目覚めたタツヤを待っていたのは、新たな失望だけだった…
意識がだんだんと覚醒していく。
水面から浮かび上がるようにゆっくりと。
「また…ここか…」
前に一度見た天井が広がっている。
医務室の天井だ。
「今回は、誰もいないのか」
横を見るが、レーアやルルの姿は見えない。
別に悲しいわけじゃないが、来てくれないと何かモヤモヤする。
「無茶しすぎたかな、流石に体が怠いや」
ベッドの上で休んでいたのにもかかわらず、体の倦怠感は取れなかった。
眠気によりだんだんと意識が遠のいていった。
そして再び俺は深い眠りについた。
だいたい2時間くらいした後に、俺は艦内に響き渡る振動によって目を覚ました。
「…なんだ?」
重い体を無理やり動かし、外の状況を確認する。
「あ、あれは!」
すでにウイングとエクシアは出撃していた。
「俺も出ないと!」
すぐさま更衣室に向かい、パイロットスーツを着用。そのままインフラックスの元に向かう。
「艦長代行!1番のハッチを開けてください!」
通信で司令室に呼びかける。
返して来たのは当然ルルだった。
「た、タツヤさん!?医務室にいるはずではないんですか!?」
「話は後です!早く俺を出撃させてください!」
「ダメだ」
俺の出撃を止めたのはマドックだった。
「副長代行!なぜですか!」
「今の君では、戦場に出ても足手まといになるだけだ、おとなしく医務室に戻りたまえ」
俺が、足手まとい?
インフラックスを持ってしても足手まといなどと言われてしまった。
「レーアとカレヴィは出撃しているのに、俺は出撃してはいけないんですか?」
「そうだ、これは君の身を案じたからこそだ、分かったならば体を休め、万全な体制で戻って来たまえ」
「…了解…」
俺はインフラックスを降り、医務室に戻った。
「…足手まとい…か…」
俺は忘れていたのかもしれない。
俺は無力な一般人である事を。
インフラックスという力を手に入れ、俺は自分が強いのだと錯覚していたのだろう。
「うっ…ぐっ…」
自分の無力さに、涙が流れてしまう。
仲間を助けられない非力さに、自己嫌悪感が湧いてくる。
俺は、自分自身に失望した。
泣き疲れて知らぬうちに寝てしまった俺が目を覚ましたのは、かなり後のことだった。
「俺は…俺はどうしたら…」
静かにドアが開き、医務室に入って来たのはレーアだった。
「体の方は大丈夫?」
「…レーア…俺…どうしたらいいのか分からないよ…」
俺はもう完全に弱気になってしまった。
「どういうこと?」
「なぁ、レーアは戦闘中に、俺が足手まといだって思ったことあるか?」
声を震わせながらなんとか言えた。
「一体何があったの?なんでそんなに悲しむの?」
「俺…ずっと忘れてたんだ…俺が非力な人間なんだって事…何も守れない…無力な人間なんだって事…」
「タツヤ…」
俺はもう、全て打ち明けたかったのだ。
自分の弱さを、惨めさを。
「ご、ごめんな、こんな事急に聞いちゃって…今の事、忘れてくれ…」
レーアはパイロット仲間というだけで、俺の個人的な問題をどうにかしてくれるような仲ではない。
そんな彼女に俺はなんて事を言ってしまったのだろう。
「タツヤ、あなたは無力なんかじゃないわよ」
「…え?」
「だって、あの時私を助けてくれたじゃない」
レーアがトールギスに攻撃されそうになったのを止めたのは、まさしくインフラックスだった。
「あれは…ただの偶然で…俺の力じゃない…」
「そうかもしれない、でも私を助けてくれたことは事実じゃない」
「…それは…」
「それに、アークエンジェルを助けたのも、民間人を守り抜いたのも、全部あなたの行いなのよ?」
デンドロビウムを倒し、アークエンジェルを守った。
軍隊から居住区を守った。
それはタツヤが命をかけて守ったものに違いはない。
「…でも、俺は…」
レーアはゆっくりと俺に近づくと、優しく抱きしめてくれた。
「っ!」
「タツヤは強い人よ、だから、これからもアークエンジェルを、みんなを守って…」
レーアの声は小さかったが、それ以上に一言一言が脳裏に焼きついた。
「…レーア…ありがとう…」
数秒くらいそうしていると、レーアは俺を解放してくれた。
我に返ったらしく、顔を真っ赤に染めていた。
「?どうしたんだ?」
「別に…なんでもないわよ…それじゃあ私は他の用事があるから!」
急ぎ足で医務室から出て行ったレーア。
そしてジャスト入れ替わりでルルが入室してきた。
「タツヤさん、先ほどはすみませんでした」
「先ほど?ああ、俺の出撃を止めたことか」
ルルはうつむきながら、申し訳なさそうに俺に謝った。
「本当にごめんなさい、タツヤさんの気持ちを踏みにじってしまって…」
「ルルが気にかけることは無いよ、それに俺もあの判断のおかげで助かったわけだし」
「ですが…」
「ルル、相手がいいって言ってるからいいんだよ」
今の俺に言えるのはそのくらいしかなかった。
「さて、俺は充分休んだ、今から出撃するよ」
「…わかりました」
俺は医務室の扉を開け、インフラックスの元へと向かった。
「よぉ、具合は良くなったのか?」
途中で出くわしたのはカレヴィだった。
「あんまり無茶するなよ、お前はあくまで民間人なんだからな」
「へいへい…そういえばレーアは?」
「さぁな?そういえばさっき顔真っ赤にして自分の部屋に向かってた気がするな」
俺は何も悪いことはしていない。
そう、していないはずだ。
「ま、疲れてるんだろうよ」
「そ、そうだな」
そんな話をしているうちに、モビルスーツ格納庫に到着した。
「それじゃ、いっちょ頑張ろうぜ」
「へっ、大暴れしてやんよ!」
俺とカレヴィは拳を打ち合わせ、自分のモビルスーツに搭乗した。
今回は次作の都合上かなり短くなっています。
誠に申し訳ございません。
これからもガンダム CRIMSON COMETをよろしくお願いします。