終末のイゼッタ 黒き魔人の日記   作:破戒僧

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Stage.44 魔女の力の使い方

 

第1作戦『レミングスの餌箱』。

状況を整え、一気に敵に大打撃を与えるために大部隊を誘引するもの。

 

今回の場合、『イゼッタおよびフィーネの確保』という吉報を『餌』として用意し、これに乗じて一気にエイルシュタットを攻め落としてしまおうと考える軍部を突き動かした。

 

そして第2作戦『大空と大地の精霊』。

 

かつてイゼッタがやった、『大地の精霊ノーム(以下略)』をパワーアップさせて再現するもの。ただし、今度は地すべりだけではなく……ゲリラ豪雨もプラスする。

 

丘陵地に差し掛かったところで作戦実行。3分の2くらいが通過したタイミングで……テオがあらかじめ用意して、エイルシュタットの近衛達とマリーに渡しておいた新兵器が猛威を振るう。

 

事前に作戦ポイントに先行していた近衛たちは、ニコラに教わった通りの順番と量で薬品を混ぜる。そうしてできた薬液をじょうろに入れて、大量に用意してあった謎の緑色の粉にかけると……ほぼ無色無臭の気体が大量に発生して天に昇っていき……数分後には大雨になって降り注いだ。

 

突然のゲリラ豪雨に戸惑いつつも、丘陵地がぬかるみだす前に足を速めて抜けようと、進軍を止める気配のないゲール軍。しかしそれもまた、レルゲンら参謀将校たちの予想通り。

 

そして、同じく別なポイントに待機していたマリーは、基盤部分についていて、外からも見える歯車を『魔女の力』で高速回転させるだけで発動できるようになっている『輻射波動機構』を使い……地下に走っている水脈を沸騰させる。

 

その結果……丘陵地でかなり大規模な地滑りが起こり、豪雨のせいでそれに気づくのが遅れたゲール軍のど真ん中に直撃。それによって多数の兵士たちが飲み込まれ……さらに、行軍の前半と後半が分断されてしまった。

 

しかも、まだまだ続く豪雨は、その合流を許さない。

 

このままでは第2の豪雨はもちろん、二次遭難すら危ぶまれる中……丘陵地帯の向こう側に雨は降っておらず、少し進めばこの雨を抜け出ることができると気づいたゲール軍は、必死で足を動かして前へ進む。

 

そして、ようやく雨の降っている丘陵地帯を抜けたそこには……黒の騎士団と、多国籍義勇軍が左右から迫ってくるという地獄が待ち受けていた。

 

「畜生……どうなってんだよ!?」

 

「魔女がいなくなったエイルシュタットを蹂躙するだけのっ……簡単な任務って話じゃ!?」

 

「まだエイルシュタット着いてねぇだろうがよぉぉォォォ!」

 

豪雨の中を抜けてきたことで、大なり小なり疲労を抱えている上……銃器がやられないように防水の袋に入れていたことで対応が遅れた。その結果……2方向から挟撃され、またたく間にゲール軍は総崩れとなっていく。

 

嗜虐欲のままにエイルシュタットを踏み荒らすはずだった彼らは……エイルシュタットの土を1歩たりとも踏むことなく、次々に討ち取られていくのだった。

 

ここまでが、第3作戦『真昼の死神』である。

 

その一方……同時に、第4作戦『黒き豊穣への貢』もまた進んでいた。

 

地滑りで分断された、ゲール軍の後ろの3分の1。地すべりに飲み込まれた数を考えれば、4分の1程度にまでなっているかもしれないが。

 

そこで……雨の中だろうとお構いなしに襲い掛かってくる、野生の獣たちによって、ゲール軍は蹂躙されていた。

 

この時期、この地域の獣は、冬眠前で気が立っている。加えて、突然の地すべりによるストレスなども考えれば……手近にいた餌兼サンドバッグに襲い掛かるのも、ある意味自然なことだった。

襲い掛からない場合は、また別な薬品でけしかけるつもりで、ニコラが用意していたのだが。

 

さらに、先の地すべりには……以前ゲール軍が不法投棄した金属ゴミなどが大量に含まれていた――無論、わざとここに前もってテオらが集中させておいた――ため、それに巻き込まれて死んだり、負傷して血を流している者が多い。その匂いもまた、獣を呼び寄せる原因になっていた。

 

そして、ここから先もまた……ゲール軍がどれほど必死になって抵抗しようとも、それはテオ達の手のひらの上であり……逃れられない絶望の中、終わりへ向かって歩いていくだけなのだった。

 

☆☆☆

 

(くそっ……くそくそくそくそぉっ!! こんな……こんなことがっ!)

 

時間にして、それから少し後のこと。

 

ヘイガー少佐と、その部下たちは……まだ正式な名前すらない『収容所』の中、狭い通路をがむしゃらに走っていた。

 

未だ、頭のどこかでこの事態を信じられず……懸命に、必死で否定しながら。

 

少し前まで、すべてが順調だった。

このまま、最早抵抗する力など残っていないエイルシュタットを、圧倒的な物量と兵器の質を誇るゲールの軍が蹂躙する……そして自分はそれを見送りながら、この戦争における最重要人物の一人である、エイルシュタット大公を本国は帝都・ノイエベルリンに送り届ける。

 

そうして、数多の歓声をもって出迎えられ、皇帝直々に賛辞の言葉をもらい、昇進ないし栄転を確約される……そのはずだった。

 

しかし、ふたを開けてみれば……祖国からやってきた本隊は、通信の向こうで、次から次へ降りかかる災厄によって阿鼻叫喚の中にある。地すべりに豪雨、さらにそれを抜ければ、待ち構えていた敵軍の奇襲によって総崩れにさせられる始末。

 

しかし、元々の数の多さゆえに、本隊の何割かはそれを逃れてこちらに来る。

それを、深追い、というほかない形で追ってくる、義勇軍と思しき者達。

 

それを撃滅し、さらに味方を助けるべく……『収容所』の基地にいた味方の兵たちが外に出る。人数が多いため、第1陣と第2陣に分けて出撃することになった。

 

……が、ここでも予想外の事態が起こる。

 

先に出撃した第1陣が、逃げ延びてきた本隊と合流し、基地からのバックアップを受けながら、愚かにも深追いしてきた者達を迎撃しようとしていたところ……基地側から迫ってきた第2陣によって背後から奇襲をかけられたのである。

 

もちろんこれもレルゲンらの作戦……第5作戦『撒き餌と底引き網』。

 

逃げてきた帝国軍の『本隊』を『餌』にして、基地内にいたゲール兵士を第1陣として出撃させ、標的をひとまとめにする。そして、第2陣……『反戦派』に与する兵士たちがそれを、義勇軍たちと連携して挟撃する形を取る。

 

その位置は徐々にずれて、道を開けるようにするが……それで基地に逃げ込もうとすると、今度はすでに『反戦派』の手に落ちている、というか最初からその拠点としての扱いだった基地から攻撃が加えられ、気づけば3方向から逃げ場なく攻め立てられている……という状況が完成。

 

最早外の軍が絶望的だと見たヘイガーは、すでにこの基地は自分にとって安全な場所ではないと悟り、一刻も早くフィーネを連れて出ようとするが、そのフィーネもいつの間にか行方が知れなくなっており……そもそもここに自分の、ゲールの味方がどれほどいるのか、という点に思い至る。

 

はっとして、自分が連れてきていた部下たちを集めようとすれば……すでに建物内でも戦闘が始まっているようで、騒がしい音があちこちから聞こえてくる。

 

それを知ったヘイガーは、今あるこの身以外の全てをあきらめ、今いる部下たちだけを連れて脱走を図ったのだった。

 

ふとした拍子に思い出す……ほんの数分前に発覚した、衝撃の事実。

 

(まさか、まさかあの若造が……ペンドラゴンが……! いや、それだけではなく……ゼートゥーア閣下やレルゲン大佐までもが、祖国に反旗を翻そうとしているとは!)

 

ぎりり、と奥歯を噛みしめ……怒り、いらだち、焦り、その他さまざまな感情を脳内でごちゃ混ぜにしながら……ヘイガーは走っていた。それらを振り払おうとするかのように。

 

(だ、だが……考えようによってはこれは好機だ! 奴が帝国を裏切ってエイルシュタットについたとなれば、国家反逆罪の適用は確実! その情報を早急に帝国へ持ち帰れば、私の首もつながるやも……いや、それどころか上のポストが空席になる分、昇進も……ならば、少しでも手柄を持ち帰らねば! とりあえず、もともと殺す予定だったベルクマンの始末と、可能なら大公を……)

 

……そのように、冷静によく考えれば、ほぼ破たんしていると言っていいような自己説得を頭の中で行いながら……彼は、必死に逃避していた。

追い詰められる自分の心身を、少しでも慰め、負担を軽くするために……無意識に。

 

自分が今や、敵地のど真ん中にいるという、生還の見込みが限りなく小さいという現実がもたらす不安感と絶望感により、精神が追い詰められる。

 

それと同時に……彼は、彼らは今、身体的、ないし生命保持的な意味でも追い詰められていた。

 

ちらっ、と一瞬、後ろを振り返るヘイガー。

そこには……武器を除けば、人影はない。

 

追っ手のようなものは、誰も追いかけてきてはいない。

……今まで、ずっとだ。

 

にもかかわらず、ヘイガーらは『追い詰められていた』。

 

それが示すものを……未だ、ヘイガーらはうまく理解できないでいる。

目の前で見ても……なお。

 

――ガガガガガガガ……!!

 

「ひ、ひぃぃぃいいっ!」

 

「し、少佐殿……またっ!」

 

「落ち着け! 走れ、早く先へ……壁に近づくな! 何が出てくるか……」

 

言い切る前に、突然、何の前触れもなく……部下の1人がいる場所の床がぱかっと開き、その部下は悲鳴を上げながらその穴に吸い込まれて消えた。穴は、すぐさま閉じてしまう。

 

そのさらに次の瞬間には、壁の一部が『どんでん返し』のようにぐるんとめくれ上がり、それに巻き込まれた別な部下が、壁の中に叩き込まれた。

 

さらには、走っている通路の天井が落ちてきて……大部分は死に物狂いで走りぬけたものの、2人ほど間に合わずに、いわゆる『吊り天井』のトラップで潰された。

 

これと同じような調子で……今までに何度も、何人もやられていた。

人は追ってこない。代わりに……建物自体が牙をむく。

 

あらかじめ設置されていた罠……などという生易しいものではない。まるで、この建物そのものが意思をもって、ヘイガーたちを喰い殺そうとしているかのように、ピンポイントに攻めてくる。

 

もちろん……そんなわけはなく、ちゃんとタネはある。

タネというか、その元凶は……そこから直線距離にして数十m離れた場所で、デスクについて悠々とココアを飲み、書類に目を通しながら、固定無線機の向こうからの報告に耳を傾けていた。

 

『報告! 敵部隊A、全滅。落とし穴に半分、もう半分は釣り天井に潰されました』

 

『敵部隊B同様です、密室トラップからのガスで7割、それを逃れた3割のうち半分は落とし穴でリタイア、もう半分は火薬で吹き飛びました』

 

「報告ご苦労……担当する部隊が全滅した者は本来の持ち場に戻って指示を請え。残りは引き続き監視を続けろ……オーバー」

 

そう言って無線を切るテオ。

その向かいに座っているベルクマン少佐が、ひゅう、と口笛を吹いて笑みを浮かべる。

 

「まったく大したものだね……ホームだとは言え、一歩も動かずにここまで敵の精鋭部隊を蹂躙するとは。本当に、魔女の力というものを敵に回すことの恐ろしさを痛感するよ」

 

「事前に準備してたからですよ。それに、これが初の運用ですし、いくつか改善点もあります」

 

ここは、収容所の一角にある、士官用の休憩スペース。かなり広いそこで、軽食とお茶を取りながら、テオとベルクマンは書類を手に簡単な打ち合わせや確認、報告作業を行っていた。

その傍らには、テオの護衛兼従者として控えているニコラもいる。

 

そして、打ち合わせの片手間に……テオは、この『収容所』そのものを使って、内部にいるゲール勢力の掃討を行っていた。

 

「現に……うーん、これは……トラップの配置が甘かったかな」

 

「? どうかしたのかい?」

 

「数人ほど抜けてこっちに来るようです。多分もうすぐその扉から……」

 

言い終わらないうちに、同様の内容の報告が無線から入り……さらにその十数秒後、扉が開いて、デストラップの数々から逃げ延びてきた、ヘイガーの部下たちが駆け込んできた。

 

「はぁ、はぁ……こ、ここは……っ!」

 

「あ、あなた方……いや、き、貴様らはっ!」

 

荒い息の状態で、部屋に入ってきた敵数名。

妙にリラックスしてくつろいでいる、いかにも余裕がありそうな様子の裏切り者2人――テオとベルクマンを見て、怒声を浴びせようとするだったが……直後に背後で惨劇が起こる。

 

たった今開けた『扉』……両開きの引き戸式で、金属製の割と重いそれが突然閉まり、そこに立っていた1人が挟まれ、肉がつぶれて骨が砕ける異音とともに圧死した。

そして床が開き、その死体は落とし穴に吸い込まれて消える。

 

「なっ、なっ……!?」

 

「おぉ、お見事。いやぁ、楽できていいね、これは」

 

その惨劇に声が出ない他の兵士たちと、おかしそうに手を叩いて称賛するベルクマン。

その視線の先にいるのは……もちろん、たった今これをやったテオである。

 

「ん……だいぶ思い通りに動かせるようになってきた。いやあ、不謹慎を承知で……やっぱ生きた人間が練習相手だと、タイミングとか計る練習もできてためになるな」

 

「それは重畳。どうせ処理するなら少しでも何かの役に立てた方がいいしね……しかし、君は本当に面白い発想をするね? まさか……建物全体を武器として扱うとは」

 

周囲を見回しながら言うベルクマン。

 

その言葉通り……今現在、この『収容所』の建物そのものが、魔力によって操られるテオの武器だった。

 

最初からそういう扱いをする前提で作られたこの基地は、部屋や通路のいたるところに、侵入者迎撃や緊急脱出等に使えるギミックが組み込まれている上、各フロアが明確に区切れるラインによって区分されている。そのため、それらを『魔女の力』で適宜発動させていくことで、普通の建物が、たちまち侵入者を食い殺すトラップハウスに変貌するのだ。

 

落とし穴や吊り天井は当たり前、階段が折りたたまれてスロープになったり、壁の溝から突然剃刀の切れ味の刃が出てきたり、突如部屋の扉が閉まって密室になり、水やガスが出てきたり、しまいには区画そのものが動かされて間取りが変えられてしまったりもするのだ。

 

タワーディフェンス系のゲームで、プレイヤーがダンジョンの間取りを動かしたり、タイミングを見計らって敵をトラップで仕留める、といった風に、どこかにいて魔力を使うだけで、テオはこの建物内に入ってきた全ての敵を相手にできる、というわけである。

 

今も……『ふ……ふざけるなぁ!』と、半分裏返った声で叫びながら、こちらを銃で撃ってきた残りの兵士たちの攻撃を、床から金属製のブロックを競り上げさせて防御。

 

さらにテオは、そのブロックをしまわないまま……懐から銃を取り出した。

 

それを見て、ベルクマンは首をかしげる。

テオが取り出した銃が……どう見ても、おもちゃかそれに近いものだったからだ。

 

かなりよくできているが、それを見破れる程度にはベルクマンの観察力は鋭い。

 

実際、テオの取り出したそれはただのガス式の訓練用模造銃……強力なエアガン、と言っていいものである。改造してガスの容量や威力を上げてあるが、実銃には遠く及ばない。

 

弾倉に込められているのも、実弾ではなく訓練弾。金属製ではあるが、尾部に火薬も込められておらず、撃ってもせいぜいケガをする程度。当たり所が悪ければわからないが、とても実戦で、人を撃ち殺す目的で使えるものではなかった。

 

何せ、撃った弾丸の飛んでいく軌道が余裕で見えるレベルだ。そんなスピードに加え、威力も弱く、さらには射程も短い。そんなものが、実践の場で役に立つはずもない……本来なら。

 

しかし、これをテオが……『魔女の力』の使い手が使うと話が違う。

 

「固定観念に縛られてちゃ思いつかないのかもね……『ものを思い通りに動かす』ってことがどれだけ便利で汎用性があることなのか。どう扱えばどれだけの成果が出るのか」

 

言いながら、テオは……斜め上、天井以外何もないところに向けて、発砲。

ぱしゅ、ぱしゅ、という……実銃よりもだいぶ音量的に静かで、何か抜けるような音が下かと思うと、だいぶ遅い速さで金属製の弾丸が飛んでいき……

 

90度近く急カーブした上に急加速し、ブロックの向こうの兵士たちに襲い掛かった。

 

「ぎゃああぁああ!?」

 

「だ……弾丸が、弾丸が曲がった!? し、しかも、い、威力が……」

 

ぱしゅ、ぱしゅ、ぱしゅ

 

今度は普通に、水平に……ブロックにぶつかる軌道で放たれる弾丸。

しかし、またもや急カーブし、ブロックを回り込みながら急加速して兵士たちの体を貫く。

 

そのまま反対側に抜け……180度カーブ=Uターンしてまた襲い掛かる。

 

「君が使うと、繰り返し使える頑丈さだけが取り柄の訓練弾が、たちまち誘導弾丸か……恐ろしいね、本当に。実弾でも同じことができるのかい?」

 

「音速突破で飛ぶ実弾は、速すぎてさすがに……そうですね、狙撃する際に、せいぜい飛んでいく1発を操って確実に当てる、くらいしかできないと思いますよ? 神経使いそうですけど」

 

「OK、それを聞けただけで、この陣営に寝返った自分の判断の正しさを再認識できたよ」

 

そんな軽口をたたき合う2人。

 

その時、どうにか誘導弾丸から逃げ延び、ブロックを迂回してきた兵士……おそらくは最後に生き残ったらしい3名が、決死の表情でこちらに突っ込んできた。

 

走りながら銃を構え……しかし、それよりも早く、2度の銃声が響く。

 

テオとベルクマン中佐が、1発ずつ放った銃弾。それらは、正確に兵士たちの心臓を撃ち抜いていた。

 

そして、残る一人が、狙いを定めさせないように左右に動きながら走ってくる中……テオが壁に手をついて新たなトラップを発動させる。

 

床に穴が開いた。

しかし、落とし穴ではない。その穴は……テオ達と兵士の間の床に、丸わかりな形で……3つ、開いたのだ。

 

そして、その中から……

 

「な、ななな……何だコレはぁああ!?」

 

「……これはまた、しゃれた演出だな?」

 

中から出てきたのは……全身が白骨で、ボロボロになったエイルシュタット軍の制服を着ている……骸骨の怪物だった。

1つの穴から1体ずつ……合計3体。

 

這い出たそれら……『スケルトン』とでも呼ぶべき怪物たちは、動揺していて隙だらけの兵士にまとわりつき……あごの骨をカタカタと言わせながら、その動きを封じ込め、銃を奪う。

 

「ひ……ひぃぃいい!? やめろ、やめろぉ!」

 

さながらそれは、無念のうちに死んでいったエイルシュタット軍の兵士の亡霊が、祖国の敵を地獄に引きずり込もうとしているかのような光景だった。

 

恐怖のただなかにある兵士は……その恐怖から解放する慈悲ともいえる、1発の弾丸によって、この世を去った。

 

「……使うかどうかはともかくとして、作ってみたわけですが……やっぱ使わなきゃもったいないですよね」

 

「……まあ、言わんとすることはわかるけど……適当気味に作った割には精巧だったね」

 

……当然というか、あれらが本物の亡霊であるはずもなく……テオが用意したギミックである。

 

白骨死体のように見えるが、あの骨の体は超硬合金製で、銃弾で撃たれても傷一つつかない頑丈さを持つ。金属光沢は、わざと汚して消してあった。

着ているボロボロの軍服も、もう使えなくて捨てる品をフィーネからもらって、ダメージ加工と血ノリでそれっぽく仕上げたものだ。

 

そして、関節は目立たないよう黒塗りにしたワイヤーでつなげ……出来上がったのが、あの超合金骨人形である。

それを、テオが魔女の力で操っていたのだ。

 

なぜあんなものを作ったかというと……今回のように、銃器を持った敵を、室内で相手にする際……相手に向けて突っ込ませるためだ。

屋外ならば、適当な岩か何かを突っ込ませればすむが、狭い屋内ではそういった投擲武器も限られる。それも、狭ければ狭いほどに。

 

そこで、投擲するよりも……『撃たれても平気な兵士』を作り出して突っ込ませ、それによって敵を無力化したり、武器を奪ったり、直接殺せれば、と考えた結果として誕生したのが……『スケルトン』だった。

 

なお、なぜ骨の怪物にしたのかと聞かれれば……特に意味はなかった。

 

「これで4分の3が全滅……と。残るは……」

 

「ヘイガー少佐が直接率いている部隊だね。ここにも来ないとなると、向かっている先は……まあ、彼の考えそうなことではある、か。それでも捕まらずに移動できているあたり、曲がりなりにも特務に籍を置いているだけのことはある、と言えるだろうね」

 

「こっちからしちゃ厄介なだけです……ま、どの道好きにはさせませんけどね」

 

言いながらテオは立ち上がり、壁に手をついて魔力を流し……休憩室の壁を一部開いて組換え、通路を作った、目的地まで最短……今あるどんな道筋よりも早くたどり着けるような通路を。

 

 

 

 


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