『外物語』   作:零崎記識

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筆者は小説投稿初心者です。
過度な期待はせずに気楽に見ていくことをお勧めします。
感想・批評は歓迎ですが暴言・悪口は炎上の原因となりますのでおやめください。


007

013

 

ギロチンカッター

 

ハリネズミのような髪型

 

神父風のローブ

 

一見穏やかそうな糸目

 

名もなき新興宗教の大司教にして

 

裏特務部隊闇第四グループ黒分隊の影隊長。

 

教義によって怪異を否定し

 

神の名の下に怪異を消去する。

 

『信仰』によって

 

『使命』によって怪異を狩る

 

キスショットから両腕を奪った

 

()()()()()

 

吸血鬼でも

 

ハーフでもなく―――

 

純粋な――――『ただの人間』である。

 

神のためならば命すらも惜しくはないという――――『狂信者』

 

それが、俺の最後の敵である。

 

 

ヒュゥゥゥゥゥ――――

 

ズドォォォォォォン!

 

凄まじい衝撃と大きなクレーターと共に、俺は着地した。

 

「おやおやこれはまた派手な登場の仕方で」

 

ギロチンカッターは、そう言った。

 

眉一つ動かさず。

 

バカ丁寧に―――そう言った。

 

「てめぇッ……!」

 

俺は今すぐにでもギロチンカッターを八つ裂きにしたいという衝動を必死に抑え、そう言った。

 

場所は直江津高校のグラウンド

 

ドラマツルギーと闘い

 

エピソードと戦った場所。

 

そこでギロチンカッターは俺を待ち受けていた――

 

―――その片腕に羽川の身体を抱いて。

 

武装を持たないその手には、まるで武器のように羽川の首がしっかりと掴まれていた。

 

「あ、阿良々木君――」

 

羽川は一応無事のようだ。

 

傷つけられた様子もなく

 

気絶させられているわけでも無い。

 

当然だ―――『人質』とは、無事でいなければその効果を発揮できないのだから。

 

だが、それは羽川の命を保証するわけでは無い。

 

「ご、ごめん、阿良々木君――私」

 

「勝手にしゃべらないでくださいよ」

 

ギロチンカッター指が、羽川の細い喉に一層食い込んだ。

 

後少し、ほんの少しでも力を入れれば、羽川の首が折れてしまいそうだった。

 

かふ、と、羽川の息が漏れる音が聞こえる。

 

「貴様ぁ……!」

 

ブチンッ!!

 

と、俺の頭の中で血管が切れる音がした。

 

ダメだ…耐えろ。

 

今動くのは悪手だ。

 

本当はギロチンカッターを今すぐに肉塊にしてやりたいところだが、羽川を助けることが最優先だと自分に言い聞かせる。

 

「随分と怖い顔をなさるじゃないですか、そんなにこの娘が大事ですか?ねぇ――」

 

―――バケモノさん。

 

「そいつは人間だ、怪異じゃない」

 

「えぇ存じておりますよ、この娘がバケモノのあなたと友人であることも―――ね」

 

じゃないと人質にならないじゃないですか―――と、ギロチンカッターは悪びれもせずに言う。

 

「仮にも同じ人間だろうに…」

 

「残念ながら、バケモノと友誼を結ぶような輩は人間とは言いません。少なくとも私たちにとっては―――この娘も『バケモノ』です。故に排除します。こんな風に」

 

ギロチンカッターは羽川の首を掴んだまま彼女の身体を持ち上げる。

 

その光景は、さながら首吊りのようであった。

 

「う……ううっ!」

 

うめき声をあげる羽川。

 

この野郎……。

 

殺す。

 

お前だけは、何としてでも殺すッ!

 

一番残酷な方法で殺してやるッ!

 

固く握りしめられた俺の拳から血が滴る。

 

「うるさいですねぇ」

 

そう言って、ギロチンカッターは羽川を下におろした。

 

咳き込むことすら

 

生理現象すら、羽川はさせてもらえなかった。

 

唯々――ぐったりとしていた。

 

ギリッ……!

 

奥歯を噛み砕かんばかりの力で俺は歯を食いしばった。

 

予想はしていた。

 

最悪の予想だが、こうなる可能性もあることは分かっていたのだ。

 

だからこそ、羽川を一度遠ざけようとしたのに…。

 

その可能性を予想できていたなら、対策を打つべきだったのだ。

 

俺が羽川を家まで送り届けていれば、こんなことにはならなかっただろう。

 

なのに俺ときたら……これまでのことが無駄になるかもしれないとか御託を並べて……。

 

結局俺は、羽川を気遣うようなことを言っておきながら自分の事しか考えていなかったのだろう。

 

ったく、何が友達だ。

 

羽川は……自分の命すらも、俺のためならば投げ出せると言ってくれたのに……。

 

お前が羽川に惚れられようとするなんざ十年早い。

 

烏滸がましいにもほどがある!

 

「全く予想外だよ―――」

 

俺に羽川がさらわれたことを告げた忍野は、深刻そうな口調でそう言った。

 

「エピソードが委員長ちゃんに十字架を投げたことは―――まぁ問題ではあるのだけれど。エピソードの立場から言えばあの状況では仕方ないといえば仕方ない。しかしそれでも僕のような立場の人間を含めたこの世界の人間は―――()()()()()()()()というのは一般人を巻き込みたがらないものなんだが」

 

「お前が、羽川との接触を意図的に避けていたようにか?」

 

そう、じつは忍野メメと羽川翼は、両者とも頻繁にこの学習塾跡へと出入りしていたにも関わらず一度も顔を合わせたことが無いのだ。

 

「顔を合わせるつもりはなかったよ。彼女は僕と言葉を交わすべきじゃないと思ってたからね――別に委員長ちゃんに限らず、僕は積極的に一般人を巻き込むつもりはない。向こうから勝手に関わってくる分には止めないけれどね。そういうスタンスだ。だがギロチンカッターは―――」

 

まるで躊躇などしなかったのだろう。

 

『狂信者』とはそういう奴だ。

 

彼らにとって重要なのは『神』と『教義』だけだ。怪異の専門家たちの暗黙の了解やマナーなど、知ったことではないだろう。

 

だから一般人を巻き込むことだって、『神』のためなら平気でする。

 

罪悪感などない。

 

『神』の前に自分の行いは全て正しいと思っているのだから。

 

良心の呵責などあるはずがない。

 

「僕としたことが全く不覚だったよ。相手の器量と力量を完全に見誤っていた」

 

違う……見誤ったのは、誤っていたのは俺の方だ。

 

俺が……気づいていたにも関わらずその可能性を放置したのだ。

 

全く情けない……。

 

「大方、帰り道で尾行されて……最後には捕まったってところか」

 

「尾行されていようと、この中にいれば結界は有効に作用するけれど、結界の効果が働いているのは、飽くまでも『ここ』だけだ―――()()()()()()()()には結界は作用していない」

 

「探せばみつかる―――か。だが奴は何故俺と羽川の関係を?」

 

いや―――そんなの決まっている。

 

聞くまでもないことだ。

 

「恐らく、見ていたんだろうね。ドラマツルギー戦もエピソード戦も。僕が陰から観ていたように。委員長ちゃんが視ていたように―――」

 

「ギロチンカッターもまた、見ていた――という事か」

 

「そうならないように、三人バラバラに交渉したんだけれどね――裏をかかれたよ」

 

「場所と時間は?」

 

人質を取ったということはギロチンカッターは俺と取引するための時間と場所を指定してきているはずである。

 

「時間は4月5日の夜。つまり今晩だ、場所は私立直江津高校のグラウンド」

 

「そうか」

 

それだけ言って俺は教室から出ようとする。

 

「なぁ忍野」

 

「何だい?」

 

「この決闘は――別に具体的なルールを定めていなかったが『一対一』ってことになっているのは確実だと思っていいんだよな」

 

「そうだね、尤も向こうは委員長ちゃんを『武器』だと思っているから、最初から数に入れていないと思うけれど」

 

「だが、それを判断できるのはアイツじゃない。審判はお前だろ?」

 

「確かに僕だよ」

 

「だったらお前に訊こう、忍野。お前から見て、羽川は『武器』か?『人間』か?」

 

「『人間』だよ、間違いなくね」

 

「じゃあ忍野。ギロチンカッターは審判のお前から見れば『ルール違反』をしているな?」

 

「している、けれど僕がそれを言ったところでギロチンカッターは聞き入れないだろうね」

 

「それは知ってる。お前があいつに何か言う必要は無い、ただちょっと、言質をとっておきたいだけさ。忍野、お前から見て『先にルールを破った』のはギロチンカッターだな」

 

「間違いなく」

 

「だったら、俺が()()()()()()()()をしても、目をつぶってくれるな?」

 

「何をするつもりだい?阿良々木君」

 

「決まってるだろ、あいつに――ギロチンカッターに()()()()()()()()()()()

 

俺の逆鱗に触れたことを―――地獄で後悔させてやる。

 

「ドラマツルギーさんもエピソード君も故郷に帰ってしまわれたのでね。僕一人であなた達を相手にするのはいかにもしんどい、こうして人質の一人でも取らないと釣り合いが取れないでしょう?」

 

ふざけるな。

 

例え俺たちが人類にとっては害悪だとしても。

 

どんな理由を並べても。

 

それで羽川を傷つけて良い理由にはならねぇだろうが!

 

「ドラマツルギーさんが右脚を、エピソード君が左脚を、それぞれバカ正直に返しちゃってますからねぇ―騎士道精神っていうんですか?変ですよねぇ」

 

違う。

 

騎士道精神なんかでは断じてない。

 

それはきっと、プロとしての矜持だ。

 

それが例えどれだけ気が進まない事でも

 

自分に対して何の利益がなかったとしても

 

契約を結んだ以上は、それを守る。

 

『信頼』が最も重要だと、忍野が言っていた。

 

プロは、勝手に仕事をするわけじゃない。

 

誰かがソイツ自身をプロとして『信頼』して初めて、『仕事』を依頼するのだ。

 

仕事に徹するドラマツルギーも

 

私情で仕事をしていたエピソードでさえも

 

『プロ』として、ちゃんと契約は遵守するのだ。

 

お前には……絶対に分からないことだろうがな。ギロチンカッター。

 

「ハートアンダーブレードさんはかなり復調しているようですし、あなたとの戦いで怪我をしている余裕はないですよ」

 

「……羽川をどうするつもりだ」

 

「どうもしませんよ、あなたがどうもしないなら――の話ですがね。しかし、あなたがこの娘をどうにかするつもりなら、僕がこの娘をどうにかしますけれどね」

 

そういってギロチンカッターは、羽川を盾のように俺の方へと突き出した。

 

「ちなみに――僕にはあなた方とは違って、人並外れた怪力などは有していませんが、これでも結構鍛えているんです。女の子一人なら、僕でも簡単に殺せます。蘇生させる暇など与えません。一撃で脳を潰します」

 

「悪魔が……」

 

「悪魔?いいえ、僕は神です」

 

ギロチンカッターはもう片方の手を胸の前に当て、誇らしげに宣言した。

 

こいつッ――!

 

『狂信者』だとは思っていたが、まさかこれほどまでとはな……。

 

「故に、僕に敵対するあなた方は存在するべきではありません。僕は神、つまり僕に誓って――あなた方の存在を許しません」

 

神だと――?

 

違うな、お前は神なんかじゃない。

 

「正直あなた程度ドラマツルギーさんやエピソード君だけで十分事足りると思っていたんですがねぇ……あの二人も存外情けない」

 

「良く言うぜ、あの二人を当て馬にして作戦を練っていたって言うのによぉ」

 

忍野によれば、交渉は三人バラバラに行ったが、決闘の順番は相手の都合で決めたのだという。

 

ドラマツルギーは一番槍を

 

エピソードはどこでもよく

 

ギロチンカッターは――殿を志望したそうだ。

 

「別にそんなつもりはありませんでしたよ、エピソード君は一番後輩であるために遠慮しただけでしょうし、ドラマツルギーさんは褒賞目当てでしたからね……あぁいや、そう言えばドラマツルギーさんはきみを仲間に引き入れようとしていたんでしたね。なら、僕やエピソード君にあなたを先に殺されてはたまらないという考えだったのでしょう。まぁ確かに、君の言うことようなも考えていなかったと言えば嘘になります。ただドラマツルギーさんにしろエピソード君にしろ、どちらがハートアンダーブレードさんを退治したところで、結局その手柄は僕の教会が得る運びでしたがね」

 

「楽したかったてことか、悪知恵が回るな」

 

やはりお前は、神ではない。

 

お前はどこまでも―――『人間』だ。

 

卑小で矮小で、そのくせプライドばかり高くて、自分の事しか考えられない―ただの人間だ。

 

化け物よりも、吸血鬼よりもずっと恐ろしい『人間』だよ。

 

「まぁそれも今となっては栓無き事、私は世の中をよくするためならどんな労も惜しみません」

 

雑談が過ぎましたね―――と、ギロチンカッターは言った。

 

確かによく喋る奴だ。

 

人質をとって優位に立ったと思い込んでやがる。

 

「長話が過ぎました、神、つまり僕はこう仰ってます――そろそろ始めましょう。とね」

 

「お前の要求をまだ聞いていないぞ」

 

「おっとそうでした。神、つまり僕はこう仰ってます―――勝負が始まった瞬間、あなたは両手を挙げて―――いや、それでは僕に何か危険が及ぶかもしれませんね、ではこうしましょう。あなたは勝負が始まった瞬間指一本動かさず『参った』と言ってくれればいいんです。勝負は始まった瞬間に決着するという訳ですね」

 

「良いだろう、だがその前に一つ聞かせろ」

 

「何です?神、つまり僕は寛大なので多少の質問には答えましょう」

 

「お前は今回俺の友達だからって理由で羽川を人質に取ったが、もしも俺と関係のない一般人でも、必要があれば使ったか?」

 

「使ったでしょうね、只の人間なんかよりも、神、つまり僕の意思の方がが何よりも重要です。その必要があれば、僕はどんな人間でも人質にするでしょう」

 

「そうか……」

 

ならばもう…遠慮はいらないな。

 

「質問はそれで以上ですか?ならば速やかに―――」

 

「ククッ…」

 

「何がおかしいのです?」

 

「クッ…クククッ……クハハッ!「は「はは「ははは「はははは「あっははは「ははははははは「はは「はははは「は「ははははは「はは「あははは「あーっはははははははははははははははは―――!」

 

「何がおかしいと聞いているのです!」

 

突如として哄笑を上げた俺をギロチンカッターは怪訝な顔で見る。

 

「――これでもさぁ、理解はしていたんだ」

 

「一体何の話ですか?くだらない時間稼ぎは――」

 

「お前たち人間にとって、俺ら吸血鬼ってのは、人間を食らう悪だってことを――これでも一応理解はしていたんだ。だから――お前らがキスショットを殺そうとすることも、人間側の『正義』だって理解はしていた。だから俺もこの決闘では誠実に戦おうって――そう思ってたんだ」

 

実を言えば、俺がやろうと思えばドラマツルギーも、エピソードも、勝負が始まった瞬間吸血鬼の身体能力や異能をフルに使って相手が指一本動かせないうちに簡単に勝負をつけることだってできた。

 

だが俺は、あえてそれはしないことにした。

 

俺達は、人を食らうバケモノ。

 

人間から見れば、俺達は悪以外のなんでもなく、ヴァンパイアハンター共がキスショットを狩ろうとしていることは、人間側の立派な正義なのだ。

 

それを何もさせずに叩き潰しては、あまりにも向こうが報われない。

 

だから俺は、あえて()()()()()()()()()、あの二人を倒した。

 

攻撃のチャンスも、ちゃんと与えてやった。

 

それに、相手が例え罠を張っていようと、奇襲して来ようと

 

どんな汚い手でも()()()()()ならば何も言わないでおこうと決めていた。

 

結局は一人よがりな偽善、あるいは強者の傲慢と断じられてしまえばそれまでだが、俺はそれでも構わなかった。

 

全ては、向こうも向こうで『人間のため』という大義名分があったからだ。

 

だが―――

 

「だが、お前は違う。お前は目的のためならば同族である『人間』すらも犠牲にする!今回だって、俺の友達というだけでお前に敵対すらしていない羽川を人質にとった!そんなお前には最早『人間の正義』は無い!」

 

「何を言うかと思えば、『人間の正義』?まったくもって馬鹿馬鹿しいですね。正義は神、つまり僕にあります、僕が正義です。僕が正しいと思うものが正しくて、悪だと思うものはすべて悪なのです」

 

「だろうな、お前ならそう言うと思ってたよ。これで俺も――――手加減しなくてもよさそうだ」

 

俺はギロチンカッターを睨みつけた。

 

「先ずは羽川からその汚い手を放しやがれッッ!!」

 

その瞬間、羽川を掴んでいたギロチンカッターの腕が付け根からまるで刀で切られたかのように切断された。

 

吸血鬼の異能の一つ、破壊の眼力だ。

 

そのまま使えばギロチンカッターの腕を爆散させてしまい、羽川をも巻き込んでしまうので少しだけ改造した。

 

「縛れ!」

 

俺がそういうや否や、俺の背後から無数の影の手がギロチンカッターに迫り、そのまま黒い十字架となってギロチンカッターを拘束した。

 

あたかも彼の聖人のように。

 

中々皮肉だろ?

 

「羽川ァ!」

 

ギロチンカッターのことは放っておき、俺は崩れ散る羽川を抱きかかえた。

 

「大丈夫か、羽川!」

 

「阿良々木君……ゴメンね…結局足手まといに……なっちゃったね」

 

こんな時まで……お前という奴は!

 

「馬鹿!んなことはどうでもいいだろうが!少しは自分の心配をしやがれ!」

 

「優しいね…阿良々木君は」

 

「……はぁ~全くお前ってやつは……でも、無事でよかった」

 

「あはは……迷惑ばかりかけて……ゴメンね」

 

「それぐらいどうってことねぇよ、友達だからな」

 

「阿良々木君…ギロチンカッターは?」

 

「そこに縛り付けてある」

 

俺はギロチンカッターが拘束されている方向を顎で示した。

 

「そう……頑張ってね、阿良々木君」

 

「おう、任せろ、ギロチンカッター何て俺に掛かれば秒殺だぜ。だから羽川、お前は少し眠ってろ」

 

そう言うと俺は羽川の眼を覗き込んだ。

 

「え………?あら……ら……ぎ…君……?」

 

吸血鬼のスキルの一つ、『魅了の魔眼』で羽川を眠らせた。

 

本当は異性の人間の意思を消し去り、人形に仕立て上げるというスキルだが、これにも少し手を加え、一時的に相手を催眠状態にするものに改造したのだ。

 

俺は眠った羽川を俺の影の中へと沈めた。

 

影の中は外部からの干渉を一切受けない異空間となっているため、そこにいる限り何人たりとも羽川に手を出すことはできない。

 

つまり、この世で最も安全な場所である。

 

「さて――と」

 

それに羽川には、今から始まる惨劇を見せたくないしな………。

 

俺もそろそろ―――我慢の限界だ。

 

羽川を影の中に保護し、俺は拘束したギロチンカッターに向き直る。

 

「悪いな、待たせちまって」

 

「――――――――っ!!」

 

おっといけね、騒がれると面倒だから猿轡をしてたんだった。

 

俺は影で作った猿轡をギロチンカッターから外す。

 

「ぐ――き――貴様ぁ!神である僕にこんなことをして許されると思っているのかァ!」

 

「はぁ?『許す』?誰に向かって口をきいてんだ下等生物が」

 

「許されないぞ!貴様!神である僕にこんなっ――――万死に値する!」

 

「許されないのはてめぇだ!下等生物(ウジ虫)が!」

 

よくも羽川を――――

 

下等生物(ダニ)の分際で、俺の友達をよくも傷つけてくれたな――許さねぇ……お前だけは絶対に楽には死なさねぇ!」

 

そう言うと俺は、両手に二振りの銃剣を創造した。

 

十字架にかけられた聖人の末路といえば、一つしかない。

 

「さぁ―――『()()』の時間だ下等生物(ガガンボ)、小便はすませたか?神様にお祈りは?部屋のスミでガタガタふるえて命乞いをする準備はOK?」

 

「こ――この―――バケモノがァァァァァァ!!」

 

Very Well(よろしい)―――

 

Then Let It Be(ならば)―――

 

―――Slaughter(虐殺だ)

 

「―――殺して並べて(バラ)して揃えて晒して刻んで炒めて千切って潰して引き伸して刺して抉って剥がして断じて刳り貫いて壊して歪めて縊って曲げて転がして沈めて縛って犯して喰らって辱めてやんよ!」

 

その言葉を皮切りに、俺は銃剣を投擲する。

 

「ガッ!―――アアアアアアアアッ!」

 

投擲された銃剣は一方が腕に、もう一方が股間に突き刺さった。

 

相当な痛みであることは想像に難くない。

 

だが―――まだ終わらせない!

 

俺は一瞬にしてギロチンカッターに接近し、その胸の中心に貫手を放った。

 

ズブズブと俺の手がギロチンカッターに沈んでいく。

 

そして俺は、ギロチンカッターの身体の中で拍動する心臓を直接鷲掴みにし、指先から直接吸血した。

 

「いいか、よく聞け下等生物(ゴキブリ)、俺は今からお前を吸血鬼にする。ただし、完全な吸血鬼じゃねぇ、歪な出来損ないだ。身体能力も、スキルも与えられない代わりに、再生能力だけがキスショット級になるように調整する。当然、吸血鬼の弱点も有効だ。そして吸血鬼になったお前を俺がありとあらゆる手段で殺しにかかる。ありとあらゆる苦痛を存分にお前に与えた後、お前には意識を残したまま強制的に俺の奴隷として俺の命令を忠実に実行に移してもらう。具体的には忍野にキスショットの両腕を返還した後、お前はすぐに自分の国へ帰り、お前の教会にいる信者を含めた全員の教会関係者に襲い掛かってもらう。そうしてお前はお前自身が否定したバケモノとなって、お前の仲間に『化け物』と蔑まれながら死んでいけ!」

 

言い終わると同時に俺はギロチンカッターの心臓を握りつぶし、手を抜いた。

 

「あ――あああ――――ああああああああアアアアアアアAAAAAAAA■■■■■■■■!!!」

 

ギロチンカッターが断末魔の叫びをあげる。

 

そうしているうちにギロチンカッターの切り落とされた腕が徐々に再生を始めた。

 

さぁ、殺戮を始めよう。

 

「先ずは『斬殺』だ、お前がキスショットにしたように、今度は俺がお前の四肢を切り落としてやる」

 

そう言いながら、俺は刀を創造する。

 

「先ずは右腕だ」

 

その瞬間、ギロチンカッターの右腕が落ちる。

 

「次に左腕」

 

今度は左腕が

 

「左脚、右脚」

 

左脚が付け根から

 

右脚が膝下から切り落とされる。

 

「最後は――首だ」

 

そう言った瞬間にはもう既に、ギロチンカッターの首が俺の足元に転がっていた。

 

だが、吸血鬼となったギロチンカッターはこれぐらいでは死なない。

 

否、()()()()()()()()()()

 

ニタァ…と、邪悪な笑みを浮かべた俺は再生したギロチンカッターに言う。

 

「まだまだ終わらせねえよ、絞首、銃殺、釜茹で、溺死、電気、火炙り、生き埋め、薬殺、石打ち、鋸、磔、好きなのを選ぶ必要はねぇ、特別コースだ。全部体験させてやるよ!」

 

それから、俺はあらゆる方法でギロチンカッターを殺し続けた。

 

首吊りで殺した。

 

銃で撃ち殺した。

 

煮えた湯で焼き殺した。

 

水の中で溺れさせた。

 

電気椅子で丸焦げにした。

 

火であぶって灰にした。

 

生き埋めにした。

 

毒で殺した、石で殺した、鋸で殺した、磔にして殺した、車で殺した、ハンマーで殺した。芝刈り機で殺した、酸で殺した、凍らせて殺した、爆破して殺した、蹴りで殺した、血を抜いて殺した、病で殺した、皮膚を剥いで殺した、千切って殺した、抉って殺した。

 

殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して―――ありとあらゆる手段を用い、ギロチンカッターを殺して()して()し尽くした。

 

俺は片手でギロチンカッターの顔を掴んで持ち上げる。

 

ギロチンカッターの顔からミシミシと骨が軋む音が響く。

 

「……これで終いだ。死んで()んで()に尽くせ!」

 

そう言って俺はギロチンカッターを頭上へと放り投げ、思い切り拳を振りかぶった。

 

そして、落下してくるギロチンカッターに()()()拳を容赦なく叩き込んだ。

 

パァァァァァァァン!

 

という破裂音と共に、ギロチンカッターは爆散して肉片となってあたり一面に飛び散った。

 

すぐさまギロチンカッターの身体だった肉片は再生能力が働いて人型に寄り集まる。

 

そしてしばらくするとそこには虚ろな目をしたギロチンカッターがいた。

 

「命令だ。ギロチンカッター」

 

「…………」

 

「お前はこれから忍野メメにキスショットの両腕を渡し、すぐさま国へ帰ってお前の所属している教会に行け。そして中にいる者に襲い掛かれ」

 

「…………」

 

ギロチンカッターは無言で頷くと、踵を返して立ち去って行った。

 

吸血鬼のスキルも、身体能力もない出来損ないの吸血鬼では、ギロチンカッターの教会の人間に傷一つつけることは叶わないだろう。

 

奴が所属している怪異狩りの部隊に集団で殺されるのがオチである。

 

再生能力だけは並外れているから中々死ぬことは無いが、しかし、いつかは死ぬ。

 

恐らくギロチンカッターは永遠に続く苦痛を味わいながら、自分の仲間たちに『化け物』と罵られながら死んでいくのだ。

 

それはギロチンカッターにとって、最も屈辱的で、最も嫌悪し、最も恐怖する死にざまに違いない。

 

憐みの感情は一切湧かなかった。

 

いい気味だ。

 

ざまあみろ。

 

これが俺の本質なのだ。

 

全てのものが『無価値であり』

 

全てのものが『どうでもよく』

 

全てのものが『下らない』

 

だからこそ、箍が外れればとことん残酷になれる。

 

救えないほど醜悪な――――俺の本質だ。

 

羽川に見られなくてよかった。

 

俺はそんなことを考えつつ、学習塾跡へと帰った。

 

014

 

翌4月6日 昼

 

吸血鬼にとっては――夜

 

元吸血鬼であるキスショットにとっても500年続けてきた生活習慣という物はそうそう変わるものではなく、例により彼女は寝ている。

 

あの後羽川はどうなったかといえば、彼女を一度影から出して起こし、今度こそ何事もないように俺も一緒に帰った。

 

何故か家まで送られることだけは頑なに拒否したので仕方なく俺は彼女を家のそばまで送っていった。

 

一方今俺は何をしているのかというと―――

 

「遅いな……何やってるんだ忍野の奴」

 

昨晩から帰らない忍野を待ち草臥れていた。

 

あー暇だ。

 

ったく忍野の野郎、両腕は昨日のうちにギロチンカッターが渡しているはずなのに一体どこで油売ってやがるんだ………。

 

俺も寝ようかなー。

 

そんなことを考えながら、俺は次第に睡魔に意識を預けようとしていた。

 

その時だ。

 

ガララ

 

「……ったくやっと来やがったか忍野。遅かったな、待ちかねたぞ」

 

「はっはー、ソレは本来僕のセリフだよ」

 

 

ったく人を待たせていたってのに何意味わかんないこと言ってんだこいつは……。

 

「キスショットの両腕は昨晩のうちにギロチンカッターからもらっていた筈だろ?」

 

「あぁ確かにもらっていたよ、君がそう仕向けたのだからね」

 

「悪いとは思ってないぞ。当然の報いだ」

 

「まぁ確かに、今回のことは委員長ちゃんが君にとってどれだけ大切か知っておきながら仮にもハートアンダーブレードの眷属である(と思っていた)筈の君の実力を軽視した向こうの自業自得といえるけれどね」

 

「それで、昨晩にはもう既に両腕を渡されていた筈なのに今までどこで油を売っていやがったんだ?」

 

「まぁちょっとした野暮用でね。阿良々木君こそ、こうして『夜更かし』してまで僕を待っていたのは何故なんだい?」

 

「お前にちょっとした話があってな。場所を変えるぞ」

 

「……それはハートアンダーブレードには聞かせられない類の話……という理解でいいのかな?」

 

「そんなんじゃねえよ、ただの――個人的な推測さ」

 

「ふーん……ま、いいよ分かった。ちょうど僕の方も君に話があったんだ」

 

ところ変わってここは四階の教室。

 

俺がリフォームしたのは二階の一部屋のみであるため、ここは散らかり放題だった。

 

「まぁ座れよ」

 

「お、気が利くねぇ阿良々木君」

 

俺は椅子を二脚創造して忍野を座らせる。

 

「―――それで阿良々木君、まずは君の話から聞くよ。僕に何の用なんだい?」

 

「なぁ、その前に一つ聞くけど、お前のその火がついてない煙草は何のために咥えているんだ?」

 

地味にずっと気になっていたんだよ……。

 

火種がないのか?

 

「ん?あぁこれの事ね、いやー最近、喫煙者に対して社会の風当たりがすごいでしょ?今じゃ何処に行っても禁煙ばかり……だからせめて、気分だけでもと思ってね?」

 

「そんな世知辛い理由があったのか!?」

 

思ったより生々しい理由だった……。

 

「まぁ尤も、僕は生まれてこの方煙草を吸ったことがないんだけれどね」

 

「そもそも喫煙者じゃないのかよ!」

 

「実はこれには僕のアロハ服と深い関係があってだね……」

 

「ダニィ!?」

 

遂にあのアロハの秘密が明かれるのか…。

 

すげぇ聞きたい。

 

絶対大した話じゃないだろうけれどな!

 

「あれは今から36万……いや、1万4千年前の出来事だったかな……」

 

「あぁ……もういい」

 

まともに喋る気がないことだけは分かった。

 

「はっはー、僕の隠された過去を知りたいならまず課金してもらわないとね」

 

「お前はどこのソシャゲだ」

 

全く……最近はパ〇ドラだのモン〇トだのでいちいち大騒ぎしやがって……。

 

あんなもの、幾らダウンロードは無料だっつってもゲームは課金すること前提なんだからそんなんだったら最初から金使って普通のゲーム買えよ……。

 

やってみたはいいものの、俺には正直何が面白いんだか分からないぞ……。

 

アンインストールはしていないけれどもう何か月もログインしてないなぁ……。

 

それでたまに開いてみるとプレゼントが溜まりに溜まってるんだよなぁ……。

 

しかも気まぐれでログインしたところでやっぱりつまらなくて結局はやめちまうし……。

 

それにおっさんの隠しストーリーなんかに誰が金を払うのかって話だ。

 

あ、でも羽川のキャラがあったら課金する。

 

全種類集めるまで何万でも課金するね、俺は。

 

私服姿の羽川はきっとUSRだな。

 

一億円だって課金してやるぜ。

 

「僕の友達が言うには『あれは詐欺よりも質が悪い』らしいからね実際」

 

「お前に友達なんていたのか」

 

「うん、詐欺師なんだ」

 

「犯罪者じゃねぇか!」

 

しかし不審者と詐欺師か……。

 

あ、うん納得だわ。

 

すげー自然。

 

『類は友を呼ぶ』って本当だったんだなぁ……。

 

「ちなみにもう一人暴力大賛成主義の女友達がいるんだけれど……」

 

「碌な友達がいねぇな!?」

 

誰一人としてまともじゃねぇ……。

 

お巡りさんこいつらです。

 

「ま、茶番はさておき、そろそろ本題に入ってくれないかい阿良々木君。僕は話好きではあるけれども、意味のない話を聞かされるのは、あまり好きじゃないんだ」

 

「……」

 

よく言うぜ…。

 

アレだけ俺に四六時中雑談を振ってきやがったやつが何言ってんだ…。

 

ともあれまぁ、本題に入ろうというのには賛成である。

 

「―――やっぱりさぁ、弱すぎるんだよ」

 

「ヴァンパイアハンターの連中がかい?」

 

「実際に三人まとめて相手して―――さらにその後一人ずつ個別に戦って実力を測っては見たもののさ―――どう考えてもあいつらだけでは()()()()()()()()()()()()()()()筈なんだ」

 

「………」

 

忍野は黙って聞いている。

 

「幾ら歴戦の吸血鬼狩りのプロフェッショナルと言ったってさぁ、『怪異の王』であるキスショットには到底敵うはずもないんだ。それだけキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードっていう存在は()()()()し、あいつらはキスショットにとっちゃ()()()()。どんな手段を用いたところで、()()()()()()()()キスショットに勝てる訳がないんだ」

 

「つまり阿良々木君は、まだ誰か別の人物が関与しているって思っているわけだね?」

 

―――君のような勘のいいガキは嫌いだよ。

 

と、忍野は低い声で言った。

 

「―――なぁんて嘘嘘冗談だよ阿良々木君、でも本当、君は良い勘してるよ」

 

―――そうだよ、僕だよ。

 

「僕が―――トモd……じゃなくて、キr……でも無くて、僕が、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードを弱体化した犯人だ」

 

「―――やっぱり、お前だったんだな」

 

「全く気付かなかっただろう?」

 

「暇を持て余した――」

 

「野郎どもの―――」

 

「「遊び」」

 

「……って何やらせとんじゃい!」

 

「はっはー、ノリがいいねー阿良々木君は」

 

主に零崎記識とかいうバカの所為でな。

 

「……ともかく!お前が俺が睨んでいた通り誰にも知られずにキスショットのパーツを抜き取っていた張本人って訳でいいんだな?」

 

「そだよー」

 

忍野は相も変わらず軽薄にそう答えた。

 

「でも実際、今まで君が散々言ってきた僕が真のラスボスだったなんてまさか思いもしなかっただろう?」

 

「いいや、お前しかいないと思っていた」

 

「へぇー、いつから疑っていたんだい?」

 

()()()()()、最初、あの夜にお前と初めて会ったその時から」

 

「お慕い申し上げておりました?」

 

「そうそうお慕い――じゃねぇよ!気持ち悪い!」

 

俺は男色家じゃねぇ!

 

こらそこ、腐ってんじゃないぞ。

 

「真面目なシーンなんだから茶化すな!」

 

「僕に言われても困るなぁ」

 

全部零崎記識とかいう奴の仕業なんだから。

 

あんの野郎……

 

俺が現実にいたら絶対ぶっ飛ばしてやる。

 

「ともかく、俺は最初からお前を疑っていたってことだ。あんな都合のいいタイミングで現れて剰えそちらからキスショットのパーツが確実に戻るように交渉しようだのと持ち掛けてくるあたり、どう考えたって部外者なわけがねぇだろうが」

 

何が通りすがりのおっさんだ。

 

完全に意図して通りすがってんじゃねぇか。

 

「だとしたら今まで何も言わなかったのは…一体何故だい?」

 

「都合がよかったからだ。お前にどんな狙いがあるのかは知らねぇが、お前の提案自体は俺にとっては都合がよかった。だからとりあえず、連中から手足を取り返すまで、様子を見てお前の狙いを探ることにしたんだよ」

 

「それで連中がを全て退けた今、僕にこうして本当の狙いを問い詰めに来たと」

 

「そうだ」

 

「一応聞いておくけれど、証拠はあるのかい?」

 

「無いな。全ては俺の勝手な推測でしかない、だからこそ今、お前とサシで場を作った。だがその発言は、肯定したことと同じだぜ、忍野」

 

「成程…はっはー、おめでとう阿良々木君。ご名答だよ。拍手を送るよ」

 

「認めるんだな?」

 

「そう、認めるよ。推理小説でトリックを見破られた犯人の如くね。全て洗いざらい吐こうじゃないか、いやー、一度でいいからこういうのやってみたかったんだよねー」

 

「じゃあ、まずは理由からだ。まぁ大体予想はついているがな」

 

「理由ね、推理小説風に言えば犯行動機ってやつだね。では説明してあげよう阿良々木(ワトソン)君、僕がこんなことをした理由は言うまでもなく『バランス』さ」

 

「やはりな」

 

「僕もそもそもは本当に通りすがりでしかなかったんだけれどさあ、ある日夜道を歩いていたら洒落にならないほど物凄い力を持った吸血鬼がいたから――それが『怪異殺し』であることも同時に想像がついたし、それほどの力を持った吸血鬼をヴァンパイアハンターの連中が見逃すわけもないと思ったから()()()()()()()()()()その『心臓』を抜いておいて弱体化させておいたのさ」

 

「『心臓』か――そんな重要な部位を、よくもまぁ抜き取れたものだな」

 

キスショットはヴァンパイアハンター共に奪われた四肢以外、失ったパーツには気が付いては無かったから、抜き取られているなら内蔵のどれかだとは予想はしていたが……。

 

まさかよりにもよって『心臓』とはな―――。

 

人間にとっては1、2を争うほど重要な部位であることは言うに及ばずだし―――

 

『血液』と密接なかかわりがある吸血鬼にとっても、心臓は重要部位である筈なのだ。

 

そりゃあんな格下にも負ける訳だ……。

 

「正直、楽な仕事じゃなかったよ。寧ろこれまでの仕事のなかでも一番骨が折れたし、命の危険を覚悟していた。死ぬかと思ったことも一度や二度じゃないね。それでも何とか大蒜を持って聖水を武器に、コソコソと身を隠しながらなんとかやり遂げたけれど、それでも連中のほうが有利になった訳じゃない。平等だ。どちらの勝率も五分五分で、それ以上でもそれ以下でもなかった。その結果として今回は連中の方にツキがあったってことだろうね。それで連中にハートアンダーブレードが殺されれば、僕の仕事も終わり―――の()()()()

 

「俺の登場か」

 

「まさか予想外だったよ……吸血鬼を自分から血を吸わせてまで助けようとする人物が存在したなんてね。更に驚いたのは、ソイツがハートアンダーブレードをも上回るほどの力を有している人間から外れた『例外』だったことさ」

 

あの時は本当――参ったね。

 

と、忍野は軽薄に笑った。

 

「ビックリ何てモノじゃあ済まなかったねアレは……何せ、昨日今日で吸血鬼になったはずのルーキーが、既に歴戦のヴァンパイアハンターの連中をも軽くあしらえるほどに吸血鬼の力を使いこなしているんだって言うんだから。あの時は珍しく焦ったよ。何とかギリギリで連中を殺させないようにすることには成功したけれど、しかし僕の努力は()()()()()()()()()()()()()()といえる程の存在の出現によって水泡に帰してしまったわけだ。骨折り損のくたびれ儲けとは、まさにこのことだね」

 

「それは悪いことをしたな」

 

ちっとも悪いとは思っていないが。

 

「でも、これ程までのことも、全ては未だ序の口でしかなかったって言うんだから、僕としては笑うしかないよね。いつも笑ってはいるけれど、笑うしかない状況にされたのは流石に初めてだよ」

 

――ヤレヤレお手上げだ。

 

そう言わんばかりに、忍野は肩を竦めた。

 

「君たちの塒に案内されて、君とハートアンダーブレードを見比べて、君から詳しい情報を聞いて、僕ぁ内心腰が抜けそうになったね。何だい『例外』って、『人間』でも『怪異』でもない全く新しい上位存在だって?一体何の冗談だと思ったね。もしかしてこれは夢なんじゃないかとすら思っていた。でも、今までの僕の経験が、それを許さなかった。君だけならまだ何とかよかったものを、()()()()()()()()()()()()()()がいつの間にか吸血鬼でなくなっているんだというんだから、言い訳はできなかった。否、許されなかった」

 

へぇこいつ…あの時は平然を装っちゃいたけれどそんな心境だったのか。

 

「それに君は、ハートアンダーブレードのように弱体化させることはどうやらできそうになかったからね、何とか君に手加減してもらうように必死で場を整えたのさ」

 

「それはご苦労なこったな」

 

意外と苦労人であった忍野である。

 

「君に何でもありの殺し合いをさせてしまえば、連中の命は吹けば飛んでしまう埃のようなものだし、下手したら余波で街に被害が出てしまうかもしれないからね。何とか『ゲーム』という形にして暗黙のルールとして()()()()()()()()、連中を何とか丸め込んで、そこまでやってようやく場が整ったのさ」

 

あー……うん、マジでお疲れ。

 

忍野が苦労人過ぎる…。

 

こんなヘラヘラしてても裏でスゲェ苦労してたんだな……。

 

今までいろいろ言ってきたが悪い気がしてきた。

 

「でもこれで僕の仕事も残すところ最後まで来たよ。これで僕もようやく枕を高くして眠ることができる」

 

「それは最後も―――()()()()()ってことでいいんだな」

 

「そう、いつも通りだよ阿良々木君。君はいつも通りに、僕とハートアンダーブレードの心臓をかけてゲームをするんだ」

 

「やっぱりお前が戦うのか?」

 

全く弱いという訳ではないが、しかし忍野とて普通の人間だ。

 

いくら策を廻らそうと、幾ら罠を張ろうと、幾ら周到に準備しようと

 

アリは所詮、一匹では象には勝てないのだ。

 

どうせ踏みつぶされる。

 

「はっはー、そういう展開も乙なモノではあるのだけれどね、残念ながら僕みたいなおっさんではどうやったって君に太刀打ちすることはできないよ。だから―――()()()()()()()()()

 

「『助っ人』だと?誰だそれは」

 

「それは後のお楽しみってことで。多分()()()()()()()()()()()()()()んじゃないかな?」

 

『夜になれば』…か。

 

夜行性なのか?

 

ドラマツルギーのような吸血鬼でも雇ったのか?

 

「ともかく、君とその『助っ人』が明日の夜に戦って君が勝てば、僕がハートアンダーブレードの心臓を返す」

 

「お前が勝てば?」

 

「勿論心臓は返さない。心臓は『先輩』に送って二度とハートアンダーブレードの体内に戻らないように処置をしてもらう。『例外』になったとは言ってもハートアンダーブレードの力は弱体化していた時とそう変わらない。彼女からは未だ、大半のスキルが失われている。そうなればまたぞろ連中のようなヴァンパイアハンターに狙われて、いつかは殺されることになるだろうね」

 

「分かった。良いだろう」

 

「ああそれと一つ言い忘れていたんだけれど――」

 

「何だ?」

 

「今回は『殺し合い(デスマッチ)』だから、どちらかが死なない限り勝負は終わらない」

 

「お前はそれをさせないために『ゲーム』をしていたんじゃないのか?」

 

「そうなんだけれど――まぁ、何と言うのかな、今回の『助っ人』はかなりのじゃじゃ馬でね―――僕ですら完全に制御することは不可能なんだ。それに力は全力のハートアンダーブレードと同等か、もしくはそれ以上だから、君とぶつかり合えば絶対に手加減何て効かない――そういう相手なんだ」

 

「キスショットと同等だと?」

 

そんな相手が本当にいるのか……。

 

彼女は今更言う事でもないが吸血鬼の中では『貴重種』だ。

 

俺と同等の力を持っている極めて()()()な存在。

 

それほどの存在は本来、世界に唯一無二であったとしても不思議ではないのに、そうそう易々と見つかるようなものなのか……?

 

「戦闘の余波については『助っ人』と僕が張った『人払い』の結界があるから気にしなくても大丈夫だから、阿良々木君は存分に戦っていいよ」

 

「分かった。だが最後に一つだけ聞いていいか?」

 

「いいよ」

 

「それは―――本当に()()()()()()()()()?」

 

()()()()()()()()()()だよ阿良々木君」

 

「……そうか」

 

「じゃ、僕は準備あるからこれで失礼するね」

 

「おい、お前も話があるんじゃなかったのか?」

 

「僕の話は阿良々木君達はまだ『心臓』を取り返す必要があるっていうことと、その相手は僕だっていう事だよ。阿良々木君が察しがよくてこちらも助かったよ」

 

それじゃあ、またね―――

 

そう言って忍野は去っていった。

 

まぁ、色々あったが兎も角。

 

「両腕、ゲットだな」

 

ミッションコンプリート

 

……とは、残念ながらいかないが。

 

明日のラストバトルのこと、キスショットにも教えねーと。

 

それに―――『助っ人』の正体も心当たりがないか聞いてみよう。

 

キスショットと同等の力を持つ存在―――

 

一体……何者なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前話投稿後に起こった出来事を三行で!

1 評価バーがオレンジに!

2 お気に入り登録が100件増加!

3 日間ランキング17位にランクイン!(一時だけ)

( ゚Д゚)……。

( つД⊂)ゴシゴシ……。

( ゚Д゚)……。

( つД⊂)ゴシゴシ……。

(;゚Д゚)ナン! (;Д゚)゚デス! ( Д)゚ ゚トー!

あ…ありのまま、今起こったことを話すぜ!

私は一昨日、『外物語』の第6話を投稿したと思ったら、いつの間にか日間ランキング17位にこの作品が(一時だけだけれど)ランクインしていて、さらにお気に入り登録者が100件も増えていて、極めつけには感想が評価バーがオレンジになっていた。

な、何を言っているのか分からねーと(ry

どうも、シリアルキラーならぬシリアスキラー系作者の零崎記識です。

突然ですが……。

な に が お こ っ た !?

日間ランキング17位って……。(一時だけだったケド)

予想外の反響に困惑を隠せません。

いやぁー感想もたくさん来てお気に入り登録も一気に増えてうれしすぎてつい顔がにやけてしまいます。

応援していただいている読者の皆様には感謝感謝です。

この期待にはこれからも作品を投稿していくことで応えていきたいと思います。

タマニサボルカモシレナイケレド(小声)

まぁ筆者のことは置いといて、作品の話に参りましょう。

フースッとしたぜ。

ハイ、ということで今回は無闇君ブチギレ回でした。

いやー、あんなふうに激昂するキャラじゃなかったと思うんですけれど、なんであぁなっちゃったんだか……。

きっとヒロイン妖怪ハネカワ=サンの仕業ですな。

それは兎も角、今回はやっと無闇君本来の性格を出せました。

本来無闇君はあぁ言う風に何に関しても無関心で、だからこそとことん冷酷で残酷になれる…というキャラで、そんな彼が唯一関心を持って感情を発露できるのがキスショットっていう感じを予定していたのですが……。

ハネカワ=サンが予想以上のヒロイン力を発揮してグイグイ来るものですから無闇君がどんどん真逆のキャラになりつつあります。

お前原作で阿良々木君落とせなかったからって無闇君にグイグイ行くなよぉ!

という訳でこの作品のハネカワ=サンさんは原作よりもかなりグイグイ行きます。

本気で無闇君を落としにかかってます。

メインヒロインの(←ここ重要)キスショットはここからどう巻き返していくのか楽しみですねぇ。

傷物語って一応キスショットメインの話のはずなのに明らかにハネカワ=サンの方が出番多いんですよね……。

さてここで問題になるのが次の『猫物語(黒)』ですよ

キスショットは傷物語では学習塾跡に居場所が固定されているので自由度が極端に低いです。

なので自由に動けるはずのキスショットがどのような動きをするのかということですね。

アクティブになったキスショットの真の実力や如何に……?

巻き返せるかどうかは神のみぞ知っています。

何でだろう……下着姿で猫耳生やしたブラック羽川さんを見て無闇君が暴走する未来しか見えない…。

彼の吸血鬼パワーは健在ですから下手すれば暴走する無闇君からブラック羽川が逃げ回るハメになりそう……。

「スゲェ!猫耳の羽川だぁー!」

「にゃんか身の危険を感じるにゃー!?」

的な。

まぁそんなことにはならないですよ……タブン。

それは兎も角傷物語の話に戻りましょう。

ちょっとずつ原作との乖離が始まりましたね。

原作では阿良々木君は忍野と戦わずして心臓を入手していましたが今作では心臓をかけて最後のゲームをすることになりましたね。

それもこれも前話から地味にそうなるフラグを潰すように少しづつ原作を改変してきた結果ですね。

ですのでここからはちょっとだけオリジナル展開が入ります。

まぁそこまで原作から乖離する話ではないのですがね。

さて、今回で無闇君が実は舐めプしてた理由が判明いたしました。

彼には彼なりの考えがあったという事ですね。

彼が舐めプしていた理由はざっくり説明してしまえば自分と相手との実力差がありすぎて本当は『戦い』という形にすらもならないはずでしたが、それだとあまりにも相手のメンツを潰してしまうので、一応『戦い』にはなるように手加減していた…という事です。

無闇君なりに気を遣ったという事ですね。

え?ギロチンカッター?

知らない子ですね。

羽川さんに手を出す輩は死すべし。慈悲は無い。

やっと『残酷な描写』タグが仕事してくれました。

今回の戦い、エピソード戦と比べれば無闇君の怒りには天と地の差がありますね。

最高潮を100とすると、エピソード戦のときが50程度で、今回が1000ってところですね。

もうなんか無闇君怒りのせいで吹っ切れちゃって笑い出しちゃいましたからね。

あーあさらったのが羽川さんじゃなければ生きていられたのになぁ……。

そうでなくとももうちょい羽川さんの扱いに気を付けていればあそこまでやられることもなかっただろうに……。

自業自得ですな。

さてここからは補足です。

キスショットの状態について。

『外物語』のキスショットは原作と違って幼女化しません。

それはキスショットが『例外』になったと同時に彼女の存在力が底上げされたことが原因です。

自分の身体を縮めなくとも生命を維持できる程度まで彼女の存在力が底上げされたからです。

しかし、吸血鬼としてのスキルは手足と一緒に奪われており、手足を取り戻すごとにすこしずつ回復しているという事です。

では次回の話

次回はキスショットと無闇君のおしゃべり回がメインですね。

遂に無闇君の願いが明らかに!

……ってもったいぶっておいて申し訳ないのですが、結構普通な願いです。

意外性とかちっともないです。

寧ろその後明かす予定のラスボスの正体のほうが意外ではあるかもしれません。

いや…予想できてるかな……。

まぁともかく、次回はキスショットヒロイン回とだけ言っておきましょう。

次回予告

『外物語』《傷物語編》最終章―――突入

遂にすべてのヴァンパイアハンターを退け、奪われた手足を取り戻したキスショット。

そんな彼女が零崎無闇に聞く彼の願いとは

そして現れる…最後の敵。

ラストステージにしてラストバトルのラストボス

傷つけ傷つけられてきた傷だらけの物語の最後を飾る者の正体とは―――

次回『外物語』第8話 近日更新予定

残りあと2話!

コメントをくださった神皇帝さん、赤頭巾さん、リコッタさん、白黒魔法使いさん

そしてお気に入り登録していただいた読者の皆様

ありがとうございました。

質問・ご指摘は感想欄へどうぞ。

質問をかいてくださった方には可及的速やかに返信したいと思います。

その他のコメントには章の終わりにまとめて返信させていただきます。

それではまた次回。














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