準決勝第一試合、アンドロメダ学園対白轟高校の一戦。
「アンドロメダか。白轟も食らいついたんだけどな」
「いい試合だったね。やっぱり、好投手同士の投げ合いには緊張感がある。息が詰まる試合だった」
「うむ、ひとつのプレーで流れが変わるということを再確認出来た。やはり、堅実なプレーこそが勝利をたぐり寄せる」
豪華でありながらも品のある広いリビングルームに、あかつき大附属の
「......どうでもいいんだが、なぜ、キミたちが居るんだい?」
自室でゆっくりと観戦するつもりでいた
「細かいこと気にすんなよ。どうせ、暇だったんだろ? つーか、オレら以外にダチも居ねーだろ」
「......
「まあまあ、その辺にしておきなよ」
「
「フゥ......」
諦めた
「けど、まさか、ここまで来るなんてね」
「初戦の帝王実業を、圧倒したことが大きい。あの試合で、勢いに乗れた。自分たちの力を発揮できたことで、初出場のプレッシャーも消し飛んだのだろう」
「僕は、緊張したなぁ。正面のイージーボールを弾いたことは忘れないと思う」
「オレも、甲子園デビュー戦では、足が地に着かなかった感じだったが、
「役に立ってなにより。それにしても、ずいぶんと顔ぶれが変わったみたいだね」
ノックを受けているスターティングメンバーは、あかつきが春に戦った頃と半分近く他の選手が入れ替わっていた。
「ああ、それな。何人か、御陵へ転校したって話しだぞ。準々決勝で先発した
「ふむ、オレの調べた情報によると。あの投手、壬生時代は選手登録されていなかったそうだ」
話しを聞いた
「......それはまた、妙な話しだ。あれほど能力の高い投手が、選手登録されていなかっただなんて」
これが、
選手登録の管理などを一任されていたことで、目に掛かった選手の実力を隠しながら練習に参加させて、基礎を学ばせ、転校後スムーズに行くよう秘密裏にことを運んだ。中には、
「どうにせよ、オレたちには関係ないことだ。それに、あの選手は居るぞ」
画面には、ノックを行う監督の補助を務めている選手が映し出されていた。
「お前たちも、忘れていないだろう?」
「ったりめーだ」
「......あの一打、忘れるワケがない」
春のセンバツ甲子園大会準決勝、同点で迎えた試合中盤。エラーで出たランナーをスコアリングポジションに置いて一打負け越しの場面、
その後、一打同点の場面で
「正直、簡単にやられるのはしゃくだよな」
「同地区の代表だしね」
「無様な負けだけは、勘弁して欲しいものだ」
「フン。ボクは、中立で見るぞ」
「ったく、素直じゃねーなって、
「本当だ。準々決勝で、左腕に受けたデッドボールの影響か?」
「どうかな? 直後の打席で、特大のホームラン打ってるし。守備練習を見る限り、動きも悪くなさそうだけど」
四人が観ている中継映像からやや遅れて、場内にもスターティングメンバーを知らせるアナウンスが流れた。
告げられた先発の名は――一年、
恋恋高校のベンチも、バックスクリーンに表示された名前に、少しだけざわめき立つ。
「ライトでノックを受けていたから、もしかしてって思ったけど、先発投手は、
「逆だな。春に対戦しているアンドロメダに対しては、
壬生の監督――
「因みにだが、府大会の決勝も、
「つまり、油断はしてない。それどころか、いつでも行けるよう最大の警戒してるということ......?」
「相手の思惑はさて置き、やることは変わらない。華々しく散ってこい。花は、散り際が一番映える。正面切って向かえば、相手も惑う」
「はい! さあ、行こう!」
ベンチ前で一列に整列していたナインたちは、
* * *
『後攻の恋恋ナインがポジションに散ります。先発ピッチャーは、
球審のコールと同時に、サイレンが鳴り響く。
『準決勝第二試合、決勝進出をかけた勝負が今、始まりましたー!』
「(壬生は、一番から九番まで長打を打てるバッターが揃っている。この先頭バッターも、予選で二本。内一本は、オープニングホームラン。グリップエンドに小指をかけて、バットを長めに持ってる。先ずは、真っ直ぐの対応を見る......!)」
内外野を下がらせ、
『サインに頷いた。
「(インロー!)」
初球を振り抜いた当たりは内野の頭を越えて、レフト
「伝えてくれ。出所が見辛く、タイミングが合わせにくい。球持ちもいいし。早めに始動しておかなければ、差し込まれる」
「あいよ」
コーチャーは、ベンチから来た控え選手に防具と情報を通達。ネクストバッター、そして、ベンチへと情報が伝達された。
「(若干詰まっていたけど、パワーで強引に持っていかれた。それに、大振りって訳でもない。インコースを捌ける技術を持ち合わせてる......)」
『バントの構えは見せません。それもそのはず、バッターボックスの
「(二番も、バットを長く持ってる。生半可なボールは通用しないぞ。どうする......?)」
目を閉じて、思考をフル回転させる。しかし、なかなか良い考えが浮かばない。その時ふと、
「(――そうだった、色気は出しちゃダメなんだ。
「(ええ)」
セットポジションに着いた
「セーフ!」
『スバラシイ牽制でしたが、間一髪セーフ!』
牽制球を投げた瞬間、
「(バッターに小細工をするような動きはなかった。ここは、強攻策で来る。探りを入れられる余地はあるぞ)」
「(それなら、ゾーンを広く使って......いや、違う。これは俺たちが三回戦で、聖タチバナ学園を攻略した方法と同じだ。際どいコースをしっかり振り抜くことで、相手にプレッシャーを与えて自滅を誘う戦術。ストライクゾーンで勝負しないと、相手の思う壺だ。あの当たりの後だから、恐いとは思うけど......)」
「(気を使ってくれるのはありがたいけど、心配無用よ。私は、覚悟を決めてる。どんな要求にも応えるわ......!)」
『さあ、サイン交換が終わりました。
『これもレフトへ上がったーッ! レフト
あと数メートルでホームランという大きな当たりもレフトフライに終わった
「珍しいですね。
「若干タイミングがズレた。連投でどうかと想ったが、影響はなさそうだ。データ通り、制球力も高い。そうそう甘いコースには来そうにないな」
「了解です」
入れ替わりで
『おっと、ここは長打を警戒です。それもそのはず、バッターボックスの
「(
初球はカーブから入り、二球目は、ストレートで見逃しのストライクを奪う。二球で、
「(球速は、110キロ前半。今のが、最速なのかな?)」
追い込まれたにも関わらず
「(よし、ここもデータ通り、多少甘いコースでも振らずに見て来た。ランナーからは、動く素振りを感じない。バッターを信頼しているんだ。なら――)」
サインに頷いた
「(――インハイ、三球勝負......あれ? さっきよりも速いっ?)」
ツイストで振り遅れを修正し、身体に巻き付けるように肘を畳んだ。
『捉えたーッ! ライナー性の打球は、深めに守っていた
「――くっ、やられた!? レフト、センター!」
『ボールは、中継へ返ってきただけ。壬生高校、三番
すぐさまタイムを要求した
「三球勝負、完全に裏をかいたと想ったのに。一瞬で修正して対応してくるなんて......脅威的なコンタクト力ね」
「確かに、胸元の真っ直ぐを、あの角度と方向へ詰まらせずに打ち返すことは至難の業。しかし今の一打は、金属でなければ、
「ほんの僅かだが、見えてきたな」
――
P.S
本来北斗の最速は149キロですが、サクスペで先行実装されている「北海の狼・北斗」では、選手能力が向上しているため、そちらをベースにしています。