べート・ローガがヘスティアファミリアに入るのは間違っているだろうか【リメイク版】   作:爺さんの心得

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 ベートきゅんにおんぶされて永遠にベートきゅんの頭を弄り倒したい。




三度の飯よりダンジョンだが、やはり飯は食べないと戦は出来ぬ

 

 

 

 

 

 「…………ぁ?」

 

 パチリ、とベートが目を開けると、照らす眩しい光がベートの顔を覆った。それを忌々しく睨みつけ、彼は気だるげそうに起き上がる。少しだけ体を伸ばし、まだ覚醒しきっていない頭のまま、辺りを見渡した。

 自身のホームである教会地下。物は散乱しておらず、古ぼけた床や亀裂が入っている壁が見え隠れする。ベッドの側には昨日自分が放っておいたヴァリスが入った袋があり、そこから金色の輝きが覗いていた。

 

 (……ああ、昨日はそのまま寝ちまったのか)

 

 やっとの事で覚醒したベートは、頭をボリボリと掻いた。

 別に地上で寝過ごす事は珍しいことではない。Lv.1の時は疲労で倒れ込んだ時もあったし、酒の飲みすぎで二日も寝込んでいたこともある。今更寝過ごして足掻く方が可笑しい。

 だがこれがダンジョンなら別である。そもそもダンジョンで寝るという行為が自殺行為なのだ。安全に寝床につくには、安全地帯である階層につく必要がある。もし安全地帯以外の所で睡眠を取ればーーーと、最悪な事態を思い浮かべる。

 まぁ、ベートは音や臭いに敏感なので、安全地帯以外で一休みする事など多々あったが。

 

 「……まだ帰ってきてねぇのか」

 

 グルリと見渡し、ベートはそう吐き捨てる。

 物が散乱していない所を見ると、どうやらベート以外は帰ってきていないらしい。いや、若しかしたらベルは一度帰ってきたかもしれない。その後自分に遠慮して、静かに出ていったのかもしれない。有り得る事である。

 

 「ッあ"〜……体動かすかぁ」

 

 コキリ、と首を鳴らしたベートは、ヴァリスが入っている袋をベッドの上に置き、バックパックを背負う。寝過ぎたせいなのか、体がいつもより重くて仕方がなかった。この体を解すために、今日もベートはダンジョンに潜るのである。

 さぁ、いざ行かん、ダンジョンへ。

 ……と意気込んでいた時、ベートの腹からグゥと、可愛らしい音が部屋中に響き渡る。

 

 「……まずは、飯から、か」

 

 昨日の昼食から何も食べていない事を思い出し、ベートは少しゲッソリとした顔で、ホームの扉を開け放った。

 

 

 

 

 

 

 

 「ベートさんにお金、返しそびれちゃったな……」

 

 はぁああ……と深く後悔に追われるベルは、フラフラとメインストリートを歩いていた。バックパックには、ベートに渡す筈の件の勘定のヴァリスの袋が入っている。

 実はあの後直ぐに帰ったのだが、ベートがぐっすりと眠っているもんなので、起きるまで待っている事にしたのだ。しかしなかなか起きず、自分がひょこりと眠りから覚めても、ベートは眠ったままだった。

 どうしようかと考えたベルだったが、ふとベートに渡す筈のヴァリスが入っている袋に目を落とす。あの勘定分ではなく、もっと多めに貢げば、ベートも喜ぶのではないのか?もっと稼いでいけば、ベートも笑顔を見せるのではないか?とベルは考えた。

 そうと決まれば、とベルは早々にホームから出たが、バベルに向かう間に徐々に後悔に蝕われていった。あのまま渡せばよかった。自分の欲のために先送りにするのは良くなかった。自分の馬鹿、と自己嫌悪に浸り続ける。

 もうこのままダンジョンで荒稼ぎして、もし怒られたら全力で土下座しようと考えた時だった。

 

 「そこー!そこの白髪頭ー!!」

 

 一瞬自分のことだと分からなかったベルは辺りを見渡した。しかし明らかに呼び声がこちらに向かっているので、声をした方を見る。

 これでベルの一日がど迫力のある忘れられない、そして成長の一頁となる事など、この時のベルはまだ思いもしなかった。

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 妙に都市がざわついていた。それはまるでお祭りのような、楽しげな声が都市中に飛び交っていた。

 チラチラと辺りを見渡したベートだが、屋台や彼らの会話を盗み聞きし続けれていれば、ある程度状況は掴めてきた。

 今日は怪物祭(モンスターフィリア)なのである。メインイベントはガネーシャファミリアが主催する、モンスター同士の闘技ーーー恐らく、そこを求めて祭りに参加する住民が多数であろう。

 ベートの横を過ぎ去り、楽しげに雑談する住民達を一瞥した。そしてベートはーーーー何も浮かべなかった。

 そもそも、ベートはこんな祭りなどという催しは一回も参加した事がない。そんなものに手を出すくらいなら、ダンジョンで腕を磨く方を優先したいのだ。生温い感情まで付け込まれるのは、ベートのプライドが許さない。

 なので祭りの雰囲気には流されず、ベートはただ無関心に、真っ直ぐにバベルへと向かっていく。今日は祭りだから冒険者は少ないはずだ。久しぶりに長く滞在してしまおうか、と予定を組み立て始める。

 と、ここでベートの腹がまたグゥ、と空腹を訴え始めた。そういえば腹を空かしてこの道を通ったのだった、と今更ながら思い出し、ベートはここから近い酒場へ行こうと進路を変える。

 そう振り返った時だった。

 

 「ッぇ」

 

 「あ」

 

 ドンッ、と振り返った瞬間、誰かの肩が当たり、その人物を倒してしまった。彼ーーーいや、彼女は尻餅をつき、可愛らしく「いたた……」と、痛みを訴える。

 露出が少ない桃色の服装。長く伸びた髪をポニーテールにし、身軽そうな格好をするーーー耳が尖っている、美しい少女。

 エルフの特徴を掴んでいる少女は、こちらを見上げて申し訳なさそうに俯いた。

 

 「ご、ごめんなさい……前を向いていませんでした……」

 

 「…………いや、急に振り返った俺も悪い。立てるか?」

 

 流石に一方的な責任を押し付けるほど、ベートは薄情ではない。少女を立たせようと手を差し伸べようとしてーーー手を引っ込めた。

 エルフは見知らぬ輩との肌の接触を好まない。信じあっている仲間同士としか、肌の合わせ合いをしようとはしないのだ。それを知ってきたベートはすぐ様手を引っ込め、少女が立ち上がるのを待つ。

 

 「……手を差し伸べようとしてくれたんですね、ありがとうございます」

 

 どうやら少女はベートの行動が見えていたらしい。感謝を述べる彼女に、ベートは「別に」と返した。

 

 「テメェらエルフ共は仲良し小好しを好まねえんだろ?」

 

 「よっ……と。いえ、そういう訳ではありませんよ。確かにエルフはそういう人はいますが……少なくとも、私はあまりそういうのは気にしていません」

 

 自身の力で立ち上がり、埃を払ったエルフの少女はそう弁解する。しかしベートはあまり興味無さげに「ふーん」と返し、少女に背を向けた。

 少女とベートはただぶつかっただけである。少女はあまり怪我をしていないようだし、そんなにも気にしていないので、ここで立ち話をするのも時間の無駄であろう。三度の飯よりダンジョンという真髄を持ち合わせるベートは早々に立ち去り、腕を磨こうと歩き出した時だった。

 

 「あ、あの!」

 

 先程の少女がベートを呼び止める。億劫そうに振り返るベートが見た彼女は、何故か緊張していて、視線を彷徨わせていた。

 

 「だ、大丈夫……が、頑張れ、レフィーヤ・ウィリディス……」

 

 聴覚に優れているベートは、彼女のほんの呟きも聞き逃さない。何故自分を励まし、何を頑張ろうとしているのか定かではないが。

 このまま何も言い出さなかったら無視して行ってしまおうと考えていた時、「あの!」と少女の呼び声がまた響く。

 

 「……なんだよ」

 

 不機嫌を全く隠さない低声で答えれば、彼女は少しだけ身を逸らす。しかし、まるで断崖絶壁に踏み込むように前のめりになった少女は、頬を少しだけ赤らめさせてこうベートに提案した。

 

 「あ、朝ご飯がまだでしたら!い、一緒に食べませんか!?」

 

 「断る」

 

 少女の懸命?な提案をベートは速攻で切り捨てる。即答で拒否された少女は、ガックリと項垂れた。

 真逆そんな事の為にと若干拍子抜けしているベートは、今後こそ少女の前から去ろうと背を向く。

 

 「な、なら!あの、少し一緒に周りませんか!?怪物祭!」

 

 「そんなのに行く暇があったら俺はダンジョンを選ぶ」

 

 またも即答されるが、少女は負けじとベートに詰め寄る。

 

 「そ、そうだ!あの私実は一緒に来た人とはぐれてしまって!その人が来る間でもいいんです!一緒にお話しませんか!?」

 

 「独りで待ってろ」

 

 「ぶつかった罰です!れ、レディに怪我を負わせることなんてご法度なんですよ!?」

 

 「それだったら冒険者なんざやるな。てかテメェは怪我すら負ってねぇじゃねぇか」

 

 「うううう……!!」

 

 少女の提案を尽く切り捨てていくベートに、少女はさらに項垂れる。少女の周りに幽霊が憑いているのかと思うくらいに、少女はどんよりとした。

 

 (……何でこんなに執拗に迫ってくるんだ?此奴)

 

 ベートは彼女が何故こんなにも自分といたがるのか疑問に思った。

 こちとら赤の他人なのだ。あまり深く関わらずにそのまま去るのが、ベートは当然の事だと思っている。だがこの少女は初対面にも関わらず、こうしてベートに迫っては迫ってくる。

 はっきり言って、鬱陶しい。

 ……だが、もし自分の事を知っていて、そして自分の秘密が知りたいのだとしたら。

 ベートの名は悪い意味で広がっている。恐らくこの少女の耳にも届いているはずだ。そう考えてしまえば、色々と仮説は浮かび上がってくる。

 自分が罵倒した中に、この少女が信仰する人がいた。それを少女は許さずに、こうして自分に迫っているとか。

 Lv.5の冒険者と同じようなことをやれば、自分も強くなるのではないか、とか。

 ベートのあらぬ噂を流す為に、こうして信憑性のある話を吐かせようとしている、とか。

 浮かべば浮かぶほど碌でのない。しかしこんな事を思い浮かべてしまうほどに、ベートの評判は悪い。それは本人も自覚しているし、そして反省もしない。

 ……切り捨ててしまおうか。

 ベートはまだ落ち込んでいる少女を見下ろして、そう判断する。

 彼女が何を思っているのか知らないが、ここで言葉の滅多刺しをしてしまえば、こうして執拗に迫られる事は今後ともないであろう。

 保険、そう保険だ。今後またこういう事が起きないようにという、保険だ。

 

 「…………朝飯に付き合うくらいなら、別にいい」

 

 そう言った途端に、少女の顔がバッと上がる。瞳を爛々とさせ、とても歓喜溢れる顔をして。

 

 ふとその表情が、記憶の中にいる「彼女」と、重なった。自分より弱くて、貧弱で、脆弱な彼女。自分の力で手に入れた、愛おしかった彼女。

 彼女の笑顔も、この少女のように美しいものだった。

 

 (………………)

 

 ベートは少女と「彼女」を重ね合わせながら、ガッツポーズをしている少女の隣に居続けた。

 

 






 三度の飯よりダンジョン→お前朝飯めっちゃ食いたそうにしてたやんけぇ!!
 どうもどうも爺さんです。え?何でアイズちゃんにしなかったのかって?だってあの子ロキと一緒にいるジャマイカ!
 →じゃあ誰と絡ませよう……リーネちゃんはもうちょっと先で……。
 →じゃあティオナとティオネとはぐれたレフィーヤちゃんにしようっと!
 という訳でこうなりました。レフィーヤちゃんが何故こんなにもベートと一緒にいたがるのかは次回で。

 Twitterアカウント作りました
→@g_san_nokokoroe

 ベートきゅんの事ばっかり喋っています。あとがきでは嫌になる人もいたので、今後はこちらでベートきゅんのことをいっぱい話させていただきます。従いまして、今まで暴走していたあとがきは少しばかり落ち着くと思います。"思います"。
 それではまた次回……!

 ベートきゅうううううううううん!!!愛してるううううううううううううう!!!!


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