終末のイゼッタ 黒き魔人の日記   作:破戒僧

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Stage.30 オーパーツ

1940年9月13日

 

帝国と連合諸国の戦いは、一進一退……って感じで、膠着状態。

主に、テルミドール方面とノルド方面で戦っている。

 

リヴォニアとの開戦からこちら、結構なハイペースで戦況が動いてきたところから見てみると……若干落ち着いた、と見れなくもない。

どこかの国が落ちたということも、取り返されたということもないわけだから。

 

けれども、戦争の規模自体は、それまでよりもかなり大きくなっているのが現状だ。

 

ゲルマニア帝国の周辺……テルミドール共和国、ノルド王国、エイルシュタット公国の範囲内で主に進んでいた戦線は、ブリタニア王国が本格介入をはじめ、さらに南方諸国も動き出す兆しを見せ始め、さらには、義勇兵という形ではあるものの……アトランタ合衆国も動き出しつつある。

 

この状況下で動く気配がないのは……ゲールの同盟国のロムルス連邦と、永世中立国のヴェストリアくらいだ。

 

おまけに、だ。とうとう、北方で眠っていた怪物が、動き出しつつある。

 

ヴォルガ連邦。帝国とは不可侵条約を結んでいる国であり……共産主義の一党独裁体制によって統治されている、いわゆる『アカ』の国。

『兵隊が畑で採れる』なんて格言だか迷言が有名な、社会主義の大国である。

 

今の今まで、この大戦に関わってこなかったあの国が、とうとう動き出そうとしている。

まだ、そういう『気配がある』っていう話だけど……すでに、耳ざとい国々は、その対処のために動き始めているレベルだ。

 

……ネタバレすると、帝国軍に極秘裏にその『協力しませんか』っていう話が届いてて、その話は参謀将校として僕も耳にしてるので、単なる噂ではなく、ホントの話である。

 

……ただ、その参戦の仕方が……大方の予想とは、ちょいと違う面があるようで。

 

どの国も、よっぽど意外だったようだ……ヴォルガ連邦が、帝国と手を組むとは、と。

 

帝国VS中立国・不参加国以外全部、って感じで進んでいるこの戦いに、まさか現在、世界共通の『悪』みたいにとらえられている帝国に味方するなんて、と。

 

……まあ、あの国のことをよく知っている人から言わせると、これも別に不思議じゃないというか、何を考えてこうなったのかわかる、らしいけど。

マリーに聞いたら、一応だけど納得のいく説明もらえたし。

 

あの国……僕の前世の史実でも多分そうだったと思うんだけど、なんか、共産党のトップに立ってる、ヨセフとかいうおっさんが、病んでるらしいんだよな……。

 

謀略張り巡らして今の地位についたそうだけど、やりすぎて人間不信になって、反抗しそうな勢力やら人物を片っ端から粛清しまくって、そっちでもやりすぎて国力がガリガリ削れて……。

 

あまりにも過激にやる上、言論統制とかも相当に厳しいもんだから、国民からの支持もあんまり高くなくて……それこそ、瀬戸際外交直前のノルドもかくや、ってレベルらしい。

 

一見すると、どっしり構えているようで……その実、民心は離れ、屋台骨はガタガタ、戦争に参加してもいないのに、自爆しまくって疲弊してる謎な状態である。

まあ、それでも他の列強諸国よりもかなり上の国力あるんだけど。

 

そして……それこそが、あの国がこの戦争に参加してくる理由でもある。

 

……要するに、あれだ。

国内の政治が上手くいかないから、国外を攻めて悪者にしてごまかそう……っていう、姑息だけどよくありがちな手段だ。

 

そして、連合国じゃなく帝国に味方するのは……不可侵条約を結んでるから、ってわけじゃなく……隣接する小国をいくつか取り込んで植民地支配狙ってるから。

 

連合と協力して帝国を倒しても、帝国の植民地は解放されるだけだろうし、現時点で帝国が占領支配している国も同様だ。連邦からすれば、賠償金以外に実入りはない。

 

けれど、帝国に味方すれば……そのまま勝てば、この戦いで敵だった国々から賠償をむしり取ったり、規模いかんでは組み込んで併合する、なんてこともできる。

勝たなくても、適当なタイミングで『善良なる仲介人』として講和を進め、表向きは丸く収めるために動きつつ、美味しいところを持っていく……なんてこともできるし。

 

連邦に国境を接しているいくつかの小国が、連合として帝国に敵対する意思表明をしてるから……どさくさ紛れにそのうちのいくつかを取り込むつもりかもしれない。

 

その国々からしてみれば、バックヤードから支援メインで帝国と戦おうとしてたところ、背後に突然敵が現れて、何をしてくるかわからないわけで……怖いだろうな。気の毒に。

 

……気の毒と言えば、『カルネアデス王国』もだな。

 

せっかく、戦争に関わりたくなくて、連合国に白い目で見られてもなお連邦にすりよったのに……その連邦が、参戦を表明しちゃったんだもんな。それも、帝国サイドで。

 

もう9月も半ばだ。連邦では、早いところで来月の下旬から雪が降ることもあるらしい。

そうなって身動きができなくなる前に、人当てして来春以降の軍事行動を有利に進められるように画策してるらしいけど……そうなると面倒だな。

 

冬の期間を利用して、帝国と連邦が盤石に体勢を整えて軍事行動に移られると、連合が協力しても厳しいものがある。

 

特に、ノルド方面はなあ……ブリタニアとの共同戦線で、制海権をほぼ獲得してはいるけど、連邦から回り込まれて軍艦とかをよこされると、それもちょっと微妙だし……。

 

……最悪は、こっちも予定を前倒しして計画を進めなきゃいけないかもしれない。

ちょうどいいきっかけか何か、あの国で起これば、あるいは起こせれば、この先が楽なんだけど……注意深く見守っておくしかない、かな。チャンスがあれば、生かす方針で。

 

エイルシュタットの方も、今は小康状態が続いてるけど……予断は許されない状況だし。

あーあ、戦争ってホント面倒。早いとこ終わらせたい。

 

 

 

1940年9月26日

 

問題です。

第2次世界大戦時における、ドイツの同盟国と言えば、どことどこでしょう?

 

答え、日本とイタリア。

この世界だと……秋津島皇国と、ロムルス連邦だ。

 

で、ドイツがゲルマニア帝国、ね。言うまでもないけど。

 

一応僕、両方行ったことある。

ロムルス連邦には、軍務とか外交親善業務で何度か。

秋津島の方には、軍大学時代に研修を兼ねた交流で2回ほど。

 

で、この間……その秋津島の方に、3回目行ってきたとこなんだよね。

 

ちょっと歴史語りみたくなるんだけど、秋津島は、数十年前にヴォルガ連邦とやらかして以来、帝国と同様に、国交正常化からの不可侵条約を結んでいる。

 

やっぱりあったみたいだ。この世界でも、日露戦争っぽいのが。

バルチック艦隊、負けてました。

 

で、最近の世情もあって、半ば同盟関係みたくなってるので……連邦を通って、その秋津島に親善大使みたいな感じで行ってきたわけだ。

エイルシュタット方面が小康状態のうちに、って。今後、協力するようなことになる時のために

 

……その秋津島すら、いずれは攻め落とすか、属国として吸収したがってるような様子だったけども……あのおっさん。

 

……まあそれはいいとして、行ってきたんだよ、秋津島に。日本に。

 

まあ、当然だけど……現代日本の面影はなかったな。せいぜい、東京駅くらいだ。

 

そこで、親善業務とか色々きちっとこなしつつ……ちょっと暗躍させてもらった。

具体的には、裏から手を回して、色々お金とかばらまいて……3つほど、ばれたら怒られるお土産を入手させてもらった。

 

……ちと話は変わるけど、この数週間の間に、『錬金術』の方の研究と、各地から極秘裏に集めた、魔女関連の歴史資料なんかを集めて、それを調べたりしていた。

 

あるところにはあるもんで……ただの眉唾書物だと思われていたそれが、見方を変えて調べると、魔女関連の貴重な資料だった、なんてことも結構あるんだよね。

同じように、ただのガラクタが、魔女関連の秘宝だった、なんてこともある。

 

で、何で今、このタイミングでそんな話をしたかといえば……日本にも、そういう『ガラクタや骨董品だと思われてるけど、実は魔女関係の秘宝』っていう感じのものがあったから。

そして、僕が裏で入手した『お土産』は、そういうものばかり3つだからである。

 

それらがあったのは、さすがというべきか……かつての昔、『陰陽師』達の本拠地だったとされている、京都だ。3つとも。

 

1つ目……マイナーな山の中の神社に祀られていた『宝玉』。

 

2つ目……ブラックマーケットで取引されていた『宝剣』。

 

3つ目……いくつかの寺に写本が残されている『書物』。

 

調べた結果、どれも魔女に関わりのありそうな宝物だったので、裏から手を回してお持ち帰りさせていただいた。

 

置いといても、文化財的な価値以外は見出されないわけだし、構わないだろう。

いや、構わなくはないかもだけど……まあ、いいか。

 

どうにか秘密に持ち込んで、国境とかの荷物チェックもパスして、こうして帝都の自宅に持ち帰れたわけだし……『宝玉』と『書物』は、明日からきちっと調べてみなくちゃだな。

 

どうやら、『宝玉』は……僕らが人工的に作った『魔力結晶』や『人造魔石』、さらに、エイルシュタットから持ち帰られた『魔石』とやらと通じるもののある物質らしいし、調べてみてわかるであろう情報は、かなり重要なものになるだろう。

 

『書物』の方は、全部が全部魔女関連ってわけじゃないにせよ、暗号感覚で解読するとわかることが増えそうな様子だった。

 

……著者である安倍晴明が『魔女』の血縁、ないし識者だったのか、はたまた別の誰かが記述を暗号化して紛れ込ませたのか――なんとかコードみたいに。

調べればわかるだろうし、そこがわからなくても、最悪中身が有用であればいいか。

 

『宝剣』も調べるけど……よさそうだったら、僕がそのまま使ってもいいかも。

コレは、ブラックマーケットで流れてた代物なので、こっちで買ったとか、いくらでも言い訳はできる。戦争なんてモラルハザードが横行する世の中だ、おかしくもないだろう。

 

それに……この一門の刀は、徳川幕府以降評判が悪い。

今でこそ、文化財とか歴史的価値がささやかれているものの、一時は、この一門どころか、縁ある門下の刀はすべて潰して溶かすべし、なんて令が出たほどだ。不吉だからって。

 

その中で海外に流れた、ということにすれば、向こうから文句も出まい。

 

もともと、コレを買ったのは……魔女関連の宝物の中には、正しい使い方をすれば、『実用性』という面で優れた性能を発揮する品が多い、と知ったからだし。

 

過去、発掘された各地の遺跡とかから出た、その時代の文明に不釣り合いな技術で作られたものや、何に使うのかわからないものといった……俗に『オーパーツ』と言われる品々。

 

それらの中に、魔女関連の財宝が稀に含まれる、と知ったから。

 

とりあえず、機会を逃さず……秋津島皇国に眠っていた、魔女の秘宝(多分)3つ。

 

宝玉『尸魂ノ玉』、

妖刀『村正』、

歴史書物『占事略決』……ゲットだぜ。

 

さて、この中の1つでも……本物であれば、って感じかな。調べるまではわからんけど。

 

 

 

1940年9月30日

 

……またかよ。

また、ソグンかよ。

 

帝国、躍起になって……連邦が味方してくれるからって強気になって……。

いや、実際かなり有利に事が運ぶ可能性大きいけどさ。

 

ノルドの残り半分を奪い返したい連合軍と、奪い返された半分を『奪い返し返し』たい帝国と……近く、激突が予想される。

 

その舞台が、カギになるのがソグネフィヨルドだってことで……呼ばれた。僕が。

 

やだなー……期待されてるよ、ソグネフィヨルドの奇跡の再現。

……ここで連合軍を追い詰めるのは、この先の僕のプランを考えると得策じゃないから、あんましやりたくないんだけど……。

 

……かといって、このままノルド勢に快進撃続けさせるのもなあ。

帝国の味方の論点からいうわけじゃないんだけど、あの国もたいがい調子に乗りつつある感じだし、もうちょっと大人しくしてもらっててもいいと思うんだよね。

 

あと、なんか合衆国が後ろに見えるし……ちょっとばかり黙ってもらいたい。

そのためには、ここで帝国が大負けするのはまずい。

 

そう考えると……僕が直接戦場を指揮して、いい具合に調整できると考えれば……。

……うん、全く面倒なだけで、意義のない戦いじゃあないだろう。

 

それに……多分、イゼッタ出てくるだろうな。

彼女が出てくると、何が起こるかわからないからな。何せ、既存の戦術その他の常識がほとんど通用しない相手だ。

 

……ベルクマン少佐に相談して、魔女の能力の威力偵察――ドラッヘンフェルスの時と似たような感じでやる旨を説明して、ちょいと味方になってもらうか。

 

軍上層部の連中の説得を手伝ってもらうのと、『慎重すぎるくらいに進める』『過度にやりすぎない』大義名分にさせてもらおう。

 

帝国と連邦の作戦は、失敗させよう。けど、全く成果なし、ってのもアレだから、調整。

ノルドの連中にはもうちょっと慎みってもんを覚えてもらおう。

イゼッタは……適当に相手して、損害は防ぎつつ、さっさと帰ってもらおう。

 

そのためには……

 

……うん、また『ゼクス・マーキス』の出番だな。

 

 

 

 




諸事情により、明日は休みになります
ご了承ください。

リアルが……

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