「現在ノ、状況ヲ報告セヨ」
センサーとモニターの光だけが闇を照らす部屋に数人の人影が世話しなく動き回っていた。
動く毎にガシャン、ガシャンと音を立てる中で、その内の一人、指揮官の様な物言いで周囲の人影に指示を出す。
「状況、『惑星ハルゲニア』ニオケル人口ノ2%ノ『メイジ』ノ、捕獲ヲ達成」
「改造ノ状況ハ?」
「改造ノ成功率、0.1%」
「成功率ノ状況ハ芳シク無イ。0.1%ナド、何ノ戦力ニハナラナイ」
「シカシ、改造ニ成功シタ『メイジ』ハ我々ノ予測ヨリ遥カニ優秀。纏マッタ数ヲ揃エル為、長期的ナ『プラン』ヲ提案スル」
指揮官は、その報告に一瞬、考える様に間を置くとプランを説明せよと命令を下す。
「『メイジ』ノ数ハ少ナイ。従来ノ様ニ、一気ニ全テヲ『アップロード』スル場合、必要数ノ半分以下ノ数シカ『アップロード』デキナイ。ヨッテ、『メイジ』ノ人口ヲ管理シテ数ヲ定期的ニ増ヤシテ『アップロード』スル事ヲ提案スル」
「提案ヲ許可スル」
まるで初めから、そのプランを考えていたと言う様に指揮官は間を置く事なく即断する。
「例エ時間ガ掛カロウトモ、奴トノ戦争ノ為ニ何トシテモ『プラン』ヲ成功サセヨ」
指揮官が、そう言うと窓から太陽の明かりが部屋中に入って来た。
全身を覆う鉄の身体。
慈悲や優しさと言った感情など無い様な眼。
彼らを知る者がこの場に居たら、震えながら彼らの名前を言う事だろう。
彼らは
『サイバーマン』
その頃、正確にはその数百年後、ドクター達はターディスに戻って来ていた。
「・・・広い。何で?外は小さいのに!?」
初めてターディスに入ったアンソニーは異常さに眼を白黒させながら、出たり入ったりを繰り返している。
「科学でも魔法でも、こんなのあり得ない!空間を圧縮するなんて!」
「フフン!凄いでしょう!」
自分の事の様に自慢気に鼻を鳴らすルイズに何時もは憎まれ口を叩くアンソニーは何も言わずにただ素直に頷く。
「二人とも、何してるんだ?早く入りなよ。ハルゲニアを解放しに行くぞ!」
「そうね、ドクター!取り敢えず、私の子孫が手紙を王家に書いた時代に行くの?」
「いや、ヴァリエール公爵が手紙を書いていた時代に行っても侵略者の占領は殆ど終わっていた筈だ。行っても侵略者をどうにか出来る可能性は低い」
「じゃ、何処の時代に行くのよ?」
「そりゃ、一つしかない!奴らが、この惑星に来た直後さ!」
ターディスを操作しつつ、華麗にターンを決めて言い切るドクターにルイズは訳が分からないと言った様に見詰める。
「ドクター、何言ってるのよ!ハルゲニアに来た直後なんて一番、敵の戦力が多い時じゃないの!」
「・・・いや、ルイズ姉ちゃん。悪く無いかも、来た直後なら敵は油断してる筈だし、もしかしたら、その時代に来ていたのが斥候部隊だったなら、そいつらを叩けば侵略は頓挫する筈だよ!」
ルイズは難色を示すが、アンソニーはドクターの考えに賛同する。
しかし直ぐに、でもと言葉を続ける。
「奴らが、いつの時代にハルゲニアに来た何て分からないよ」
「ノープログレム!その為のドクトルさ!ドクトルの頭の中には色々な情報が詰まってるんだ!勿論、ドクトルの制作者がいつ来たのかもね!」
「お言葉ですが、ドクター。私はドクターに頭をいじられて以来。リンクが切られて情報にロックが掛かっています」
ターディスの角で静かに佇んでいたドクトルは自分の名前を出された事に反応してドクターに自分の状態を報告する。
しかし、ドクターは気にした風もなくドクトルにソニックドライバーを向けて起動させる。
「心配ないさ!リンクはともかく、情報のロックくらい僕とドライバーに掛かれば意味無い」
「ロック解除を確認。先見隊の到着日時の情報を開示可能」
「よーし、これで良い!それじゃ、敵の司令官の土真ん前に行こう!」
「ちょっと!いくらなんでも、いきなり司令官の所に行くの!?」
「そうだよ!司令官なら、精鋭の護衛部隊が周りを囲ってる筈だよ!奇襲するなら、もっと戦力を揃えないと!」
「何言ってるんだ?僕らは戦いに行く訳じゃない」
「「はぁ!?」」
いよいよ、ドクターが何言ってるのか分からずにルイズとアンソニーは頭を抱える。
「当然さ!ドクトルを観てみろ!こんなのを造り出せる知的生命体なんだ。知性があるなら、解り合える!外交交渉できっと両者の落とし所が見つかる筈だ」
「無理よ、外交交渉何て!」
「何故だい?」
「えっ?そりゃ、そんな事したこないし、それに!国処か星の代表って事でしょ!そんな権限無いわよ!」
「誰にも初めてはあるものさ!それに千年前の公爵令嬢と千年後の女王陛下なんだから、権限なんて問題無いだろ?」
「そりゃ、私はヴァリエール公爵家の三女だけど・・・えっ?今、何て言ったの?」
ドクターの発言に眼を点にするルイズにアンソニーは帽子を深く被り直す。
唐突にドクターは手を伸ばしてアンソニーの帽子をパッと取り上げる。
途端に帽子で隠していた髪が拡がる。
肩口で切り揃えられた綺麗な髪に今まで誰かの小さい頃に似てるなと思っていたルイズは大きく眼を開いた。
彼、いや、彼女はあまりにもルイズの知っている御方に瓜二つだったのだ。
「・・・何で、解ったの?」
「これさ」
アンソニーの問いにドクターは二人に見える様に手を差し出す。
ドクターの手には一枚のコインが置かれていた。
ルイズの居る時代のコインではない。
未来のコイン。
コインの表には一人の女性の横顔が彫られている。
「改めて自己紹介を僕はドクター。アンソニーいや、アンリエッタ10世【テン】陛下」