「ルイズ、君の使い魔はいったい、何処に行ったんだい?」
空いていた机に着席して、そうそうに投げ掛けられた嘲りを含む質問にルイズはグッと奥歯を噛み、無言で耐えた。
「どうせ、本当は使い魔が召喚出来なくて金で雇った平民だったんだろうけど、愛想を尽かせて逃げられたんだろ?」
クスクスと嫌みったらしく、静かに起こる笑いにルイズはとうとう、両手をバンと机に打ち付けて立ち上がると後ろに座る少年を睨みつけと。
「何だよ?」
「良い加減、その口を閉じたらどうよ?風邪っぴきのマリコルヌ」
「なっ!?僕の二つ名は"風上"のマリコルヌだ!この、ゼロのルイズ!」
顔を真っ赤にして言い返すマリコルヌにルイズは拳を握り、フンと鼻を鳴らした。
「貴方には風邪っぴきで充分よ!」
「なっ、何ー!この、ムグ!」
我慢の限界だと、勢い良く立ち上がったと同時に突然、マリコルヌの口を覆う様に粘土質の土が飛んで来た。
飛んで来た方向を生徒達が見ると、教室の入口に少し小太りの中年の女性が立っていた。
「ミスタ・マリコルヌ。同級生に対して、そんな態度はいけませんよ。あとミス・ヴァリエールも、挑発されたとは言え気安く買うものではありません」
女性はそう言うと教室の教卓に移動する。
「コホン、改めまして、初めまして、私はシュベールズと言います。二つ名は"赤土"これから一年間、皆さんに錬金を始めとした土系統に関する事を教えていきます。どうぞ、よろしく」
シュベールズは場の騒ぎが収まった事を確認すると往々に自己紹介を行う。
また生徒達もよろしくお願いします、ミセス・シュベールズと返事を返して満足そうにシュベールズは頷く。
「このシュベールズ、皆さんがどのような使い魔を持ったか見られるこの時が一年で一番、楽しみなのです」
実に楽しそうに眼を細めて多種多彩な使い魔を眺めて視線がルイズを捉えた時にシュベールズは不意にアッと何かを思い出した様に手を口に当てた。
「ミス・ヴァリエール。そう言えば、貴女の使い魔の事を忘れていましたわ」
「えっ!わ、私の使い魔ですか?」
苦笑するシュベールズにルイズはドクターが何か仕出かしたのかと嫌な汗が米神をつたう。
「慌てなくて大丈夫ですよ。彼が迷子になっていたのを私が案内しただけですからね。さぁミスタ、お待たせしましたね。お入り下さい」
シュベールズが扉の方を促すと、ドクターが笑顔でバンと押し開けて教室に入って来た。
「ミセス・シュベールズ!このままずっと、廊下に立たされるかと思ったよ!そして、やぁ昨日ぶりだね!ご主人様の同級生諸君!」
「あっ、あんた!何でミセス・シュベールズと一緒に来てるのよ!?」
飄々とした態度で自然に自分の隣に座ったドクターの肘を小突いてルイズは詰問する。
ドクターは、そんなルイズに小声で返答する。
「ルイズ、聞いてよ。この塔の設計は僕が担当したのにロニーの奴が僕が帰った後、勝手に手を加えたみたいで全く違う内装になっていたんだよ!そして、迷子になっていた僕にミセスが声を掛けてくれたんだ」
僕の設計だったら、この教室だってこんなに地味じゃなかったのにと、わざとらしく顔をしかめるドクターにルイズはロニーって誰よと使い魔の言動に頭を押さえる。
「ミス・ヴァリエール。使い魔との交流は後にしてもらえません?」
「あっ、すみません!」
授業中にドクターと話すルイズに気付いて注意されて、ルイズは慌てて謝った。
シュベールズは次は気を付ける様にと釘をさして、場を仕切り直す様にコホンと咳払いする。
「皆さん、魔法には四つの属性があるのはもちろん、わかりますね。では、そうですね、ミスター・ギーシュ。説明を」
シュベールズが指名したギーシュという少年はキザったらしく、前髪をかき上げると立ち上がった。
「はい、ミセス。属性は『火』『水』『風』『土』の四つがあります」
「はい、その通り。今は失われた『虚無』も含め、ペンタゴン五芒星を司る重要な要素です。中でも『土』は生活環境に根付いた、なくてはならない魔法といっても過言ではありません。これは何も私が『土』系統メイジだから贔屓している訳ではないですよ」
家や作物などの例えをあげながら、シュベールズは生徒達に土系統の重要性を説いていく。
ルイズは熱心にノートに土系統の解説を写していき、ドクターはその様子を微笑ましそうに眺めている。
「では皆さん、これより土系統の初歩、『錬金』を見せましょう」
そう言ってシュベールズは教卓に大きめの石を乗せると低く呪文を詠唱して杖を振るった。
すると、石は黄金色に輝く物体に変化した。
「そっ、それってゴールドですか!?」
生徒の誰もが驚き、シュベールズの錬金したゴールドを見詰める。
ルイズも驚き、見詰めていたが不意に隣のドクターが居なくなっていることに気付き、まさかと思い教卓の周辺を探した。
案の定、ドクターは眼をキラキラさせながらシュベールズのゴールドを確認しようと教卓の側に居てソニック・ドライバーの光を当てていた。
「いや~、この口癖は久しぶりに言ってしまうけど、本当にファンタスティック!!」
何してんのよ、バカドクター!!