「さぁ、到着だよ!」
アンソニーの案内でルイズ一行はバスから外に出る。
そこはトリスタニアの広場で所狭しと行き交う人々と車で溢れていた。
「何て、広いの!!」
ルイズの時代の感覚では、広場は人も肩をぶつけそうなくらいの間隔しか無い。
「ルイズ、そんなにはしゃいでいたら、直ぐに迷子になっちゃうよ」
ドクターは笑いながら、お手をどうぞと手を差し出す。
ルイズはドクターの手をエスコートをよろしくと取り、キョロキョロと辺りを見渡している。
「ルイズ姉ちゃん、子供みたいだな」
「何かいった?」
「いや、何でも無いよ!ところで何処に行ってみたい?近場なら、彫刻通りって、歴代の彫刻家の作品が置かれている通りがあるし、博物館とかもあるよ」
「良いね!僕は博物館が大好きなんだ!」
正に子供の様だと言われるくらいに顔を輝かせるドクター。
「私は魔法学院とか観てみたいわ!」
「魔法学院か~。あそこも近いけど、ただの歴史ばかりの詰まらない学院だぜ?」
良いのかいと、アンソニーが問い掛けるとルイズは構わないわと強く希望する。
「了~解。じゃ、魔法学院に行くか」
博物館はその後で良いだろと、ドクターにも確認をとるとドクターもそれで良いよと言った。
行き先が決まった一行はアンソニーの案内の下、幾つもの通りを抜けて行く。
その間にもルイズはあれは何、これは何と目に入る物すべてに質問する。
「まったく、ルイズ姉ちゃんはどんな田舎から来たんだよ?」
アンソニーは呆れた様に言ってルイズを見る。
「うっ、うるさいわね!私の時には無いのが、たくさん有りすぎるのよ!」
「まぁまぁ、ルイズ。それより、アンソニー。魔法学院はまだ着かないのかい?」
「ん?ああ、もう見えてるよ。ほら、あそこ」
アンソニーが指を指した方向には、周りの建物よりも大きな洋館風の建物が周囲を鉄柵で囲まれて鎮座していた。
「あれがトリスティン科学・魔法学院」
「カガク?」
ルイズが思わず、聞き返した時に閉まっていた学院の門が開き、学生と思われる子供達が出て来た。
この時代の制服なのだろうか、一様に校章を刺繍した白いマントを羽織っている。
「あっ、科学コースの奴等だ!ルイズ姉ちゃん、その黒のマントを隠して!」
アンソニーは慌ててルイズのマントに手を掛けるが、その前には数人の学生がルイズに気が付いてニタニタしながら、近付いて来た。
ルイズがアンソニーにあいつら誰と聞こうとしたが、いつの間にかにアンソニーは居なくなっていた。
「おやおや、何だか古臭い匂いがすると思ったら、魔法コースの骨董品じゃないか」
いかにも人をバカにしたしゃべり方で話し掛けてきた少年にルイズの顔から、すっと感情が消えていった。
「君、よく見たら、美人だね。どうだい?その古臭いマントを脱いで僕らとお茶でもしないかい?」
「結構よ、ミスタ。私、忙しいの。もう、行って貰えないかしら?」
取り合わない、取り付かせないと言った風にツンと澄まし仮面で少年に言い放つルイズに一瞬、ポカンとした表情になった。
しかし、直ぐにクスクスと忍び笑いが起こってきた。
「何かしら?」
「いや、ごめん、ごめん!ミスタだなんて、死語を初めて聞いたからね。君ってもしかして歴史マニアか何か?よく見れば、その制服もデザインが古いし、昔の貴族の真似かい?」
そう少年が言うと周りの学生達は魔法コースには予算が無いから、古いデザインしか無いんだろとヤジを飛ばす。
「真似ですって?私はメイジ、本物の貴族よ!文句ある?」
「アハハハハ、本当に何を言ってるんだ?貴族なんて、何百年前の話だよ!」
少年の言葉に何ですってと、ルイズは眉を潜める。
「歴史マニアのお嬢様は、どうやら近代史に疎いらしいね!良いだろ、僕が教えてやるよ!良いかい。昔、魔法が使えるだけで世界を支配していた貴族は科学が徐々に発展していった事で、その役割が無くなって行ったんだ。そりゃ、昔は万能だったらしいけど、所詮は個人技能でしかない技術なんて、万民が平等で使える科学が発達すればお払い箱だよね。そして、無能になってしまった貴族の社会が崩壊して、貴族制は廃止。今では、科学の片隅で申し訳ない程度に伝統技術として細々、生き長らえているよ」
此処までで質問はミスと少年は子供に常識を教える様な態度でルイズに言い放つ。
ルイズは澄ました仮面が外れて、悔しそうな表情になり、今にも懐の杖を抜き放つ様に固く握った。
「そこまでだ。諸君!ここで無駄話をする暇なんて無いだろう」
そんな、ルイズを見てドクターは学生達に声を掛ける。
「あんた、誰だ?」
「僕はこう言う者だ」
「!?」
ドクターがサイキックペーパーを見せると学生達は途端に青ざめた様子になった。
「僕の目の前で、こんな少女をいじめるとはね」
「いえ、いじめでは無く!ただ、お茶に誘おうと」
「では、誘い方が不味かったな」
「すみません!」
「もう、良い。さぁ、何処となり行くが良い。ただし!明日の朝までに今の反省文を、そうだな百枚に描いて提出するように!」
ひゃ、百枚と学生達は慌て出すとドクターはもっと追加されたいかと脅して学生達は逃げる様に走り去って行った。
「大丈夫かい?」
心配げに声を掛けると、ルイズは顔を上げてドクターを見上げた。
「貴族が無くなったなんて!それじゃ、王族とかはどうなったの!?」
「ルイズ、落ち着いて」
「王族は無くなってないよ」
いつの間にかに姿を消していた、アンソニーが声を掛けて来た。
「着いてきて、落ち着ける所で話そう」
そう言って歩き出すアンソニーにルイズ達は着いて行った。