終末のイゼッタ 黒き魔人の日記   作:破戒僧

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勢いで書き始めました。
よろしくお願いします。


Stage.1 魔人が生まれた日

Stage.1 魔人が生まれた日

 

1934年8月31日

 

今日から日記をつけることにした。

 

何か変な時期に、と思うのは……いまだに僕が、前世である日本人の感性を引きずっているからなのかもしれない。

日本以外じゃ、新学期ないし新年度が4月以外から始まるなんてのは珍しくないらしいし。

 

どうせなら、その新学期が……というか、僕にとっての学校生活が始まる明日から書き始めようかな、とか思ってたんだけども、どこぞの美食屋も『思い立ったが吉日』って言ってることだし……今こうして思ってることを記すのが日記だろう、と思って、ペンをとっている。

 

幸いにして、同室の連中はさっさと寝てしまっているし、今日は月が明るいので月明りで十分見える。体質ゆえか僕は目がいいので、このくらい明るければ割と細かいとこまではっきり見える。

 

そんなわけで、1日の締めくくりに日記を書いてるわけだけども……いい機会だし、ここに至るまでの人生の総括でもやってみようか。ちょうど明日から新生活だし、区切りいいだろう。

 

 

 

さっきちらっと言ったように、僕には『前世の記憶』がある。

そして、今世……っていう言い方でいいのかは分かんないけども、とりあえずこの2度目の人生で最初の記憶は、孤児院だった。孤児院で、ベッドの上だった。

 

この世界でのそれ以前の記憶がなかったため、そこを運営しているシスターの皆さん――教会を兼ねているタイプの孤児院っぽい、とその時悟った――からは、記憶喪失だと勝手に納得された。

 

というか、どうやら僕、もともとそういう傾向がある子だったらしく、『覚えてない』とかの曖昧な受け答えや、『うーん』って頭を抱えてるだけで、普通に受け入れられていた。

 

……繰り返すが記憶にないんだけども、ちょっと前までの僕は割と個性的だったらしい。

記憶喪失がよくあるって……どんな傾向だよそれ? まあ、言っても仕方ないけど。

 

……そうなると、これって転生じゃなくて憑依なのか? とかも思ったけど、まず置いといて。

 

生前僕はネット小説を読むのが好きで、特に転生ものはよく読んでいた。だから、この状況を把握するのも割と早かったと思う。

 

まさか自分が、とは思ったけども……実際に体が縮み、というか生前とはまるで違う見た目になっていて、挙句の果てに明らかに外国語――しかも英語でもねーよ?――が周りで話され、新聞に書かれている上、その新聞の日付が1930年て……西暦かコレ?

 

それから、僕はしばらくの間、この転生した世界の情報を集めることに集中し……今僕がいるここが、元いた世界のある時代、ある地域に似ている『異世界』だということを知った。

ぶっちゃけ、2次大戦前のヨーロッパ、って感じだ。国名、どこも全然違うけど。

 

孤児院には、割と蔵書が充実している図書室があったので、そこで歴史もざっと調べたけど……地名や歴史上の人物の名前が所々違っていたので、異世界なんだな、と思ったわけだ。

そうでなかったら、タイムスリップして過去に来たのか? とか思ってたかもしんない。

 

さて、そんな感じで僕は孤児院での生活をスタートさせたわけだけども、その生活はほどなくして終わりを告げることになった。

 

『僕』としての意識を目覚めさせてから数か月の間、僕はこの世界、この国の社会情勢を知ってからというもの、生きていくために必要そうなないし役立ちそうな知識を片っ端から勉強し、吸収していった。転生もののテンプレとして、体を鍛えたりもした。

 

ファンタジーでいうところの、ガンガン成長して周囲に差をつけて『俺TUEEEE!』を目標に……とまでは言わないけれども、学力も身体能力も、高ければ高いほど、進路の選択肢も増えるだろう、と安直に考えた結果だ。

学力に関しては、前世で受験を2回ほど経験してる分、自信をもって言える。

 

転生者としてもともと持っていた知識その他に加え、他の子たちが遊んだりさぽったりしてる間に、少しでも自分を磨くべく、トレーニングと勉強を欠かさずやっていた僕は、自分で言うのも何だが、めきめきと実力をつけ……数か月が過ぎるころには『神童』なんて呼ばれていた。

 

運動、勉学ともに、同年代の中では頭一つ以上抜け出た実力を身に着け、今のうちから将来を期待されるくらいの評価をもらっていた…………のだが、

ここで話は戻る。孤児院の生活がいきなり終わった、ってところに。

 

どうして終わったのか、だけども…………あまりにも意外な終わり方だった。

 

何が起こったって……売られたのだ、僕。

 

……どうやらこの孤児院、裏で人身売買のブローカーじみたことをやって金を稼いでいたらしく……僕はその『商品』にされてしまったのである。

 

ある日突然、『今日からこの人があなたのパパとママになるのよ?』って院長先生に言われて……え、何それ? って僕が困惑してる間に、車に乗せられてさよなら~、って感じで。孤児院の友達(最近ようやく仲良くなれてきたところだった)にお別れを言う暇すらなかった。

 

で、その窓から……茶封筒入りの現ナマを先生が笑顔で受け取ってる光景が……

 

それから一時期、ちょっと人間不信になりかけた。

まあ、すぐに立ち直ったけど。

 

引き取られた先が、特に厳しい環境だったりもせず……むしろ、かなり裕福な家だったことや、ぞんざいに扱われず、優しく育ててもらっていることも……僕があまり深刻に悩まなかった原因かもしれない。ちょっと現金だけど。

 

まあ、元々周り全部他人の天涯孤独な身の上だったんだ。生活環境が多少変わった……というかむしろ、改善された結果だと思えば、コレもありっちゃありだろう。

 

そしてどうやら僕は、労働力とかとして売られたわけじゃなく、子供のできない夫婦が孤児を引き取って養子縁組で家族に迎える感じで引き取られたようだった。扱いの良さはそれが理由か。

 

……なら金で買わんで普通に合法な手順で取りゃいいのに、とか思ったけど……優秀な子を確保するにはそれが一番確実だったようだ。ああ、『神童』が理由で目つけられたのね、僕。

 

そんなこんなで新しい家族に迎えられた僕は、新たに苗字ももらってすくすくと育ち……手がかからない上、優しくていい子だ、って褒められながら、大切に育てられた。

 

 

 

もうそろそろ8歳になろうかって頃に、転機が訪れる。

両親が不慮の事故で死に、僕は母の弟、つまりは叔父に引き取られたんだけども……それがちょっと問題だった。

 

その叔父は欲深で、弁護士とかを使って手を回し、僕が両親から相続した遺産を根こそぎ……なんてことはなく、普通にいい人だった。奥さん共々、両親と同じように僕を大切にしてくれた。

 

……問題は、その叔父さんが、後方勤務ながらベテランの現役軍人であり……僕の学力その他を知るや、『これは祖国のために役立てるべき才能だ』とかなんとか豪語し、あれよあれよという間に、軍士官学校へ入学させられてしまったことだ。ちょうど入学可能年齢ギリギリセーフだったから。

 

しかも、飛び級の『特待生』枠としての入学だ。

最近できた制度で、幼いころから高度な教育を受けさせることで未来の優れた将校を育てることを目的にしてるそうなんだけども……そのちょうどいいテストケースにされてしまったらしい。

 

引き取られて以降も勉強とトレーニングを続けていて、さらに両親からハイレベルな家庭教師までつけてもらっていた僕の学力水準は、かなり高いところに来ていた。

それを知った叔父が目を付けた、ってわけだ。こいつは今から鍛えれば、将来絶対に大物になる、祖国に貢献してくれる素晴らしい軍人になるだろう……と。

 

そして、今に至る。

 

今僕は、士官学校の寮の一室のベッドに横になっている。

明日、9月1日が入学式だ。晴れて僕は、士官候補生となる。

 

……正直、不安でいっぱいである。軍隊を持たない(似たようなのはあるけど)平和主義の国で生きてきた前世を持つ僕だからして……いくら今まで鍛えてきたって言っても、怖いもんは怖い。

 

けど、もう後戻りはできないし……職業として見れば悪い選択肢ではない。少なくとも、この時代、この世界では。

そう、割り切るべきだ……って、もう何度も考えたはずなのになぁ。

 

……そろそろ寝ないと、明日起きれないな。この辺にしとこうか。

初日から長文書いちゃったな……なんだかんだで、気晴らしにはなったかも。うん、よかった。

 

明日からがんばるぞー、おやすみー。

 

 

 

1934年9月13日

 

入学から2週間がそろそろ過ぎるわけだけど……案外楽しいな、士官教育。

 

自衛隊の教育隊とか、海兵隊のブートキャンプみたいなの想像してたけど……そこまでひどくはない感じ。まあ、逆に優しくもないけど……せいぜい、厳しめの高校や大学みたいな感じだ。

 

朝から晩まで訓練、って感じじゃなく、きちんと座学や施設見学なんかもあって、さらに色々な職務を体験したりすることもできるので、本当に自分の身になってる感じがして充実感がある。忙しいけど、苦にならない忙しさ、とでも言うんだろうか。

 

これで、学費は完全無料な上に、卒業と同時にいくつも資格を取れて、こなしたカリキュラムの内容によっては給料まで出るってんだからすごいよな……。

 

元々、両親の遺産(叔父さんに管理してもらってる)があるからお金にはさほどこまってないとはいえ、もらえるもんはもらっておく。純粋にありがたいし。

……制服が特注だから、地味に金かかるしね。

 

問題があるとすれば……僕は体が小さいから、移動とか大変だし、荷物は重いし、格闘訓練とかめっちゃ不利……ってとこくらいかな。

……まあ、仕方ないよねそりゃ、8歳だからね僕、今。

 

それでも、だんだん訓練にもきちんとついていけるようになってるし、この調子で丈夫な体を作っていこうと思う。食堂も食べ放題だから、食べ盛りの育ち盛りにはありがたい。

 

 

 

1934年11月14日

 

……何か今日、不思議な体験をした。

 

バトルロイヤル形式の素手戦闘訓練の時だった。小さい体を生かしてすばしっこく動き回って相手をかく乱するのが、僕の得意な手口なんだけど……当然ながら、何度もやってれば相手も慣れてくるし、対応されてしまう。

 

同期として今までともに研鑽してきた連中も、体格差を生かして僕を逃がさないようにしたり、効果的な一撃を入れる方法を編み出しつつあって……覆しがたい、年齢差からくる実力の差ってものを痛感することが多くなった。

 

まあ、それも仕方ない……今までが上手くいきすぎてたんであって、本来的に体が育つのを待たなきゃいけない事柄なんだから……と、今日まで思ってたんだけども。

 

今日の戦闘訓練で、同じように4方向から僕に襲い掛かってきた同期生たちから何とか逃れようと全身に力を込めた……その時だった。

 

……直接見えたわけじゃない。

けど、そういうことが起こった……と、どうしてか感じ取れた。

 

何か、小さな粒というか、『種』みたいなものが……僕の頭の中で砕けたイメージが浮かんだ。

 

そしてその直後、まるで世界がスローになったかのような感覚と、五体にあふれんばかりにみなぎってくる力。それに任せて動いた結果……気が付くと僕は、無傷で敵を全員倒していた。

 

その感覚はしばらく続き、しかし突然ふっと消えた。

時間にしてほんの数分程度。あまりにもわけのわからない体験だった。

 

後になってそれを見てた連中に聞いたら、僕は敵の攻撃を完璧に見切って全てかわすか受け流し、すごい速さで動いて全員を沈黙させていた……とのことだ。

 

……今更ながら、前世でよく読んだ転生小説には、転生特典のチート能力が付与される場合が多かったことを思い出す。

ひょっとして、この力が……某ロボットアニメ種死あたりの能力に酷似したこの現象こそが、僕がこの世界に来る時に手にした『特典』なんだろうか……?

 

……いやいや、それこそアレだ、アニメやラノベじゃあるまいし……

 

……詳しく、調べてみる必要があるな。

 

……あっ、やべ、今日は夕食後にゼミのミーティングがあるんだっけ。

興味あるからって、わざわざ叔父さんに紹介してもらって入ったんだ、遅刻や欠席なんて絶対にできない。さっさと準備していかなきゃ。今日はここまで。

 

 

☆☆☆

 

 

最後の1文字を書き終えると、少年は荷物をまとめ……筆記用具と、資料をいくつか抱えて部屋を出た。

そして、行った先の会議室で……本来ならば、彼にはまだだいぶ早いはずの内容を扱う集まりに参加するため、はきはきとした声で、自らの入室を告げる。

 

「失礼いたします! ペンドラゴン一階生、入室します!」

 

その声に、小さ目の室内にいた者達全員の視線が、一瞬ではあるが入り口に集中し……声を発した、まだ幼い少年の姿をとらえる。

 

短めの黒髪に、黒い瞳。色白の肌に、中性的で整った、しかしそれ以上に幼さが際立つ顔。

どちらかと言えばやせ形で、身長も、この場にいる他の士官候補生の胸ほどまでしかない彼は、一見すれば学内に迷い込んだ、誰か候補生の身内―――弟か何かだろうと考えてしまうだろう。とても一見しては、ここに士官候補生として通っているとは思えまい。

 

しかし実際には……秋期入学の時期から2ヶ月が経過した今、彼の名を、姿を知らない者は、今や同期や職員どころか、学校全体に1人もいなかった。

それどころか、現役の軍人の中にも、彼に注目する者が出始めている。

 

若干8歳の今すでに、座学・実践ともに極めて優秀な水準。膨大な知識と独特の発想力に加え、その体格のハンデをほとんど感じさせない技能を有し……なお伸びしろを大いに残している傑物。

 

ある者は期待を、ある者は嫉妬を、ある者は畏怖を、

それぞれ胸に秘めながら……人は彼を、こう呼ぶ。

 

 

 

ゲルマニア帝国帝都・ノイエベルリン中央士官学校一階生

 

『百年に一人の天才』テオドール・エリファス・フォン・ペンドラゴン

 

 

 

 


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