おかあさーん、ひどいじゃん。
わたし、なにもわるいことなんかしてないよ。
こどもは、じぶんでうまれてくるわけじゃないよ。こどもは、おやがつくるものじゃん。うまれてきたのは、こどものせいじゃないよ。
わたし、うまれたくてうまれてきたわけじゃないよ。
おかあさーん、おかあさーん。
ばんばんばんっ‼
「ふっ⁉ぶくぶくぶく、ぶくっっ」
「おーい、奈尾ーっ、奈尾ちゃ―――ん‼」
お風呂のドアを強く叩く音にびっくりして、湯船に沈んでしまった。
お湯から顔を出し、反射的に身体中に線の様に走っている傷跡を指で触る。
もうよく見ないと分からない
母体越しにアスファルトの地面に叩き付けられた私は、
助からないだろうとは思いつつも、お医者様は
未熟児として生まれて来た私が大掛かりな術式に耐えられたのは、多分奇跡だったのだろう。
「だいじょぶだったー?呼びかけても反応が無いからさー」
ドアの向こうからは、元気な声がする。
「………寝オチしてた」
「あはは、やっぱりかぁ」
偶に風呂に入りながらぐっすり寝ちゃうと、昔の夢を見る事が多い。羊水に包まれていた頃の記憶を呼び覚ますからだろうか。
いけない、まだ身体を洗ってないじゃないか。
「あっこ、私が出るの待ってた?待たせちゃってた?
ごめん、すぐ洗って出るわ」
「
いや、ほんと、すぐ出るから待ってて、と言うよりも早く、勢い良くドアを開けて、生まれたまんまの姿のあっこが風呂場に入って来た。
「いや、良いからほんと。すぐ出るから」
「気にしない気にしない。わたしが奈尾と一緒に入りたいの!」
あっこは何に対してもモーションが大きい。湯船から風呂桶でお湯をすくって身体にかけるのも、湯船に入るのも。その体積の分だけお湯が溢れ出た。
「女の子なんだからもっと恥じらいを持ちなさいよ」
「えー、
本気で至極不思議そうにあっこが言う。ああ、こう言う裏表の無いとこ、本当に見習いたいと思う。
あっこは私を貰ってくれた
歳は私と同じ13歳だけど、私は後からこの家に入って来た訳だからまあ、義理の姉、か?
ほんとは一人でゆっくり入りたかったけど、まあ、この位フレンドリーに接してくれた方が、養子としてはありがたいのかもね。
と思っていたら急にあっこが裸のまま私にくっついて……いや、抱き付いて来た。ちょ、ちょっと、何やってるんですかあっこさん。おい、あっこ。
「う~、だって、このお湯何か冷たいよう。奈尾にくっついてるとあったかいんだもん」
ああ、お湯がすっかり冷めてしまっていたみたいだ。ずっと入ってると分かんないもんだな。
「お湯、追い炊きしよっか」
私は追い炊きのスイッチを入れようとしたが、あっこが私の身体に密着している所為で立ち上がってスイッチを押せない。
「あっこさーん!一回離れてくれませんかねー!あっこさーん!おいあっこコラァ‼」
「うう~寒い~寒いよぉ~」
あっこを怒りながら、心の中に揺らがない安らぎがある事を今日も実感した。
あのままただ人生を受け入れて生き続けていたらと思うと、本当にゾッとする。多分私は
切り拓いて、自分の力で確かに前に進んで行く力を、あの人がくれたんだ。
こんなはずでは