使い魔の召喚の儀式。
それはメイジとして、文字通り一生のパートナーを呼び出す神聖な儀式であり、ここトリステイン魔法学院では生徒の進級に関わる大事な行事である。
皆、どんな使い魔が表れるのか、期待と不安を抱えて杖を振るわれていた。
「やったぞ!成功した!これから、よろしく」
また一人の生徒が無事に使い魔と契約をする姿に近くで指導しながら、見守っていた教師のコルベールは微笑んでいた。
たしか、今の生徒で大半の召喚の儀式が終わった事になる。
実は今年の召喚の儀式では、ある一人の生徒を除いてそこまでは心配には思っていなかった。
ある意味では今からが本番だぞと、コルベールは気を入れ直して最後の一人の名を呼ぶ。
「では、最後にミス・ヴァリエール」
コルベールに名を呼ばれた生徒が前に出て来た。
ピンク色の綺麗な髪を長く伸ばし、気が強そうな中にも幼さを残した美少女と言っても差し支えない容姿をした少女だ。
今は極度に緊張しているのか若干、表情が固く、手に持った杖をギュッと握り締めていた。
「さぁ、緊張せずに呪文を唱えなさい。大丈夫、君なら絶対に成功する。落ち着いて」
「はい」
ルイズは震える脚を抑えながら、コルベールの前に立っていた。
緊張しなくても良いという言葉に裏返りそうになりがら、一言返事を返すのがやっとの状態。
それでも、今日の為に一月以上もの準備を重ねて来た事を思い返して真っ直ぐに顔を上げてまだ、見ぬ使い魔へと視線をやった。
(絶対、絶対に成功してやるんだから!私はゼロじゃない!お願い、必ず私の前に来て!私の使い魔!)
息を一度、大きく吸い込み、ルイズは何度も練習した言葉を紡ぎ出した。
「この世界いえ、この宇宙の何処かにいる、叡知溢れ、勇敢で、気高き、私の使い魔よ!私は心の底から、求めるわ!我が導きの下、私の前に姿を表しなさい!」
勢い良く、紡がれる言葉に周りで様子を見ていた生徒達は召喚したばかりの使い魔を撫でながら、クスクスと笑いを漏らす。
ー何、あの呪文?
ーゼロのくせして威勢は良いよな
ーどうせ、失敗するわ
悪意ある言葉がルイズの胸に突き刺さる。
萎えそうになる気持ちを何とか保ち、精神をひたすら一つの事に集中させる。
そして、杖を思いっきり放り下ろした。
ドンッ!
腹に響く爆発音と共に土煙が周囲に舞い上がった。
(そんな!お願い、成功していて!)
多大な精神力を使い、その場に膝をついたルイズは自身の起こした土煙の中を一心に見詰めた。
すると、土煙の中に何とも奇妙な物が佇んでいるのが見えた。
(え?あれは、何?)
それは、小屋と言うには余りにも小さい青い箱の様な物だった。
不意にガチャッと箱の扉が開き、中から一人の上等な服を身に纏った目付きの鋭い白髪の老人が姿を表した。
老人はゆっくりと周囲を見渡すと真っ直ぐ、ルイズに視線を合わせる。
「君かね、私を呼んだのは?」
「えっ、何?」
ルイズは老人が呟いた言葉が聞き取れずに聞き返す。
「私の言葉が解らなかったのかね?何て事だ!言葉が解らないとは!」
「はぁ!?なっ、何言ってんのよ!?」
「ほら!まただ!ターディスの自動翻訳でも翻訳出来ないのか?それとも・・・そうか!君の頭の中身はプディングか!」
いきなりの発言にルイズはポカンと何も言葉が出て来なかったが、老人の発言の意味を遅れながらも理解していくと徐々に血が頭に登って行くのを感じた。
「だっ、誰の頭が、プッ、プディングですって!」
「君だ。他に誰が居るのかね?」
とくに悪びれもせずに言う老人にルイズは思わず、手に持った杖に力が入る。
「ふっ、ふざけないでよ!私が呼んだのは使い魔よ!あっ、あんたみたいな、おじいさんなんかじゃないわ!」
「ああ、やっと私の質問に答えてくれたか。使い魔か、フム。ならば、問題ないな。良いだろう!よろしく、プディングのお嬢さん」
そう言って、老人は手を出すがルイズは更に怒りがこみ上げて来て、老人を睨み付ける。
「よろしく、じゃないわよ!あんたが使い魔なんてごめんよ!だっ、だいたい!わっ、私、プディングじゃないわ!私はね、ルイズ=フランソワ「長い、ルイズで良いな?」」
名乗りの途中で遮られてしまった。
「長い名前は嫌いでは無いんだがね。これから、使い魔と主人となるんだ。フランクにいこう」
「キィー!!何なのよ!あんた!」
あまりの事にルイズはそう言うと、老人は懐から黒いサングラスを取り出して顔に掛けて、ニヤリと笑う。
「私かね?私はドクターだ」
ドクターの答えにルイズはさらに怒鳴った。
ドクター、何よ!?
気づけば、かなり時間が経ってしまいました。まだ構想は煮詰まっていないのですが、今回番外編として召喚されたのが、12代目ドクターだったらを書いてみました。