終末のイゼッタ 黒き魔人の日記   作:破戒僧

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Stage.54 死の世界

 

1940年12月24日

 

ごめん、無理、休ませて。

 

 

1940年12月25日

 

昨日と同じく。無理。寝る。

 

 

1940年12月26日

 

……まだ無理。

 

 

1940年12月27日

 

……とりあえず、色々と落ち着いたというか、ひと段落ついたので、そろそろ書くか。

 

やれやれ、クリスマスもイヴも、仕事漬け……それも、今までで最悪に気分の悪い中で過ごすことになったな……。まあ、忙しいのは今も続いてるんだけど。

こりゃ、年末年始も何もないな、事後処理で三が日まで余裕でつぶれそうだ。

 

日記を書くのすら億劫だった3日分も合わせて書くとしよう。

 

さて……さる12月24日。ゲール軍、そしてゾフィーとの最終決戦。

こっち有利で進んでたんだけど……その途中、とんでもない知らせが入ったことで……戦線を放棄して撤退せざるを得なくなった。

 

もっとも……その判断は、何一つ間違ってはいなかったんだけども。

 

何が起こったのかって? じゃ、簡潔に言おう。

 

 

 

……アトランタのクソ野郎共……デスドレンに原爆落としていきやがった。

 

 

 

ゼートゥーア閣下が放っていたアトランタへの密偵からの情報で、『アトランタが新型爆弾の火力実験をやりたがっている』という情報を事前にもらっていた。

そして、『それを積んだ戦闘機が今『デスドレン』に向かっている』という情報が入った。

 

それで慌てて動いた。全軍を撤退させ、上空を警戒しながら、僕自身はイゼッタとゾフィーを回収するために動いた。ほら、あの2人の戦ってるところに近づけるのなんて、僕ぐらいだし。

 

この地域での僕らの戦いを利用して、双方に大打撃を与えて合衆国の介入の口実にするために、また、あわよくば『魔女の力』を持っている僕らを亡き者にするために、

 

あの……かつて僕が日本人だった頃の祖国にも落とされた、最悪の兵器を……使いやがった。

 

もっとも、これまでアトランタはそれを使ったことがない。戦闘ではおろか、実験でも。

今回のは、火力実験的な意味もあったんだろう……だからってどうこうないけど。

 

どうやら、ゲールに責任を擦り付ける方向で動いているらしく、すでに情報操作が始まっていた。ゲールの軍部の一部が暴走して、開発中の新兵器を実戦で、無許可で使った、って。

 

……こっちに、爆弾とは別に刺客まで送り込んどいて、白々しい。

 

『ガウェイン』で逃げて、どうにか効果範囲から脱出した僕らを……休憩中を狙って、特殊部隊っぽいのが襲撃してきたし。明確に殺意をもって。

当然、僕の義眼の前ではそんな隠形は意味をなさないので、カウンタースナイプで蹴散らした。

 

その後、証拠として死体と捕虜――生け捕りには、ゾフィーに使うつもりだったスプレーを使った――を2人分ずつと、装備品を回収した後……逃げようとしている残敵を、『ガウェイン』のハドロン砲(もどき)で、隠れている木立こと消し飛ばして全滅させた。

 

死人に口なし。殺そうとしてきたんだから、文句、ないよね? 答えは聞いてない。

 

ともあれ……こんな感じで、いよいよアトランタがこちらを……正確には、強大すぎる戦力を持っている僕ら『魔女の力』保有者と、その所属する国家を敵視していることは明確になった。

 

これ以降は……『不安要素』『不確定要素』じゃなく、『敵』として扱うことになるだろう。少なくとも、参謀室の机の上では。

 

もう、あそこは信用できない。

普通に協力してくれるわけがない。確実に裏で動いて、こちらの寝首を掻こうとしてくるはずだ……仮にそうでなくても、協力の代償に、足元を見て何を要求してくるかわかったものじゃない。

 

それについては、危うくイゼッタを殺されるところだったフィーネ達も同意のようだ。世界の状況を憂う仲間としてアトランタの参戦(を前向きに検討)を喜んでいたフィーネは、ショックを受けたようだったけど……以前からジーク補佐官とかベルクマン中佐とかが言っていたことだったからか、そこまででもなかったっぽいな。

 

幸い、と言っていいのか……もはやゲールに、こちらに抵抗する力は残っていない。

僕らが撤退を始めたのを見て、これ幸いと踏み込んで追ってきて……その結果、原爆の炎に飲み込まれ、比喩表現抜きの『壊滅』に追い込まれた。もう、戦う力自体ないだろう。

 

来月の頭には、ノイエベルリンを抑えられるだろうと見ている。

抵抗もないだろう。というか、できないと思う。

 

何度も言うが、もうあの国にそんな余力はない。

 

軍隊は壊滅している上、ゾフィーはこっちで捕獲したんだから。

 

そのゾフィーは、現在、体がボロボロだったので医療施設に入れられて、面会謝絶の状態だ。

落ち着いたら、取り調べもかねて会いに行くことにしているけど……今のところ、書けることはなにもない。

 

しいて言うなら……すごく素直に、こちらの指示に従ってる、ってことくらいか。

まるで、もうやることはやりつくしたというか、燃え尽きたというか……そんな感じらしい。

 

それはさておき……一応、爆心地になった『デスドレン』の現状についても話しとこうか。

 

……書くことは、多くない。

何せ、ほとんど何も残ってない上……その周辺地域は、惨劇の一言だ。

 

爆風、熱、衝撃波……色々なものに蹂躙されつくし、原形をとどめていない死体がそこかしこに転がっている。建物はほとんどが破壊され、原型をとどめているのなんて一割もない。

 

……これ以上は、ちょっとホントに、凄惨すぎて何も言いたくないな。

 

教科書でしか見たことなかった、戦争の悲惨さ、ってもんを……改めて目の当たりにした。

 

アレ関連の後処理は、まだまだ続くだろうけど……まずは、前に進むことを考えなきゃ、だな。

 

まずは、ゾフィーへの尋問と、軍の再編成、そして……ゲールの制圧、戦争終了。

 

これを達成すれば……まずはホントに一区切りなんだし。

 

 

1940年12月29日

 

『デスドレン』関連のことで、いいニュースがあった。

 

爆破の跡地は……日本の時よろしく、放射能汚染があって……逃げ伸びた兵士たちの一部にも、放射能症の症状が見られた。

放っておけば、重篤な事態になる可能性がある者もいただろう。

 

だが……それを何とかするめどが立ったのである。

 

結論から言ってしまうと、『GN粒子』を使う。

 

あれを、継続的に浴びせるだけ。それだけで、全ての問題は解決した。

 

本家本元の奴だと……この粒子って、大出力で放出したものを浴びると、体の中の毒素とか病気とかが直っちゃったりするんだよね。再生治療が不可能だった傷が治るようになったりとか。

理由というか、メカニズムはよくわからんけど。

 

スパロボに参戦したときは、老化スピードが3倍に加速する呪いじみた症状すら治してたな。クロスオーバーの美味しいところだ。

 

コレで放射能もなんとかなんないかな、と思って試してみたら、放射能症は治るし、汚染地域は除染できるしで……いやあ、GNドライヴ様様だわ。

 

現在、大型のGNドライヴを搭載してある僕の『ガウェイン』で『デスドレン』の除染を進め、同時にイゼッタの『ランスロット』に搭載されているそれで、兵士たちの治療と軍の備品の除染を行っている。年内には、どちらも何とか完了しそうである。

 

……魔女の力より、よっぽど魔法だな、と思った。

 

 

 

1940年12月30日

 

……ホントになんというか、年の瀬にゆっくりさせてくれないこと。

 

明日、急遽出撃することになった。

目標、ノイエベルリン。目的、皇帝の首。

 

どうやら……帝国の敗北が決定的になったからだろうか、官僚連中が続々と逃げ出し始めている、あるいはその準備に奔走しているとかで……

 

すでに閣下たちが包囲網を構築しているので、残さず確保しているらしいんだけど……これはちょっと放置してはおけないな、ってことになった。

そういうわけで、繰り返すが急遽、皇帝をもう抑えてしまうために、出撃するわけだ。

 

面子は、少数精鋭。パッと行ってパッと帰ってくる。

 

あんまり放っとくと、野望が途絶えたのを悲観して自害しちゃうかもしれないし……さっさと捕まえよう、うん。

 

……これに関しては、そんなに書くことはない、な。

今日はもう寝よう。明日は早い。作戦行動に影響が出ないようにしないと。

 

 

1940年12月31日

 

 

 

………………マジかよ。

 

 

 

……僕が、

僕の、生まれが、

正体が、

 

 

 

……ああもう、わけわかんない、畜生。

 

 

 

 


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