GGOのガンスミスがあまりにも不遇な件について   作:ひなあられ

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戦争前夜

 

 

「……レベルを上げる方法??」

「うむ、少し…いや、かなり困ったことになってな…」

 

 

 この前会ったドラグノフの少女が、リピーターとしてまた来てくれた。特殊弾数個のお買い上げとクリーニングの依頼だ。

 

 そこそこ時間のかかる銃の手入れ中、ふとそんな話題になったのだ。レベル上げ…。他のプレイヤーにとっては何でも無いような事だが、俺にとっては致命的な問題だった。

 

 

「普通にフィールドでエネミーでも狩れば良いでしょ」

「…俺のステータスは知力と技量に極振りだ。リボルバー以上の銃は握れん」

「……光学銃ならリボルバーでもそこそこ火力が出ると思うんだけど…」

「狩場で待ち構えているのはエネミーだけじゃ無いぞ。もう既に5回はそれで死んでる。…まぁ、失う物すら無かったんだがな」

「……………生産系のスキルでレベルを上げる方法とかは?」

「無いぞ。上がるのは熟練度だけだ」

 

 

 閉口する少女を見て、まぁそうだろうなと納得する。どう考えても詰んでいるのだから。

 

 FPSやってるのにマトモな銃を使えないとか、酷い縛りプレイだ。しかもレベル制のせいでその格差が更に広がっていると来たもんだ。まずはどう戦えと? という話である。

 

 旧式銃とツルハシで戦うにしても、あれは致命的な欠点を抱えている。初見ならともかく、そう何度も使える戦法じゃない。そもそも安定性に欠けるし、耐久の高いエネミー相手にはどうにもならないからな。

 

 

「…じゃあ、領土戦は?」

「……………聞いた事が無いな。その、領土戦とやらは何だ?」

「んー、何て言ったら良いのかしら? 正式名称は次元戦争(Dimension war)って言うんだけど、他のクエストとかの名称と被っちゃって差別し難いから領土戦って呼ばれてるの」

「あぁ、それなら知っている。確かサーバー間同士での大規模戦闘だったか?」

「それで間違いないわね」

 

 

 聞いた事はあるし、運営からも情報は出ていた。…まぁ、見るからにPvPに焦点を当てたルールだったので、さして調べても無かったのだが。

 

 設定としては次元の違うパラレルワールドからの侵攻を食い止めろという物で、次元と言いつつ他のサーバーに所属しているプレイヤーを相手に、大規模な陣地取り合戦をする。

 

 詳しいルールまでは知らないが、大体は合っていると思う。

 

 

「領土戦って結構特殊なルールになってて、デスペナが発生しない上に、敵を倒した経験値や熟練度はそのまま取得できるの。だから低いレベルの人でも、比較的簡単にレベルが上がるようになってるんだけど…」

「ほう。つまり初心者救済の為の常設イベントのようなものか。それは良い事を聞いた」

「……でも、私的にはあんまりオススメしないわよ」

「何故だ? 聞く限りレベル上げには最適だと思うが…」

「実際に経験した方が早いと思うわよ。…この後暇なら案内してあげても良いけど」

「…すまない、頼めるだろうか」

「良いわよ別に。私も聞きたい事があったし」

 

 

 という訳でグロッケン本部。ここからワープゲートで会場に飛ばされるとの事。

 

 イベント参加にあたっての注意事項などを読み、最後の同意書にサインを入れて領土戦の会場へと飛んだ。

 

 暫くワープ特有の集中線映像の後、プロローグPVが再生されて視界が真っ白に。内容は告知にあったPVとほぼ同じ内容だった。

 

 視界が真っ白に塗りつぶされ、ゆっくりと色がつき始める。まとわりつくような熱気、咽せ返る緑の匂い、絶え間ない動物と昆虫の声…密林かジャングルか、どちらにせよ面倒な土地に飛ばされたのが分かる。

 

 

「…ついて無いわね…。よりによって孤島なんて…」

「ふむ。南国島と言ったところか。…ところでルール説明のNPCはどこだ?」

「無いわよ」

「……うん? …まぁ、そういう事もあるか。では味方のプレイヤーはどこだ? 領土戦と言うからには他のプレイヤーも居るのだろう?」

「居ないわよ」

「………………あぁ、なるほど、チームではなく個人戦だったのか。来月辺りにやるBoBの予行のような扱いなのだな?」

「チーム戦よ。しかも50対50の大規模な戦闘ね」

「…すまん、疑って悪いが、お前は騙してここに連れてきた訳じゃ無いんだな?」

「デスペナが無いのに騙すもクソも無いでしょ。…そうね、フレンド交換でもしておきましょうか。これから先、何か連絡するかもしれないし」

 

 

 フレンド申請を貰った。内容は簡素な物で、性別と名前くらいしか無い。shinon…シノン、か? この手のゲームには珍しいくらい安直だな。俺も人の事は言えないが…。

 

 

「cypress? ふーん。変わった名前ね」

「本名の英語読みだぞ。そっちとさして変わらん」

「あらそうなの? 変な勘繰りしちゃったわ…。ま、それは良いとして、この状況の説明だったわね」

 

 

 そうして語られたこの状況は、予想以上に酷い物だった。

 

 領土戦とは陣地取り合戦である。各フィールドにある拠点を確保し、ポイントを一定数稼ぐとその拠点が自軍の物になり、防衛設備などが開放される。

 

 そうして拠点を取り合い、防衛力を高めて次の拠点を奪取する。まさに陣地取り合戦だ。

 

 ポイントは拠点にいる人数が敵よりも多いとカウントが開始され、人数が多いほど時間辺りのポイント上昇量が多くなる。ただし、敵の数との差引になる為、3対4も19対20もほぼ同じくらいしか上昇しない。

 

 また、奪取した拠点は後日に引き継がれ続ける。フィールドは変わっても、A拠点からG拠点の防衛力は変わらず引き継がれる。

 

 拠点の防衛はポイントを消費する事でより強固にする事が可能であり、これは確保した拠点数、倒した敵の数、本拠地への攻撃により加算される。特に確保した拠点からのポイントは、その仕様から確保している限り永続的に供給される為、拠点の防衛は特に重要事項となる。

 

 また各地の拠点の他に本拠地と呼ばれるものがあり、各拠点が確保されていない、又は敵に確保されているとここからのスタートになる。別に拠点を確保出来ている状況でも本拠地からリスポンは可能だが、あまり意味は無いらしい。

 

 そして本拠地も他拠点と同じように防衛力を高める事ができる。

 

 それと言うのも、本拠地への攻撃は高いポイントが割り振られており、本拠地の状態によっては敵にポイントが入り続ける状況になるからだ。

 

 損耗率0%の時は特にボーナスは無いが、それが50%を超えた辺りから全滅判定となり相手にポイントが入り始め、100%ともなると何もしなくてもポイントが供給されるボーナス状態になる。

 

 ……さて、以上の事を踏まえてこの状況を振り返るとどうなるか。

 

 

「……つまり、なんだ。本拠地は相手により壊滅状態、拠点は全て取られた上でポイントは一方的に吸われ続け、相手の防衛力は試合をする度に跳ね上がり続けると?」

「その通りよ。付け加えると使用する火器も本拠地のレベルによって制限がかけられているから、今この拠点が使えるのは第一次世界大戦の頃の物くらいしか無いわ」

「相手はどのくらいの火力を持っているんだ…?」

「SF映画に出てくるような対宇宙戦用のレーザーカノンが各拠点に配備されているわね」

「…あー、歩兵はどれ程の火力を?」

「全部機械化されてるわよ。文字通りパワードスーツに未来式の浮遊戦車まで合わせてね」

「絶望的では?」

「絶望的ね」

 

 

 イカれてるな。いや全く酷い状況だ。

 

 しかしまぁ、やりようはあるかもしれない。取り敢えず使用出来る火器一覧を…うん? この武器、ポイントで使用可能なのか? 

 

 ……ふむ、うん、なるほど? 個人が得たポイントによって武器を買い、それで戦うのか。ポイントで得た武器は基本的に領土戦のみで使用可能。持ち込み火器はそのまま使用出来るが、ランダムドロップの対象内、と。

 

 それと…このスキル変更とはまた魅力的な物があるな。習得可能なスキルをペナルティ無しで使用可能な上に熟練度まで上がるのか。…流石に一度に付けられるのはレベルに応じた数だけだし、領土戦エリアから出ると元のスキルにリセットされるようだが…。

 

 しかしこれは画期的では無いか? 詳細の分からないスキルをあらかじめ知る事が出来るなんて、中々無いぞ。新規に覚えるスキルをあらかじめ熟練度MAXまで上げる事も可能な訳だしな。

 

 

「なぁ、このスキル変更というのは本当に何のペナルティも無いのか? 中々に破格なシステムだと思うのだが…」

「…どうして? そんな物何の意味も無いのに…」

「ふむ? スキルの詳細を事前に知れれば、ビルド構成に無駄が無くなると思うのだが」

「戦闘系スキルの情報なんて大体出尽くしてるし、このゲームのスキルって大半は戦闘の補助動作でしょ? 他のゲームみたいに特定の動きをシステムが自動で操作する訳じゃ無いし。どっちかって言うと『何々が出来るようになる』って言う許可証みたいな物じゃない。だからそこまで重要じゃないし、どっちかって言うとステータスに直結するスキルの方が重要って言うか…」

「む、なるほど、戦闘系はそうなのか…」

 

 

 言われてみればアクロバットや千里眼、ブレ抑制にアンブッシュ…なるほど、プレイヤーの身体に対する強制力が薄いな。立ち回りは広がるかもしれないが、一対一の撃ち合いの場面で活かせるのはステータスそのものだ。同じ装備なら、HPが高い方が生き残るのは道理と言える。

 

 しかし技術職にとっては違う。様々なスキルが統合される事が分かった以上、その統合スキルを取った方が結果的に多くのスキルを取れることになる。

 

 スキルを自由に組み換えれると言うのは、そういった統合スキルを探せると言う事でもある訳だ。戦闘系に同じ物があるかわからないが、試してみる価値はあると思う。

 

 ともかく、まずは近接武器制作だな。気にはなっていたがスキル枠に余りがなくて取れなかったのだ。

 

 試しに一本ナイフを簡易制作で作り出してみる。手の中に銀色に光る低品質のナイフが出現。…問題なく行使できたが…これ、制作に拠点のポイントを使用するのか…。資材=ポイント、と言う訳か。

 

 次は設計図がどうなっているかだが…うん、見事なまでに初期仕様だな。後で描き直さねば。うん? 使用武器の追加? 何だこれは。試しにやってみようか。

 

 …おぉ、拠点の使用火器にナイフが追加された…。製作者権限で消す事も可能、と。…なるほど? つまりこれは…こういう仕様と言う事だな? 

 

 

「何とかなるかもしれん。……そういえば聞きたい事があると言っていたな。何かあるのか?」

「…別に答えて貰わなくても良いんだけど、貴方はどうやってあのPVPを成立させたの? あんな旧式の銃で立ち回るなんて聞いた事も無いわ」

「む…見られてたのか? それとも誰かの配信か? …まぁどっちでも別に構わんが…。…アレには色々種があってな。見た目ほど難しい訳ではないぞ」

「…とてもそうは見えなかったのだけど…」

「いやなに、システム的な問題だ。

 弾着予測円内に弾はランダムで命中する…。このゲーム特有の仕様だが、実のところ完全にランダムと言う訳では無いのは知っているか?」

「えぇまぁ。クリティカル率やスキルによって多少変動するのは」

「クリティカル率は頭部や心臓に当たる確率、スキル及びステータスは着弾率。ではAGI特化のプレイヤーはどれに割り振っていると思う?」

「…機動力一択ね。当たらずとも制圧射撃だけで脅威だし、近寄ったら重装甲なんて関係ないもの」

「つまり武器が持つ素のステータスのみ参照にしている事が多い。ここまで分かっていれば、体のどの部位に着弾するか、ある程度予測出来るだろう?」

「ちょっと待って? 貴方今とんでもない事言わなかった?」

「何がだ? 今市場に出回っている武器のデータくらい、全て頭に入っている。ダメージ、クリティカル率、集弾率、着弾率、反動…武器を作る以上、知っているのが大前提ではないか」

「てことは…アレ全部、予測してたって言うの? アサルトライフルやサブマシンガンの弾道を…」

「おおよそだがな。あまり予測が外れんのは流石にゲームと言った所だろうが」

 

 

 細かく言うと防具とステータス差もあるようだが、それを割り出せるほど数はこなせなかった。

 

 コツは相手の正面に立ち、被弾面積を多く取ることだ。半身になって被弾面積を下げると、心臓部と腕と胴体の射線がかぶって銃で弾けなくなるからな…。

 

 納得したようなしていないような、微妙な顔をして彼女は帰っていった。まぁ、今後はもう使わない手だろうし、教えても問題ないだろう。やろうと思えば対策なんて幾らでもあるのだから。

 

 

 よし、ひとまず熟練度を上げてみるか。

 

 ステータスメニューから工具製作を選択。旧式銃を作る時にお馴染みの工具を作成していく。幸いにもコストは激安だった。

 

 次に鋼材を選択。…砂鉄もあるのか…。これは…悩むな。どちらで作るか…。いや、ここはインゴットでいこう。たたら製鉄も出来んことは無いが、近接武器制作の熟練度は上がらんだろうしな。

 

 インゴットを火床に放り込み、暫く沸かして様子を見る。近接武器制作を選択していた為に、ここでチュートリアルが出たが、さっと読み飛ばしてマニュアルに操作を変更する。まぁ、やる事は銃とそう変わらん。

 

 十分に火の入った鉄を軽く叩き様子を見る。…積み沸かしをすればもう少し良質な音を出すんだろうが、今はそこまで求めるつもりは無いからな。

 

 さて。

 

 

 カァーン…。

 

 

 反響に乱れ。良質より若干下の鉱石。軌道修正完了。想定、日本刀。尺、最大値と最低値を推定…。火床の温度調整。推定適温を算出、完了。

 

 

カァーン…。

 

 

 角度、速度修正…完了。適正パターン演算。水温の低下を推奨。粘りは想定内。

 

 

りぃーん…

 

 

 十分程で形を造形し、ザックリと研磨を終えた日本刀の研磨剤をぬぐい、刃筋を見る。…まぁ、簡易的に作るならこんな物か。白鞘に刃を納め、作製完了のボタンを押す。

 

 

「……ふむ。試作1号、と」

 

 

 製図スキルを使用して進行の保存も忘れずに行う。いやはや、まったく便利なもんだな。使用感としてはExcelとかWordに近いものがある。これ無しに銃器の制作などやりたいと思えん。

 

 さて、次は検証に入ろうか。


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