「うえええええええ……」
「ほら、もう泣かないで」
年下の子の前で、涙は見せないようにしてたんだけどな。年下の子にすがりついて泣くなんて、たぶんはじめてだとおもう。
ヤマネの両眼からは、濃い血の様な黒い涙が後から後から流れ続けていた。だけど、その黒さの性質は、恐らくはさっきまでとは違っていて。排出された凝縮された体の中の悪い物は、光に変わって蒸発し、清らかな大気の中に溶けて行った。
さやかに抱き付いて泣きじゃくるヤマネを見ながら、切り株に腰掛けた奈尾が、すっかりくたびれた様子で呟く。
「いやー、何とか上手く行って良かったですよ。ヤマネさんのお話聞いて冷静に考えたら分かるんですけど、あの計画って、山の自然の事考えたら、結構無理のある部分が多いんですよね。お父さんも町の発展って言うよりも、どっちかって言ったら会社への恩を返す為に張り切り過ぎちゃったって感じが強いみたいでしたし。自分が言い出した手前取り消しにくかったって言うのもあるんでしょうけど」
「ヤマネのお父さんの中に
「それ言っちゃいますかー。しょうがないじゃないですかこっちもそう言う仕事なんだから」
「あはは、うそうそ。初仕事にしちゃ上出来だったと思うよ、奈尾」
「…………えっ?初めて、だったの?」
泣き腫らしたヤマネがさやかの胸から顔を上げる。その
「ヤマネさんを不安がらせない様にと思って、極力悟られない様にはしてたんですけど……」
ばつが悪げに頭を掻く奈尾。と思ったら、今度はいきなりヤマネに向かって頭を下げた。
「えっ?えっ?どうしたの?」
「未熟者の言い訳ではありますが、
さっきまでラフな感じだったのが、急に酷く真面目に謝罪されたものだから、ヤマネも面食らってしまう。
「あっ、あ、えと、いやいやいや、べつにそんな、気にしてないからだいじょうぶだよ?うん、わたし、奈尾ちゃんとさやかちゃんと山を歩いてるとき、すっごい気さくに話しかけてくれて、すっごいたのしかった。…これからもこんなかんじでいいとおもうよ。この山のこと、おとうさんのこと……わたし、すっごいすっきりした。ありがとね奈尾ちゃんさやかちゃん…………こんないい終わりかた、わたしなんかにもったいない……」
そこまで言ったら、また泣き始めてしまった。
「あーあーほら、もう泣くなって。
「うんがんばる…………」
さやかに言われて、ようやくヤマネは泣き止む。奈尾はあっという間に夕焼けになってしまった空を眺めながら、木々の間を風が通り抜ける音に耳を澄ましていた。
「良い音するんだなぁ…………そう言えばヤマネさんの名前って、漢字だと『山』の『音』って書くんですね」
「おとうさんやおかあさんも、こどものころはこの山であそんで、山に親しんで育ってきたのかなあ…………そういえばきいたことなかったけど。うん、そう信じたい」
「もう少しだけ聴いて行く?」
「うん。まってね、もうすこしだけ…………」
「急がなくて良いのよ?」
「…………うん、もういいや」
「もう良いの?ほんとに?」
「うん、だいじょうぶ」
さやかがマントの裏側から細長い短剣を取り出した。
それと同時に、二人は何も無かった空間に何時の間にか大きな楽団が出現している事に気付く。
三次元の空間に貼り付けられた、バイオリンばかりの、二次元の影の楽団。
「昆虫博士ニ捧グ。激シク、ソシテ愛ヲ込メテ。練習通リニネ」
さやかが早口で何事かを呟く。音の高低が極端に激しく、巻き舌や舌打ちのような音の混じった、よく分からない言語だった。何かの逆再生と言われればそんな気もするだろう。よく聞けば、鼻と口から別々の音を同時に出している事が分かる筈だ。
主からの合図を受け、楽団はゆっくりと準備を始める。
やがてさやかが指揮棒の様に楽団に向かって短剣を振り、演奏が始まると、五線譜の様な天まで続く階段がかけられた。
このまま真っ直ぐ登って逝けば良いんだよ、と声を掛けられる。
「人間と自然が一緒に生きられる世界。何時か実現したら良いですよね。私もそう思いますもん」
「マジシャンみたいな子がいたでしょ?」
「ルルさん、でしたっけ?」
「ちょっとすなおじゃないとこはあるけど、あの子も自然や、草花がだいすきなの。よくそういうことでいっしょにおはなししてたからさ。わたしのぶんまで、あの子が夢をかなえてくれたらいいな」
「そうですね。それが一番良いと思います」
風の音に耳を澄ませるなら、ルルや俊郎の前には一頭の蝶が現れて、やがて空の彼方までひらひらと飛んで行くだろう。
この日、一人の少女が消えた。
未来の希望と共に。
ノルマ達成
㊙個人情報に付き持出厳禁
名前:
年齢:15
出生地:野乃中市
誕生日:8/11
血液型︰B
好きな物事、趣味:蜂蜜、蜂の子、イナゴの佃煮、西瓜。山の中を歩く事。誰かとお茶を飲みながらお話する事。そして勿論虫取り、昆虫採集。
嫌い・苦手な物事:タコ、イカ、クラゲ。声が大きな人。お化けやそれが登場する話。大型犬。水。
口癖:「わたしなんか」
特技:作文。
ソウルジェムについて:ドリームキャッチャーと呼ばれるお守りの中央に付いている石がそれ。エメラルドの様な緑色。ネックレスとして首から
武器:仙人が使う様な杖。先端に光球を発生させ、ハンマー投げの要領でグルグル振り回して遠心力で飛ばす。威力が高い代わり、真っ直ぐ飛ばずに誤爆する恐れあり。
契約時の願い:「もう一度虫に
固有魔法:「自然との対話」。風や野生の動物等を味方に付ける事が出来る。
生まれながらにしてのドジっ子で、幼少の頃から親や先生に沢山怒られ続けていた為、おどおどとして発言が苦手な、徹底的に自分に自信の無い性格になってしまった。白くて綺麗な肌の、十人が十人「美少女だ」と言う様な外見をしているが、自信の無さ
ただし虫に関する事になると性格が変わり、打って変わって饒舌となる。この手の人間にありがちな、自分がその時考えている事だけを相手の反応を見ずにまくし立てるタイプでは無く、虫に関する説明も上手。
一緒に居ると何か気持ちが和む、癒し系。
担当:奈尾
第一話と言う事で、如何にもまどマギに出て来そうな、自分に自信が無くて不安定な子にしました。
ただ愛でるだけで無く、その生態に興味を持って調べたり、時には食べてみたり。
虫や自然とヒトとの正しい距離の取り方を、少女らしく真剣に考えている子でした。
誕生日は八月十一日、「山の日」です。
9/10追記
イラストを作る過程で、ソウルジェムに関する記述を変更しました。
ヤマネ、イメージ通り可愛く描けてると良いんだけどなぁ。
「うう、わたしの絵なんかかわいくないから描かなくていいよぉ」
駄目駄目、そうは問屋が卸しません。君は記念すべき対象者第一号じゃないか。もっと堂々としてなさい。……とか言って。
次回はナビゲーターの秘密に迫りますよ。