べート・ローガがヘスティアファミリアに入るのは間違っているだろうか【リメイク版】 作:爺さんの心得
神様達は平常運転です。
ベルがヘスティアファミリアに入団して数日。ベートはダンジョンに訪れていた。
背中に背負ったバックパックに
第二十二階層。ベートが軽々とソロで潜れる階層のギリギリラインだ。
ここからはソロでは厳しいところもあるが、ここよりも深いところをベートは潜ったことがある。多少苦戦はするが、死にはしない。ベートはそう確信している。
だが今日は長居をするつもりはなかった。今日はこの短時間でしっかりと魔石を集め帰る予定である。
理由は最近潜りすぎとヘスティアに注意されたからだ。今のファミリアはベートが稼いだヴァリスで保っていると言っても過言ではない。だがその代償にベートが無茶をするので、見かねたヘスティアが「深くまで潜るのは禁止!!」とベートに言い放ったようだ。
もちろん反対したが、ヘスティアの言い分も最もだし、これ以上無茶をして支障が出ても困る、とベートは苦渋の決断に踏み切る。だが二十二階層までは行かせてくれと懇願し、そこまでならとヘスティアの許しも得た。
貯める時は、貯める。狩る時は、狩る。その意志を持って、向かってくるモンスターの群れへ、自ら突っ込んで行った。
*
「こんなもんか」
バックパックに溜まった魔石の重さから、ベートはそう決めつける。疲れきった体に回復薬を流し込み、傷や疲労を癒した。
周りにはモンスターの死骸がうじゃうじゃといる。もうすぐ、黒い粒子となって消えるであろう。
モンスターからあるだけの魔石やドロップアイテムを手に入れたし、帰るとしよう。とベートは瞼を返し、上に続く階段へ登り出した。
リヴィラを通り抜け、階層主がいるはずの広間を抜け、どんどん上へ登る。
途中、冒険者とすれ違った時に睨まれたが、どうせいつものことだと直ぐに忘れた。
「よっ……と」
持ち前の俊足で軽々と階層を上がる。今の階層は十五階層。この後は、ものの数分で地上へ登れること間違いなしであろう。
あまり遅くさせるのも、とベートはヘスティア達のことを思い浮かべ、少しペースを早める。いつもはダンジョンに一週間くらい篭もりきるのだが、入団したベルに有らぬ疑いをかけられても迷惑だ。
ペースを速めたおかげか、一気に五階層分を駆け上がることが出来た。霧がかかる第十階層を、モンスターを殺しながら歩いていく。もちろん、魔石やドロップアイテムを忘れずに。
「………………!」
九階層へ続く階段を登ろうとした時、上の階層から何かの音が轟くのが聞こえた。
聴覚や臭覚に優れている彼は、その情報から記憶にあるモンスターへと当てはめていく。
そして、ピッタリと一致するモンスターがいた。自分がLv.2の時、苦戦しながらも勝ったモンスター。
「この足音や臭い……ミノタウロスかっ?」
Lv.2にカテゴリされている、『ミノタウロス』。並の冒険者じゃ全く歯が立たないモンスター。その硬質や強靭な力に一時期ベートが生死を彷徨ったものの、今では軽々と倒すことが出来る。
そのミノタウロスの足音が、上の階層で響いている。
何故だ?上層には、ミノタウロスなんて存在しなかったはずだ。なら考えられる可能性はーーー誰かが倒し損ね、ミノタウロスがここまで逃げてきたということ。
「チッ……!」
いつもは放っておくのだが、同じ眷属の少年ーーーベルのことを思い浮かべると、いてもたってもいられなくなった。
もしこのままベルがいる上層まで登ってしまっては、新米冒険者が次々に虐殺されてしまう。その中に、ベルの姿もあるのかもしれない。冒険者に憧れていた彼だ。恐らく今日も潜っているはず。ならここで仕留めておいて損はない。
いくらべートがベルの事を認めていなくても、Lv.1にLv.2にカテゴリ化されているミノタウロスを戦わせるのはさすがのべートも躊躇する。
そんな事にならないよう、持ち前の俊足で階段を駆け上がろうとした時だった。
「待って!」
後ろから、小鳥のさえずりのような美しい声がベートに向かってかけられた。
あ?と彼が不機嫌そうに振り向くと、霧に紛れているある少女が視界に入る。
長く繊細な金色の髪。上質な軽装の装備。そして輝くは、彼女の手に持っている
ベートは彼女を知っている。いや、このオラリオで彼女を知らない冒険者はいない。
「あの、その、こっちにミノタウロスは来ませんでしたか?」
彼女の名はーーーアイズ・ヴァレンシュタイン。
二つ名は『剣姫』。そしてーーーベートが越えたいと思っている、人物。
アイズはしどろもどろになりながらも、要件を伝える。どうやらあのミノタウロスは彼女が取りこぼしたモンスター……いや、遠征の帰りに『ロキ・ファミリア』が取り逃がしたミノタウロスの一体だそうだ。
はた迷惑な奴らだ、とベートは心の中で悪態をつきながらも答える。
「ミノタウロスの姿は見てねえが、ミノタウロスの音や臭いは上の方でしてる。恐らく、ここから上層に向かったんだろう」
「!……ど、どうしよう……」
わかりやすくアイズが狼狽える。かの剣姫のこんな姿を拝めることが出来たのは正直心地いいが、こちとら団員の命がかかっているのだ。今のベートにとっては、その姿さえも苛立ちに変換されてしまう。
ベートはあからかさまに重く溜息を吐く。
「ミノタウロスをぶっ殺すんだろ?俺ならミノタウロスの場所は探せる。付いてこい」
「!…………あ、ありがとうございます」
アイズが感謝を述べた後、直ぐに走り出した。
だが同じLv.5でも、脚では圧倒的にベートの方が速い。どんどん引き離されていく距離を、アイズは必死に食らいついていく。
途中、向かってくるモンスターを蹴り殺したり斬り殺したりして、彼らは五階層まで駆け上がってきた。まだミノタウロスの臭いは残っており、未だに何処かを動き回っている。
「この階層が強いな……ミノタウロスはまだここにいやがるってわけか」
「ッどこ?」
ベートは臭いと音、アイズは鋭い視覚で探っていく。
静寂が訪れ、モンスターも生まれてこない空間。息を潜め、ミノタウロスの動向を完璧に察知していく。
ーーーーーうわあああああ!!
「!?」
突如、ミノタウロスが大きく動いた途端、冒険者の悲鳴も響いてきた。
まだ少年のように高い声の悲鳴が、この迷宮内で響いている。同時に、モンスターの攻撃も轟音と化してベートの耳に入っていた。
「チィッ!雑魚が見つかったのか!」
「どこっ?どこに……!」
「こっちだ、剣姫!こっちにミノタウロスがいる!」
ミノタウロスの居場所を完全に把握したベートは、アイズの返事も待たずに飛び出した。
ここからそう遠くはない。自分の脚力だったら一瞬で追いつく。ここで、ミノタウロスで、騒ぎを大きくするためにはいかない。
音と臭いが近くなった。同時に、追いかけられている冒険者の匂いも嗅ぎ分ける。
(…………あ?この匂い……ッ!)
その匂いを嗅いだ瞬間、ベートの動きが疎かになった。
いや、そうならざる終えなかった。
この匂いは、つい数日前に覚えた匂い。入団して間もない、あの新米冒険者の匂い。
「あいつ……!」
今、ミノタウロスに追いかけられているのはベルだ。
だが早過ぎる。何故もうこの五階層にいるのだろうか。まだ彼には経験が足りないというのに。
「うわあああああああああああああああああああああああッッ!!」
『ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
「くっそ!!」
疎かになった足を無理矢理動かし、ベートはベルの元へ急いだ。
そして、追いかけた先には、ベルがミノタウロスに追い詰められている場面だった。
「ッ!!」
ベートはすぐ様、ミノタウロスを殺しにかかる。
ーーーだが、それよりも早く金髪の戦士が斬撃を繰り出した。
ブシャリ!とミノタウロスから血潮が噴き出す。壁にも、地面にも、少年にもかかったどす黒い血液を見て、ミノタウロスは確かに狼狽えた。
「ふっ!!」
その隙を逃さず、アイズは見事な剣捌きでミノタウロスを切り刻んだ。
絶叫にも異なる異質な咆哮は、無念にも迷宮内に吸い込まれていく。ゴトリ、と落ちた魔石には目もくれず、アイズは呆然とへたりこんでいる白兎に、手を伸ばした。
「……大丈夫、ですか?」
ーーーここから、
*
「あーあ。ベル君もベート君もダンジョンに行っちゃったし、暇だなぁ」
今日は何も予定がないヘスティアは、一人用のベッドを存分に使っていた。
ここの拠点の備品は、全てベートが買い揃えたものだ。最初の頃の自分は全然稼ぎがなく、懸命に稼いだベートがあれよこれよと色々買い揃えたもの。だが本当に必要なものだけで、他の必要にならないものは一切買っていない。
ヘスティアはその一つのベッドに顔を埋め、ぷくりと顔を膨らまる。もちろん、対象は眷属達だ。
「男の子っていうのは、本当に冒険が好きなんだなー……」
でももうちょっと休んでもいいだろー……、とポカポカとベッドに愚痴を零していると、扉の方からガタリ!という音が聞こえてきた。
ヘスティアがバッと顔を上げると、扉の先からなにやら慌てた音が響いている。
「ーーーおい!兎野郎がこっちに来なかったか!?」
扉を壊す程の勢いで扉を開けたのは、ベートだ。
若干汗を滲ませている彼に余裕が無いように感じる。その琥珀色の眼の焦点が合わないところを見るに、彼に何かあったのかと察することが出来た。
ヘスティアはカチカチと固まりながらも、震えながらも伝える。
「べ、ベル君の事かい……?い、いや……来てない、けど?」
「じゃあギルドか!」
そう聞いたベートは、扉を壊したまま走り去ってしまった。
冷たい風が入る中、ヘスティアは枕を抱いたまま意気消沈するしかなかった。
「…………なん、だったんだ?」
「この兎野郎おおおおおおおおおおおおおお!!」
「ひえっ、ベートしゃあん!?」
ギルドの扉を蹴ってスライディングして入ってきた狼人の青年に、ベルは顔を青くした。
同じく、ベルと話していたエイナも彼の方を凝視して、目をぱちくりとさせている。
事の発端を生み出した狼人……ベートは、船若と言っても過言ではない怒号の表情で、ベルに詰め寄った。
「よォ兎野郎、探したぜェ?テメェがきったねェ牛野郎の血を浴びやがるから、探すのに手間かからせやがって……」
「べ、ベートさん……お、落ち着いて……」
「落ち着いてだァ?おいおい、まだ雑魚の段階だっていうのに五階層へ潜ったのは何処のどいつだ?余裕ぶちかまして意気揚々と潜って死にそうになったのは何処の兎だ?挙げ句の果てには惨めに悲鳴上げながら血だらけで街中駆けたダッセェ臆病な白兎は何処のドイツだ!?あァ!?」
「ご、ごめんなさい!!このとおり!!この通りですううううう!!」
凄みのある剣幕でまくし立てられ、ベルは見事なジャパニーズ土下座を繰り出す他なかった。エイナはエイナでベートの意見に賛同していて助け舟を出してくれそうにない。
今だけ、この場を地獄だと思ったベルは悪くない。
「大体なぁ!テメェは礼を言うことも出来ねえのか腰抜けが!」
グサッ!
「あんな変な奇声上げられたら、同じ団員の俺にまで迷惑が降りかかるだろ!」
グササッ!
「くっせぇミノタウロスの血をばらまきやがって、あの腑抜け共が一体どんな目でテメェを見てやがる!?」
ゴツンッ!
「だからテメェは一生雑魚なんだよ!大口叩くならあんな惨めな姿を晒すな!俺はそういう奴が大っ嫌いだ!」
ゴゴゴツンッ!
「あの、ローガ氏、ベル君、もうノックアウトです」
さすがに見兼ねたエイナが、ベートを宥めた。
ベルはプスプスと音を立ててズゥーン、という効果音がつきそうな程に落ち込んでいる。だがベートは反省する気がないらしく、逆に言い足りないようだ。
「ハッ、自業自得だろ。これで反省しやがれ」
「…………はぃ」
「これに懲りて、もう私のいいつけを破っちゃダメよ。ベル君?」
「承知しました……」
「じゃあ魔石、換金してきてね」
「わかりました……」
フラフラと、魔石の入った袋を換金所へ持っていく。
ギルドの横へ位置づけられている換金所に魔石を置くと、直ぐに二、三枚のヴァリスが出された。
「二〇〇〇ヴァリスくれぇか……ちんけなもんだな」
「うっ……こ、これから稼ぎます……!」
「……ハァ。チッ」
「あ、待ってくださいベートさん!」
早々に出ていってしまったベートを、ベルは追いかける。背後でエイナが引き止める声がするが、ベートは振り返らず、唯一ベルだけが満点の笑みで返した。
「さようならー!また明日ー!」
「…………もうっ」
声では怒りが混じっていようと、表情はとても優しそうである。
ベートとベルがもう完全に見えなくなるまで見送った後、エイナは背伸びをして自分の仕事へ戻るのだった。
(………大丈夫、かな?ベル君……あんなの絶対ベル君が呑まれちゃうよ……)
*
「ハァ……」
「そ、そんなに溜め息を吐かないでください……」
夕方、殆どの冒険者がダンジョンから帰っている時間帯で、ベルとベートは肩を並べて歩いていた。
先程ベートからお叱りを受けたベルだが、今では少しだけ立ち直っている。そもそも自分が悪いので仕方が無いと理由をつけて。
一方、ベートはここまでの疲労が出てきたのか、ことある事に溜め息を吐いていた。溜め息を吐くと幸せが逃げると聞いたことがあるが、全くもってその通りかもしれない。
「べ、ベートさああん……!何か言ってくださああああい……!」
「うるせェ黙れ」
「ごめんなさい……」
ベートが小さく怒鳴るだけで、ベルがしゅんと項垂れる。今のベートに逆らったらダメだと、脳が信号を送ったかのように反射的に謝った。
そんなベルを一瞥して、またベートが「はああ……!」と、溜め息を吐いた。本当の白兎になってしまうのではないのかという少年の頭を、思いっきり叩く。
「イッッッダアアアッッッ!?!?」
Lv.5の半分ほどの力を食らったベルは、その場で蹲った。どうやら相当痛かったらしい。当たり前だ。ベルとベートの間には超えられない壁が存在している。そんな攻撃を地べたで存在するベルがくらったら、堪らない攻撃なのである。
天と地の差がある攻撃をしたベートは、悪びれることなく歩き出した。
「ま、待ってくださああああい!!」
その後ろを、頭を抑えながら涙ぐむベルが、追いかける。
一連の情景が一瞬にして起こったメインストリートは、いつも通り活気に溢れ、彼らの姿を覆い隠す。
誰にも注目されることなく、彼らは主神が待っているであろうボロボロの教会へ、足並みを揃えずに歩き出した。
「おい、知ってるか」
「あ?何がだよ」
ふと、メインストリートを住宅の屋根で防寒していた男神達。その内の一人が、隣にいる男神へ何かを問いかける。
もちろん問いかけられた男神は何が何だかわからず、聞き返す。
男神……わかりやすく言えば、猫目の男神はニヤニヤと悪い笑みを浮かべて話し始めた。
「あの
「ああ、見たがそれがどうかしたのか?」
「あの凶狼が、嫌がらずに、まるで親のようにあのガキを殴ったのをお前は見なかったのか!?」
その
「なん……だと……!?あの凶狼が!?」
「一大事だろ……!?あの凶狼がだぜ!?」
こりゃスクープスクープ!!とはしゃぎ始める男神達の背後で、ヌッと数珠を身につけた男神が現れる。
「おおっと!俺も忘れてもらっちゃ困る!」
「誰だ貴様!?」
「俺達は今重大な話を……!」
「ハッハッハ!極上の
「「くれぇ!!いやください!」」
数珠の男神に、二人の男神はジャンピング土下座をしてさらなる情報を求め始めた。
それに上機嫌になりながら、数珠の男神はニヨニヨと、凶狼が去った道を一瞥する。
「俺は見てしまったのさ……あんなにツンツンしている凶狼が……」
「「凶狼が……!?」」
「ーーー一人の駆け出しの少年を探すために、血相を変えて街中探し回っている姿を!!」
「「ツンデレキタコレええええええええええええええええええ!!」」
数珠の更なる情報に、二人の男神はさらにヒートアップする。
「今まで暴言吐いてた男がぁ!?」
「「男がぁ!?」」
「今まであしらって『雑魚は興味ねェ』って格好つけてた男が!?」
「「男がぁ!?」」
「一人の少年の為にあんなに体をクタクタとさせて探し回った!?」
「それって何処のツンデレええええええええええ!!」
「俺、今日程神でよかったと思ったことないよ……!!」
「ここからあの子のツンデレが発揮するんだね……!長かった……!」
「思えばあの時からだな……!「テメェのことなんて一度も考えたことねぇ!」と、めっちゃ美人の子を罵って去っていき、それをネタにして神会で荒れたあの日を思い出す……!」
「そして次の日、ダンジョンで死にそうになったその美人ちゃんを助けたんだろォ!?」
「しかも「助けたわけじゃねェ。狩りたいから狩った」って決め台詞を吐いたっていう噂だ」
「「ツンデレテンプレキタアアアアアアアアアアアッッッ!!」」
男神達が何で盛り上がっているのかわからない下界の者達は、ただ騒いでいる男神達に冷たい目を送るだけであった。
主な変更点
〇ベル→兎野郎
〇罵倒1文追加
〇エイナさん不安そう
という訳で連続投稿でっす!神様の会話のところは消そうと思ったんですけど、やっぱ神様には平常運転して欲しいなと思って良かれと思って残しておきました!
ソードオラトリア1話観ました。とにかくべートきゅん可愛すぎないか?戦ってる姿カッコイイけど何あれ、枝に乗っかって見下してるべートきゅん可愛くないか!?岡本さん最高やんけ!しかもティオナちゃんとの喧嘩も凄い可愛いしさぁ!あとあと笑い声とかも本当に癖になって思わず「可愛いいいいいい!!」って叫んだジャマイカ!本当彼は罪な狼人……!!
さぁそれでは最後は素敵な言葉で!
べート・ローガぁー!だぁーい好きぃー!