Veronica   作:つな*

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ヴェロニカは思う。

自身には行き過ぎた力なのだと

ヴェロニカは笑う。

滑稽で 滑稽で


Veronicaの力

「よくも9代目を!9代目へのこの卑劣な仕打ちは実子であるXANXUSへの、

そして崇高なるボンゴレの精神に対する挑戦と受け取った」

 

「なっ」

 

ザンザスの言葉に驚愕する沢田綱吉に、ザンザスは追い打ちの言葉を発した。

 

「しらばっくれんな。9代目の胸の焼き傷が動かぬ証拠だ。

お前がしたことの前ではリング争奪戦など無意味!

俺はボスである我が父のため。そしてボンゴレの未来のために貴様を倒し、仇を討つ。」

 

誰もが仕組まれたことに気付いていながらも、あまりの事態に言葉が出せないでいた。

リボーンが口を開こうとした時――

 

 

「んぐふっ」

 

 

場の雰囲気に似つかわぬ声が遠くの方から発せられた。

その場にいた者、チェルベッロも含め皆がそこに視線を移した。

ザンザスが声のした方に、銃口を向け誰かの静止の声を無視して発砲する。

大きな破壊音と共に、黒い影がその場から飛び出し遠くの方へ走っていく姿が見えた。

 

「誰だか知らんが、ここ数日俺たちをじろじろ見やがって不快だ。レヴィ、殺せ」

「ハッ」

 

レヴィが遠くに逃げる黒い影を追う為、駆け出す。

影は、物凄いスピードで掛ける。

もし、レヴィでなくベルフェゴールであれば恐らくついて行けたかもしれないが、ベルフェゴールの足は嵐の対戦で負傷していたため、レヴィが駆り出された。

あまりの足の速い影に、レヴィは追いつかないと判断し、攻撃に移った。

電気傘を抜き、前を走る影に打ち込む。

が、そのまま攻撃が当たったにも関わらずその影はスピードを落とす気配はない。

 

「貴様、何者だ!」

 

レヴィはそう叫ぶも、影は何も答えない。

何発か喰らわすも、全く効いていないかのように影は走っていき、やがては闇に飲まれていった。

 

「くそっ、奴は一体……」

 

レヴィは追うのを諦め、ザンザスの元へ引き返した。

 

 

 

一方、黒い影はマンションの一室で、誰も周りにいないことを確認し、被っていた黒いフードを脱いだ。

 

「あーーーー……あっぶなかったぁ…」

 

黒い影、ヴェロニカは来ていた黒い服をすべて脱ぎ、普段着を着てベッドに倒れこむ。

しん、と静けさの広がる一室の中でヴェロニカは枕に顔を沈めている。

段々と、肩が震えていき、思わず声が漏れだす。

 

「ふ、くく………も、無理……ふはは…」

 

ヴェロニカの声は段々と大きくなり、遂には耐えることをやめ、盛大に笑い始める。

 

「あははははははっ…す、崇高なるボンゴレって……くふ、ふははははは」

 

思い出したらさらに笑いがこみ上げる。

 

「卑劣な仕打ちって……って…んぐ…我が父の為とか……あっはははははは……ないわー」

 

数分間、笑い続けて疲れたのかようやく笑い声が収まり、ヴェロニカは枕から顔を上げる。

その顔は涙に濡れており、一見悲壮な少女を表すも、本人は至って正常である。

なにせ笑い泣きなのだから。

 

パパのクソ演技に思わず吹いて居場所がバレたけど、これは見る価値ありましたわ、ハイ。

なにあれ、めっちゃウケる。

ああ、ボイスレコーダーに入れて未来の皆に聞かせたかった。

我が父って…くっそ吹いたわ…

パパに仇って言葉自体合わないっていうか、遺伝子レベルで拒否られてる。

もうダメだ、変な声出たけど不可抗力だね。

あ、電話なってる。

 

「もしもし」

『プリンチペッサァァァァァァァアアア!』

「後悔も反省もしてないよ」

『そこはしてよ!何で声なんか出すかなぁ!』

「ごめん、耐えられなかった」

『え?そりゃ九代目は瀕死だったけど、あれじゃ死なないって事前に言ったじゃないか!』

 

んん?そうやらマーモンは私が泣きそうであんな変な声を出したと思われているみたいだ。

 

「マーモン違う」

『何がだい⁉』

「別に私は悲しくて声を出したんじゃないわ」

『…は?』

「パパの発言に思わず笑ってしまったの」

『…………』

「あんなクソ演技…よくパパ考え付いたね、録音したかったわ」

『君ほんっとボスの娘だよね!』

「それ誉め言葉?」

『絶対違うから!』

 

ようやくマーモンへの誤解が解けた。

が、マーモンも思うところがあったのだろう、笑ってしまったことに対して責められはしなかった。

 

『ほんと、ボスが君のこと殺そうとしたんだよ⁉もっと気を付けてよ!』

「ごめん、でもあれは仕方がないと思うの」

『うん、君からすれば笑うのも致し方ないけどね……それよりレヴィが追いかけて行ったけど大丈夫だったかい?』

「ええ、何発か雷喰らったけど無事よ」

『それ無事って言わないから‼え⁉怪我は⁉』

「ないわ、全部調和したから…水鉄砲が背中に当たったような感覚はあったけどね」

『それレヴィに言ったら絶対泣くよ』

「言わないからいいわ」

 

電話越しでマーモンが溜息を吐くのが伝わった。

 

「にしても我が父って……卑劣な仕打ちって…ふっ」

『やめてよ!僕まで笑いそうじゃないか!君の笑いどころに僕は今驚いてるよ!』

 

確かに、私が笑ったところを彼らには見せていないかもしれない。

確かに嬉しかったりしたら笑いはするけど、面白くて爆笑したことは一度もなかった気がする。

それで一時期心配されたな、うん。

 

「心配かけてごめんねマーモン」

『……本当に気を付けなよ……今度危ない目に合ったらスクアーロやルッスーリアに言うからね』

「えー…」

『えー、じゃない!君は一度彼らに説教されるべきだよ絶対』

「逃げるからいいよ」

『逃げないでよ!全く』

「これ以上話しててもマーモンが怪しまれるわ」

『そうだね、もう切るけど、ちゃんと寝なよ』

「うん、おやすみ」

 

通話を切った私は、お風呂に入り、そのあと直ぐに眠りについた。

翌日の朝は寝坊したので学校へは休みの連絡を入れ、その日はトレーニングに勤しんだ。

 

大空決戦の夜、私は並盛中に余め設置されていた監視カメラをハッキングしていた。

今日、流石にあちらの被害が尋常じゃない上、パパがめちゃくちゃ破壊しまくるのでついでで殺されかねないと思ったからだ。

あ、出来た。

カメラのモニターがPCのディスプレイに映し出された。

既に守護者達は集合しているようだ。

毒入りのリストバンドをハメた彼らは、チェルベッロの言葉を待っている。

数分すると、いきなり守護者たちが倒れだす。

 

「始まった……」

 

後は、パパが沢田綱吉に負けるのを待つだけ。

 

「にしても物凄い悪役っぷりだな…パパ」

 

いきなり沢田綱吉を殴りつける外道っぷり、そこに憧れもしないし、痺れもしない。

数十分、モニターを見ていると、沢田綱吉が零地点突破をし出した。

 

「そろそろか…」

 

一応、ザンザスが倒れたところ私が乱入してワクチンを打つ隙があれば実行しようとは思っていたので、準備をする。

余めマーモンに作らせておいた私の有幻覚にマンションの下の階にあるレストランで監視カメラに映る位置で時間を潰せと指示をする。

有幻覚はそのままレストランへ向かう中、私はマンションのガラス窓から外へ出る。

両手剣を腰に差し、建物の上を駆けていく。

あと少しで並盛中が見えるというところで、交戦する音が耳に入ってきた。

視線をそちらに向けると、ヴァリアー隊員であろう集団と、一人の男が戦っていた。

最後の一人に攻撃を食らわした男の顔を眺める。

 

あれは確か…

 

ヴェロニカは記憶を探る。

原作でヴァリアー編の最後らへんに沢田綱吉側に助太刀で来たランチアだっただろうか…

その男と、一瞬目が合うと男は私に向かって攻撃を繰り出してきた。

 

ッチ、ヴァリアーの隊員だと思われたのか!

確かに黒い服を着ている私はヴァリアー隊員に見えなくもないが、そんな視界に入った一般人…じゃない!私今腰に剣差してるわ!

これは敵だと認識してもおかしくないですわ、ハイ。

 

ランチアの攻撃を尽く躱す私に、他の奴らとは実力が違うと悟ったのかランチアは一歩距離を取り、一層険しくした顔で武器を構える。

まぁ、あちらが先に敵か味方か部外者かを確認せずに攻撃したので…正当防衛って許されますよね?

潔いヴェロニカは、剣を構えた。

先に攻撃してきたのは、ランチアである。

鋼球がヴェロニカを襲うが、ヴェロニカは剣に憤怒の炎を纏い一気に振り下ろした。

甲高い金属のぶつかった音と爆発音が鳴り響く。

そのままヴェロニカは足に炎を纏い、建物を降りる。

炎の糸を使うには建物の上という広い空間では不利だったからだ。

下に降りだしたヴェロニカを追ってランチアも降り、背後から攻撃を繰り出してきた。

その攻撃を防ごうと、ヴェロニカは炎を剣先に集中させ、真横にあった壁を思い切り破壊した。

壊れた壁がランチアの攻撃を防ぐと同時に、一定の距離を取ることに成功したのだ。

目の前に壁があり、どこにも逃げ場のなくなったヴェロニカはすぐさまこの狭い空間に炎の糸を張り出す。

見えないように、薄く、そして細く…

追いついたランチアは逃げ場のないヴェロニカに無表情で構えだす。

 

「お前だけ、他の奴らとは雰囲気も威圧感も違ぇ……てめぇ本当にヴァリアー隊員か?」

 

違います。

全くもって違います。

ん?ここはひとまず誤解を解くべきか?

 

「違うけど」

「やはりな。大方ザンザスが雇った腕利きの私兵かなんかだろうよ」

 

あちゃー、そっちにいっちゃいますか!そうですか!

 

「だが俺も、沢田綱吉には借りがあるんでな…てめぇにはここでやられてもらうぞ」

 

ランチアは鋼球を私に向けて、攻撃してきた。

私は両手剣で鋼球を弾き、足に炎を少し多めに纏い、壁を蹴って上に登りだす。

 

「いかせねぇ」

 

ランチアもヴェロニカを追い、足を出した瞬間に焦げるような匂いと共に焼けるような痛みに襲われる。

 

「ぐっ」

 

足には一本線の焦げ跡が残っており、周りを見るが何も見えず、ヴェロニカを睨みだす。

ランチアは上からこちらを見下ろすヴェロニカに鋼球を投げようとするも、動かした腕に炎の糸が引っ掛かり、鋭い痛みと共に焼けていき腕の腱が切れ力なく腕を垂らした。

だがヴェロニカは無慈悲にも張り巡らせていた糸に憤怒の炎を大量に通した。

ヴェロニカが建物の屋上にあるフェンスに足を付けた瞬間、下の方から凄まじい爆発音と共に、熱気が襲ってきた。

ヴェロニカはフェンス越しに下を見て、呟く。

 

「……や、やりすぎた……」

 

建物の破損範囲が広すぎて、爆発のあった両隣の建物自体が崩壊しようとしていた。

下には、ランチアが爆発に巻き込まれており、このままでは建物の下敷きになるのは目に見えていた。

ヴェロニカは流石にそれは死んでしまうと思い、慌てて下に降りる。

下に降りると、あたり一帯憤怒の炎で覆われていた。

自身の炎なので、透き通るように炎の中を歩く。

少し離れた場所にランチアが意識をなくしたまま倒れていた。

爆発の衝撃でここで飛ばされてきたのか……

死んでないよな、うん。だってスクアーロとかこんくらいじゃ死なないし。

ヴェロニカは知らない、それはスクアーロが頑丈すぎるだけだということを。

意識のないランチアを背負うと、そのまま被害の及ばなさそうな場所まで運ぶ。

ここまで来れば、大丈夫だろう。

ランチアを放置して、そのまま並盛中へ向かう。

ちゃんと憤怒の炎は消化した。

 

並盛中へ行くと、ザンザスは倒れており、マーモンとリボーン達が何か言っている。

 

「行くぞコラ!」

「待て、解除されてねぇぞ」

「甘いよ、細工しておいたのさ…あいつらは纏めて檻の中で消す予定だからね」

 

おおう、もうここまで進んでいたのか。

ていうかこれチャンスじゃね?ザンザス倒れてるし。

リボーンたちは何も出来ない、手の空いてるマーモンも私には手は出せないし、唯一気を付けるのはベルフェゴールくらいだな。

他の奴らは負傷しているし、今の私でも倒せる。

 

ヴェロニカはワクチンを片手に、もう片方では剣を持ち思い切り駆け出す。

ザッ

グラウンドに上手く着地し、ザンザスに向かって思い切り走りだす。

その場にいた者は突然の乱入者に驚く。

だが、流石はヴァリアー。

ベルフェゴールが狙いはザンザスと気付き、乱入してきた影にナイフを投げつける。

 

「くそ、死ね!」

「誰だい⁉」

 

負傷して疲れた体での攻撃はヴェロニカには通用しなかった。

マーモンも影の正体に気付きながらも幻術を掛けてくるが、どれも簡単な幻術で解除される。

あと少しでザンザスに手が届くというところで、思わぬ邪魔が入った。

最後の力を振り絞ったのだろう、必死に肩を上下させて息を荒くしていた男。

 

沢田………綱吉っ!

 

グローブに炎を纏い、ヴェロニカの前に現れた。

 

何でお前出てくんの?……正直言って意味わかんない。

え、ザンザスってお前にとって敵だよね?そうだよね?何で庇ってるのさ…

もしかして主人公の誰も死なせない!とかいう馬鹿な思い込みで?

馬鹿なの?死ぬの?いや主人公補正かかってるから死ぬことはないと思うけど。

沢田綱吉の暴挙にベルフェゴーレもマーモンも唖然としていた。

そういう私も数秒、思考を停止していたが、直ぐに思考切り替え沢田綱吉に攻撃する。

 

「っく」

 

回し蹴りや拳がもろに入っていくが、倒れる気配はない。

これ絶対、内臓傷ついているよね?

アホだ、こんな……外道なザンザスを庇うなんて…

いや私は別にパパを殺しに来たんじゃないからね?

逆に助けに来てるからね?

そこは超直感働かなかったんですかね?

 

考え事をしていると、後ろからベルの攻撃が迫ってきていた。

なんなく避けて、距離を取る。

ッチ、これじゃもう奇襲の利が潰されてしまった。

いやまだ入院中に機会がある。

ここはひとまず撤退しなければ……

すぐさま判断したヴェロニカは一気に駆け出してグラウンドから遠ざかる。

後ろからベルが何か叫んでナイフ投げてきているが、ザンザスの元を離れる気がないのか追っては来なかった。

 

沢田綱吉の腑に落ちない表情が気になるが、今はただ逃げることに集中した方がいいだろう。

ヴェロニカは最初のチャンスを失敗で終わり闇に消えていった。

 

 

 

ランチアside

 

特例で復讐者(ヴィンディチェ)の牢獄から解放された俺はヴァリアーの隊員と交戦していた。

どいつも三下の実力しかなく、これくらいなら直ぐに片が付くと思っていた。

最後の一人に鋼球を当てると、視界の隅に影が通り過ぎた。

俺は迷いなくその影に鋼球を投げつけるが、避けられた。

そいつを一目見た瞬間、確信した。

こいつは強者だ、と。

ただ立っているだけで、こちらにまで伝わる威圧感に武者震いする。

フードを被っていても分かる、その覇気に飲み込まれそうになるのをぐっと耐え鋼球を構える。

そいつは腰に差していた剣を抜き、こちらへ反撃してきた。

軽く剣を振るように思えるが、威力が想像以上に重く、強く、速かった。

俺は必死に相手の攻撃に喰らいつく。

そいつはいきなり建物の屋上から降りて行き、俺はそれを追っていく。

建物間の狭い道をそいつは掛けていき、俺は背後を容赦なく攻撃しだす。

その攻撃は、そいつが壊した壁の残骸で防がれた。

残骸を乗り越えると、相手は遠くに行っており、距離を取られたことに舌打ちをする。

遠距離を仕掛けてくる気か?いやトラップの可能性もある。

そのまま追っていくと、相手は逃げ場のない道で出てしまい俺は好機だと思った。

投げつける鋼球は剣ではじかれ、そいつは壁を蹴り上げて上に上がろうとした。

そんな無防備な背中を敵に見せるとは!

 

「いかせねぇ」

 

罠を疑いながら攻撃をしかよう足を踏み出した時だった。

ジュッ、と焦げる音と匂いがした瞬間俺の足に激痛が走った。

目を見開き、周りを見渡したが、何も見えなかった。

罠だったか!だが、何も仕掛けられている様子はなかった!

一体何を…そう思いながら上に登っているそいつを強く睨む。

くそっ、逃がすわけには行かねえ!

俺は無意識に腕が動いていて、鋼球を構えようとしたら腕がいきなりカクンと垂れ落ちた。

その次に、激痛が走り腱が切られたのだと分かった。

痛みに眉を顰めながらそいつを見上げたその時、そいつの顔が一瞬見えた。

俺は思考が一瞬だけ止まった。

 

 

 

真っ赤な、血を吸ったような瞳が俺を射抜いた。

 

魅せられたのだ。

 

その瞬間俺は悟った。

死ぬ、と。

恐ろしくはなかった。

 

赤い、朱い、紅い、その瞳があまりにも、あまりにも……

 

 

美しかった――――

 

 

俺の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

その頃ヴェロニカは…

 

「過剰防衛すぎた…反省はしている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヴァリアー編終わらなかった…
ランチアをすっかり忘れてましたね、ハイ。
結構人気のあるランチアをふるぼっこしてみました。
次でまとめきれるかなー…。

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