Veronica   作:つな*

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不意に名前を思い出した。

最期に過ぎったこの思いは何だったのか…

最期まで俺には分からなかった。


XANXUS side

いつもように任務を終わらせるだけの日だった。

 

「おいボスさんよぉ」

「あ"?」

「これが玄関に置かれてたぞぉ」

 

スクアーロが右手に何か白い布と、左手に白い紙を持って執務室に入ってきた。

 

「なんだそれは」

「ガキ、それとコレ見ろぉ」

 

スクアーロが差し出す白い紙を見る。

 

〝この子はヴェロニカ、ザンザスとの子です″

 

「身に覚えはぁ?」

「ヤってきた女の顔なんて覚えてるわけねぇだろうが」

「一応、DNA鑑定を頼んであるから明日また報告に来るぜぇ」

「あ?そのまま施設かどっかに捨て置けばいいだろうが」

「このガキが本当にあんたと血縁だったら、炎も受け継いでる可能性があんだろうがぁ」

「ッチ」

 

スクアーロはそれだけ言うと、ガキを連れて部屋を出た。

 

翌日

 

「うおおおい、ボス!昨日のガキ繋がってたぞぉ」

「ッチ、ルッスーリアにでも押し付けておけ」

「了解」

 

この時の俺は、面倒な存在に心底嫌気が差していた。

 

 

「あらスクアーロ、なぁにその赤ん坊」

「ボスとどっかの女のガキだあ」

「うっそ、まあ!とっても眉毛がボスに似ているわぁ!」

「ボスからの命令だ、このガキの面倒見ておけぇ」

「別にいいわよん」

「ッチ、ボスも何で避妊しねーんだか…」

「あのボスがやるわけないでしょ、にしてもこの子可愛いわねぇ」

 

 

 

「あ!そういえばこの子ここに来て一年経つけれど…誕生日いつなのかしら?」

「んなもん誰も知らねーだろ、シシッ」

「んま、じゃあこの子がここに来た日を誕生日にしようかしら…確か今日は5月5日ねぇ」

「ボスの半分じゃん、ボス10月10日っしょ」

「あら偶然、名前もVが入ってるわね」

 

 

 

「プリンチペッサ!3歳の誕生日おめでとう!」

「あいあとー」

「とっても可愛くなっちゃって、ああ、ますますボスに似てきてるわね」

「パパに?」

「そうよぉ、ねぇレヴィこの子ボスに似てるわよね」

「む?ああ、ボスと同じように整った顔をしている」

「やったー」

 

 

 

「ねぇベル、あの人がパパー?」

「そうだよん、俺たちのボスー」

「ボス?ボスってなあに?」

「僕たちより強いってことだよプリンチペッサ」

「ねぇマーモン、パパに会っちゃダメなの?」

「見てごらんよ、ボスは今とても忙しいだろう?」

「……うん」

 

小さな視線が向けられているのをあえて無視していたザンザスは、ため息を吐いた。

 

ある日

 

「おいカス鮫」

「んだぁ」

「あのファミリーを潰せ」

「例の?了解」

 

「ねぇボス、敵が数で攻めてきたよ」

「それがどうした、皆殺しだ」

「了解ボス」

 

ザンザス以外のヴァリアーが全員出払って、とあるファミリーを殲滅しているときだった。

ザンザスは酒を飲んでいたが、不意に外の方に気配がした。

 

「ッチ、殺し漏らしてんじゃねぇよ、ドカスが」

 

自分から出向くのは癪に障るが、城へ入られるのはもっと気に食わなかったのかザンザスは二挺拳銃を両手に椅子から立ち上がった。

気配のある方向へ進んでいくと、悲鳴が聞こえた。

 

「きゃあぁぁぁあああああああああ」

 

そういえばガキがいたな…

ドカスが、そいつが人質にでもなると思ってんのか

 

ザンザスは気にした風もなく、そのまま悲鳴のあった場所に向かう。

扉が壊されていた部屋の中には、カスとのどを掴まれているガキがいた。

カスは俺の存在に気づき、ガキの頭に銃を押し付けた。

 

「く、来るんじゃねぇ!このガキ殺すぞ!お前のガキなんだろ!」

「ッケ、そいつが人質にんるわけがねぇだろうが…」

「なっ!」

「カッ消す」

 

何の彷徨いもなくガキ諸共殺そうと引き金を引こうとした時

 

 

「パパぁあああああああ!助けてぇぇぇぇえええ!」

 

 

気づけば、俺はカスのド頭をぶち抜いていた。

ガキは重力に従って落ちると、放心しながら俺と死体を眺めていた。

 

「…パ、パ……」

 

ガキがそう呟くと、気を失い血溜まりの上に倒れた。

俺はそのままガキを放置して部屋に戻ろうと思っていたが、何をとち狂ったのか、ガキを抱き上げてベッドに寝かせていた。

偶々持っていた無線機でルッスーリアに連絡し、直ぐにくるよう命令した。

ルッスーリアが来るまで俺は血の気が引いたガキの顔を俺は暫く眺めていた。

所々血縁を思わせる似通った顔に、俺はこいつが自身のガキであることを自覚した。

 

「ッハ、何を考えてんだ…俺は」

 

自嘲気味に笑うと、こちらに近づいてくる気配に気づく。

 

「ボス!何があっーーーー……」

「こいつを空いてる部屋に運べ」

「……わかったわ…ボス…その…見られたの?」

「……」

「…そう…」

 

ルッスーリアはそのままガキを抱き上げて、部屋を出ていく。

俺は血だまりを作る死体を数秒眺め、直ぐに部屋に戻った。

 

翌日から長期任務で俺は本部を開けた。

ガキが高熱で寝込んでいるという話を聞いたのは、長期任務から帰ってきた時だった。

長期任務帰ってきて、執務室で休んでいると、扉がゆっくりと開くのが分かった。

ガキが無表情のまま入ってきて、俺の顔を見つめてきた。

 

「何だ」

「………おかえり」

 

小さな声で、それだけ言うとガキはそのまま出て行った。

ガキから声をかけてきたのはあれが初めてだったことに気づいたのは少ししてからだった。

その頃からか、ガキからの視線は大幅に減り、ガキの話し声を聞くことが少なくなった。

ルッスーリア曰く、表情が無くなっただ、言葉遣いが変わっただ、一人でいることが多くなっただ

俺には必要ない情報ばかり寄越すようになってきた。

だが、ガキは俺に頻繁に声を掛けるようになった。

おはよう、おやすみ、お疲れ様

短い単語ではあるが、会えばとりあえず声をかけてきた。

何故俺に声をかけるのかが理解出来なかったし、俺を父親として呼ぶのも理解出来なかった。

 

「パパ、おはよう」

 

理解できなかった。

 

 

 

ガキが13歳の誕生日を迎えたころ、俺は倒れた。

運の悪いことにカス鮫が倒れた俺を見つけ、医者に見せたらしい。

 

「HIVです、恐らく末期ですが…病状は既に出ていましたか?」

 

医者からはそう言われたとき、俺は死ぬんだと直感した。

ここ最近、風邪の症状や立ち眩みは多々あった、誰も見ていないところではあったが。

 

「おい、どれくらいもつ」

「あ、いえ…まだどれ程の進行状態かは詳しく検査してみなければ…」

「早くて、どれくらいだ」

「ええと、そうなると1年というところでしょうか」

「そうか」

「えー、まず延命措置に関して―――え、あの!」

 

医者が言い終える前に、俺は立ち上がりその部屋を出た。

部屋を出ると、カス鮫が扉に背を預けたままで佇んでいた。

 

「…ボス」

 

スクアーロが何かを言う前に、俺は足を進めその場を離れようとする。

 

「一年だ」

 

俺はそれだけ言うと、その場を離れた。

カス鮫は何も言ってはこなかった。

 

 

カス鮫の配慮だろうか俺が任務出ることは、片手で数えられるほどしかなかった。

朝起きると、体に力が入らなくなることが増えたが、時間がたてば戻るので何もなかったように日々を過ごしていた。

以前より喉が痛むことが増え、好物の高級肉をあまり食べなくなった。

いつも使っていた銃が少し重く感じ始めた。

 

それからだろうか、ふと気づけば視界に入ったガキを眺めることがあった。

あの日からずっと無表情のガキは前よりも態度がでかくなっていた。

そして、顔を合わせれば必ず俺に声をかけてきた。

 

「パパ、おやすみ」

「…ああ」

 

何故、こいつは俺を父と呼ぶのだろうか。

理解できないし、したくもなかった。

 

 

 

ガキが14歳になったらしい、遠くの部屋で喚き声が聞こえるのを無視し、俺は酒を飲んでいた。

最近では眠る前に体を動かしにくくなった。

食べることが億劫に感じることが多くなった。

喉が痛い、体の節々が痛む。

既に俺の体はいつ死んでもおかしくないことは分かっている。

0時を過ぎるころには、屋敷全体が静まり返っていた。

俺もそろそろ寝ようと、痛む体を無理に動かしながらベッドに向かう。

向かう途中、カス鮫が入ってきた。

 

「ボス、手伝うかあ?」

「死ねカス鮫」

 

お前に補助されるくらいなら死んだ方がマシだ。割と本気で。

 

「あんたもう、ボロボロだろ……他のやつらになんて言うんだぁ」

「黙らせろ」

「ったくよぉ」

 

俺はそのまま倒れこむようにベッドに沈み込んだ。

 

「プリンチペッサはもう14歳になったぜぇ」

「それがどうした」

「あんたから声かけてやれねーのかあ?」

「フン、くだらねぇこと言う為に来たんなら失せろ」

「ったくよぉ、明日また起こしに来るぜぇ」

 

カス鮫はそういうと出て行った。

カス鮫の気配が遠くに行くと、俺は瞼を閉じた。

 

 

 

朝起きると、いつも以上に体が重かった。

またいつものように、一時間ほど経てば動くだろうと思っていた。

数時間経っても、若干腕や足が動くだけで今日はもうそのまま眠ろうかとすら思った時にカス鮫が入ってきた。

未だベッドの中にいる俺に焦った声で近寄ってきた。

 

「おいボス、医者呼んでくるぞぉ」

「いい」

「はあ?」

「誰も呼ぶんじゃねぇ…」

「……分かった、だがここじゃ他のやつらにバレる、奥の医務室に移るぞぉ」

 

カス鮫は俺の腕を肩に回して、部屋を出る。

 

「ッチ、クソが」

 

思い通りにならない体に嫌気が差すも、そのまま奥の医務室へ辿り着く。

ベッドに横になると、違和感を感じ重たい腕を持ちあげて顔の前まで持ってくる。

 

炎が出ない…

 

それもそうか、死に間際だ…出なくてもおかしくないか

そろそろ視界もボヤけてきて、意識も薄れてきてたのでそのまま俺は意識を手放した。

 

 

何かが近づいてくる気配を感じ、俺は目を覚ます。

寝ていた間に、体のいたるところに装置やら管やらが繋がれていた。

そして、視界の端にはガキがいた。

 

「…パパ……」

 

あのカス鮫が、勝手に呼びやがって…

 

「あのカス鮫がっ…」

「パパ死ぬの?」

 

上ずった声が耳に響いた。

ガキの顔を見ると、眉を顰め苦しそうにこちらを見ていた。

いつも無表情だったガキの表情の変化に少し驚いた。

 

「ああ…」

「手立てはないの?」

「…ない」

「どうして黙ってたの?」

「死ぬまで黙ってるつもりだった」

「ねぇ答えて」

「………」

 

どうしてお前に教えなければならにのか、本気で分からなかった。

ガキは拳を握り、耐えるように顔を顰めながら俺を見つめている。

 

「ねぇパパ……本当はパパが元気だったら2,3発殴ってたけど……それについては許してあげる…」

「……ふん、お前に俺が殴れるわけねーだろうが…」

「減らず口……パパだって私を叱ったことも手を上げたこともないくせに…」

「ふん」

「あーー、なんだろ……沢山言いたいことあるんだけど…」

「めんどくせぇ、一つにしろ」

「そういうとこほんっとパパらしいよね…」

「っけ、早く言え」

 

若干ガキの声が震えている。

俺は喋りすぎて喉が痛い。

 

「あたし……手から炎が出るの…」

 

 

今こいつ何と言った?

炎……死ぬ気の炎が…?

 

 

「いつからだ…」

「子供のころから……多分4歳くらい…」

「何故黙っていた」

「その時は、怒られると思ってたの……でも最近じゃ怖がられると思ってたの…」

「……はぁ…」

 

くそ、いつもなら絶対カッ消してた。

気づかなかったあいつらも一緒にカッ消していた。

俺の言葉を待っているのか、ガキが黙って俺を不安そうに見ている。

 

 

「…それは誰にも言うな…」

「誰にも?スクアーロにも、ルッスーリアにも?」

「そうだ…そしてそれをこれからも誰にも見せるな」

「どうして…?」

「どうしてもだ…」

「……分かった…でも一つだけ私からお願いがあるの…」

「なんだ」

 

「あたまを……なでて…ほしい」

 

本気で、分からない。

頭を撫でて何になるっていうんだ…

 

「何故…」

「いいから」

 

不服だが、最期だ。

腕を動かし、ガキの頭に乗せる。

そして少しだけ指を動かしながらふと思う。

 

 

こいつの名前は何だったか…確か……

 

 

 

「ヴェロニカ」

 

 

目の前のガキは大きく目を見開いた。

そして俺は無意識に口に出していた。

 

 

「ヴェロニカ……お前は俺のようになるな…」

 

 

呪われた炎で憎しみと怒りに身を委ねた俺のように――

 

 

せめてお前は――…

 

 

「わたしの…なまえ――――…」

 

 

 

俺は瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本編の前にこれ入れておきたかったんです。
次回から本編です。
誤字脱字、口調の違和感があれば教えてください!

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