べート・ローガがヘスティアファミリアに入るのは間違っているだろうか【リメイク版】   作:爺さんの心得

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 つんでれ





憧憬の兆し

 

 

 ほぼ八つ当たりでダンジョンに潜っていたベートが地上に戻ったのは、既に日が落ちている時間帯だった。

 バックパックに詰まっている魔石は、これまでよりも集めていると言っても過言ではないであろう。また貯金に回さねば、とベートは疲れにより出た欠伸を噛み締める。

 ギルドへの道を辿ると、徐々に民間人や冒険者が多くなっていく。まだ商売をしている商人の通りを通りながら、ギルドの木材の両扉を開けた。

 

 「……あ。ローガ氏」

 

 ベートを迎い入れたのは、ベルのアドバイザーでもあり、ベートの良き理解者でもあるエイナだった。手元にある資料はある冒険者の資料であるところを見るに、まだ業務中なのだろう。

 

 「……テメェはあの兎野郎の」

 

 「はい。ベル君のアドバイザーを務めさせていただいている、エイナ・チュールと申します。噂はかねがね」

 

 「ハッ、禄な噂なんて流れてねェけどなぁ」

 

 嘲笑して返すと、べートは顔を伏せて、こんな事を聞いていた。

 

 「……あの兎野郎はどうだ?」

 

 「え?あ、はい。ベル君は今日もダンジョンに向かっています。でもいつもより凄い励んでいたような……いえ、別に今までサボっていたわけではありませんよ?なんか、今日のベル君は今まで以上に張り切ってたような……」

 

 「いや、いい。理解した」

 

 必死に伝えようとしていたが、それをベートは遮り、止める。ベルが何故突起になっているのか、ベートは既に分かりきっているからだ。

 あの剣姫を越えるために、今ベルは頑張っている。そう思うと、先刻までベルに発現したスキルに嫉妬していた自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。しかしそれと同時に、何故こんな事を聞いたのだろうかという疑問が拭いきれない。

 

 「チッ」

 

 それを隠すように舌打ちをかましたベートは、エイナを過ぎ去って換金所まで歩く。

 十八階層以下の魔石は全て迷宮の楽園(アンダーリゾート)で換金してきた。後は道中やってきたモンスターをここで換金するだけである。

 やがて出された魔石はヴァリスとなって帰ってきた。二万三千ヴァリス。それに迷宮の楽園で換金した金額を足せば、いつもの三分の一の稼ぎとなった。

 この稼いだ金額の殆どをファミリアの財産に注ぎ込もう、と換金したヴァリスを袋に入れ、ギルドを後にしようとする。

 

 「……ローガ氏!」

 

 ふと、エイナに呼び止められ、ベートは振り向いた。

 ハーフエルフでありながらもその美しい相貌は目を引くものだ。夕日の光によって彼女のエメラルド色の双眸は、いつにも増して煌めいている。

 エイナはベートの琥珀色の瞳をジッと見つめて、やがてふんわりと笑った。

 

 「……ベル君のこと、支えてあげてくださいね」

 

 「……馬鹿野郎が。それはテメェの仕事だろうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルドを出て暫く歩く内に、時間帯は既に宵となってしまった。

 今帰ったら、恐らくヘスティアは「遅い!」とベートに突っかかり、そしてベルは苦笑するであろう。そうなっては後々面倒なので、少しだけホームの帰路を早足で帰る。

 

 「……あ?」

 

 だがその時、ある店で立ち止まっている見慣れた姿に足を止めた。

 いつもの茶色の外套に、雪のような真っ白な肌。彼ーーーベルはある酒場で、右往左往としていた。

 

 (何やってんだあいつ)

 

 そもそも彼は何故ここにいるのだろう。ホームでヘスティアと仲良く晩飯を摂っていたのではないのか。そもそもヘスティアは何処へ行ったのか。

 数々の疑問を抱きながら、取り敢えず聞けばわかるだろうとベルに近づいた。

 

 「おい」

 

 「っあ……ベートさん!」

 

 ベートが声をかけると、ベルは嬉しそうに顔を輝かせた。

 ベルに何をしているのか問う前に、ベートは酒場を見上げた。

 ここは確か……自分が冒険者になった日から通っている、見慣れた酒場「豊穣の女主人」である。何故ベルがこの酒場の前で右往左往していたのか、もしやこの酒場に入るのを戸惑っていたのだろうか。別に戸惑う必要性はないと思うのだが、とベートが心底疑問に思っている時、酒場から一人の少女が顔を出した。

 

 「あ、ベルさん!」

 

 灰色の髪を一つに束ねた、緑のメイド服を着込む少女は、ベルの姿を視界に収めると嬉々として駆け寄ってくる。

 「こんばんわ、シルさん」とベルは恥ずかしそうに彼女ーーーシルに挨拶した。

 シルはニッコリと笑って、ベルがこの酒場に来たことの喜びを告げる。それにさらに真っ赤になったベルと、それにまた頬を緩ませるシルのやりとりを、ベートは黙って観戦していた。

 

 「……所で、そちらのお方はーーーーあ、ベートさん!」

 

 漸くベートの存在に気づいたシルは、ベートに笑顔を向けた。

 

 「チッ、気づくのが遅いっての。……薄々気づいちゃいるが、どうせ、またあのやり方で此奴をここに呼び込んだんだろ?」

 

 「えっ」

 

 「シーッ、秘密ですよ」

 

 確信犯的なシルの笑顔に、ベートはまた舌打ちを零した。

 実は昔、ベートは彼女のやり口にハマりかけたのである。ある日ホームに帰宅途中の時に彼女、シルに「魔石を落としましたよ」と呼びかけられたのだ。

 その時は一瞬落としたのかと思ったが、彼は音にも敏感である。もし落としたのなら即座に気がつくし、そもそも先程全ての魔石を換金してきたので、落ちていることは普通なら有り得ないのだ。

 即座に疑いをかけたベートは彼女に凄みをきかせ、淡々と言葉を紡いでいった。そして驚く程あっさりと白状した彼女に、今度はベートが度肝を抜いた。しかもちゃっかり「宜しくお願いしますね!」と店の宣伝もしていき、そして用が済んだとばかりに店の奥に姿を消したのである。

 こればかりはさすがのベートも「はぁ?」となった。そしてあの女に文句でも言ってやろうと態々酒場に足を運んだのだがーーー料理は美味く、そして酒場の雰囲気も全て気に入ったので、「騙されたとしても金が増えるだけだったしまぁいいか」で、妥協したのである。

 以来時々酒場に来ては飲み明かし、ヘスティアにブーブー言われていたが……そういえば、Lv.が上がるにつれて来れていなかったな、とベートはふと思い出した。

 Lv.5になってからというもの、殆どの時間をダンジョンに費やしていたので、そもそもこういう場所に来るのも久々なのだ。酒場から聞こえる冒険者の汚い笑い声も、ベートにとっては昔のように思えてきた。

 

 「……丁度いいな。俺もここで飯食ってくか」

 

 「本当ですか?ありがとうございます!」

 

 「ええ!?」

 

 「ああ?ンだよ兎野郎、そんないかにも意外そうな顔しやがって」

 

 「いえ……ベートさんとこうして一緒に食べれるの、初めてだなぁと思うと……つい」

 

 「……気まぐれだ」

 

 べートはそう突っぱねる。

 こうやってベルと一緒に、何処かの店へ入って食事するのは初めてだ。いつもはホームで駄弁って、ヘスティアの猛攻撃を遠目で見て、そしてそのまま時間が過ぎていく。会話も殆どヘスティアが出してくれ、それに相槌をうっているようなものだ。

 

 「……ハッ。おいシル。さっさと席に案内しろ」

 

 「了解しました。お客様二名入りまーす!」

 

 ベートは、ベルの腕を取って、店の中へ入ったシルの後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らに設けられた場所は、人目につきにくいカウンターの角の二席だった。これはシルの配慮なのであろう。

 ベルを隅っこに追いやり、ベートはその隣へ腰を下ろす。するとこの店の主人である彼女ーーーミアがニカリと笑ってこちらに話しかけてきた。

 

 「やぁベート!久しぶりじゃないか。大きくなったもんだねぇ!アンタの隣にいるのが、シルが連れ込んだ冒険者かい?聞けばアンタ、私達料理人を困らせる程の大食漢らしいじゃないか!」

 

 「!?!?!?」

 

 「お前……まさかファミリアの資金まで食らうほど……?」

 

 「違いますよベートさぁん!?シルさん!?どういうことですかこれ!?」

 

 ミアに驚きの事実にベルは瞠目し、それに乗ったベートは少しだけ怒りを混じり合わせてベルに一言言い、それをベルは一喝して恐らく全ての元凶であるシルに問いかける。

 シルは数秒間たっぷりと間を開けて、可愛らしく「てへっ」と答えた。その悪気のない笑顔にベルの声が弱くなっていく。

 

 「……変わってねぇな」

 

 「うふふ」

 

 「うふふじゃないですよー!?」

 

 「ミア酒」

 

 「あいよ!」

 

 「そして無視しないで注文しないでくれますかぁ!?」

 

 メニューを見て悲鳴を上げたりお金がなんだで悲鳴を上げたり、本当に忙しいヤツである、とベートはしれっとオススメを頼み、それにまたベルがムンクの叫びのようになるのは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「~~~相変わらずここの店は酒がうめえなぁ!!」

 

 顔を赤くさせ、ダンッ!とジョッキを雑に置いたベートは、笑い声を上げながらそう言った。それにミアは「当たり前よ!」と自信満々に胸を張る。

 ベルは仕方なしにベートと同じオススメを頼み、黙々と一口一口食していた。今はパスタに突入しており、口の周りをパスタソースで汚しながら食している。

 

 「あああ……たっぐよぉ、昨日のテメェにはほんっっとうに世話が焼けるぜェ……」

 

 「ええ……またその話、ですか?」

 

 「酔ってますね」

 

 「酔ってねえよォ!」

 

 シルが冗談交じりに言うと、ベートは食ってかかった。そしてまたジョッキを仰ぎ、中の酒を空にさせる。

 頬を赤くさせ、呂律も回っていない。いつもの澄まし顔は何処へやら。今のベートはヘラヘラとだらしなくしているーーーただの酔っ払いである。

 

 (……酔ったベートさんって別人だなぁ)

 

 ベルはムグムグと口の中を動かしながら、隣のベートを見据えた。そしてこれまでのベートとの関わりを思い出す。

 思えば、最初の頃はこうやって食事をすることなど、有り得ないと思った。日々睨まれ罵倒され、時には嫌な思いをしたけれど、それがベルの原動力となり、いつしかべートを見る目が変わっていった。しかしーーーそこまで、関わりはなかった。

 確かに、会話が少ないと言えば少ないと言える。彼はいつも遅くまでダンジョンに潜っているので、顔を合わせるとしたら夕食後くらいなのだ。ヘスティアの話によると、ベルが来る前は一人で泊まり込みでダンジョンにいたという有り得ないことをしでかした男である。

 そんな男が彼とはーーー信じられないだろうな、とベルは複雑な顔をした。

 

 (……そういえば、ベートさんの戦ってる姿、見たことないなぁ)

 

 ベートはソロでダンジョンに潜る。何処かのファミリアとパーティも組まず、かと言って同じファミリアのベルとは……組む気にはなれなかったのであろう。そのせいか、ベルはベートが戦っている姿を、今まで見たことがなかった。

 

 (どんな風に戦うんだろう。神様の話だと、敏捷が速いって言ってたから……撹乱してから倒すやり方なのかな)

 

 モンスターを混乱させ、その隙に攻撃をするーーーベルのベートの戦いの予想はこれだった。敏捷がとても良いのなら、そのような使い道をしても何も咎められないであろう。実際ベートがどのように戦っているのか知らないベルは、こうやって予測するのも実は楽しかったりする。

 

 「……見てみたいなぁ」

 

 「何が」

 

 「ーーーふぇっ!?」

 

 ポツリと声に出していたのを、顔を近づけてきたベートに聞き返された。急にやってきたベートの顔にベルは吃り、思わず椅子から落ちそうになるのを防ぐ。

 そんなベルの行動にベートは首を傾げながらも、いつの間にかおかわりを頼んだのか、新たな酒が入ったジョッキをグイッと一気飲みをし始めた。

 

 (……いつか、見れるだろうな)

 

 その綺麗な横顔に少し見惚れ、そして新たな楽しみを作ったベルの耳に、他の客のざわめきが入る。

 何事か、とベルが目線だけで店の出入口を見るとーーーー途端に、ベルの目が瞠目した。

 

 「おい、ありゃ……」

 

 「ロキ・ファミリア……」

 

 他の客達が、次々とその名を口にする。

 【ロキ・ファミリア】都市最強を誇る【フレイヤ・ファミリア】と同等の強さを持つ、オラリオ屈指の探索系ファミリアである。【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナを初めとした逸材の冒険者が集う、冒険者にとっても憧れの存在のファミリアなのだ。

 どうやら今日、ロキ・ファミリアは遠征の帰りだったらしく、打ち上げの予約をしていたらしい。

 だがベルはそんなの関係なく、ただある一人の少女にしか目がいっていなかった。

 

 

 

 「……な、んで……」

 

 

 

 まるで絹糸のように流れるような金髪。

 ふっくらとした、少女特有のある頬。

 そして引き締まった腰に、少女でありながらもそれ程の大きさを持つ双丘。

 ベートも彼女を見て、目を細めた。その少女は、昨日ベルを救った恩人であり、ベートが超えるべき相手でもあった。

 その美しさと可憐さを持つ、少女の名はーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 「……アイズ・ヴァレンシュタインさん……」

 

 

 アイズ・ヴァレンシュタイン。

 二つ名【剣姫】の異名を持つ、オラリオ屈指のLv.5であり、誰からでも愛されている美しき少女の名であった。

 

 

 

 




 べートきゅんのキャラが変わっているので地味に変えています。彼は酒を飲むと性格が変わるアレ。
 そろそろ第1章の終わり、前作に追いついてきました!リメイク後も宜しくお願いします!!

 べートきゅん可愛いよおおおおおお!!8巻もう10回目だよおおおおおおお!!べート・ローガぁー!だぁーい好きぃー!!


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