これより、本格的なパイロットとしての生活が始まるのだった。
GP03デンドロビウムを倒し、アークエンジェルがある港に向かっている途中。
「それにしてもお前さん、どこで操縦を覚えたんだ?」
カレヴィは、俺に問いかけてきた。
別に特別な訓練をしたりはしていない、というかそもそも俺は民間人だ。
「何度も言うようだけど、俺はただの民間人で、操縦なんてこれが初めてだよ」
「でもなぁ、お前さんの動きは初心者のレベルをとうに越してるぞ?」
そんな呑気な会話をしているうちに、アークエンジェルが見えてきた。
「アークエンジェル、こちらレーア、着艦許可を願います」
「了解、着艦を許可します」
着艦許可を取り、そのままMS格納庫に直行する。
「あれ?他にモビルスーツは無いの?」
格納庫には、モビルスーツを収容するスペースはあるが、肝心なモビルスーツが一機も無かった。
「多分エイナルが捨てさせたんだろうな、全くいらねぇ事しやがる…」
各自モビルスーツを収容し、アークエンジェル内に入る。
ひらけたフロアで俺を待っていたのは、カレヴィとレーアだった。
「よぉ!」
「なんで待ってたんだ?」
「つめたいなぁ、仲間同士少しは絆を深めようとは思わないのかねぇ?」
頭をぽりぽり掻きながら、カレヴィが言ってきた。
「ま、とりあえず改めて自己紹介だ、ウイングガンダムのパイロット、カレヴィだ、よろしくな!」
「エクシアのパイロット、レーアよ、さっきはありがとう、助けてくれて」
「インフラックスのパイロット、沙月タツヤです、2人ともよろしく」
カレヴィの差し出してきた手を左手で握り返す。
突然、凄まじい激痛が左掌に襲いかかった。
「なっ!?」
あまりの痛みに、膝をついて左手を押さえる。
「お、おい!どうした!」
痛みに耐えきることができずに、だんだん意識が遠のき、そのまま俺は気絶してしまった。
「ちょっと!タツヤ!」
「おい!しっかりしろ!」
2人の呼び声も、すぐに聞こえなくなった。
目を覚ますと、目の前には真っ白な天井が広がっていた。
「…ここは?いてっ!」
左手の痛みは消えていなかった。
「あら、目を覚ましたのね」
俺が寝ていたベッドの横で、レーアが本を読んでいた。
「レーア、ずっとここにいたの?」
「ええ、カレヴィは艦長代行に色々と報告があったりしていないけど、それより左手は大丈夫なの?」
俺は左手を見てみると、包帯がぐるぐる巻きにされていて、少しだが血が滲んでいた。
「俺の左手に何があった?」
「分からないわ、医者が言うには、結構重度の火傷らしいわよ」
火傷というのもおかしな話だ、パイロットが左手を火傷するということはどう考えてもありえない。
「あ、そういえば…」
俺はふと思い出した。
GP03デンドロビウムの巨大レーザーを左手で受け止めていたことを。
もしかしたらあの時になんらかの事故で俺の左手が焼けたのかもしれない。
「そういえば、次の目的地はどこなんだ?」
「次は月の中立都市、フォン・ブラウンらしいわよ」
フロンティアⅣからフォン・ブラウンまではそこまで遠くなく、ただでさえ民間人がぎゅうぎゅう詰めになっているアークエンジェルは、補給やら資源確保やらが必要だった。
「じゃあ私はもう行くわ、ちゃんと安静にしてなさいね」
そう言うと、レーアは部屋を後にした。
「はぁ…あの爺さん、なんで俺なんかにあの機体を…」
俺は、インフラックスと出会った時のことを思い出した。
モビルスーツから逃げ惑い、たどり着いた倉庫でインフラックスに出会った。
今でも鮮烈に覚えている。
闇に溶け込む黒い装甲、光を灯さなくとも輝く赤いカメラアイ。
「俺は…このまま戦った方がいいのか?それとも…」
俺の独り言を遮るかのように、1人の少女が入室してきた。
「タツヤさん、大丈夫ですか?」
「艦長代行ですか…見舞いに来てくれるなんて、随分とお優しいんですね」
ルルは少しだけ微笑むと、手に持っていたトレーを渡した。
「お腹空いてると思って、持って来たんです」
確かに腹は減っていた。
タイミングよく、俺の腹からぐぅぅ〜という切ない音がなった。
「ええ、ナイスタイミングですよ、ルティエンス艦長」
「敬語はいらないですよ、名前もルルで大丈夫ですから」
優しく微笑み、俺のベッドの前の椅子に腰かけた。
「ルルは、なんでアークエンジェルに来たんだ?」
「私は本来、移送任務に就いていた身でしたが、この非常時なので、アークエンジェルの艦長代行に就任することになりました」
ルルは少し首をかしげると、今度は俺に質問して来た。
「そういうタツヤさんこそ、どうしてモビルスーツに乗ったんですか?」
「逃げ惑ってたところを助けてもらったからな、それから生きるためにあれに乗ったんだよ」
まだ俺は、インフラックスがなんなのかも、あの爺さんが何をしたかったのかも知らなかった。
ただ分かることは、今の俺にはインフラックスを使って戦うことしか道がないということだった。
「そうですか、タツヤさんはこれからも戦う気でいるんですか?」
「そりゃ、人殺しは嫌だけど、あの機体を持った以上、俺には逃げるって選択肢は無いからな」
「タツヤさんは強いんですね、私はまだ、艦長代行としての役割を果たせていません」
ルルの持って来た食事を食べ終え、横に置いてあったおしぼり的なもので口を拭いた。
「ルルはいい艦長になれるよ、今はまだ、自分を出せないだけだ、急がずに、自分のペースで歩を進めればいいよ」
俺の言葉を聞き、ルルは輝くような眩しい笑顔を見せた。
「ありがとうございます!おかげで元気出ました!それじゃあ私はこれで、タツヤさんはゆっくりと休んでくださいね」
ルルは立ち上がり、空のトレーを持って部屋を後にした。
食事をした後だからなのか、眠気に襲われて俺はそのまま眠ってしまった。
いったい何時間経ったのか、ふと目を覚ますと、窓には月が見えていた。
「あれが、目的地か」
艦内アナウンスが流れた、その声の主は紛れもなくルルだった。
「みなさん、これより本艦は、月の中立都市フォン・ブラウンへと着艦します、艦を降りる方は、速やかに準備を整えてください、繰り返します…」
ここの薬はよほどよく効くのか、左手の痛みはほとんど残っていなかった。
「俺も出るか…」
アークエンジェルは、月の中立都市へと着艦した。
小説って書くの意外と難しいもんですね…
今回は戦闘シーン無しでしたが、次からはバンバン戦闘シーンを入れていきたいと思います。