終末のイゼッタ 黒き魔人の日記   作:破戒僧

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Stage.6 崩落の峠

 

 

1940年5月18日 イゼッタ視点

 

私は、イゼッタ。

『魔女の力』を受け継ぐ一族の……最後の末裔。

 

そして今は……姫様こと、オルトフィーネ大公殿下の元でその力を振るっている。

 

姫様の国、『エイルシュタット公国』が、隣国『ゲルマニア帝国』によって侵略される危機に瀕している今、それを救うために私は、姫様に力を……全てをささげると決めたから。

 

……そう、あの時の……姫様が身を挺して私を助けてくれた、あの時のお返しのために。

 

そして、姫様が作ってくれる、『皆が明日を選べる世界』のために。

戦争で、死に場所すら選ばせてやれない……って嘆く姫様。そんな優しい姫様なら、いつかきっと、成し遂げてくれる。そのためになら、私は何だってしてみせる。

 

姫様の即位式でお披露目を終えた後、私は帝国軍と何度も戦い……そして、打ち破ってきた。

 

「見ろイゼッタ……どの新聞もお前のことを一面に押し出しているぞ! やはり、帝国軍を打ち破る魔女の存在……作り話でも痛快だが、現実となれば拍手喝采というわけだな!」

 

そう言って私を抱き……は、はわわっ、ひ、姫様ちょっ、そんないきなり!

 

し、失礼しました……取り乱しました。

 

ともかく……そう、嬉しそうに言ってくれて、抱きしめまでしてくれたのが……フィーネこと、姫様。私がお仕えしている、このエイルシュタットの大公殿下です。

 

姫様は最初、『この国の問題に巻き込むわけにはいかん!』って、私の参戦を拒んでいたけど……その、えっと……私、無断で出撃しちゃって……。

 

その戦いで大勝利した後は、正式に姫様に協力することになりました。

そして、姫様の即位と同時にお披露目して……姫様の部下である、ジークさんやエルヴィラさんのぷ、ぷろ……ぷろでゅー、す? のもと、内外に私の存在を喧伝してる感じです。

 

今日は、今後のことを話し合う会議なんだけど……な、何度出席しても慣れないなあ……私やっぱり場違いな気がする……。ここにいるの、偉い人ばっかりだし……。

決めてくれたことを私がやる、って感じで全然いいのに……。

 

ま、まあでも……こうして姫様はうれしそうにしてくれてるし、この国も帝国から守れているし……首相さんも、将軍さんもみんな笑顔だし……いいか。

 

「しかし、この地図を見る限り……やはり、思ったよりも広いですな。魔法が使えない範囲が」

 

うっ、そ、そうだった……それが一番の問題だったんだ……忘れてた……。

 

将軍さんに言われた通り、私は……『魔女』は、いつでもどこでも魔法が使えるわけじゃない。

大地の下を通る、魔力の大きな流れ……『レイライン』と呼ばれる範囲の上でないと、魔力が使えない。それに、そのレイラインの大きさ次第で、使える力が強かったり、弱かったりする。

 

例えば、私が最初に戦った『ケネンベルク』っていう場所では、すごく大きなレイラインが通ってたから、大きな力をいくらでも使えたけど……ここ『ランツブルック』には、レイラインが全然通っていない。だから、私はここでは……ただの非力な女の子と同じなのだ。

 

その『レイラインの地図』を、この国の山奥にあった『魔女の城』で見つけることができたけど……それでも、根本的な解決にはなってない。

場所がわかっても、いざそこで戦うことになれば……私は役立たずなんだから。

 

そのことを謝ったら、将軍さんに慌てて『い、いやいや、責めているのではない!』って謝り返されちゃったけど……ホントに、私も……いつでも同じように力が使えたら、もっと姫様の役に立てるし……ゲールがどこからどう攻めてきても、戦えるのに、って思う。

 

……そして、その直後だった。

まさに、狙いすましたように……帝国軍が侵攻を始めた、っていう報告が入ったのは。

 

しかも、その場所は……『ベアル峠』。

よりによって……レイラインが全く通っていない場所。

 

すぐさま、補佐官のジークさんが『手は考えてあります』って言ってくれた。

私の弱点を隠し、なおかつ帝国軍を追い返すための戦略は、すでにあるって。

 

頼りになるなあ……魔法が使えるだけの私なんかより、よっぽどすごいと思う。

こんな時でも、まったく動じてなくて……平常心なんだもん。頭もいいし……すごい。

 

……今回は、私、役立たずだな……やっぱり、悔しいな。

 

でも、そんなこと思ってても仕方ない……私は私のできることをして、少しでも、姫様たちのお役に立たないと……。

 

そうすれば、きっと上手くいく……

姫様の、この国の……いや、世界の未来のために……この戦い、負けるわけには、行かないんだ!

 

 

 

そして、その数日後。作戦決行の当日。

 

私は……本当は、私に似た体格の人を選んで、替え玉で作戦を実行しようとしていたところ、無理を言って代わってもらった。本当に私が、戦いに出るために。

 

ビアンカさんをはじめとした、近衛の皆さんは……危険だからって心配して止めてくれたけど、私、できることは全部やりたいから。

 

私が出れば、ええと……魔法は使えないけど、私に変装するはずだった近衛の人も作戦に参加できて、より効果的……だと思うし。あと、カメラで撮影とかされるかもしれないし。

だったら、撮られても大丈夫なように、ちゃんと私が出た方がいい。

 

作戦の内容は……ただのトリックというか、インチキだ。

 

簡単に言えば、近衛の人たちが色々やるのを、私が魔法を使って引き起こしているように見せかける、というもの。

 

例えば、私と同じ服を着せた人形を対戦車ライフルに乗せて、ヘリコプターで引っ張って飛んでるように見せるとか。

 

敵が銃を撃とうとしたら……近衛の人たちが隠れて狙撃して、それを妨害するとか。

 

そして、ベアル峠には古い鉱山があって、鉱道があちこちに通っているそうなので……それを利用して、敵が布陣した場所を地下から爆破、山崩れを起こして……それを私が魔法でやったようにみせかける、とか。

 

その時に使う呪文、姫様が考えてくれたんだけど……な、なんかちょっとややこしくて……しかも、姫様の趣味?入ってるような気がして……長いし……。

 

ええと……大地の精霊……あ、あれ、土の精霊……だっけ?

 

……正直、覚えるの大変で……替え玉断ったの、ちょっと後悔したり……

 

と、ともかく! 色々大変だったりしたけど……どうにか、作戦はうまくいった。

近衛の人たち、すごく狙撃上手で……帝国兵の射撃をきちんと妨害してくれて……山を崩すのもうまくいって、帝国軍を一網打尽にできた。

 

実際にそれ、見てて……私がホントにコレできたら、逆に怖いな、とも思ったけど……。

 

全滅させられたわけじゃないけど、これだけの被害を出せば、勝ったと同じだって……ビアンカさんやジークさんが言ってた。えっと、たしか……何割敵を減らせば、それで勝利したことになる、って……うぅ、やっぱり私頭悪い……思い出せない……。

 

「作戦成功です、イゼッタ様、お戻りください」

 

「あ、はい、ありがとうございます、わかりました。えっと……あとはお任せして?」

 

「ええ……この後、同盟国から来た義勇軍部隊が横撃をかける予定です。全滅させられる見込みも十分ありますよ」

 

と、呼びに来てくれた近衛さんが言ってくれた。

これで今回は解決した、って言っていいんだよね。

 

帝国兵はもうほとんど残ってないみたいだし、山が崩れてまともな行軍なんてできない。これで撤退するだろうし……援軍も来るんだって!

 

って言ってるそばから……あれかな? 見える。

逃げていく帝国軍に突撃していって……もうすぐ追いつくかな、あれなら。

 

さすがはジークさん、こんなところまで考えて準備してくれてたんだ。

 

よかったー……緊張したけど、これで今回も勝………………あれっ?

 

「あの……近衛さ、じゃなくて……ルイーゼさん、でしたっけ?」

 

「はい? どうしました?」

 

「その……あそこにいるアレも、義勇軍の人たちですか?」

 

「アレとは……っ!? て……帝国軍、の……増援!? バカな!?」

 

驚くルイーゼさんの言葉に……私も、顔から血の気が引いて、背筋が寒くなっていくのを感じた。

 

て、敵の増援……!? そ、そんな、もう作戦の仕込みは使っちゃったのに……どうしよう……!?

 

山の反対側に見える……しかも、さっきの人たちと違って、やたら大砲やら、私が使ってるのと同じような大きなライフルを多くもって布陣している人たちを見て、私は何も、できることが思いつかなかった。

 

☆☆☆

 

「こ、こんなことが……山を、崩すなんて……」

 

「これが、これも、魔女の力なのか……」

 

「し、司令部、応答を……だめだ、山のふもとにあったから、今の土砂崩れで……」

 

「銃も効かなかった……こ、これでは戦いなど……て、撤退しか……」

 

 

『――エイルシュタット方面軍、臨時前線司令部より、本戦域全体へ通告。傾注せよ。繰り返す、本戦域の全ての帝国軍、傾注せよ』

 

 

パニックになりかけた兵士たちの元に……ノイズ交じりの電子音が届く。

エイルシュタットによって行われているであろう通信波妨害を振り切って届けられたその通信はしかし、多くの将兵にとって、聞き覚えのない場所からのものであり……欺瞞情報ではないかと、疑う者も多くいた。

 

しかしそれも、次いで告げられた言葉を耳にした途端……現金にも霧散することとなる。

 

 

『こちらは帝国軍参謀本部所属、第7特務大隊隊長、テオドール・エリファス・フォン・ペンドラゴン少佐である。現刻をもって、エイルシュタット攻略軍新総司令官、ルーデルドルフ准将閣下の命により、本戦線の前線指揮官を継承した。援軍と連携し、速やかな撤退戦および、突出してきた敵軍伏兵の迎撃並びに包囲撃滅を指揮する。繰り返す……』

 

 

「ぺ、ペンドラゴン……今、ペンドラゴンって!」

 

「こ、『黒翼』!? あの……ノルドの、ソグンの英雄か!」

 

「すげえ! しかも、指揮系統がこれで復活する。援軍まで……た、助かるぞ!」

 

戦場の流れが……再び、変わりつつあった。

 

 

 

 


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