教えてくれよ勇者さんよぉ。誰も彼も私の事を要らない子だ、汚い子だって言うんだよ。
誰も私を要らないなら、何で私は生まれて来たの?
教えろよ!今すぐあんたが教えろよ!」
そこからの詳しい経緯は忘れたが(何しろ精神的にボロボロの状態だったので)、兎に角私は、この見知らぬ人に、自分の身の上を話した。
初対面の相手に何故いきなりそこまで気を許す事が出来たかと言えば、強いて言うなら、相手の中に少しだけ自分と似た物を感じたからだ。
おばさんの言動の中に薄ら寒さを感じたと言う事は、既に書いたと思う。昔からそうなのだ。相手の言っている事が本気なのかどうかとか、本性?みたいな物が、少し話しただけで何と無く分かってしまう。多分、おじおばの顔色を窺いながら生活している内に身に付いた特技なんだと思う。
いや、持っている本人が好きになれない物を「特技」と呼んで良いかどうかは微妙な所だけど。
きっと相手も、私がやっている様に話をしながら私の中にじっと目を凝らしていたと思う。きっとこの人も苦労して来たんだろうなぁと思った。
それ以外に彼女の中に感じたのは、正しさだ。
とても正義感が強いのが見て取れた。
正義感が強くて、そしてぐちゃぐちゃだ―――自分のしている事は正しいのか、本当に誰かを救っているのか、偽善や自己満足になってしまっていないか、そんな事ばかり、いつもいつも、ぐるぐる悩み続けているらしい。人助けは向いてないんじゃないかとすら思えた。
でも、でもだ、と私は思う。こういう性格は嫌いじゃない。
「…………あんた、苦労して来たんだね」
道沿いに作られた花壇に並んで腰掛けて、自殺未遂少女と勇者少女が
彼女の身体が放つ光で、私の手元は本が読めそうなほどに明るくなっていた。
「……………生まれてからずっと、耐え続けて来たんだね」
「………………………………私の気持ちがあんたに分かんのかよ」
敢えてちょっと意地悪な事を言ってみる。腹を探るだけでは、完全には分からない人柄がある。
私はこの人に興味を持ち始めていた。
「…………………分からない。あたしがあんたの人生を体験は出来ないから、こうして話を聞いて、あんたの気持ちを想像する事は出来ても、本当の所は分からない…………………。
多分ね、あたしは、毎日幸せ過ぎて、バカになっちゃってるんだと思うんだ」
「馬鹿…………………?」
「そう、幸せバカ…………………そんなあたしが誰かを助けた所で、結局は自己満足に過ぎないのかも知れない…………………もしかしたら、それが原因で余計悪い事になっちゃったり、迷惑に思う人も居るかも…………………」
「ああ、私は迷惑だよ」
ぐ、と言葉を飲み込む。それでも、もどかしげに、でもはっきりと、彼女はこう続けた。
「でも、でもね、あたしはそれを言い訳にしたくないの。
だってあたしは…………………魔法少女だから。困っている人を助けて、生きるのが辛そうな人の手助けをして、それを邪魔する奴等を倒す。それを続けるしかないの。そう言う生き方を選んだの。例え答えなんか出なくても…………………さ」
「…………………」
「ごめんね、偉そうで。実を言うと、あたしも最近始めたばっかりなんだよね、これ。まだ分かんない事だらけだよ、本当…………………」
これ、と言いながらマントの端をつまんでひらひらさせる。
それは私にとって新鮮な体験だった。未だかつてここまで親身に話してくれた人が、私の人生に一人でも居ただろうか。
「じゃあ、こう言う事にしない?」
と、数秒の間があって、彼女が唐突に口を開いた。
「これからは、あたしとあんたで、一緒に頑張ろうよ」
「ん?」
まじまじと彼女を見る。
「あたしも、こんな曖昧な自分を変えて、あるべき姿を見つけて、本当の意味で人を救えるようになる。ごっこじゃなく、一人前のヒーローに
お互い離れた所に居ても、相手が何処かで頑張ってると思えば、心強いと思うんだよね。あたしなんかじゃ頼りない……………かな?」
ほんのちょっぴり自信無さげに彼女がこっちを見て来る。
誰かと一緒に……………何と甘美な言葉だろう。それは、弱り切って傷だらけだった私の心の奥まで、深く沁み込んで行った。
「…………その方が良いかな。私も…………」
私の恩人は、暗闇を照らす眩しい笑みでその言葉に答えてくれた。冷え切っていた胸の奥が暖かくなって行くのを感じていた。
〽主役より普通に敵キャラ勢が好き~♪
いろはより普通に天音姉妹が好き~♬