不遇な朝田詩乃に寄り添いたい   作:ヤン詩乃ちゃん( _´ω`)_

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フィールドを何処にするかを毎回悩む。


朝田詩乃とB.o.B予選第4回戦「砂漠」

パチリ

 

 砂!砂!砂!見渡す限りの砂の海!

砂漠。或いは規模的に言えば砂丘だろうか。兎に角、見晴らしのいいステージだった。

《遠視》スキルを持っていないシュウでは……いや、あるいは持っていたとしても、地平線の彼方まで見えなかった。暑い熱帯夜のような薄茶の明かりが照らす砂漠は、それだけで幻想的に見えた。

B.o.B予選では500m離れてお互いスポーンする。ということを先程シノンに教えて貰った。今までB.o.Bに興味はあれど出場経験のなかったシュウはルールブックを流し読みするタイプだったので、そこを見逃していた。

ぐるりと見回すが、砂しか見えない。所々丘になってたり岩があったりして、平坦とは言えないステージである。

目の前の丘を昇り、周囲を見渡せる位置に行く。

 

「…………ん?」

 

 第2回戦の刑務所とは打って変わり、今度はすぐに敵を発見した。500m間隔とはいえ、見晴らしのいい砂漠だ。ちらりとだが、砂漠によく似合う茶色のポンチョを被った人影が岩陰に隠れる所を発見した。本当に差異ないカモフラージュだったが、運悪く素早く動いているのを見られてしまったらしい。

その岩陰から、ちらりと銃の銃口と頭らしき物が除く。最も、ポンチョのせいで頭は殆どカモフラージュされ見えないも同然だったが。

 

「お互い見つけたな」

 

 相手の銃口からマズルフラッシュが光る。ほぼ反射的に身体を全傾にし、敵に向かって走り出す。いくら100m3秒で走るシュウでも、砂漠に足を取られては全速力を出せない。砂漠に足を取られながらも、頭の上を()()()()()()()に掠める弾丸のチュインとした音を聞き、悟る。

 

「(シノンちゃんと同じスナイパー……しかも、弾道予測線なし射撃が出来る凄腕)」

 

 GGOは、良くも悪くもシステムアシストが強い。こと発砲においてはそれが顕著に現れる。

先ず基本的なスナイパーは、敵を見つけ、引き金に指をかけ弾道予測円(バレット・サークル)を発生させ、その心臓に合わせた収縮が1番小さくなった時に放つ。そうすれば、弾丸は弾道予測円の中に着弾する。例えどれだけ銃がぶれる撃ち方をしていようが、だ。そのバレット・サークルをどう上手く使いこなすかがGGOスナイパーの強さに繋がると言える。

しかし、何事にも例外は居る。

例えば、現実でもスナイパーを生業にしている者。猟師、軍隊、自衛隊などのスナイパーは、システムアシストなしに、つまり、敵に弾道予測線を見せずに射撃する事が可能だ。

仕組みは簡単。ただ狙い、撃てばいい。引き金に指をかけてからバレット・サークルが発生するまで0.5秒程猶予がある。その0.5秒の間に……つまり、撃つ直前まで引き金に指をかけず、撃つ直前で0.5秒以内に引き金を引けば、こちらのシステムアシストが発生しないというデメリットの代わりに、相手に弾道予測線を見せないというメリットを生ませる事が出来る。

もちろんコリオリ力や風力も計算しなくては行けないし、並大抵の努力ではこの技は使えない。日本ならば一流の猟師、自衛隊の空挺部隊。海外ではスナイパーを本業とし戦争に身を投じている真の「戦士」のみしか出来ない技だ。

だが。この相手スナイパーはそれをやってのけた。シュウが先に発見できておらず、AGI特化型ではなく、発砲音が届くより前に目でマズルフラッシュを見て身体が動き出すプロプレイヤーでなくては、今頃先程の丘の上で頭を撃ち抜かれ、運が悪ければ脳漿ダメージ判定で1発即死も有り得た。全ての要素が上手く絡み合ったからこそ出来た芸当であり、流石B.o.B第4回戦に進んでくるスナイパーなだけはある。とシュウは感じた。

 

 しかし、このスナイパー。運が悪い。先に発見されたのはまだいい。スナイパー最大の利点、発見されていない初弾は弾道予測線が発生しないというメリットを常に持っているような腕前だからだ。運が悪いというのは、この広大な砂漠と、そのプレイスタイル(スナイパー)、そして相手がシュウという、環境が敵にとって劣悪極まりないからだ。

 

 シュウは砂の上をかける。普通の地面なら100m3秒の所を5秒程で駆け抜ける。右に、左に、また左に、次は真っ直ぐ、そして右にと、規則性のないジグザグ走行で、相手スナイパーに的を絞らせない。現に、何発か弾道予測線なしの射撃が襲ってきているが、未だに1発も当たっていない。

 

 5秒経過

500m間隔でスポーンする関係上、スナイパーまでは約500mあると考えていい。ジグザグ走行に加え、足場の悪い砂場で、まだ100mも詰めれていないだろう。後430mと言った所か。砂粒のようなマズルフラッシュを見ながら、走る。

 

 10秒経過

敵もシュウの意図を察したのか、もう体を隠そうともせず、岩場にバイポッドを立て正確に狙おうとしている。

シュウの意図は簡単だ。近付いて、殺す。P-90(P)の射程は凡そ500m程。しかもこれは、「システム上ダメージ判定が生まれる距離」であり、500mの地点から撃った弾は相手のヒットポイントの1%も削れないだろう。

 

 ところで、P-90とP-90(P)の性能には大分違いがある。リフレッシュレートや弾薬などは改造しない限り同じだが、長さや射程距離、耐久力が違う。本来ならプロトタイプであるP-90(P)の方が劣っている筈だが、ことGGOに関しては違う。

P-90は主街区裏路地のプレイヤーショップや穴場ショップなどを何件かハシゴすれば見つけられる少しレアな銃程度だが、P-90(P)は凶悪なモンスタートラップ(しかも雑魚延々湧きという弾薬問題のあるGGOにしては中々鬼畜なトラップ)からのドロップ品であり、日本サーバーはおろか海外本家のサーバーでも発見例のない、まさに「GGO唯一のサブマシンガン」と言える。

そんなP-90(P)のP-90にない利点は、「弾倉の違い」「重さ」「制御のしやすさ」「射程距離がアサルトライフル並」「カスタム性が高い」そして、「耐久力値が桁違い」の6つがある。特に耐久力については、運営の「レアドロ品なんだから耐久力めっちゃ高く設定してあげよかな」という思惑があるんじゃないかってくらい高い。例えるなら、7.62mm弾を当てられようがその全てを跳ね返す。ぐらい強い。もちろんシステム上壊れはするが、プラズマ・グレネードの中心にあっても壊れないし、7.62mm弾100発ぶち込まれようが「全損」はしない。精々少しひしゃげる程度で、修理屋に持ち込めばすぐ直る。

 

 普通の銃の銃口は、細く、長くなっていて、銃身はプラスチックになっていたりするが、このP-90(P)は違う。全身鋼鉄・そして、実際のP-90(P)よりも大きめに作られた銃身により、盾にもなる。普通のP-90は弾倉に透けるスケアリング加工されたプラスチック弾倉を用いるが、P-90(P)の弾倉は透けない鋼鉄仕様。P-90(P)所有者のみが買える専用の鋼鉄弾倉を使用しているのだ。もちろん、スケアリング加工された普通のP-90用弾倉を使おうとすれば使えなくはない。逆も然り。

ので、いざと言う時盾に使える。まぁ、いくら実銃よりシステム的な面で(後ザスカー(GGOの運営会社)の意向で)大きめに作られたとはいえ、サブマシンガンの域を出ない程に小さいので、胴体全体を守れたりはしないが。

 

 20秒経過

段々とスナイパーの焦りが見えてくるようで、射撃のスピードが早くなる。もう残すところ200m程。敵の使ってる銃が見えるくらいには近付いた。

 

「(R93タクティカル2……しっぶい銃使ってんなぁ。リアル猟師か?)」

 

 R93タクティカル2。ボルトアクション式単発銃。ドイツ製の高性能狙撃ライフルだ。

そんなことを考えていると、意識が逸れたのか頬にダメージエフェクトと鈍痛が発生する。ラッキーショットか、狙ったか。恐らく両方だろうが、ヒットポイントが4割削れる。流石に残り200mの距離で掠めたとはいえ頭部への.308Win弾の発生ダメージは並では無いこれ以上近付いて所謂「凸砂」のような事をされれば、ヒットポイント全損も有りうる。いよいよ油断ならなくなってきた。

 

 30秒経過

もう残すところ50m程であり、こちらも牽制射撃を始める。相手の隠れる岩場を5.56×28mm弾が抉り、敵の体にも数発当たるが、気にせず射撃を続けている。

R93タクティカル2の弾倉は5発。そろそろリロードタイムかと思い、こちらも20発近く残っていた弾倉を惜しまず交換し、一直線に駆け抜ける。とうとう岩場まで達し、岩場を足蹴にして大ジャンプ。

AGI極振り特化型の走りジャンプの飛距離は凄まじく、優に8mは飛んだ。そのまま真下に眼と銃口を向けて、発砲。

敵もR93タクティカル2を真上に構え必殺を狙っているが、あえなく外れ。コッキングなぞ許さず、全身を真上からの銃弾が襲い、ダメージエフェクトが散る。

思わずぼとりとR93タクティカル2を落とす敵プレイヤー。ここで初めて気付いたが、どうやら緑髪の女性のようだ。GGOのトッププレイヤーにしては珍しい。

 

「(運が悪かったな。こちとら世界一のスナイパーが身近に居るもんでね)」

 

 敵の体が倒れ、勝利のファンファーレが鳴る。

着地と同時に、転送が始まる。

今回は1分とかからずバトルを終わらせることが出来た。ゆっくり出来そうだなー……なんて考えながら、待機エリアへと戻る。

 

 

 

 

 

「やあシュウ。凄かったね。狂人の名はダテじゃない」

 

「やめてくれシュピーゲル……その名前は好きじゃないんだ」

 

 どうせならAGI極振り特化型なのだから、「神速」とか、もっと速さに注目した2つ名にして欲しかった。等と零しながら、アイスティーを注文する。

 

「シノンちゃんは?」

 

「あそこ」

 

 シュピーゲルが指を指したモニターには、水色の髪の毛をしたスナイパーがアサルトライフル(見た所フェドロフM1916)に押されている場面が見える。

 

「どー勝つんだろーなー」

 

「アハハ。勝つこと前提?」

 

「そりゃ彼女だし。応援するっしょ」

 

「……そうだね」

 

 少し間を置いて答えたのが気になるが、それより試合だ。いよいよ隠れていたバスの上に取り掛かられるか。といった所で、シノンがへカートⅡはそのまま身を翻す。

 

「おっ?」

 

 未だへカートⅡの銃身が見えるからそこにいると勘違いしている敵プレイヤーはバスの正面からバッと登り、先程までシノンが居た場所を蜂の巣にする。しかし、へカートⅡに弾薬がバチバチと当たるだけで、ダメージエフェクトは発生しない。

そこで、バス後部にスナイパーの時と同じように腹ばいになって「MP7」を構えるシノンを見つける。が、遅い。シノンのMP7が火を吹き、敵プレイヤーの顔面を躊躇なく抉る。

 

「彼、シノンを見つけたまでは良かったんだけど、詰めが甘かったみたいだね」

 

「まーーシノンちゃんを見つけられた時点で妥協点は上げたいな。」

 

「そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「危なかったわ……」

 

「おっかえり〜見てたよ〜バス上の攻防」

 

 そう言うと、少し口をへの字にしながら、シノンが答える。

 

「見られてたのね……早く終わった方だと思ったのに。スナイパーとして見つかるなんて失態だわ。恥ずかしい」

 

「まぁまぁ。相手が強かったってことで」

 

 シノンが戦っていたのは大きな、とても大きな十字路である。ほとんど直線で1kmの十字路で、シノンはその南側にスポーンした。

即目の前のバスの上に登り、バイポッドを立て敵を待つ。

十字路ならば必ず前を通り過ぎなければいけないし、第1回戦でも同じようなステージだった。有利とも不利とも言えない地形である。

そうして待っていると、十字路の奥に人影を見つける。どうやら直線上にスポーンしたようだ。これは楽勝だなと思い初弾弾道予測線なしの利点を生かし、ゆっくり狙って射撃。しかし、弾丸は躱された。

どうやら《遠視》スキル持ちらしい。スコープや双眼鏡、単眼鏡なしでもシノンの姿を先にとらえ、走ってきていた。

 

 シノンは即座に弾道予測線なしの射撃に切り替え、狙い、撃つ。しかし、土嚢や転がった車、鉄板などに身を隠しながら進んでくる。どうやらAGI(敏捷力)-STR(筋力)型のようで、俊敏に動き狙いを絞らせない作戦のようだ。

無駄弾を使用しないようゆっくり狙うが、どうにも掴めない。流石はB.o.B第4回戦と言った所か。

そうしてやがて1kmもの距離を詰められたシノンは、最後へカートⅡを身代わりにするようにMP7で仕留めたのである。無駄弾を使わないよう最低限の射撃しかし無かったことで、最後詰められた時射撃しなくても不思議に思われなかったのだろう。強いが、どうにも最後の詰めの甘さが招いた敗北だった。

 

「ん〜課題点は多いわね……こんなんじゃ、本戦でシュウを捉えきれないわ。あの程度の速さには慣れなきゃ……」

 

「闇風くんを凌ぐGGO一の僕のランガン(ラン&ガン。走りながら撃つプレイスタイルのこと)に補足されちゃーおしまいよ。さっきの僕の勇士を見せてあげたかったなぁ」

 

「スナイパーだったの?……どうせ、AGI任せの突撃でやったんでしょ」

 

「いやそれがさぁ。弾道予測線なしで撃ってくるの。キリトくんの出場と言い、死銃?とやらといい、今回のB.o.B、中々レベル高くない?何故かアメリカのサトライザーまで来たんだよ?」

 

「それはまぁ、確かにそうね……というか、貴方の運が悪いのね」

 

「2人とも強いよ。僕なんか足元にも及ばないくらいね」

 

「まぁねー」

 

「謙遜するとこよ、貴方。」

 

 そんなこんなしていると、キリトも第4回戦を終えて現れる。どうやら動悸は完全に納まったらしい。

 

「よっキリトくん。どうだった?」

 

「普通かな……今までと同じ、切って、切って、斬った。」

 

「うひょーこわー」

 

 どうやら今回は3人ともまだ余裕があるらしい。そんなことを考えながらシュピーゲルは3人を見つめる。

 

「(…………兄さん……どうか、早く……早く、やらせてくれ)」

 

 そんなシュピーゲルの思いは、口にも出さず、誰にも届かなかった。その双眼が貫くのは、シュウ。

そして……死銃と同じ眼をしていた。




原作との違い

とある緑髪のスナイパーちゃん、覚醒済み


今回は色々な説明回でしたね。
頭に叩き込んでおくように!

また、基本設定はSAO5.6巻ガンゲイル・オンラインーファントム・バレットーとSAOオルタナティブ ガンゲイル・オンライン スクワッド・ジャムの設定を元にしてますが、ちょいと違いがあります。
原作勢から総ツッコミを食らうような違いはありませんが、それでも「ん?そうだっけ?」って点には目を瞑って頂けると幸いです。


この度R18ver.を投稿しました!
成人済みの方はぜひ目次からご賞味あれ。

サブヒロイン候補

  • ピトフーイ
  • レン
  • フカ次郎
  • 銃士X
  • 要らない!ヤン詩乃ちゃん一筋で行け!
  • 閲覧用(作者の好きにしたらいい)

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