Veronica   作:つな*

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ヴェロニカは嘆いた。

この身に流れる血を

ヴェロニカは耽る。

記憶と共に 虚しく




Veronicaの父と炎と手と

「じゃあお父さんと喧嘩しちゃったのね…」

 

現在、私ヴェロニカはヴェラさんの家で、パパの愚痴を言っていた。

 

「喧嘩っていうより、私が一方的に不満ぶつけてきただけ…」

「へぇ」

「なんていうか……初めて父に馬鹿なんて言ったから、帰るの怖くて…」

「お父さんは怖い方なの?」

「うん……」

「殴っちゃうとか、そんな人?」

「あー……うん」

「なるほど、そりゃ娘と疎遠になりそうな父親なわけだ」

「別に父が嫌いなわけじゃないし……むしろ好きだけど…」

「あれ?意外…」

「暴君だけど、私を殴ったことはないし…」

「ふむ、ヴェロニカちゃんには甘いの?」

「そういうわけでもない…なんていうか、殴るほど近かったわけじゃないっていうか…」

「あー……でも、ヴェロニカちゃんそのお父さんのどこが好きなの?」

「……………一応、私の将来のこと…考えてくれてたから……」

「なるほど、垣間見せる愛情に絆されたのか」

「え…っと…愛情なのかな……あんま分かんないけど……嬉しかった」

「それを愛情と言わずなんて言うのよ!」

 

ヴェラさんは呆れながら笑う。

だけど私には、パパのあの言葉が愛情なのか判断に困る。

だって、あの、パパがだよ?

たかが血の繋がった娘如きに、不必要と判断した愛情が、芽生えるだろうか?

答えは(いな)

最期の言葉は哀れみのようなものだと思うけれど…それすら怪しい。

私は父の言葉を都合よく、解釈し、それを糧に前に進んできた自覚がある。

でも、でも都合よく解釈したかった。

そうしないと虚しさで押し潰されそうだったから。

ヴェロニカの表情が乏しいことに気付くヴェラは、ヴェロニカの手を握る。

 

「あのね、ヴェロニカちゃん」

「?」

「母親もそうだけど、父親も…自分の子供に何も思わない人はいないわ…」

「…」

「憎しみであり、慈しみであり、哀れみであり…何かしら思うことはあるハズよ」

「そうかな…」

「現に、貴方のお父さんはあなたに手を上げたことはないんでしょ?それは、あなたが大事だからよ」

「あの人がそんなこと思ってるハズないよ…」

「あなたのことを大切に思っているから、あなたの将来のことを考えているのよ」

「でもただ…私の将来が父自身に面倒がかからないようにする為に考えていたかもしれないし…」

「そんなこと考えるくらいなら施設に預けるわよ、普通」

 

それは、私には憤怒の炎が発現する可能性があったからで……

思えば思うほど、パパが私を手元に置いていた理由が出てきて虚しくなっていく。

私の価値は何だろうか……

 

❝施しを与える価値すらねぇ❞

 

 

ザンザスの言葉を思い出すと、ヴェロニカは胸が苦しくなった。

 

「こんな血………受け継ぎたくなかった………普通に産まれたかったっ…」

「ヴェロニカちゃん、それを言ってはダメよ」

「…」

「それをね、言われると……きっと、絶対…傷付くわ」

 

ただの娘として愛されたい…

 

「ヴェロニカちゃんはお父さん嫌い?」

「好き……」

「なら、傷ついて欲しくないよね?」

「…うん」

「じゃあもう…そんな悲しいこと言わないで」

 

ヴェラさんは私を見て苦い表情をする。

 

「多分ね、その人、不器用なだけじゃないかしら?」

「不器用?」

「多分、それが愛情だと気付いていないんだと思うわ…持て余しているように思うの…」

 

いやあのパパは愛情なんてもんドブに捨てそうだけど…

 

「可哀そうな人ね…愛を知らない人はとてもつまらないわ…」

 

はたしてあのパパに面と向かって可哀そうなどと言える人はこの世界にいるのだろうか…

いや、いない。

そうか、他人から見るとパパって可哀そうな部類なの……か?

いやそんなハズはない、ないったらない。

 

「ヴェロニカちゃんがお父さんに愛情を教えてあげたら?」

「え」

 

無理。

咄嗟に脳内に出てくる二文字を振り払い、ヴェラの言葉を待つ。

 

「別に、言葉にしなくてもね…伝わることは沢山あるわ…一緒にいてあげたり、お菓子あげたりするだけでも愛情は伝わるものよ」

 

なるほど、餌付けかな?

パパの好物っていったら高級肉じゃん。

愛情(はぐく)む前に私が破綻する。

一緒にいるだけで私のチキンハートじゃ寿命が縮みそう…

ふむ、その前にパパに愛が芽生える可能性自体、大気圏超えそうなほど低い。

愛情?なにそれおいしいの?状態だもんね。

これは私が潔く諦めた方がいいのでは?

あのパパに何かを求めること自体が無謀というか…

 

「諦めちゃダメよヴェロニカちゃん……諦めて苦しむのはあなたなのよ」

 

ヴェロニカの心を読んだように、ヴェラを呟く。

 

「意地でも関わってみて……あなた達はお互い何も知らなさすぎるのよ」

「……」

「ここに来る前に、お父さんに思ってることぶつけてきたんでしょ?」

「うん」

「ならもう一歩目は踏み出したわ…あとは頑張って歩き出しなさい」

 

ヴェラさんは私の背中をバンバン叩くと、玄関に放り出す。

 

「ほら、今から家に帰ってお父さんと仲直りしてきなさいよ!」

「え」

「大丈夫よ、失敗したらまたここに来なさい!相談くらい乗るわよ!」

「え、あ………うん」

 

ヴェラの勢いに負け思わず頷くヴェロニカ。

 

「いっその事抱き着いちゃえば?応援してるわよ~」

 

やめて下さい、死んでしまいます。

ヴェロニカは戸惑いながらも、遅い歩調でヴァリアー本部への帰り道を歩き出す。

観光地街を少しだけ逸れたところの、下が歩道の橋の上を歩いていた。

うう、足が重いですヴェラさん。

これ死地に赴いてる戦士の気分です、絶対に父親と仲直りしに行く人の気分じゃないと思います。

 

❝ヴェロニカ お前は俺のようになるな❞

 

何を思ってそう言ったのさ、パパ…

でも少し冷静になって考えたことがある。

私はザンザスを前世の父親に当て嵌めようとしていたのかもしれない。

どれだけ頑張ってもザンザスがヴェロニカの父で、前世の父はヴェロニカの父ではないのだ。

ザンザスは父親らしくない、と私が思っていたのは、前世の父親を当たり前の基準として見ていたからなのかもしれない。

前世の父は過保護だった記憶があった。

だから余計、ザンザスが父親に思えなかったのか。

ああ、こんな記憶さえなければ今頃苦しまずに、ザンザスが父だと納得していたのだろうか。

ザンザスが私の父親であり、ただ唯一血の繋がった私の家族。

事実を飲み込むだけで、本当は理解していなかったんだ。

父とは娘を心配するものだ、そんな思い込みでザンザスの最期の言葉を自分勝手な解釈をして、先走った行動を起こした。

ザンザスがそんな男じゃないのは分かっていたつもりでも、父親という虚像を通してザンザスの言葉を解釈した。

ああ、はやり私は阿呆だ。

本当に歩み寄らなかったのは私の方だ。

いやパパも歩み寄る姿勢すら見せなかったけれど。

私なんてそう思い込んでいただけで、本当は一線を引いて彼を見ていた。

なんて失礼で、侮辱的で、なんて滑稽なんだろうか。

父親らしくない彼と、娘らしくない私はお似合いだったのだろうか。

そういう父なのだろうと、あっさり認めてしまえばこんなに苦しくならずに済んだのか?

無意識に、足元にあった拳サイズの石を蹴飛ばす。

石はそのまま勢いを失わず、橋の柵の間を抜けて下に落ちて行った。

はぁ……腹括って帰るしかないのかな…

いっそボンゴレ本部から日本支部に連絡取って、日本に戻りたい。

橋を渡り切ると、いきなり頭に衝撃が走った。

 

「いっ!」

 

思わず声が出るほどの痛みが襲ってきて、手で痛みだす部分を押さえる。

 

「なにす―――――」

 

睨みながら振り返ると、ザンザスがヴェロニカを睨みながら拳を握っていた。

あ、死んだ。

瞬間私は死を覚悟した。

ああ、二度目の人生は短かったな…

 

「おい、さっき石落としやがったのてめぇだろ」

 

…………え?

い、石?

パパの額が若干赤くなっているけども…。

え、嘘……も、もしかして

 

「え……パパに当たったの?」

 

ザンザスが盛大な舌打ちをする。

えええええ、うっそおおお

避けろよ!それでもヴァリアーのボスかよあんた!

いやこれ100%私が悪いけど!

石ころ蹴飛ばして下の方に落とした私がめっちゃ悪いけれども!

何で当たるのさ!仮にもあんたボスだよね!

 

「んだその目は……カッ消すぞ」

 

いやカッ消す為に私を探しに来たのでは?

私さっきあなたに向かって色々喚き散らしたし…

唖然としているヴェロニカにザンザスは再び舌打ちする。

舌打ちを聞いて、ヴェロニカは我に返りザンザスに謝る。

 

「え……あ……ごめん、なさい……」

「クソがっ…」

 

しかしあのサイズの石がぶつかったってことは、結構痛かったハズだ。

まぁパパのことだから、平気だとは思うけれども。

えー、私もう死亡フラグ乱立してるじゃん。

めっちゃ死に急いでるじゃん。

すまん、殺すなら一気にやってくれ。

死亡理由が父親に石当てたからとか……あ、泣けてきた。

だがザンザスはヴェロニカの横を通り過ぎ、歩き出す。

あ、あれ?

まさかさっきの拳骨で許してくれるの?

未だズキズキ鈍い痛みを訴えてるので、それなりの力で殴っているは分かるけど。

いやそれでも血が出ていないから凄く加減しているのは分かるけど!

前を無言で歩くザンザスにヴェロニカは困惑する。

 

 

 

「さっきは言い過ぎた」

 

 

 

……………はい?

ごめん、耳おかしくなったかも。

パパが今、言い過ぎたって言ったような声が聞こえた。

ない。

え、あれぇ?ゆ、夢?

 

「え……パパ?」

「何だ」

 

あれ、パパが振り向いてくれる。

やっぱこれ夢じゃね⁉

だって今まで足とめるだけで振り向いてくれたことなんて一度もなかったし!

え、じゃあ夢なら、今のうちに謝る練習しておいた方がいいのかな?

 

「さ、さっき馬鹿って言ってごめんなさい」

 

私の言葉にパパは何も返すことなく、再び歩き出した。

んー……リアルな夢だ。

ってかどっから夢なんだこれ……

そんなヴェロニカにヴェラの言葉が蘇る。

 

『いっそ抱き着いちゃえば?応援してるわよ~』

 

夢なら抱き着いても死にはしないだろ…

いやでも抱き着くのはハードルたけぇな。

手……手を握るくらいなら…………振りほどかれたら泣きそう。

どうせ夢だし、こんな機会ないもんな。

 

思い切ったヴェロニカは前を歩くザンザスの手を後ろから握る。

一瞬、握ったザンザスの指がピクリと動くが、ザンザスは無言で歩き続ける。

 

あ、やっぱ夢だ。

ヴェロニカはそう確信する。

だけれど夢の中でぐらい親子のように手を繋いで帰ってもいいんじゃないですかね。

夢の中ででしか出来ない時点で酷く虚しいがな。

パパの手って硬くて大きいなぁ…

銃を強く握りしめるからかな、親指と人差し指の間が若干他の部分より硬めだ。

この手で同じ炎を出すのだ。

 

憤怒の……炎を……

 橙色の輝く光を…

 

 

ああ、私はこの人の娘なのだ。

同じ血が流れていて、同じ炎を宿した血縁者。

不愛想で素っ気無い、暴君なこの人が私の父親なのだ。

私の、生きている今の、家族なのだ。

 

 

「私……パパの子でよかった…」

 

禍々(まがまが)しくも 

  (おびただ)しくも

     高潔な美しい炎よ

 

 

前世で人混みに流されて泣いていた私の手を掴んでくれた顔も覚えていない父を思い出し、私は無性に泣きたくなったのだ。

 

 

 

 

 

XANXUS side

 

 

気を紛らわす為に街中を乱雑に歩いていた。

そろそろ日が暮れる上に腹減ってきたので本部へ帰ろうとした時

 

ゴッ

 

「っ…⁉」

 

真上から何かが激突してきた。

俺は気が散っていた中、それに気付かずもろに額にぶつかる。

額の痛みの中、足元に転がる石が視界に入る。

痛みと共に怒りが沸き上がる。

 

――――――――カッ消す!

 

石は上から落ちてきていて、俺は直ぐに橋の上に登る。

橋を渡り切るというところにガキが歩いていた。

ガキの後ろ姿に見覚えがあり、俺は額に血管が浮いた気がした。

あのガキ!いい度胸してんじゃねぇか!

俺は大股にそいつに近づき、一応加減しながらそいつの頭を殴りつける。

もちろんリングをつけたままだ。

そいつは頭を押さえ俺の方へ振り返ると目を見開いていた。

ガキの態度を見ていて、石をぶつけてきたのは偶然だったことが分かる。

だが許せるかで言われると、(いな)だ。

一応殴ったので苛立ちはほぼ収まる。

目の前のガキは困惑しながらも慌てて俺に謝る。

するとガキの目には涙が溜まり出す。

また泣かれるのは御免だと思い、俺は仕方なくガキを慰める。

 

「さっきは言い過ぎた」

 

ガキは涙の溜まった瞳を大きく開き、俺を凝視するが俺は無視してそのまま歩き出す。

ガキは焦ったように俺の後ろをついてくる。

少しすると、ガキが上擦った声で俺を呼んだ。

俺は無意識に、足を止め振り返る。

 

「さ、さっきは馬鹿って言ってごめんなさい」

 

それだけ言うとガキはまた黙り込む。

今思えば俺に正面切ってあれだけ喚き散らす根性は称賛に値する。

まぁただの無謀と言えばそれで終わりだが。

少し無言で歩き続けていると、いきなりガキが俺の手を握ってきた。

俺は一瞬反応したが、放置した。

本来なら振りほどくなり悪態つくなりしていただろう。

ただ、ガキのまだ柔らかい手のひらの感触に心臓をうろついていた(もや)が薄れていくような気がした。

 

俺はふと思った。

 

哀れだ

 

このガキは哀れだ。

 

俺の血をその身に流し、呪われた炎を継いでしまった哀れな子供。

 

繋がっている小さな手のひらがとても、とても…哀れで仕方なかった。

 

 

「私……パパの子でよかった…」

 

 

ああ、この(もや)はかつて俺が捨てた感情だ――――……

 

 

 

 

 

 




夢だけど夢じゃなかったwwww
やっと親子らしいこと出来ました!
ぶっちゃけここら辺が書きたくて長々と長編を書いてました(笑)

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