不遇な朝田詩乃に寄り添いたい   作:ヤン詩乃ちゃん( _´ω`)_

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※本日2回目の投稿


朝田詩乃とB.o.B本戦Part2

 開始から20分経過。

夏侯惇なるプレイヤーを屠ったシュウは、次なる獲物を求めて廃墟郡を抜けて行った。

 

「(5分前キリトくんは最北端に居た。まだ動いていないと楽観視の仮定をして、俺の場所から最短距離で妨害無しで走ったとしても10分はかかる。そしたら次のサテライト・スキャンが始まる。キリトくんが俺と同じ「死銃排除」を目的に動いてるなら協力出来る......かもしれない。どう説得するか、何故俺が死銃を()()()いるかを説明するかは......どうするか)」

 

廃墟郡を抜け、高架線に出る。コンクリートジャングルの次はマジのジャングルなのか、向かう先には木々が見える。予選でキリトと戦ったような橋の上を残像が見えそうなスピードで走るシュウは、直線上にマズルフラッシュを見て、前傾姿勢で走ってた体制から前に転がるように倒れ、その弾丸を交わす。遅れて銃声が鳴り響き、シュウの後ろの空間に吸われるように弾丸が通り抜ける。近くの塀に素早く身を隠し、敵の射線から逃れる。

 

「不味ったなぁ。速く移動しすぎたか。」

 

 脇腹からサテライト・スキャン端末を取りだし、現在位置を把握する。腕時計を見ると開始27分時点。現在地はマップ中央北部高架線。前回のサテライト・スキャン結果を表示すると、12分前に中央北部に居たプレイヤーは3人。

 

「銃士Xと......ルルンドと......ペイルライダー?」

 

 最後の名前には聞き覚えが良くあった。知り合いでもある。

三次元戦闘を得意とするショットガン使い。上澄みの上澄み。正面切っての戦いは避けたい所である。特にこのような高架線では。

 

 しかし、今しがたの攻撃からしてペイルライダーである線はないと見える。ペイルライダーならば、態々長距離攻撃をせず、真っ直ぐ走る俺に対し突然目の前に現れ奇襲するのが1番得策だからだ。今合間見えているのは恐らくスナイパーの遠距離型。SR(スナイパーライフル)SAR(セミオートライフル)かは分からないが、少なくとも中〜長距離を専門とする輩だろう。シノンのようにMP7のようなサブマシンガンをサブアームに持ってる可能性もあるが、考えたらキリがない。

幸い対スナイパー戦はシノンちゃんと散々やり合ってる。

 

 塀から飛び出し、一直線に敵に向かって走り出す。1発、また1発と弾道予測線をキッチリ見ながらかわして行く。動きは最小限に。相手は弾道予測線なしの射撃をする「上澄み」ではない。弾道予測線を出してくれるお優しいスナイパー様なら、態々ジグザグ走行をする必要も無い。

 間隔からしてボルトアクションライフルだろうか。何発か撃たれた後相手のローディングタイムが挟まり、その間にグンと距離を詰める。遠目に見ても分かる銀髪の長い髪。露出度の高い服。今気付いたが、彼女も同じ原作組、「銃士X」だ。「こっち」の世界で見るのは初めてだが、「あっち」の世界で初めて見た時の衝撃を覚えている。確かキリトくんに殺られたんだったか......

 銃士Xとの距離が100mを切った辺りで、銃士XはSRを置いたまま腰からハンドガンを抜き放ち、こちらに射撃する。流石にこの数の弾をこの距離で全弾かわすのは不可能なので、弾道予測線に添わせるようにP-90(P)を盾に使う。カンカンという子気味いい音を銃越しに聞きながら、相手の弾切れに合わせてスリングから外したP-90(P)を銃士Xに投げ付ける。

 

「ふがっ!」

 

 女の子とは思えない声を出しながら、P-90(P)の直撃を顔面に食らう銃士X。少しのけぞったのをいい事に、右手に持つハンドガン(恐らくコルトガバメント)を右足で蹴り、そのまま一回転。左手で抜き取ったカランビットナイフで銃士Xの首横を突き刺し、確実にダメージを与える。

 

「あんっ......た......!私には......銃すら使う必要ないって......!?」

 

「............まぁ、そうなるな」

 

 馬乗りになって確実にダメージを与える為左手に握ったカランビットナイフをグルグルと回転させていると、抵抗虚しく銃士Xの体から力が抜けていく。

 

Tuchico(あんた).....私の名前を......銃士X(マスケティアイクス)を......忘れるなよ......!」

 

 そう捨て台詞を吐いて、《Dead》の文字と共に完全に力が抜ける。カランビットナイフを抜き取り、鞘に収めながら少し離れた所にあるP-90(P)を回収してスリングを巻き直す。

 

「............マスケティアイクスって読むんだ............何故にフランス語?」

 

 頭に大量のクエスチョンマークを浮かべながら、再度北部を目指して駆け抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......流石にそろそろ動くか」

 

 腕時計を見ると、開始から既に20分経っている。未だにここに誰も来ていないのは幸運と言うべきか、行動を決めあぐねていたキリトには丁度良かった。

 

「(とりあえず確定白のシュウかシノンに会いたい......あわよくば協力して死銃を討ち取りたい。菊岡さんから方法についても依頼が出されているが、流石に大会内で暴くのは難しいだろう。まだ見ぬ死銃が今も誰かを殺しているかもしれないと思うと......ゾッとするな。)」

 

 そんなある意味達観した思考をしたまま、移動を開始しようとすると、西側出口から足音がする。

神殿の構造上、中央奥に座する苔むした女神像の他には、西、東、そして南の3つの大きな出口しかない。他には教会にあるような椅子が転々と転がるばかり。キリトはすわ死銃かと身を眺め、敵を視認する。

左手には湾曲した刃のような刀身むき出しの武器を付け、不格好にも腕が2倍の大きさに見え、切っ先は地面につきそうだ。チューブのようなものが、背中に背負ったタンクに繋がっている。右手にはこれまた不格好な丸い銃を携え、両脇についてるエネルギーパックのような物が百足の足のようにわきわきと忙しなく動いている。

 

「Kirito......Kirito......キリト!キリトさん!まだ居ますかな!?」

 

 気持ちの悪い銃と刃を携えた男をよく見ると、その両手と背中に担ぐものを除けば、神父のような格好をした男が自身の名を読んでいた。ハッキリ言って気持ち悪い。

 

「居ないのか?......はて。気配はするので居るとは思うのですが......」

 

 所謂《第六感》はVRゲームではまことしやかに噂される《システム外スキル》の一つである(ちなみに他のシステム外スキルと言えば、シノンが使う「弾道予測線なし射撃」等がある)

一説によると、VRゲームのCPU負荷による微細な違和感を感じとる敏感さだとか。キリト視点からしてみれば、過去SAOで宿敵茅場晶彦を倒した時のように《心意スキル》かもしれない、というのがいちばん濃厚なのではないか。と思っている。

 

「......まぁ、この神殿内には居る様子。更地にすれば出てくるでしょう。」

 

 その言葉を聞いて、不味いと思い相手の一挙手一投足を見逃さんと物陰から除くと、敵は左手の刃を横凪に一閃した。

すると、明らかにその刃の長さからは有り得ない大きさの「斬撃」が飛び、椅子達を撫で斬りにする。東口を背にする様に女神像の裏に隠れていたキリトには幸いダメージは無かったが、文字通り女神像前の広場は更地となった。

 

「残るは......そこですか」

 

 女神像の方を向かれ、バッチリと目が合う。ニヤリと厭らしく笑った敵は、右手の筒状の武器をこちらに向ける。

すると、チュイーンという音と共に銃口から細長いビームのようなものが伸びて女神像を攻撃し始める。これだけか?とキリトが頭を女神像の裏に隠すと、ドカン!という音がなり、キリトのすぐ横に穴が開く。

 

「(チャージタイプのエネルギーライフル!?それにエネルギーの斬撃を飛ばす刃......どちらも厄介だ。しかし死銃ではないな......)」

 

「出てこないんですか?このまま少しづつ回って言ってもいいのですよ」

 

 傲慢とも取れる敵の言葉に、あえてキリトは乗ることにした。

 

「............わかった出る。出るよ」

 

 キリトは両手を上げ、女神像から出る。敵は右手のライフル(?)を下ろし、左手も下ろす。

 

「やぁやぁ。私はエンフォーサー。初めましてキリトくん。」

 

「............ご紹介どうも。キリトだ。よろしくエンフォーサー。で、なんで降伏勧告なんてしてきたんだ?」

 

 両手をおろし、お互い構えを解いた状態になる。

 

「降伏勧告なんてとんでもない。貴方が素直に出てくれば、このチャージライフルも、Coral48も振るわなくて済んだんですよ」

 

 肩を竦め、やれやれと言葉をこぼすエンフォーサー。キリトは少しムッとしながら、答える。

 

「ならば何故呼んだんだ。これはバトロワだろ。戦う以外に道は無い」

 

 そう言うと、驚いたような顔で左手を口に当てる。

 

「それはとんでもない。確かにこれは最後のひとりになるまで終わらないバトル・ロワイアルです。しかし戦う以外に道は無いとは嘘でしょう?貴方も他の道があることがわかっているはずです。私は人の心を読むのが得意なのですよ」

 

 その言葉にキリトは少し考え込む。確かに他に道はある。先程シュウやシノンに対し考えたようなもの......そう。「共闘」だ。手を組み、多対1の状況にし、有利に先頭終盤まで生き残る。

 

「なんのメリットがある。最後は殺し合うんだろ?」

 

「そうですね。私はエネルギー武器とはいかに優れているかをこの世界(GGO)に広める為、優勝しなくては行けません。ですが私1人で最後まで残れるかは心もとないのです」

 

 困ったように左手を頬に当て考え込むエンフォーサー。それに対しキリトは嘲笑で返す。

 

「随分と弱気だな。こんな芸当出来るなら誇っていいんじゃないか?」

 

 粉々になった椅子達やえぐれた女神像下部を見ながらそう言う。

 

「確かに素晴らしい威力だったでしょう?しかし、大いなる力には代償がつくもの。この《Coral48》はその威力はともかくエネルギー消費が激しくてですね。市場には出回らないユニーク武器なのですが、あんな大技は連発出来ないのです。かといってこのチャージライフルだけでB.o.Bを勝ち抜けると自惚れるつもりもございません。そこで、同盟を結びませんか?」

 

 言いたいことは分かる。確かにあんな飛ぶ斬撃連発されたらいくらキリトとてひとたまりも無い。回数が限定されるなら、仲間を増やし、確実に屠れる時に確実に振り下ろしたい致命の刃だ。

 

「なるほどな......だがなぜ俺なんだ?俺はお前を知らないし、お前も俺を知らないはずだ。名前はサテライト・スキャンで確認したんだろうが......そのご自慢の目でもプレイスタイルやプレイスキルまでは見抜けないだろ?」

 

「確かにその通りです。私は貴方がどんな武器を使い、どんな戦い方をするのか分かりません。ですが仲間は多いに越したことはありません。そうは思いませんか?光剣を使う近距離タイプでも、レーザーショットガンを使う中距離タイプでも、チャージライフルを使う遠距離タイプでも、仲間に居れば心強い物です。プレイスキルに関しては問題ありません。ここはB.o.B本戦。予選6回戦を少なくとも5連勝してきた方々しかおりませんから」

 

 つらつらと自分の作戦をまくし立てるエンフォーサー。キリトは目を瞑り胸に手を当てるエンフォーサーを見ながら、思案する。

 

「そうか......そうだな......ご尤もだ」

 

 事実、キリトはこの提案を受けるべきなのだろう。目の前の奴が死銃本人ではないだろうが、死銃の手先かもしれない可能性を考慮しても、メリットは大きい。キリトの場合死銃さえどうにか出来ればいいだけで、最悪エンフォーサーに裏切られても問題は無いのだ。

 

「そうでしょう?ですから、貴方も私と一緒に......」

 

 しかし

 

「だが断る。」

 

 キリトは光剣を掴み刀身を出した。

頷かなかった理由はいくつかある。

ひとつは、先程も言った「死銃の手先」である可能性。キリトとという名前に反応して、監視する為に送られてきたとしても不思議では無い。何より......死銃、笑う棺桶(ラフィン・コフィン)のやりそうな事だ。

それにまだある。

もしエンフォーサーが死銃の手先ではなく、純粋に勝利を掴み取る「1プレイヤー」であったとして、先程「最悪エンフォーサーに裏切られても問題は無い」と言ったが、それは「死銃との問題」が解決した後の事になる。死銃をどうこうする前に裏切られ殺された日には、遥々来た意味がなくなってしまう。

理由はまだある。

死銃が誰かを害する時や、死銃本人と対峙する時、逆に同盟相手のエンフォーサーが邪魔になる可能性が高い。別にプレイスキルを疑っている訳では無いのだ。ただ、1人のプレイヤー相手に本気の共闘をするなら、アスナのような心の知れた相手ではないと本気を出しにくい。キリトはあくまで「ソロ」プレイヤーなのだ。

 

 そう思い、光剣を構えエンフォーサーと対峙する。辛い戦いになるだろう。激しい戦いになるだろう。相手は遠距離ビームライフルに飛ぶ斬撃使い。対してこちらはメインウェポンは1m程の刃しかない光剣1つ。ファイブセブンは頼りにしていない。

そう思っていると、わなわなと手をふるわせ、左手の刃でキリトの握る光剣を指差す。

 

「それは............光剣......ですか?」

 

 まるで信じられない。と言った顔でキリトを見つめるエンフォーサー。キリトは警戒しながらも問に答える。

 

「そうだが......」

 

「それだけで本戦に?」

 

「殆どは......」

 

「それだけで?」

 

「何度も聞くな。なんなんだ。」

 

「............」

 

 黙り込むエンフォーサー。警戒は辞めないキリト。頓着状態が続く。先手必勝か、と思い腰のファイブセブンに手を伸ばしたキリトが......

 

素晴らしいッッッッ!!!

 

「............はぁ?」

 

 本気の「はぁ?」である。エンフォーサーは膝から崩れ落ちて、四つん這いになる。今なら隙だらけだ。殺してくれと言っているようなもの。

 

「おぉ......おぉ!!!私以外にも!エネルギー武器をッッ!!その可能性を信じた者が居たのですねッッッ!!!」

 

「............」

 

 いやーそんな事ないっすよ。たまたま、本当にたまたま、剣が光剣しか無かっただけで。

 

とはいえず。

 

「すみません......謝罪させてください。私は貴方に嘘をつきました。同盟など仮初......背中を見せれば直ぐにCoral48で体を真っ二つにする気でした......灰と銃に取り憑かれた者にはお似合いだ。と...... 」

 

 つらつらと勝手に懺悔を始める始末。もうキリトには何が何だか分からない。チャージライフルも地面に置き、自分で壊した女神像に対し祈っている。

 

「神よ......エネルギーの神よ......GGOにおいて淘汰されしエネルギー武器使いはまだ居たのですね......救いはあった......」

 

 VRゲーム独特の過剰表現により、大粒の涙をドバドバと流しながら祈るエンフォーサー。なんだこれは。キリトはとりあえずエネルギー節約の為光剣をしまった。

 

「グスッ......おぉ同志よ。すまなかった......お前も私と同じなのだな......しかし、同盟が出来ぬことも事実......誓いましょう!最後!このB.o.Bの頂点に立つのは、エネルギー使いの私か貴方だと!そして最後、ぶつかる斬撃、有終の美......美しい......今から胸が踊ります。」

 

 チャージライフルを持ち、すくっと立ち上がると、パンパンと無いはずの埃を払う仕草をする。もう既に涙は流していなかった。

 

「それでは、私はこれにてお暇させて頂きます。最終決戦で、また会いましょう。」

 

 そう言って、エンフォーサーは笑顔で立ち去る。

キリトはただぼうっとし、

 

「(ファイブセブン......出さなくてよかった......)」

 

 自分が普通に実弾も使うタイプだと知られなくて本当に良かったと思うのであった。




エンフォーサーの右手武器はAPEXのチャージライフル。
左手武器はAC6のムーンライト(月光剣)みたいなもんだと思ってください。

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