結果的にはルイズは授業に間に合った。
それは良い、間に合うのは良い事だ。
しかし今、ルイズはその事にホッと安堵した気持ちに今一つなれなかった。
何故なら、この授業は本来ならば既に始まっていて自分はまだ、時間的にドクターと草原の練習場に居る筈だったからだ。
ルイズは教卓で授業を進める教師にバレない様にソッと自分の懐中時計を見てみた。
時計の針はやはり、先程確認した通りに周りの時間より進んだ刻を刻んでいる。
(本当に何なの?時間が巻き戻るなんて!そんなの、どんな魔法でも不可能の筈よ!)
何度も繰り返して考えても訳が解らなかった。
ドクターの青い箱、ターディスと言っていたが、草原に居た筈が扉を開けたとき、いつの間に学院の教室に移動していのも驚いたが、もっと驚いたのはドクターが少しこのハルゲニアを調査してくると言ってターディスごと消えた後にガヤガヤと自分のクラスメートが入って来てお互い眼を丸くしていた。
(もしかして、あのターディスって伝説の虚無に関わっている代物なのかしら?)
「ミス・ヴァリエール!」
「えっ?あ、はい!」
教師の自分の名を呼ぶ声に慌てて起立したルイズだった。
結局、ルイズは授業中にボンヤリしてならないとお小言をもらう羽目になってしまった。
そして、日が落ちて辺りが暗くなってもドクターはルイズの前に戻らなかった。
「もう、何よ!使い魔の癖にご主人様を混乱させるわ、帰っても来ないわ!こうなったら、帰ってきたらお仕置きしてやるんだから!」
決心固く、自身の部屋の前に来たルイズ。
「ドクター!」
バンと勢い良く扉を開けると、そこは今朝、ルイズが出た後とと変わらない風景が広がっていた。
ただ、違うのは暗いだけだろうか。
「何よ!部屋にも居ないの!もう、帰って来ても部屋になんか、入れてあげないんだから!」
怒髪天につくと言わんばかりに憤慨する。
しかし、一刻、一刻と時間が進むに連れてルイズの心に何とも言えない不安が襲って来た。
(ドクター、何で帰って来ないのよ。もしかして、使い魔が嫌になって逃げちゃったの?それとも・・・)
全ては、私の妄想だった?
変な青い箱に乗った変なドクター。
時間を旅するなんて、お伽噺の様な事を言う可笑しなドクター。
「ドクター・・・」
ルイズは一人、ベットに座り込み小さく呟いた。
「呼んだかい?」
「!?」
突然、窓からドクターが姿を現した。
ルイズは驚き、パクパクと口を開けた。
「ん?どうしたんだい?」
「あ、あああ、あんたね!今、何時だと思ってんのよ!それに何処から、入って来てんの!?」
「いやー、ごめんごめん!ちょっと、遠くに行ってたからね!それとルイズ、君に良いモノを見せてあげるよ!さあ、ターディスに乗り込んで!」
ドクターが、窓越しから手を差しのべる。
ルイズはそれをどうするか、迷って思いきってドクターの手を握り締めてた。
「キャッ!」
ドクターに手を引かれて窓の外に出たルイズはフライが使えないので思わず小さく悲鳴を上げて眼を瞑った。
しかし、足元に確かな固い床の感触を受けて恐る恐る眼を開けると、ターディスの中に居た。
「驚いた?ターディスの透明化機能で外からは見えない様にしていたんだ!」
透明と聞いてルイズは驚きを通り越して心底呆れてしまった。
それより、気になったのは
「ターディスって浮けるの?」
「浮けるのだけじゃないけどね。ルイズ、少し眼を閉じてくれないか?」
ニッコリと微笑みながら、言うドクターにルイズはここまで来たら、取り合えず言う通りにしてやるかと素直に眼を閉じた。
そして数分後、ずっと眼を閉じているのも飽きて来たときにドクターが眼を開けてと、耳元で優しく言われた。
「夜空?ドクター、これがどうしたの?」
開け放たれたターディスの扉には、いつもの見慣れた双子月と夜空が広がっており、ルイズは訝しげにドクターに聞いた。
ドクターはクスクスと笑いながら、扉に近付いてと言った。
ルイズは一歩、また一歩と扉に近づくと『それ』は姿を現した。
「な、何、あれは?」
眼を大きく開けて驚愕の眼差しでルイズは『それ』を見詰めていた。
「おめでとう、ルイズ。君はハルケギニア有史以来、初めて宇宙に出て惑星ハルケギニアをその眼で見たトリスティン人だよ」
ドクターは今の雰囲気を壊さない様に静かにルイズに告げた。
しかし、ルイズはそんな言葉に気付かない様にポツリと呟くだけだった。
「なんて、美しいの・・・」