終末のイゼッタ 黒き魔人の日記   作:破戒僧

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Stage.5 偽りのエリートコース

 

1940年4月27日

 

『魔女』の誕生、各国への喧伝から数日あまり。

帝国は軍の再編成を終え、エイルシュタットへの再侵攻を決定。すぐさま前線で待機中の軍に対して命令が飛ばされ、進軍が始まった。

 

……まあ、厳しーだろうけど。相手に、あれだけの力を持つ『魔女』がいるって時点でさ。

 

マリーとニコラが持ち帰った情報というか映像は見せてもらった。

 

トリックを使った痕跡はなし。何よりも、自らも本物の『魔女』であるマリーがそう断言している以上……このイゼッタという娘は、本物の魔女なんだろう。

 

同時に聞いた話では、戦闘にこの力を使った場合……こないだうわさで聞いた内容のそれより、準備によってはさらにすさまじい戦果を出せるであろうことが示唆されている。

 

……無理だろうなー……それこそ、レイラインのない土地で戦いでもしなけりゃ。

それだって、こんだけ大々的に魔女の存在を喧伝した以上、対策くらいはしてるだろうし……。

 

無駄足とわかって突っ込まされる、最前線の将兵たちには申し訳ないけど……しばらくの間、僕らは高みの見物をさせてもらおう。先発隊がぼろ負けして、僕らに出番が回ってくる日まで。

 

……しばらくは間があるだろうが、確実にそうなるだろう。いつかは。

 

なぜなら、今日、僕に辞令が出たからだ。

エイルシュタット侵攻軍の後詰めとして、南方への展開に参加せよと。

 

今まで僕は、アレス、マリー、二コラを部下に据えて……テルミドール共和国の戦線に参加していた。開戦後間もない時期からずっと、参謀将校として。

 

そもそも国力に差があったし、電撃戦でサッと片が付いたので、特に何もやることなかったんだけど……これでもそこそこ帝国軍では有名人なので、士気高揚の目的もあったそうだ。

 

加えて、戦力を国外に逃がそうと考える共和国の軍に対し……それをあらかじめ読んで、浸透させておいた部隊を使って軍港を抑えてそれを抑止したので、物資も兵力もろくに国外に持ち出せなかった共和国は、ほぼ全てを外国に頼って亡命政権を立てている状態だ。

 

首都の無防備都市宣言をして、そっちに目を向けさせている隙に、反撃のための戦力を国外に逃がして再起を図る……という、共和国軍の目論見は、キレイに潰させていただいた。

 

……またアニメ知識が役に立った。

某『自由共和国』みたく、国外に戦力を逃がされて徹底抗戦とかされたんじゃ、泥沼になるからな……ほぼ再起の希望が途絶えた代わりに、被害は最小限になったので勘弁してね。

 

後顧の憂いを断って、共和国首都の占領記念パレードに参加し……通りの両脇から、共和国民の恨みや憎しみ、不安、悲しみに満ちた視線を浴びながら行進した。参謀として従軍した上に、きちんと戦略提言してとどめさしておいてなんだけど……居心地悪かった……。

 

マジでゲールいつか出たい、と思ってたところに、今回の辞令である。

ホントにもう……人を休ませるということをしてくれない国だ。

 

ちなみに……余談ではあるが、その辞令を持ってきてくれた人の名は……レルゲン中佐という。

 

初めて会ったのは、軍大学を卒業した直後で……僕の直属の上司ってことでだったんだけど、いやマジでびっくりしたもんだ。めっちゃ知ってる名前だったから……。

 

すわ、『この世界、幼○戦記か!?』と思ったものの……魔法なんて存在しない(あるけど)世界だとすぐに思い直し、ただの平行世界の同一人物だと納得した。ス○ロボで慣れてる。

ついでに調べてみたが、帝国軍には幼女の参謀将校もいなかったし。

 

……もしかして僕も、デグさんみたく警戒されてたり……します?

 

まあ、それはさておき……この『イゼッタ』なる魔女と、僕が戦場で戦うことになるのも時間の問題、というわけだが……あー、鬱だわ。マジもんの魔女相手に戦略で立ち回らなきゃいけないとか……チート相手に通常装備で挑むのがどんだけ難しいって話だよ。

 

せめてもの慰めというか、物量や兵器の質はこっちが圧倒的なので、それうまく使うしかない……か。

 

……それにしても、だ。

 

この魔女の『イゼッタ』って娘(映像は白黒だけど、話通りなら、赤い髪)…………

 

 

 

……何か、どっかで見覚えあるような気が…………?

 

 

 

……というか、待て。『イゼッタ』?

 

……戦争中……ヨーロッパ……イゼッタ……

赤い髪の、何かにまたがって飛ぶ『魔女』もとい『魔法少女』…………あっ!

 

 

 

……ひょっとしてこの世界……『終末のイゼッタ』か?

 

 

 

1940年5月9日

 

ゴールデンウィーク? そんなものなかったよ。

帝国軍が前線で負け続けな時に、後詰めの参謀将校に暇などあろうもんか。

 

……うん、エイルシュタット攻めてるうちの軍、負け続け。

 

イゼッタちゃん……強すぎ。

そしてエイルシュタットの皆さん、報道に気合い入れすぎ。

 

ファ○ネルみたいに馬上槍飛ばして、戦車とか貫いて爆散させるわ……戦闘機撃ち落とすわ……改造した対戦車ライフルでうちの軍まとめて吹き飛ばすわ……。

しかもそれを、戦場に招待した報道陣の方々に撮影・取材させて宣伝しまくるしまくる。

 

速い上に小回りが利くもんだから戦闘機で太刀打ちできないし、戦車とかテレキネシス能力利用して投げ飛ばして投擲武器にしてくるんだからもー……怖えーよ。

 

というか、対戦車ライフル……威力強くね?

いや、乗ってる途中でハンドルで射撃したり、ペダルで薬莢排出できたり、座りやすいようにサドルついてたり、明らかに改造されてるんだけどさ……それ以上に、明らかに本来のカタログスペック超えた威力っていうか、最早レールガンっていうか……

 

一発放つだけで一小隊、約30人まとめて吹っ飛ばされたって話だし……明らかにおかしい。

魔力で強化でもしてるのか? マリーはそんなことが可能だなんて一言も……いや、エイルシュタットの魔女には可能なのかもしれない。

 

しかしそれにしちゃ、爆弾とかを飛ばして攻撃する際の威力はその爆弾通りだし……うーん?

 

マリーの話では、魔女の力はまだまだ未知の部分が多いらしいし……それを研究するのも、僕らの目的に必要なこととして僕らが行っていることだ。

 

……もしかしたら、その辺僕、知れてたかもしれないんだけどな……ああ、惜しい。

 

こないだ、今更ながらに思い出した……僕、この世界知ってるわ。

というか、やっぱりコレ、アニメの世界っぽい……『終末のイゼッタ』っていうタイトルの。

 

第二次世界大戦っぽい世界を、イゼッタっていう名前の魔法少女が戦い抜いていく……っていう感じのストーリーだったはずだ。確か。

 

 

……それしか知らないけど。

 

うん……見てないんだ僕。それ。

 

 

CMでそういうのがあるって知ってただけで……中身までは知らない。全何話なのかも、イゼッタっていう娘以外の登場人物も、細かい舞台設定も能力設定も知らない。

 

あー! ちょうどその頃ネットTVで見てた『幼女○記』か『メイ○ラゴン』か駄女神か駄天使だったら、全話3回ずつ以上はオンデマンドで見てたから、はっきり覚えてるのに!

特に『幼○戦記』と『メイド○ゴン』は超見てたから、セリフまで覚えてる自信あったのに!

 

CMだけ見て『一挙放送? でも時間ないしな……』ってスルーしちゃったよ畜生!

勝手に想像して、『リ○カル』とか『まど○ギ』みたいに、魔法の力を持った少女たちが戦場で全力全壊バトルファンタジーやんだろうな、とか思ってたよ! 能力バトルものだと!(実話)

全然違うじゃん、魔法チート無双じゃん畜生!

 

……過ぎたことを悔やんでも仕方ない。

今この世界で、僕にできることをやっていくしかないだろう……。

 

幸い、こっちにも全く情報がないわけじゃない。

こちらにはこちらで、本物の魔女であるマリーがいる。どうやらできることやその規模は、イゼッタちゃんとはかなり違うようではあるけども……基本的なところは同じだろうから、武器にはなるだろう。レイラインの情報とか。

 

後は……彼女の話や、彼女の家に伝えられてきた情報をもとにして、ひそかにニコラに頼んで作ってもらってる……各種アイテムとか、ね。

 

しかしそれを、帝国に報告とかするつもりはないけども。

……そこまでの義理はないし。僕らの個人的な私物だからね。

別に国に忠誠を誓ってないからね、僕ら。軍人だけど、その立場を利用してる感じだから。

 

まあ……ゲルマニアに大敗されたり、無くなられるのもこまるから、一応頑張るけども。

 

 

 

ともかく、だ。このままいくと……僕らの出番もおそらく近い。

 

すでに、現総司令官のルートヴィヒ中将も負けが込んでいる。更迭されるのも時間の問題、とまでささやかれているし……後詰めの僕らが駆り出されるのも、そう遠い未来じゃあるまい。

 

そうなったら……というか、そのための今回の『少佐』への昇進なわけだからな……。

やれやれ、エリートコースに乗ったはずが全然うれしくない。過酷な戦場への片道切符を渡されたに等しいわけだからな……。

 

……まあ僕らの方も、表向き、参謀本部の期待を背負ってエリートコースを歩みつつ、裏ではその立場を利用していろいろ『偽って』るわけだから、ギブアンドテイク、と考えるか……。

 

で、だ。

いざそうなった時に……これだけの戦果をたたき出せる魔女を相手にするとなると……色々、準備がいるな。けど……対抗手段がないわけじゃない。

 

……こっちとしても目的があるし、死ぬのもごめんだ。

悪いが……抗わせてもらうぞ、白き魔女。

 

 

 

 


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