GGOのガンスミスがあまりにも不遇な件について   作:ひなあられ

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昏く影刺す魔の王は誰ぞ

 シノンはその日、いつも通りにGGOへとログインしていた。なんて事のない、いつもの日課。すなわち殺して奪う為に。

 

 ただいつもと違う点があるとすれば、今回は級友と一緒では無いという事だろう。装備もある程度整い、初心者からアマチュアへの道を順調に歩み始めた段階だった。

 

 だからこそ、今日は他の人とパーティーを組んでの対人戦を選んだ。親しい仲でプレイするのも悪くは無いが、それだと他のプレイヤーの強さが得られない。もっと強くなる為には、もっと貪欲に強敵と会わなければ。

 

 

「あ、いたいたぁ。おーい、シノンさーん!」

 

 

 首都グロッケンの賑わいを貫くようにして、明朗な男の声が届く。声の主は所謂イケメンだったが、どこか作り物めいた印象を受ける。シュピーゲルと同じタイプだろうとシノンは当たりを付けた。

 

 だけど性格は真反対だ。シュピーゲルはもっと大人しいし、待ち合わせにはメールを使う。シノン自身も目立つ事は苦手としているので、そんな心遣いが嬉しかった。

 

 ただ、この男にその辺りの機微は分かりそうに無い。近くに寄ってみれば、その思いは核心に変わる。隠しきれない下心が顔に出ていた。

 

 

「…こんにちは笹餅さん、今日はよろしくお願いします」

 

「いやいやそんな硬くならなくて大丈夫だって!なぁみんな!」

 

「おうよ。俺はシシガミだ、つってもネームは見えてるだろうけど一応な」

 

210-(ヒキニート)です。よろしく」

 

 

 有象無象。そんな印象を受ける。強くもなければ弱くもない、ありきたりでどこにでもいる一般的なプレイヤーだ。最近顔を隠す為に買ったマフラーに口元を埋めて、ただ機械的な返事を繰り返す。

 

 この人達から得るものはなにもない。本当に何もない。運が良ければ勝てて、悪ければ負ける。数の差で単純に勝敗がひっくり返る。強さなんてかけらも得られない。

 

 だがそうと分かっていても、約束は果たさなければならない。シュピーゲルの注告をもう少し真面目に聞いていればと後悔したが、今となってはもう遅かった。

 

 

「ハァイ、貴方が笹餅でいいのかしら?」

 

「あ、ピトフーイさん!今日はよろしくお願いします!」

 

 

 ふらりと、あまりにも自然にその女はやって来た。長身でキツイ顔立ちの割に、人懐っこい笑みがそれを払拭している。そしてこのGGOでは珍しい女性プレイヤーかつ、どこから見ても華奢な体格の割に、その立ち振る舞いには柔さなど欠片も無かった。

 

 あまりにも堂々とした、或いは傲慢さが滲むような雰囲気が、肉食獣めいた姿に不思議とマッチしている。しかし表に出す雰囲気はそれと真逆であり、言い知れない違和感をシノンは感じていた。

 

 ーー何者?…でも、強い。果てしなく。

 

 何者かはわからない、だが明らかに上級者。装備する銃はどれを取ってもレア度の高い物であり、今の自分達とは隔絶した力を持っている事がありありと分かる。

 

 

「へーやるじゃん、こんな可愛い子どこでゲットしたんだい?案外隅に置けないねぇ、コノコノ!」

 

「ちょ、辞めて下さいよぉ。パーティの募集かけてたら偶々会っただけですって」

 

「ふーん…。あらら、本当に珍しいじゃん。スナイパーなんて早々居ないのに。よろしく、シノンちゃん?」

 

「……よろしくお願いします、ピトフーイさん」

 

 

 差し伸ばされた手を取り、挨拶と握手を交わす。シノンはその底知れなさと、スミレ色の瞳に暗い闇を見つけて身震いした。まるで狂気そのものが、辛うじて理性を纏っているかのような。

 

 人知れず、反対の手は腰のグロッグを握っていた。その様子になぜかピトフーイは笑みを深める。

 

 ーーこの人…信用できない。

 

 努めて無表情を維持して、引きつりそうになる喉のどもりを飲み込む。怖い、恐ろしいと感じた事なんて幾らでもあるシノンだったが、こんなタイプの恐怖は初めてだった。

 

 

 しかしそんな雰囲気など気にも溜めず、他の三人はこれから狩るスコードロンについて話し合っていた。その様子に呆れが先に出てしまうが、それを表に出す訳にはいかない。

 

 口元に掛かるマフラーを鼻まで上げて、シノンは出来るだけ気配を殺しながらついて行くことにした。話し合いの結果、この中で一番強いピトフーイが先頭を歩く事になり、一同は非殺傷エリアを抜ける。

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

 

 

「……あの、ヒキニートさん、もうすぐアンブッシュの位置じゃないですか?」

 

「うぉ!?お、おう、そうだな。笹餅ー、そろそろだってよー」

 

「え?あぁここら辺か。よしニートとシシガミは索敵、異常が有れば報告で」

 

「「了解」」

 

 

 緩やかな丘の上、とは言っても乾いた土が盛り上がった程度のものだが、そこにパーティは陣取った。他3名を残しての索敵…不安は残るものの、これがいま打てる妥当な選択だった。

 

 

 一般的な分隊の編成は10人か9人だが、ここはあくまでもゲーム。分隊長や副分隊長と言った分隊の指揮の要となる人物は省かれ、リーダーがその先々で指示を下す事が多い。

 

 また突撃班や射撃班と言った分かれ目も無いに等しく、そんなまどろっこしい事をするのは基本的にミリオタと呼ばれる人種ぐらいだ。しかし戦術的価値は大きく、デッドコピーの模倣品のような有様だとしても、初心者程度なら簡単に片付けられる有効性は確かにあった。

 

 ただしそれは一対一で殴り合えばの話だ。10人単位の分隊は、5人程で編成された二つの分隊に食われる事が良くある。

 

 そもそもこの10人という単位は、画期的な移動手段があってこその力だ。基本的に徒歩で狩をせざる得ない今の現状では、そんな大集団が歩いているとよく目立つ。

 

 更にはフィールドに置ける敵と言うのは何もプレイヤーだけでは無い。人の身の丈を大きく超える化け物だってうじゃうじゃ蔓延っている。

 

 そんな化け物…エネミー達のHPは基本的に高い。それは攻撃力や防御力においても同等で、この存在に対する最も有効な手は逃げる事。持っている銃が実弾ならば尚更だ。

 

 そんなエネミーを前にして10人が一度に逃げる場合、必ず二、三人の犠牲は覚悟しなければならない。当然出費は嵩み、赤字にもなりやすい。

 

 なので今のセオリーと言えば、斥候(スカウト・ポイントマン)2人に射撃手(アサルト)2人、そしてリーダーの5人編成。ここに人数を増やしたり減らしたりする事で戦局に対応していく。

 

 例えば狙撃手(スナイパー)を入れて広野で優位な戦況を取ったり、分隊支援火器(主にマシンガンの事)を入れて火力の底上げを図ったり、持っているサブの火器をショットガンやサブマシンガンに換装して狭所での戦闘を視野に入れたりなど、色々である。

 

 

 シノンはフリーの狙撃手の為、こうして他の分隊に仮加入しての戦闘が多い。とは言っても、基本的にシュピーゲルと一緒に加入する事が殆どではあるが。

 

 その経験を元に今回の彼等の動きを見ても、やはり凡庸としか言えない。手慣れた動きで周囲のクリアリングをしているが、どこか荒く洗練された様子は無かった。よくよく見れば見落としているポイントもかなりある。

 

 シノンは密やかに溜息をつきながら、このゲーム最初の相棒…ドラグノフを伏せて構える。バイポッドを立てられないこの銃は、人の手でハンドガードを握らなければならない。

 

 岩場や林間であれば、わずかな取っ掛かりに銃を固定したり、木に押し当ててて運用したりもするが、何もない場合は腕を使う。

 

 スコープのカバーを開き、予め示された侵入予測経路の監視を始める。僅かに張り詰めた緊張の糸を切らさないようにしながら、シノンはその時を待つことにした。

 

 

「んー…もうそろそろ良いかなぁ…」

 

「お?ピトフーイさん、何か作戦が有るんですか?」

 

「まぁね♪この後お楽しみが待ってるのよ」

 

「えー、勿体ぶらないで教えて下さいよぉ〜」

 

 

 背後からの会話に、まるで背筋をなぞられる様な不安を感じ取る。何故こんな所で新たな作戦を行使する必要があるのか。いや、それよりもこのピトフーイと言う女は、一言も作戦と明言をしていない。

 

 ーーじゃあ、その『お楽しみ』って、何?

 

 ゾワリと全身の毛が逆立つ様な悪寒がシノンを襲う。咄嗟にドラグノフを抱えて左に転がった。足元の僅か数センチに見慣れた土煙が吹き上がる。

 

 威力・高い。推定7.62ミリ。狙撃位置・背後のビル街。

 

 そこまでを瞬時に判断したシノンは、寝転んだまま背後に銃を向けてスコープを覗く。いつも射程範囲ギリギリの800mに調整していた事が功をなし、スコープを操作するまでも無く敵スナイパーの姿を見つけ出す。

 

 片手でセーフティを跳ね上げ、視界に映るレティクルが対象の頭部をロック。僅かに銃を上にあげ、そこに合わせる様にして収縮したバレットサークルが極上の単位まで縮む。

 

 相手側の遅れて届いた銃声と、シノンが撃ち放ったタイミングはほぼ同時だった。火薬の推進力を得て猛然と飛び出した弾丸は、東に向かって吹く風に僅かに流され、重力によって弓なりに飛翔し、狙撃を行ったプレイヤーの右胸部へと着弾した。

 

 スコープに赤いエフェクトが弾けると同時に、シノンの視界にプレイヤー名とHPが表示される。名前はM、そして削れたHPの数値を見て、シノンはまたしても驚愕する事になった。

 

 ーーほぼ削れてない、距離減衰を差し抜いてもライフル弾の直撃なのに!

 

 

「敵スナイパー!5時の方向距離800。7.62ミリクラス!ウィークポイントに当たったら即死だわ!」

 

「んなぁ!?一体どこのスコードロンだ!シシガミ、ニート!撤退するぞ!」

 

「やるじゃん?でもお姉さんが好きなのって…一方的な殺戮なのよねぇ」

 

 

 乾いた音が響く。額の真ん中に風穴を開けた笹餅が、力を失って地面に崩れ落ちる。その上半身が地面に投げ出されたと同時に、笹餅は無数のポリゴン片となって爆散した。

 

 そしてシノンも、片足を狙撃されて立つことさえままならない。視界に映るスコードロンのメンバーは、二発の銃声にHPを散らされた。視界にバレットラインが出なかった事に戦慄を覚えるが、今はそれどころではないと視線を横に向ける。

 

 シノンは歯噛みしながらグロッグをピトフーイに向けた。しかし嗜虐的な笑みを浮かべるピトフーイに焦燥の色はない。

 

 ピトフーイが握る銃も、グロッグと同じ自動拳銃だ。見た目は少しゴツイ。現代の銃に比べて洗練されたラインは無く、どこか古めかしい。

 

 1911ガバメント。今ある自動拳銃の礎であり、今もなお生産が続けられている傑作の内の一丁。だが高レベルプレイヤーが持つには些か華に欠けており、それを持つくらいならば他にも良い銃は山ほどある。

 

 それがただの銃であれば、だが。

 

 ガバメントはストッピングパワーに優れる.45弾を使用する自動拳銃である。現実ではバランスに優れ、動作も文句のつけようのない一品だが、このゲームにおいては量産品の一丁に過ぎない。

 

 更に拳銃弾はその威力が低く設定されており、例え心臓に命中しても一撃で死ぬ事はまず無い。低レベルプレイヤーであれば、四肢に銃撃を受けて部位欠損を起こす事もあるが、中堅以降のプレイヤー相手ではそれも望めないだろう。

 

 だからそう。いくら初心者とはいえ、たった一撃でHPを吹き飛ばしたあの銃が、ただの銃である筈がないのだ。

 

 このまま撃ち合ってもシノンは確実に負ける。いかに不利な体制であっても、相手が笹餅程度のプレイヤーならば遅れは取らなかった。しかし相手は格上かつ未知の威力を秘めた銃を所有するプレイヤーだ。万に一つも勝ち目は無い。

 

 そんな事はシノンも分かりきっている。だがシノンは銃を降ろさなかった。その眼を獣のように尖らせる事しか出来なかったが、決して諦める気は無かった。

 

 

「おっ、いいねぇその眼。まさに肉食系女子じゃーん?」

 

「…目的は何?」

 

「んふふ、さぁてなんでしょう?」

 

「他のスコードロンの差し金?それとも私個人?」

 

「んー、30点。言っちゃなんだけど、そんな低レベルなスコードロンの依頼なんて受けないしー。同じ理由で個人を狙った訳でも無いよー」

 

 

 ならば何故、と。そう疑問を口にしかけたシノンは、ピトフーイが放つあまりにも残酷な…或いは嗜虐的な笑みを見て考えを改める。

 

 笑みのようで、笑みじゃない。喜びからの笑みじゃない、この状況を『楽しんでいる』笑い方だと。それは同じようでいて全く違う。彼女にとって、このあまりにも手酷い裏切りこそが戦いなのだと。

 

 殺したいから殺す。浴びるように殺す。そこに意味はない、ただ殺しが楽しいから殺す。子供が砂場で意味もなく山を作るように、あるいはその山を水を掛けて崩すように。

 

 作るのも楽しい、だけど壊すのも楽しい。あまりにも破綻しているように見えて、人間が誰でも持っている欲求。それをただ思うがままに振るっているのが彼女なんだと。

 

 だからそう、ここに人の考えるアレコレは存在しない。激しい、或いは凄惨な闘争こそが究極の快楽と考える、破綻者(常識人)がいるだけだ。

 

 

「…なら、なんで…私を……」

 

「んーなんて?聞こえないわー」

 

「…私を残す理由がない。どうして殺さない?」

 

 

 その言葉に、深めた笑みが少し淀んだ。相変わらず銃を向けあったまま、その有利性は全く変わる事なくそこにある空間に、僅かな亀裂が入る。

 

 残虐で凄惨で、他者を苦しめることに快楽を見出す彼女が、その言葉に何を動かされたのか。

 

 だがシノンにとってそんな事はどうでも良かった。これは本当に無意味な事だと理解していて、それでも尋ねずにはいられなかった純粋な疑問だ。

 

 狙撃され失ったのは片足だけ。ならまだ立てる。立ってこの強者と戦える。シノンにはそれだけで十分過ぎた。

 

 相手がどう強かろうが関係ない。それが類を見ない残虐性であったとしても、シノンにはまるで関係がない。シノンが求めているのは冷酷に相手を殺す、ただそれだけの強さだ。

 

 どれだけ残虐でも、どれだけ凄惨でも、ここではあまりにも一般的な強さの形の一つだ。弱者をいたぶる行為はごく当たり前のように行われるし、それを盛んに煽り立てる行為も日常的に行われる。

 

 幸いにもシノンは見た目だけは麗しいアバターの為、そこまで過激に煽り立てる者も居なかったし、一方的に虐殺されるような事も無かった。ただし、粘着質なストーカー紛いの人物は何度も遭遇したが。

 

 シノンが求める強さはそういう類のものではないし、そもそも関係がない。見習う必要性が無いのならそれ以上の関心は毛ほども無い。胸糞の悪くなるようなロールでも、それを覆せる強さがあればいい。

 

 それを何と言い表せばいいのか。一つ言い表すとすれば、『強さの純度』だろうか。

 

 快楽はない。興奮もない。喜びが無ければ達成感も無い。あるのは恐怖に彩られた壮絶な覚悟。シノンの強さは、そんな恐ろしい程に透明で純粋な強さへの渇望だ。

 

 

 片足とは思えない程、軽やかに立ち上がる。不意を突いた訳でもないが、それをピトフーイは止めようとしなかった。

 

 額に銃口を向けあい、シノンはただ氷のように瞳を凍てつかせながら、ピトフーイは喜色と快楽を隠そうともしない愉悦の笑みで対峙する。

 

 

「答えなさい。何故殺さない」

 

「…なんでだろうねぇ。気まぐれ?それ以上は無いかなー」

 

「………そう、ならーー」

 

 

 ーー死ね

 

 

 引き金が引かれて殺意の権化が叩き出される。硝煙の匂いが強く鼻をくすぐり、赤いエフェクトが散って地面に倒れた。重い砂袋を草むらに落とすような音の主は、この世界の法則に従って爆散・消滅する。

 

 そこでようやく構えていた銃を下ろし、女はホルスターに銃を戻す。そこにいるであろう透明の意識を見下ろし、凄惨に笑ってみせた。

 

 

「チェックシックスって知ってるー?後ろ、警戒してなかったでしょ」

 

 

 シノンの背後にいつのまにか立っていたプレイヤー。Mと呼ばれる男は、無言でボルトハンドルを引いた。乾いた金属音を立てて薬莢がこぼれ落ちる。

 

 彼女らにその気は無かったのだろうが、側から見ればリンチにも捉えられる光景だった。完全に挟み撃ちのような格好で三人は対峙していたからだ。

 

 Mはピトフーイがシノンを撃った辺りで、既に100mの範囲に隠れ潜んでいたのである。一発撃つごとにポイントを変え、徐々にピトフーイのいる場所まで近寄っていた。

 

 例え800mもの距離だとしても、周囲に警戒すべき敵もおらず起伏も乏しい地形ならば然程時間はかからない。スタミナの概念が無いゲームならではの移動だった。

 

 FPSという都合上、素のステータスでは現実に比べると若干AGIが高い。それは装備重量によって抑制されてしまうが、逆に言えば軽くする事で本来のスピードを取り戻せると言うことである。

 

 Mはその代名詞でもある盾を持ってきていない。代わりに爆発物の詰まったバッグを持ってきてはいるが、盾よりも軽量なのは確かだ。

 

 本来であればもう少し時間がかかる距離だが、こうまで早く到着出来たのはそんな事情があったからである。

 

 シノンはそれを睨みつける事しか出来なかった。リスポーンにはまだ1分ほどかかる上に、意識はどうやってもそこから動く事は無いからである。

 

 システムに強制的に付与される無力感を恨めしく思うが、それがこの世界のルールだ。誰であれ、そこに逆らう事は出来ない。

 

 

 

 せめて下手人共の顔だけでも記憶しようと、その顔を凝視していた時である。

 

 

 視界の隅に、闇が湧いた。この黄昏の荒野を唐突に塗り潰すようなそれは、果てのない死の気配と深い絶望を伴っていた。ソレがなんなのか、一体何故こんな所に存在するのか。そもそも存在していい物なのか。

 

 シノンにはそれが分からなかった。ただそこにあるだけで恐怖を撒き散らす存在。そんな物が、果たして実在していいのか。だが今ソレが確かに存在している。500m先の荒れ果てた地に、周囲の空間を喰い潰すようにして。

 

 ソレが最近出会った、この世界で特に珍しい生産職の男だった事を思い出すのは、もう暫く後の事であった。

 

 今はただ、その圧倒的な蹂躙を目に焼き付ける。或いはそれを、強さの糧とする為に。


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