#19 イエローカード1/2
大会二日目は僕が説教による二徹をさせられた事以外は滞りなく終わり、事件が起こったのは三日目のバトルボード準決勝だった。
渡辺先輩に追いすがる七高の生徒が突如暴走し、それを受け止めようとした渡辺先輩が巻き込まれる形で負傷してしまう。
彼女がボードから投げ出された選手を受け止めようとした際に一瞬水面が不自然に揺らぎ、それによって彼女は体勢を崩してしまった訳だ。
千葉さんがレースの最中に『海の七高』と彼らを称して居た事からこの手の競技にはめっぽう強いんだろう、となると明らかにオーバースピードとなる無謀な操作を選手がするはずが無い。
この暴走自体が細工された物とするなら渡辺先輩の体勢を崩したのも同一犯、外部から魔法を使用するのは警備のレベル的に骨が折れるだろうし、内部犯か選手の内の誰かが悪意を持って仕組んだってのが一番可能性が高いかな?
………まぁ、今回はイエローカードは出さないであげよう、彼女は確かに風紀委員会でお世話になってるし、同じ学校の先輩で世間話をする程度には交友はあるけれど、所詮それだけだ。
流石に死んでしまったら多少は思う所はあるかもしれないけれど、僕自身の最優先がテスラであり次点が達也君達と言った友人達だ、僕の中での彼女の順位はそれほど高くはない。
寧ろ何故七高の生徒を見捨てなかったのか?と言う疑問を感じてる、優勝を目指すのなら昨年争った相手の自滅に巻き込まれるなど論外、僕なら確実に見捨ててただろう、相手の魔法師生命が絶たれるような事故に繋がるのなら確実にね。
と、そんな風に考える様になってしまった自分に気がついた僕が深い溜息を零し、年々発想がレガ様に近付きつつある事に内心で涙しながらも大会四日目にして新人戦初日の今日に至る。
そんな僕の様子に気が付いたのか会場までの道中でテスラが僕の手を握り『応援頑張るね?』と言ってくれたのでブルーな気持ちは吹っ切れた、彼女は僕の担当エンジニアだからかっこ悪い姿は見せられないしね。
緊張感なんてものは疾うに四散していたので問題は無い、あとは僕と彼女が揃えば誰にも負けない事を示すだけ、やり過ぎない範囲でだけど。
そんな事を考えていたら僕の出番が来たので、くるくると拳銃型のCADを回しながら所定の位置へと向かう。
スピードシューティング、そのまま早撃ちって呼ばれてるこの競技は制限時間内に打ち出されてくる百枚のクレーの破壊数を競う競技な訳だけど、問題が無さすぎて正直負ける気はしない。
有効得点範囲は決まってるけど、要は其処に入った瞬間に撃ち落とせば良いだけの代物なので遊びも無い中々に作業感溢れる競技で少しがっかりしてる。
予選開始のブザーが鳴った瞬間にCADを構えて得点範囲に入ったクレーを最速で撃ち落とす、無論こんな真似をしても得点が変わる事は無い事は分かってるけど、初日からやらかした身としてはこの辺りで名誉挽回しとかないと肩身が狭い訳なんですよ。
なので一切のミスショットをせず、最速で全てのクレーを撃ち落とす事で僕の実力をアピールする、僕の前の試合で北山さんが面白い魔法を使ってたらしいから何処まで効果があるかは分からないけどねー。
当たり前だけど結果はパーフェクト、対戦形式になる準決勝以降はもう少し梃子摺るかもしれないけど、その程度だ。
「余裕の勝利だよテスラ、君のおかげだ」
「そんな事ない俊の実力だよ、だってそのCADは俊の早撃ちについて行けてないでしょ?」
「まぁ大会の規定があるから仕方ないさ」
普段から
準決勝以降に使う予定のCADはまだ反応が良いから今よりコンマ1秒ほど早く撃ち落とせるとは思うんだけど、さてどうなる事やら。
新人戦の予選は僕と森崎君の二人が勝ち抜き、残りの生徒は予選落ち、非常に楽な予選だったので鼻歌交じりに準決勝へと挑む為に用意されたCADを手にしたんだけど、その際に違和感を感じた。
細工だろうか? 基本的にこのCADはテスラが管理して居たのだから他人が直接細工を施せはしない、従ってこれを細工しようと思った場合、彼女からコレを受け取る必要があるわけだ。
人間不信のテスラがCADを渡す相手はその必要がある人間、運営側の人間と言う訳か……イエローカード一枚だ、次こんな真似したなら末端の構成員諸共挽肉にしてやる。
よく見ると照準がズラされている、これじゃ10m離れただけで7〜8cmは着弾がズレるだろうが、やれない範囲じゃないな。
テスラに調整して貰おうか悩んだけど、時間が足りないので断念、態々能力使って創り直して貰う程のものでも無いのでそのまま出場する羽目になった、なんでこんな新人に細工しますかねぇやるなら派手な魔法やった北山さん相手でしょうに。
そんな事を思いながら三高との対戦へと望む、単純な妨害目的なら独走が確定した女子組より一人欠けの男子組を妨害したくなるのは分からないでも無いけど、ケンカ売る相手間違えたね。
そんな静かな怒りを滲ませた準決勝は僕の圧勝に終わる、二色のクレーが飛び交う中、予選以上に的確且つ最速で全てのクレーを撃ち落としてやったから当たり前っちゃ当たり前か。
こうする事で『貴様らの妨害など無意味』だと言うアピールと僕自身の実力を見せ付ける事で二度目以降の手出しをさせない事が目的だった。
けど残念ながら細工をされた状態で酷使したからか決勝戦途中でCADが故障し、僕は二位と言う結果に終わってしまった。
対戦相手の吉祥寺とか言う生徒が若干残念そうな顔をして居たけど、それより先にやる事が出来たから碌な会話も交わさずに会場を後にするのだった。
––––この試合の少し後、大会実行委員の一人が行方不明になり、その夜に敷地内のゴミ箱に筋肉と血液が入り混じった物体が詰め込まれて居たのを巡回の警備員が発見したことは全然関係のない話だ。
無頭竜の構成員が演習場で暴れてる達也と主人公の組手を見る→あいつヤベェから一応用意だけしとこう→結果行方不明者一名。
この流れでサクッと人間ミンチにする主人公、何だかんだ死人出さない様にしてた無頭竜さんとは比べ物になりませんねぇ……(震え声
あとゴミ箱に箱詰めされたミンチは某子安ボイスの魔界探偵に出て来た赤い箱に似た状況です(白目