べート・ローガがヘスティアファミリアに入るのは間違っているだろうか【リメイク版】   作:爺さんの心得

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 やだこのべートきゅん、前作より厳しいわ!





冒険者の産声

 

 

 

 

 貧弱そうな見た目だから却下、と入団を拒否られて何回目だろうか。それ位にベルは既存の眷属から突っ張られ、そして大きくショックを受けた。

 意気揚々と冒険者達が行き交うメインストリートを、ベルはトボトボと歩く。これで、殆どのダンジョン系ファミリアには拒否られてしまった。主神に立会もさせてもらえず、ただのその場の偏見で、自分は追い出されてしまった。

 だがそれは仕方の無いことだと、ベルは自身の体を見下ろす。全く鍛えられていない体に、一目見ただけで分かる弱い見た目。これでは、入団させてくれるのは難しい……と、ベルは自身の弱さを呪った。

 だがそれでも、ベルには叶えたい夢と野望がある。それを遂行させるには、必ず何処かのファミリアに入らなければならない。もうこの際、自分を認めてくれるファミリアを、ダンジョン系じゃなくてもいいから、何処か入れてくれるファミリアはーーーと、ベルがヤケになっていると、ふとエイナが渋っていた、あるファミリアのことを思い出した。

 

 

 ベルのアドバイザーとなったエイナに、何処か良いファミリアはないかと聞いた時、エイナは快く色々なファミリアを紹介してくれた。どれもこれも良さそうなファミリアでーーー中には素行が悪そうなファミリアもあったがーーーベルが目を引くには充分なものだった。

 そんな時だ。ある程度紹介してくれたエイナの顔に、少しだけ不安そうな顔が残ったのは。

 

 「どうしたんですか?エイナさん」

 

 ベルが問うと、エイナはフルッと首を振ったが、やがて渋々と言った感じである事を喋った。

 それが、エイナが最後まで渋っていた、あるファミリアの事であった。

 

 「えーと……ちょっとだけ、目立ってるファミリアが一つだけあってね……そこもダンジョン系ファミリアなんだけど……」

 

 「何処ですか!?教えてください!」

 

 「……【ヘスティア・ファミリア】って、聞いたことない?」

 

 ベルは記憶を巡らせたが、そのファミリアには聞き覚えがなかった。

 エイナは、言葉を濁らせながら話す。

 

 「別に神ヘスティアが悪いって訳じゃないの。ただ……その神ヘスティアの、眷属が問題で、ね」

 

 「何かやったんですか?」

 

 「……まぁ、色々とやらかしている人ね……酒が回れば罵倒は勿論、事あるごとに周囲の冒険者に最悪な言葉を浴びせる……そうね、あの人のことを例えるなら、一匹狼かな?」

 

 「こ、怖い人ですね……」

 

 「その人の行きつけの酒場では、その人がいるだけで直ぐに乱闘。器物損壊は勿論、悪気がないのが、他の冒険者の怒りの琴線に触れているのよね。まぁ……あの人が強いのは事実なんだし、言い返せない冒険者が多数かしら」

 

 そんな人がいるなんて、とベルは素直に驚愕する。しかし神ヘスティアが良い神なら……と、ベルはそのファミリアの情報を、頭の隅にポツンと立てた。

 

 「そのせいか、ヘスティア・ファミリアはずっとその人一人だけしか眷属がいなくてね。神ヘスティアも頑張っているのだけれど、皆その人を怖がったり嫌悪したりで、全然増えないって専ら噂になってるわ」

 

 「噂になる程にですか……」

 

 「その噂を作った人は殆どが神々なんだけど……まぁ、どうしようもなくなった時にでも、このファミリアの事を思い出して。神ヘスティア自体は良い神だから、きっとベル君を入団させてくれるはずだよ」

 

 そう笑顔で送り出してくれたエイナに、ベルは元気よく返事を返した。

 

 

 

 

 

 今、そのどうしようもなくなった時だ。

 場所は事前に聞いているため、ベルは早足にヘスティア・ファミリアのホームへ行く。このダンジョン系ファミリアが、唯一の救いなのである。

 ボロけた石畳の道を歩いた先には、古びた教会があった。手入れもされていない半壊の女神像にベルはペコリとお辞儀した後、その女神像の下ーーー地下へ、下りる。

 少しだけ腐っている木の階段を降りた先に、光が漏れている部屋の扉があった。恐らく、そこがヘスティア・ファミリアのホームなのだろう。そして今、誰かいるのは確実だ。

 すぅっ、と息を吸って、吐く。少しだけ緊張が解れ、ベルはドアノブに手をかけた。

 

 

 そして、意を決して、その扉を控えめに開けた。

 

 

 

 絶対に入団するという、強い意志を持って。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 そんなベルの決意は、今粉々に砕け散りそうであった。

 目の前で仁王立ちしている狼人。左頬に青い刺青を入れ、その屈強な体で、こじんまりとしたベルを見下ろしているーーー否、正確には睨みつけているのだ。

 

 (こ、この人が噂の……)

 

 ベルはエイナの言葉を思い出し、密かに確信する。この人が、例の噂の中心なのだと。

 確かに怖い。そして確かに何かやらかしそう。それを目の前の青年に言ってしまえば拳骨は愚か、飛び蹴りでは済まされないであろう。

 

 「……あ、あの……?」

 

 「入団したい」という事を言ったら突然起き上がってきたこの狼人に、一先ず声をかけてみた。しかし帰ってきたのは狼人の人を殺しそうな目で、ベルの意識は直ぐに遠のいていく。

 これは、この空気は良く知っている。この人も、自分を貧弱で使えなさそうな男として見ているのだ。

 なら、ここも駄目なのか、とベルが消沈しようとした時。

 

 「ちょ、ちょっと待ってくれ少年!き、君はボクのファミリアに入団したいと!そう言ったんだよね!?」

 

 このファミリアの主神ーーーヘスティアが、慌ててベルに声をかけてきた。

 ヘスティアの焦り声で、我に返る。そうだ、今回は神様も立ち会っているのだし、この人の独断では判断出来ない。エイナ自身も「神ヘスティア()良い神」と言っていたし、もしかしたら入団させてくれるかもしれない。

 ベルは勢いよく首を縦に振った。

 

 「そ、そうです!ボク、ヘスティアファミリアに入りたいんです!よ、よよよろしければーーーー!!」

 

 「神の慈悲で入団するたァ、いいご身分だな、お前」

 

 だが、そのベルの希望を早々に打ち砕く者がいた。それは言わずもがな、あの噂の狼人であった。

 狼人の言葉に、ベルの言葉が詰まる。

 

 「大方、俺が認めてなくても神が入団さえ認めてくれれば何でもでいい……とでも思ってんだろ?ハッ、さすが、雑魚の考えることは違うぜ」

 

 確かに、彼の言う通りだ。

 ベル自身、入団さえ出来れば何処でも良かった。英雄になる為にはダンジョンへ趣き、そして恩恵というものが必要となる。言ってしまえば、ファミリアとはその踏み台と言ってもおかしくなかった。

 ベルは歯噛みする。この狼人が言っていることが殆ど間違いでないことに、悔しがる。

 

 「知ってるかァ餓鬼。テメェみてえな考えを持った奴の末路をーーーー一つは眷属に怯え逃げる。一つはファミリアの空気に耐えられなくて逃げる。一つは精神的に、肉体的に追い詰められ、孤独となって孤立する。一つはパーティの囮となって使われる。まだまだあるぜェ?禄にファミリアの事も調べず、ただ裕福そうだから入団して後悔するっていう雑魚も、表面上だけ見て判断するダセェ奴らもーーーー大方、テメェも殆どのファミリアに入団拒否されて、最後の希望でここに来たんだろ」

 

 「ッッ!?」

 

 べートの指摘は完璧だった。殆どのことに的を射ている。

 確かに、ベルは強いファミリアに入ろうとした。エイナに情報を貰って、片っ端からファミリアの入団を試みた。

 しかしーーー全員が、ベルの表面上だけで判断し、突き放していった。

 もし、ここで自分も、「ファミリアに入れれば何でもいい」と思ってしまったのならーーーそれは、自分を突き放したあの人等と、同格になるのではないか?

 表面上だけを見て、内側を知ろうともしないーーー愚か者に。

 

 「……俺はそんな雑魚を迎え入れるわけにはいかねェんだよ」

 

 狼人はそうベルに言って、ヘスティアの方を一瞥する。ヘスティアはグッと口を噤んだままで、何も言葉を発しようともしない。

 そしてべートは、その真意と熱意を、一言に詰め込む。

 

 「このファミリアに、そんな軟弱者はいらねェーーーーそんな奴を迎え入れちまったら、このファミリアは……強くなれねェんだ」

 

 覚悟を持たない冒険者はこのファミリアには要らない。

 自分の足でまといになるのなら、このファミリアには入るな。

 このファミリアを没落させたいのなら、そんな奴は要らない。自分一人で十分だ。

 "お前はいらない"。

 その全てを一喝されたようで、ベルはギュッと握り拳を作る。

 

 「……………………確かに、そういう考えを持っているのなら、ボクも入団させるか判断しかねる。自分の意思で、このファミリアに入団したいという強い想いがあるのなら別だけど……」

 

 今まで口を開かなかったヘスティアが、ベルの瞳を覗き込む。そして不安に瞳を揺らせ、そして失望を混じり入れた声色で、ベルの確信をつく。

 

 「君、彼がーーーべート君が、怖いのだろう?」

 

 「……ぁッ」

 

 「……ボクも数々の冒険者を勧誘したけど、皆彼を怖がっているんだ。勿論、入団しようとした子もいたよ。だけどねーーーー嫌々で無理矢理入団させるのは、さすがのボクも堪えてしまったよ」

 

 悲しそうに目を伏せるヘスティアの声色は、ここまでの苦労を全て吐き出すような、ストレスにも似たものを感じた。

 ベルは先程の言葉ーーーこれまでの言葉を、思い出す。

 

 『どうしようとなくなった時にでも、このファミリアのことを思い出して』

 

 なんだこの発言は。こんな余り物を渋々受け取るような言葉は。そして何故、自分はこの言葉に肯定してしまったのか。

 絶対に入団するという強い意志を持って?違う。ヘスティアが言っている強い意志とは、自分が抱いている強い意志とは全くの別物だ。

 彼らはーーー本気で「強く」なろうとしている眷属を、探しているのだ。

 ヘスティアは、狼人ーーーべートと共に強くなろうとしている眷属を。

 べートは、このファミリアが強くなる為に、足でまといにならない「強者」としての眷属を。

 叶わない、とベルはカチカチと震え出す。

 その震えを見たヘスティアは、残念そうに息を吐いた。

 

 「……怯えさせて済まないね。でもね、そうなったらこのファミリアはいつか崩壊する恐れが出てくるんだ。だからね、べート君の事を認めてくれる眷属が、一番好ましいのだよ。……悪いけど、君の入団を認めることは、できなーーーー」

 

 「…………凄い、です」

 

 「…………え?」

 

 ヘスティアがベルの入団を拒否しようとした時、ベルの言葉から予想外の言葉が漏れた。ヘスティアは勿論、べートもその言葉に目を見開き、視線がベルに集中する。

 相変わらず、ベルの体は震えているーーーしかし、それは"怯え"からではなかった。

 

 「このファミリアは、本当に凄いです……!僕、感激しました!」

 

 「え?え?」

 

 「ヘスティア様も、この人も、ファミリアの為に体を張っていることが凄く伝わって……!僕、益々ここに入りたいと思いました!」

 

 「ちょ、ちょっと待て!?待ってくれ!君の決意が何か変わっているのは気の所為かい!?」

 

 「気の所為ではありません!最初は確かに、この人やヘスティア様が言った通り、何件も拒否されて自暴自棄になっていた僕は、もうファミリアに入ればそれでいいと思いました。……でも二人は、そんな僕を叱り、そして改めさせてくれたんです!そんな二人がいるこのファミリアなら……!」

 

 興奮気味で捲し立てたベルは、バッ!と顔をあげる。その喜々とした表情と輝く瞳にヘスティアが呆然とすると、ベルは思い切り言った。

 

 「ーーーー英雄に、なれる!僕が望む、英雄に!!」

 

 ベルの決意が、ヘスティアファミリアのホームに響き渡った。

 「英雄になれる」。その言葉が木霊して、べートにも、ヘスティアにも、全て響き渡る。

 彼の、ベルの表情は、もうべートが嫌う表情でも、ヘスティアが渋る表情でもない。

 彼はーーー「冒険者」の表情をしていた。

 もう、あんなくだらない迷いはない。誰もが認める冒険者の目に、ヘスティアも穏やかになっていった。

 

 「……英雄、か。いい夢じゃないか!」

 

 「……ふぇ!?あ、え、と……は、恥ずかしいです……!」

 

 「何を恥ずかしがる!子供達はそのような夢を持った方が可愛げがあるぞ!ーーーさてベル君。先程の言葉、訂正しよう」

 

 「え?」

 

 ヘスティアは腰を手を当て、ベルの視線と交差させた。

 

 「ボクは君を見誤っていた。今の君なら、べート君と一緒に強くなり、そしてこのファミリアの素晴らしい冒険者になる。ベル君ーーー今度は、ボクから言わせてくれ」

 

 『ヘスティアファミリアに、入団するつもりは、ないかい?』

 願ってもない、逆勧誘が成立した。

 ヘスティアの言葉にベルの頭が真っ白になり、ふとべートの方を振り返る。

 べートの表情は依然変わらず、ベルを睨みつけたままだった。

 しかしーーーその瞳が少しだけ和らいでいることに、ベルは気づく。

 つまり、少なからず彼も、ベルを少しだけ認めている、と捉えてもいいのだろうか。

 ベルはべートとヘスティアを行き来し、そして緊張した趣で、そして嬉しそうに、こう言った。

 

 「ーーーはい!このファミリアに、ヘスティアファミリアに入団させてください、神様!」

 

 ここに、一人の冒険者の卵が、産み出された。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 古びた教会に設置されている参列席。その一つに腰を掛け、ボロボロになっている女神像を見つめる狼人ーーーべートがいた。

 べートの瞳には女神像しか映っておらず、他の感情が見え隠れしない。

 今頃、先程入団が決まった少年は、ギルドに行って冒険者登録でもしている所であろう。

 

 「…………チッ」

 

 べートは舌打ちを零す。それは誰に対してもない、無意味な舌打ち。

 灰毛の耳がピクピクと揺れる。下から誰かがやって来るのは、それだけで分かった。

 

 「……べート君」

 

 やって来たのはヘスティアだった。先程はベルの入団に大層喜んでいたというのに、今では少しだけ申し訳なさそうに顔を伏せている。

 

 「すまないね。ボクの判断で、ベル君の入団を決めてしまって」

 

 「……別に。あの餓鬼は他の雑魚共よりマシだ」

 

 「……聞いてもいいかい?」

 

 ヘスティアはべートの横に移動し、彼に問いた。

 

 

 「彼ーーーベル君の事は、認めているのかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 「……まだ、認めるわけには、いかねェだろうが」

 

 

 

 その応えは、虚しく教会に響き渡った。

 

 

 

 







 主な変更点→べートきゅんちょろくない。
 リメイク後はこれで。誰でも仕方ねえな入ってやるよ気分で入られたら嫌だなぁという気持ちで。ベルきゅんはそういうのは抱いてないと思うけど、敢えてこういう風にしました!あとべートきゅんなんかクールになってる!ツンしかないよ!
 この後の話は少しだけ変更して、後は前作とは変わりないと思います。ので、早く投稿出来ると思います。手早く1章を投稿して2章いっくぞー!

 では最後はこの言葉で。

 べート・ローガぁー!だぁーい好きぃー!!


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