まどマギ式☆霊界ナビ   作:サムズアップ・ピース

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 各話をブツ切りにして、少しずつ投稿させて頂こうと思います。


第1話 渥美ヤマネ、15、野乃中市
1 山の貴女は空遠く


 それが一番いいと思います

 

 真夜中の某山中。

 閃光、爆発。

 そして呻き声を上げながら、巨大なヒトガタが幾つも塵となって崩れていった。  

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 その数分後。

 

「………みんな、粗方回復は終わったか?」 

 

 アメリカか何処かの軍人の様な格好をした少女が、周りに座り込んで休んでいる他の少女達に声を掛ける。そのきびきびした言い方には、リーダーらしい雰囲気があった。

 

「うん、大丈夫だよ。ほら、さっきまであんなにどろどろに濁ってたのが嘘みたい」と言って、その中の一人、海賊船長の服を着た小柄な子が、暖かい様な冷たい様な、強い光を放っている不思議な宝石を差し出して見せた。

 

 よく見てみると、少女達の服にはみんな何処かに海賊の子のと同じ様な宝石が付いているのが分かるだろう。色やデザインにそれぞれ個性はあるが、どの宝石も同じ様に周囲の闇を照らして強く輝いている。

 

「この所()()だったからな………苦しい戦いではあったが、これ以上『狩り』が出来ない状態が続いていたら、みんなお陀仏になっていた所だ。

 それにあれだけの数の『魔獣』、町まで出て行っていたら、目も当てられない大惨事になっていただろう。

 本当に危なかった………」

 

 そう言うと、軍人の彼女も周りの仲間達がやっている様に、小さなサイコロ型の黒い物体を幾つも自分の宝石に当てた。

 

 軍人、海賊、他にもヒラヒラした飾りが付いたアイドルの衣装の様な物、アニメキャラか何かの格好を真似た物、鎧の様な物………知らない人が見たら、コスプレかハロウィンの仮装と勘違いするだろう。しかし、彼女等は別段遊んでいる訳でも無いし、ふざけているつもりも無い。

 

 何故と言って、彼女達が腰や肩や背中に提げている物をよく見てみるがいい。

 銃や剣等………それらは飾りなどでは無く、実際に相手を殺傷出来る()()()凶器、いや武器だ。

 

 グリーフキューブ……………彼女達が戦いに勝利し、その報酬として与えられる唯一の物。

 彼女等の活躍は普通の人々に知られる事は無く、従って励ましや声援も無く、自分達同士で慰め合うしかない。

 その代わりに得られるこのちっぽけなキューブは、彼女等にとってある意味食べ物等よりもずっと生きていく上で重要な物だ。

 

 魔獣………人間の強い感情に引き寄せられ、熱エネルギーへと変換させたそれを根こそぎ吸い取り、廃人にしてしまう人類の天敵………その姿は普通の人間の目には映らず、高性能の軍事用レーダーだろうと当然感知出来ないので、存在そのものが虚無に近い可能性がある。とすれば、生物と言うよりかは寧ろ、自然現象の類いか。

 

 そして彼女達は、魔獣の手から人々の希望を守る者。

 魔法の使者との契約を結ぶ事によって各々が望む奇跡を叶え、それと引き換えに戦い続ける運命を受け入れた少女達。

 その名も魔法少女。

 

 魂の宝石(ソウルジェム)から完全に穢れを吸い出すと、軍人の子はふと、仲間の1人に目をやる。

 

「……………リホ?どうした?」

 

 リホ、と呼ばれたネズミの耳と尻尾を付けた子は、さっきから一心不乱に森の奥の方をじっと見ていたり、茂みの中をがさがさ探ったりしていた。

 

「どうした、って?」

「落ち着かない様子だから気になったんだ。何をそんなに慌ててるんだ?」

「みんな本当に気付いてないの?

 

…………………………………………………ヤマネが居ないわ。ヤマネは何処?」

 

 少女達が互いに目を合わせたり、そらしたりする。ひらひら、ふわふわと視線が泳ぐ(さま)は、飛び交う蛍を眺めている様でもあった。

 

 「おかしいのよ、さっきまで近くにいた筈なのに。魔獣共に追い詰められた時、あたし達の攻撃を上手く躱してたの、みんなも見たわよね」

 

 『リホ』の言う通り、確かに彼女達には、ヤマネ、という、巫女の服を着た仲間がいた。

 魔法少女達のエネルギーが殆ど底を付き、魔獣の大群に取り囲まれた時、ヤマネは自ら前に出て、叫んだ。

 みんなこいつ等を撃って、わたしごと撃って、と。

 その時の彼女の全身は、緑色の炎に包まれている様に見えた。

 

 魔獣は人間の感情を餌にしているが、魔法少女の行使する魔法のわざもまた、夢や希望といったポジティブな感情が素になっている。

 魔法少女の中でも抜きん出て強い力をもった者には、魔獣の方から寄って来た例もある。

 ヤマネは自分の内側に残ったありったけの感情エネルギーを燃え盛る程に振り絞り、オーバーヒートさせたのだ。

 

 恐らく彼女の狙い通り、全ての魔獣が砂糖に群がる蟻みたいにヤマネの所に集まって来た。

 他の彼女の仲間達は、その魔獣の団子目掛けて一斉に攻撃を叩き込んだ。

 光の束が直撃する寸前、ヤマネは自分を持ち上げていた魔獣の手を蹴っ飛ばし、パッと脇に飛び退いてくるくると宙を舞う、その1秒後に爆裂が起こった。

 

「攻撃を躱してたの、みんなも見た筈でしょ?あの後爆風で一瞬周りが見えなくなったけど、あたし達が平気だったんだから、魔獣共から同じ位の位置にいたヤマネも無事な筈…………ねぇ、誰かヤマネを見てない?みんな知ってると思うけどあいつどっか抜けてるからさ、きっとさっきの爆発でどっかに吹き飛ばされて道に迷ってるって所じゃないかとあたしは思うんだ、うん、きっとそうだよ。もう夜も遅いし、夜の山の中で放っといたら危ないし、冷えるし…………」

 

「もうとっくに連れてかれちゃったんでしょ、あの人」

 

 と、いきなりリホの言葉を遮った者がいる。

 黒いシルクハットを被り、木にもたれかかったその少女に、みんなの視線が集まる。

 

「連れてかれちゃったって何よ、ルル。何言ってるの?」

「だから、言葉通りの意味だよ。ヤマネはもうこの世には居ないんだ。

事実をちゃんと見てないのはどっちな訳?もう一回ちゃんと思い出してみたら」

 

 ヤマネが地面に着地した直後、炎の波が巻き起こり、ヤマネと、それ以外のメンバーの間を隔てた。

 火炎はまるで赤いハンカチみたいにヤマネの姿を見え隠れさせてひらひら揺れる。

「……こっちに来て、ヤマネ……そこは危ないよ……炎が来ちゃう……早く、こっちに……」

 

 倒れて強く手を伸ばすリホに向かって、真っ直ぐ立ったヤマネは微笑んで何事か呟いたかと思うと、それこそマジックで消されてしまったかの様にフッと姿を消してしまった。

 

「ほら、ヤマネが消えちゃったの、リホはちゃんと見て無かったの」

「それは……炎の感じでそう見えただけよ」

「違う、違う。だから現実が見えて無いんだって。あの人さ、自分は一番年上なのに、一人だけ役に立てて無いって、よく気にしてたじゃない。せめてみんなが頑張った分多めに使ってって、自分の分のグリーフキューブまで人にあげちゃってさ。ただでさえあの人のソウルジェムは、みんなのよりも濁ってたんだよ。そこへ持って来てあんな無茶苦茶やったでしょ。魔力を完全に使い切っちゃったんだよ」

「ルル………」周りの魔法少女達が止めに入ろうとする。

「本当はしっかり理解してんだよね、みんなもねぇ」『ルル』は喋るのを止めない。

 

「ヤマネはとっくに『円環の理』に引っ張られて逝っちゃったんだ」

 

 原因と結果―――――――――――主に仏教では、この二つをまとめて『因果』と呼ぶ。

 自分の物を他人にあげたり、一時だけ損をして『原因』を作ってやれば、それは良い『結果』となって自身に還って来る。逆もまたしかり。

 ちょっと捻って解釈すれば、この世界は良い事と悪い事――――――――――例えば希望と絶望も、全てが差し引きゼロになる事で成り立っているとも言える。

 

 魔法の宝石・ソウルジェムが、限界まで濁り切ったら、どうなるか。

 つまり、少女達が魔力を使い果たしてしまうとどうなるかというと、ある意味、普通に死ぬより哀しい結末が待っている。

 

 円環の理………それは、魔法少女達の間で、伝説として伝わる存在。

 戦う役目を終えた魔法少女を、身も心も完全にこの宇宙から消し去ってしまう、救いの女神にして死神。

 魂に一杯の穢れを溜め込んだままこの世に留まっていたら、いずれ最初に奇跡を願った因果が、巡り巡って呪いを撒き散らしてしまう。そんな事になる位なら、一瞬で消えてしまった方が、寧ろ世にとっては救いと云う物。希望は絶望に。絶望は希望に。差し引きゼロ。それが世界のルールなのだ。

 

「馬鹿な事言ってんじゃ無いわよ、ルル」リホがルルに掴み掛かった。

「はっきりした根拠も無いのに、適当な事ばっか、ぺらぺら、ぺらぺら………」

「はっきりした根拠ならある。みんながそれを見た。みんなも、あんたも」一方のルルは、リホの事などお構い無しで、調子を変えない。

「……………仮にそうだとして、何であんた、そんな平気な顔してられるの!?…………」

 リホの声に嗚咽が混じり始めた。

 

「みんなだって同じよ………みんな、ヤマネの事が心配じゃないの?………ヤマネに、もう………二度と………会えないかもしれないって………云うのに………みんなは悲しくないの?………

 

 ねぇみんな、ヤマネとあたし達は………」

 

 そこまで言葉を絞り出して、リホはふと気付く。

 揺さぶられた振動の所為だろうか、胸ぐらを掴まれたルルの目一杯に溜まっていた涙が、つうっと一本の筋となって流れ落ちた。

 

「…………ごめんな、リホ。お前の言う通りだよ」二人の間に、軍服のリーダーが割って入った。

「何て言うのかな…何時かは誰かがこうなるんだって、頭では分かっていたつもりなんだけれど…いざ、実際になってみると、実感湧かないって言うか…認めたく無かったんだろうな、やっぱり…」

 目を涙で潤ませているのは、軍服の子も一緒だった。

 

 悲しく無い訳などある筈が無い。消滅したのはみんなにとって大切な仲間で、友達なのだから。

 ただ、人には人それぞれの悲しみ方があるだけなのだ。取り乱して泣きじゃくるのも悲しみなら、静かに嚙み締めるのも悲しみだ。勿論、自棄になって当り散らすのも。

 

 みんなが空を見上げた。各々の、彼女と過ごした一番良い記憶を思い出しながら。

 

「…………………ヤマネ…………………」


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