「ここは、包囲している。抵抗は無駄だ。全員、杖を捨てろ」
突入して来た黒服が抑揚の無い声でドクター達に警告する。
恐らく、包囲されているのは事実なのだろう。
外で待機させていた仲間達には、いざとなったら派手な魔法で敵の撹乱と自分に襲撃を報せる手筈になっていた筈だった。
(それが、何の抵抗も出来ずにあっさりとこいつが侵入出来るって事は)
明らかに今まで相手にしてきた黒服達とは違う。
隠密に敵を掃討出来るだけのスキルを持ったプロ。
反射的に構えた杖をアンソニーはどうするか迷った。
(くそ!ここまでか)
「抵抗は無意味だ。大人しく杖を」
「断るわ」
黒服の言葉を遮り、ルイズがそう言い放つ。
「私が杖を捨てるのは、最期の時だけよ。あんたみたいな奴の命令で捨てる訳無いじゃない。逆にあんたに命令するわ。消えなさい。私達の邪魔をしないでちょうだい」
驚く程に明瞭でハッキリと拒絶の意思と命令を口にするルイズにアンソニーは状況が解ってるのかと横目でルイズを確認する。
杖を真っ直ぐ伸ばし、鋭く相手を見据える様はまるで現在の不利な状況を全く感じさせない。
「よくぞ、言ったぞ!流石、貴族の女の子だ!」
後ろのドクターが、やけに楽しそうに言うとテーブルの上を通り、ヒラリと黒服の男の前に出て来た。
「抵抗は無意味だ。諦めろ」
「諦めろだって?残念だが、僕の辞書に諦めるってのは載ってないんだ」
「抵抗するなら、排除する」
「やってみな」
そう言った直後、男の手がドクターの首に伸びる。
見るからに細身の男の首を簡単に折ることが出来そうな手が迫る。
しかし、ドクターが素早くソニック・ドライバーを取り出して男の眉間に押し当てると、男の手は首を掴む前にピタリと止まってしまった。
「ドクター?」
「殺したの?」
ルイズとアンソニーの二人は突然、止まった男に驚いてドクターに質問した。
「まさか!ソニック・ドライバーに生物をどうこうする力は無いよ」
「じゃ、何で動かなくなったの?」
「ああ、それはね。こいつが生物じゃないからだよ」
ドクターは言いながら、男の頭を掴むと思いっきり引っ張った。
「「!?」」
男の首から上の皮膚が剥げて剥き出しになり、金属の骨組みや小さな歯車の塊が露になった。
二人は絶句して男の頭部を見詰める事しか出来なかった。
「これって、ゴーレムなの?」
「ルイズ姉ちゃん。ゴーレムなんて、もう廃れた技術だよ。これはロボットだよ!」
「いや、こいつはある意味ではゴーレムみたいな物だ」
停止させた男にソニック・ドライバーを当てながら、分析していたドクターは難しい顔で二人に説明をし出す。
「ルイズ。君達、メイジは魔法を使う際にどんな力を使っている?」
「どんなって、そりゃ精神力に決まってるわ」
「そう、その通り!そして、こいつはどうやら、その精神力を動力に動いていたみたいなんだ」
「やっぱり、ゴーレムじゃない!でも、何でドクターはこの男がゴーレムだと解ったのよ?」
「ん?ああ、この男がカフェに入って来た時に床の軋む音がしてね。見た目のわりにかなり重そうなのと、声の中にノイズが聞こえたからね」
そう説明して、更にドクターは黒服を調べていく。
アンソニーはノイズ何て聞こえなかったと言ったが、ドクターは僕の種族は耳が良いんだよと事投げに説明する。
そして、男の胸の中心にソニック・ドライバーを当てて分析結果を確認した時に僅かに眼を見開いた。
「アンソニー。最近のメイジって数はどうなっているか解るかい?」
「えっ?あ~確か統計ではここ二、三年はメイジの数が少なくなっているって、新聞とかで読んだ気がするよ。あと、原因不明の失踪とかも最近は多いから」
「そうか」
ルイズとアンソニーの答えを聞いてドクターは怒りを静める様に息を深く吐き出す。
「アンソニー。手紙には侵略者の目的はメイジと書いていたね」
「目的は俺ら自身じゃなくて、精神力!・・・いや、でも、何でだよ?ずっと思ってたんだけど、奴等の目的がメイジの精神力だったら、とっくの昔にメイジは全滅してる筈だ」
アンソニーの疑問にドクターは今度こそ怒りを抑えきらずに声を荒げる。
「当然さ!こいつらの目的はただメイジの精神力を捕るだけじゃないんだ!こいつらは、安定したエネルギー確保の為にメイジの数をコントロールしているんだ!」
「・・・メイジの数をコントロール?」
「そうさ、アンソニー。君は二、三年はメイジが減少気味だと言ったね。でも、その前は?多かった時期があるんじゃないかい?」
「たっ、確かに一時期、メイジの人口が多くなった世代があるよ。・・・俺の世代だ」
ドクターの質問に顔を青ざめさせてアンソニーは質問の答えを口にする。
「奴等はメイジファームを作り上げる事が目的なんだ!言わば、今の時期は出荷時期ってところなんだ!」
暫しの沈黙、二人は何を言えば良いか解らなかった。
「うっ・・・ボス?」
しかし突然、聞こえて来た声にアンソニーはハッとして自分達に知らせに来た少年に駆け寄った。
「エル、大丈夫か!?」
「イテテ、大丈夫ですよ。ちょっと、頭を打っただけです!」
「ちょっと、見せてよ。う~ん、うん。大丈夫だ。血は出てないし、軽い脳震盪だ。心配ない」
「ボス!俺の事より、どうすれば良いんだ!外は黒服連中に囲まれて仲間も・・・くそ!」
エルと呼ばれた少年は悔しそうに床を殴る。
アンソニーも悔しそうに歯を食い縛る。
「皆、大丈夫だ!僕に考えがある!」
そんな二人の肩にドクターは手を置いた。