べート・ローガがヘスティアファミリアに入るのは間違っているだろうか【リメイク版】   作:爺さんの心得

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 リメイク1話目……こんなにも変更するとは、思わなかった……。





白兎は弱者であり、凶狼は強者である
竈の女神と凶狼の邂逅。そして強き瞳を持つ白兎


 

 

 

 

 魂が抜けた抜け殻のようだ、と誰かが言ったような気がする。

 この冷めていく魂を燃やす炎など、今の彼には存在していなかった。

 ヤケクソの酒盛り。ヤケクソの罵倒。舌が饒舌になっていく内に、周りの人間は彼を陰で罵り、そして自分を悲観の被害者として被る。

 彼はそれを冷ややかな目で見ていた。そして気分が良くなったら、直ぐ様その冒険者を罵倒する。

 そして血が昇った冒険者を完膚無きまでに倒れ伏せさせるのが、彼の日常と化していた。

 

 

 君は、魂が抜けた人間のようだ。

 

 

 

 誰かがそう、彼に言ったーーー。

 

 

 

 

 

 今の彼には、ヤケクソの酒と惨めな自分、そして強者だと思い上がった自分への侮辱しか残っていなかった。

 かつての仲間と馬鹿騒ぎして、喧嘩して、笑いあった酒場で、自分は自分を嘲笑し、そして自分を傷つける。

 まるで操り人形のように黙々とソロで潜り、どこかへ改宗(コンバージョン)することも無く、ただ彼は、飢えた狼はモンスターを狩り続けた。

 いつからだろうか、彼の運命が簡単に覆ったのは。

 ああ、自分が「強者」だと思っていた奴が出現してからだ。彼の人生が変わったのは。

 その琥珀の双眼には何も映らず、ただ深淵の闇が広がるだけ。

 侵食する。彼の心が。

 侵食する。彼の言葉が。

 思い描いた未来が塗りつぶされ、新たなる未来が疎かに描き始められた時だった。

 

 

 「荒れてるなぁ青年!あまり荒れすぎると帰ってこれなくなるぞ?」

 

 

 皆から邪険にされ、嫌悪され、憎悪を向かれる彼に、声をかける女神がいた。

 その女神は慈悲の目を彼に向け、寛大な心を彼に向けていた。

 そしてその慈悲の目にはーーー懐かしい、母の目に似たようなものを感じた。

 だから彼は、その目を向けてくる女神に吠えた。

 

 「関係ねぇだろ。失せろ」

 

 「いや、関係あるね。今そうなった」

 

 しかし彼女はその吠えを切り捨てた。

 この言葉を吐けば、大体の奴らが苦し紛れに離れていくというのに、彼女はそれすらも受け止めて、いや追い払って、彼に声をかけた。

 

 「君のことはいつも見てたよ」

 

 「……勧誘にでも来たのかァ?テメェみてぇな女神なんて、記憶にないがな」

 

 「そりゃそうさ。ボクはまだファミリアすら作ってないんだからね」

 

 ファミリアすら存在しない女神。

 つまりーーー今ここで彼が入れば、弱小ファミリアの仲間入りだ。

 直ぐ様彼の瞳が、弱者を蔑む瞳へと変貌する。

 しかし女神はその瞳を真正面から受け止め、さらには言葉を重ねた。

 

 「うん、君がそんな目になるのは当たり前だな。まぁ、何故今頃になって君の前に姿を現したのかと言うと、君の言う通りーーーボクは君を勧誘しに来た」

 

 「ハッ!誰がまだファミリアすら作ってねェ神のところなんざ行くかよ!こっちから願い下げだ」

 

 「君の言い分はご尤もだ。そのような台詞を何回も言われたよ。今まではその言葉で惨めに帰るボクだったけど、今回のボクはひと味違う」

 

 そう胸を張る女神に、彼はげんなりとした。

 厄介な類に捕まった。こういう神は何回でも執念に勧誘し続ける。彼が一番避けたい神の類であった。

 ここは一旦逃げた方がいいであろう。自分の足なら、例え神だとしても追いつけるはずがない。

 このまま逃げれば、またあの空っぽな日常へ戻るのだ。

 今の自分には、その方が幾分か心地がいい。

 

 

 「君は今、改宗出来る状態だろう?」

 

 そんな彼の気持ちも知らないのか、目の前にいる女神は呆気なく聞いてきた。

 彼は嗤いなから答える。

 

 「だったらどうした。諦めもせずに、テメェのファミリアにでも入れって言うか?さっきも言ったが、俺は弱いヤツのところにはーーー」

 

 「そうだよ。ボクのファミリアに入ってくれないか?いやはや、ボク一人で生活をやりくりするのはちょっと苦痛でね……そろそろファミリアを作らないとボクが飢え死になってしまうかもしれないんだ」

 

 「おい人の話聞けよ」

 

 彼がきっぱり断ろうとすると、女神はそれを遮って、いらない情報まで提示してきた。

 彼はさらにその顔を歪ませ、面倒臭そうに舌打ちする。

 

 「いやいや。こんな神様を救うという聖人の心が君にもあるだろう?そうだろう?ん?ん?」

 

 「いや逆だろ」

 

 「毎日金欠のボクには君の方が神様に見えるよ!」

 

 「堂々と胸張って言えることじゃねぇだろ」

 

 「兎に角ボクを養ってください!というか本当にファミリア作らないとマジでボク飢え死になってしまう!ヘファイストスの仕送りもなくなってしまうんだ!頼むこの通り!」

 

 (こいつプライド捨てやがった……)

 

 散々上から目線から勧誘してきたというのに、女神はその神というプライドすら捨てて土下座をかましてきた。もはや滑稽にしか見えない。

 彼はその女神の頭を見下しながら、少しだけ考えた。

 ハッキリ言って、作られてもいないファミリアに入るのは嫌だ。自分が追いかける眷属も、自分を追いかけてくる眷属もいないファミリアに入るなど、誰が得するのか。正直、このファミリアに入るメリットが見つからなかった。

 この女神がとても良い女神で駄神だというのは直感的に分かるし、こいつのファミリアに入って何を得るのか見いだせない。

 よって、彼がここに入る明確な理由は確実にない。

 

 「……ハァ。そもそも、何で俺なんだよ。他に誰かいんだろ」

 

 そもそも何故自分を勧誘しに来たのか。もっと勧誘しやすい奴などごまんといるはずなのに、態々自分の所に来るのがわからないのだ。

 そう呆れ混じりに吐き捨てれば、女神はパッと顔を上げて、キョトンと答えた。

 

 「勧誘に何でとかあるのかい?」

 

 「……いや、そういう問題じゃ」

 

 「そうだなぁ。理由をあげるとするならば……」

 

 (こいつ尽く言葉を遮りやがる)

 

 彼が女神に苛立ちを感じていると、女神はそれすらも跳ね除けそうな満面の笑みで答えた。

 

 「君が気になったから、かな」

 

 「……しょうもねぇ理由」

 

 彼が溜め息混じりに貶すと、「しょうもないとはなんだ!」と女神は怒号した。しかし次には、また慈悲の女神として彼を見つめていた。

 

 「言っとくけど、ボクは大真面目だよ。君をボクのファミリアに迎え入れたい。そして、君と一緒にファミリアを築き上げたい」

 

 「……勝手にしとけよ。俺は底辺の弱小ファミリアには興味ねぇ」

 

 そう吐き捨て、彼は彼女に背を向ける。こんな事を言えば、いくら彼女がいい神だからと言っても自分を見限ってくれるであろう。そして自分に失望して、勧誘しなくなるであろう。

 

 この時ばかりは、そう思っていた。

 

 

 

 

 「じゃあ勝手にさせてもらうよ。これからは何回でも、君を勧誘しに行くからね!」

 

 

 

 「……は?」

 

 

 女神は指を鳴らして、ドヤ顔した。この自信満々に言った言葉に、彼は直ぐ様軽口を返すことすら叶わなかった。

 

 「どんなに断られても、どんなに突っ張られても、ボクは君を勧誘し続けるとここに誓う!」

 

 「…………いやいやいやいやちょっと待て」

 

 「誰が待つもんか!こんな一世一元の大チャンス、逃すわけにはいかないんだよ!」

 

 「人の話聞けオラ」

 

 「兎に角今回のボクは本気だぞ!というわけで、覚悟しときたまえ!必ず君をボクの眷属にする!」

 

 「フザケンナああああああああああああああああッッ!?」

 

 

 これからの事が安易に予想され、怒号を轟かせた彼。そんな彼を真剣な笑みで受け止め、女神は背を向ける。

 取り敢えず、今日の所は帰るらしい。しかし先程の彼女の言葉が本当であるとするならばーーー彼女はまた、自分を勧誘しに来るのだ。

 

 「それじゃあーーーべート君、また明日!」

 

 

 

 本当に、厄介な神に捕まった。

 

 

 

 

 

 これが彼、べート・ローガと、慈悲の竈の女神、ヘスティアの、最高で最悪の邂逅であった。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーそして、時は数年。

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ブシュッ、と鮮血が飛沫をあげ、視界を一瞬だけ真っ赤に染め上げる。手から伝わる肉を切る感触は、今の彼にとっては伝わらないと言っても過言であった。

 小さくくの字に曲がる双剣を持つ手を下ろし、息を吐く。さすがに下層からここまで駆け登るのは、いくら彼でも疲労なしでは行けなかった。

 じわりとベタつく額の汗を拭い、彼は辺りを見渡す。白い霧に包まれたダンジョン10階層には、自分の他には誰もいない。

 

 「……ハァ」

 

 溜め息を吐いた彼は、モンスターを剥いで魔石を抜き取る。それをバックパックに乱雑に入れ、回復薬(ポーション)をグイッと呷った。

 たちまち彼の体や疲労は癒される。体が軽くなったことを確認すると、彼はザッと背を向けて走り出した。

 

 ーーー常人とは思えない、スピードを繰り出して。

 

 そこからどんどん上へと登っていく。途中で襲ってくるモンスターを、ついでと言わんばかりに殺しながら。

 やがてーーー摩天楼施設(バベル)を抜け、ダンジョンの外へと繰り出す。彼は軽く欠伸をして、体を解した。

 

 「ッ〜〜……久々ッだなおい」

 

 彼は暫くダンジョンに篭りきりだった為、こうして外の空気や陽の光を浴びるのは久々であった。暖かな日光が彼を心地よさへと誘い、また『戻ってこれた』と実感する。

 

 「さてと……」

 

 一頻り日向を堪能した彼は、背負っているバックパックを一瞥して、こう吐き捨てる。

 

 「あの駄神に納品してくるか……」

 

 

 

 

 彼の名は、べート・ローガ。

 

 

 

 

 未だに都市に轟いていない弱小ファミリア【ヘスティア・ファミリア】の唯一の眷属であり、オラリオ屈指のーーーーLv.5である。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 元【ヴィーザル・ファミリア】団長べート・ローガを欲しがる神は少なからずいた。しかし、べートの悪評は瞬く間に都市に広がり、さすがの神たちも、べートよりも今のファミリアを優先したのだ。

 ゆっくり、じっくり勧誘していけばいい。何故なら彼は強さにしか拘らないから。

 そう確信めいたことを呟いたのは誰だったのか。そして、誰もそれを信じて疑わなかったのは何故なのだろうか。

 だから彼らは、べート・ローガが何処の馬の骨かも知らない無名のファミリアに入った事に、酷く驚愕してショックを受けた。

 そんな神々に向けてヘスティアが言った言葉は、まだ傷が癒えない彼らにとってはまだ新しい傷である。

 

 

 そんな彼らの嘆きすら耳に入っていないべートは、換金したヴァリスが入ったバックパックを背負ってホームへと帰っていた。

 都市から離れた石畳の道を歩き、立ち止まる。

 立ち止まった先には、半壊している教会があった。女神像の顔や腕が崩れているところを見れば、この教会は長い間手入れされていないことを悟らせる。

 べートはその女神像を横目で流しながら、その地下ーーー『自身のホーム』へと、降りた。

 ギシギシと劣化している木の階段を降りれば、少しだけ光が漏れている部屋の扉がある。

 べートはそれを、少しだけ勢いを付けた蹴りで、豪快に開けた。

 

 「今帰っーーーーー」

 

 「べート君お帰りいいいいいいーーーーーーーーー………グハァッ!?」

 

 その流れで、幼い容姿のロリ巨乳の女神に回し蹴りしながら。

 回し蹴りが直撃したロリ巨乳女神ーーーヘスティアはその場で蹲り、べートはズカズカと入ってゴロリとベッドに寝そべった。

 

 「ふ、ふふ……いきなり手荒いただいまだな……べート君……」

 

 「そのまま寝てればよかったのに」

 

 「最近のべート君冷たい辛い」

 

 「だったら毎回抱擁してくんのやめろ」

 

 「えー……」

 

 「うぜぇ」

 

 べートに蹴られた腹を擦りながら、ヘスティアはべートの端へ腰を下ろす。ギシリ、と二人分の負荷がかかり、その体の部位をシーツへ染み込ませていく。

 

 「ステイタス更新はいいのかい?」

 

 「後でいい」

 

 「今日はどうだった?」

 

 「……いつも通りだ」

 

 「……そう」

 

 "いつも通り"。

 この言葉を意味するは、"今日も調子が悪かった"。

 ヘスティア・ファミリアには、未だに眷属はべートしかいない。べートがいるからこそ、このファミリアは保っているも同然なのだ。

 だからヘスティアもーーーそして、べートも責任を感じた。

 

 「ごめんよぉ。今日も勧誘を頑張ったんだけどーーーー皆、君に怯えているみたいなんだ」

 

 「…………」

 

 「不甲斐ない神ですまない。……やっと、君とファミリア(家族)になれたというのに」

 

 「……別にぃ?入りたくなきゃそれでいいだろ。富と名声が欲しいダセェ奴らなんて来たらこっちから願い下げだ」

 

 「……ッ……いや、そうだな!ボクのファミリアに入るのは、強さを求め、そして己の信念を貫く者のみ!ハッハッハー!……ハァ……」

 

 不安を打ち消すために笑ったものの、帰って虚しくなった。また座り直したヘスティアは、プラプラと足をばたつかせる。

 ヘスティアの勧誘が尽く失敗するのは、少なからずべートのせいでもあった。

 べートの悪評は健在である。彼の罵倒のせいで惨めになった冒険者も少なくない。よって、彼のいるファミリアなど絶対に入りたくないという決意が、数々の冒険者に実っているのだ。当然、それはヘスティアとべートもわかっている。

 でも、だからこそ、入ってもらいたい、とヘスティアは焦燥した。

 このままでは、彼は前に進めない。

 こんな素敵な彼を、ここで留めさせるわけには行かないのに。

 べートの安らかな寝息が密かに聞こえてくる中、ヘスティアはもう一度頭を抱えてーーーー。

 

 

 

 そして、キィ、という控えめな音に、バッと顔を上げた。

 

 

 

 

 「……あ、の……」

 

 扉の間から覗かせるのは、とても綺麗なルビーの瞳を持つ、兎のような白い髪の少年だった。

 少年は控えめに、申し訳なさそうに、ヘスティアに向けて目を座らせる。

 

 「あ、あの……の、ノックしても、返事がなかった、ので……す、すみません……ッ!か、かかか勝手に開けてしまって!」

 

 「……いやいやいやいや!べ、別にいいよ!?と、ところで少年は何の用だい!?こんな何も無いところに来て!」

 

 扉を閉めようとする少年を必死に止めて、一番疑問に思っていることを問う。

 少年は少しだけ迷ったあと、体を滑り込ませて、そしてまた申し訳なさそうに俯く。

 やがて意を決したかのように、そのルビーの瞳を強く輝かせ、ヘスティア達にこう言った。

 

 

 「ぼ、僕をーーーーヘスティア・ファミリアに入れてくださああああい!?」

 

 

 

 「「………………は?」」

 

 

 

 ヘスティアと、いつの間にか起きていたべートは、揃ってそう零すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 これは、強さに飢えた凶狼と、慈悲で心優しいロリ巨乳女神、そして純粋鈍感白兎が送る、眷属の物語(ファミリア・ミィス)である。

 

 





 皆さん外伝8巻は何回読みましたか?え?私?七回目突入します!!暇ある時にはずっと8巻読んでます!!
 というわけでリメイク版です!前作感想ありがとうございます!皆さん優しすぎて私心が痛い!
 さて本日の変更点……というか、ほぼ変更しました。
 まずベルきゅんですが、ヘスティアが勧誘する訳でもなく真逆の自分から行くという。たぶんエイナちゃんに不安そうにヘスティアファミリアを紹介されたと思うんですが、殆どのファミリアの入団を拒否られた彼なら来ると思うんです!というわけでこんな感じ。
 出会いは完全に作り直しました。何回か考えたんですけど、やっぱりべートきゅんは一発で落ちるヤツじゃないだろうと判断し、こうなったらいっぱいアタックすればええやん!という結論に。え?その話?まだ明かしませんよ(黒笑)
 さて……真面目な話は終えて……。


 ーーーツンデレべートきゅんうまあああああ!赤面するべートきゅん可愛いいいいいいいい!!Twitterで皆から「ツンデレ(笑)」されてニヤけるやばい誰か俺を殴れ!
 何度読んでもあのシーンは口角が上がってしまう……本当赤面べートきゅん美味しい……だからもうこれだからツンデレは美味い!

 リーネちゃんは聖人。これからはリーネ様と呼びましょう()

 さて……リメイク版も閲覧して下さりありがとうございます!では最後はあの台詞で!せーのっ!


 べート・ローガぁー!だぁーい好きぃーー!!!



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