7Game   作:ナナシの新人

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Final game4 ~性質~

 準決勝第一試合、アンドロメダ学園対白轟高校の一戦。

 大西(おおにし)北斗(ほくと)、共にMAX150キロ超を誇る左腕同士の対決を制したのは、アンドロメダ学園。春に引き続き、決勝の舞台へと駒を進めた。

 

「アンドロメダか。白轟も食らいついたんだけどな」

「いい試合だったね。やっぱり、好投手同士の投げ合いには緊張感がある。息が詰まる試合だった」

「うむ、ひとつのプレーで流れが変わるということを再確認出来た。やはり、堅実なプレーこそが勝利をたぐり寄せる」

 

 豪華でありながらも品のある広いリビングルームに、あかつき大附属の二宮(にのみや)六本木(ろっぽんぎ)四条(よじょう)の三人と、部屋の主である猪狩(いかり)(まもる)がソファーに座って、甲子園の試合中継を観戦している。

 

「......どうでもいいんだが、なぜ、キミたちが居るんだい?」

 

 自室でゆっくりと観戦するつもりでいた猪狩(いかり)だったが、三人が突然訪ねてきたことで急遽予定を変更、リビングで一緒に試合を観戦することになり。澄まし顔で不満を漏らす猪狩(いかり)に対し、二宮(にのみや)は笑いながら、汗をかいたコップを手に取った。

 

「細かいこと気にすんなよ。どうせ、暇だったんだろ? つーか、オレら以外にダチも居ねーだろ」

「......二宮(にのみや)、キミは、礼儀という言葉を知らないのか?」

「まあまあ、その辺にしておきなよ」

六本木(ろっぽんぎ)の言うとおりだ。間もなく、準決勝第二試合が始まる。今のうちに、第一試合のデータを整理しておかねば......!」

「フゥ......」

 

 諦めた猪狩(いかり)は、大きなタメ息をついた。第一試合の感想を語り合っているうちに、グラウンド整備が済み、恋恋高校あと、先攻の壬生の選手たちが試合前のシートノックを始める。

 

「けど、まさか、ここまで来るなんてね」

「初戦の帝王実業を、圧倒したことが大きい。あの試合で、勢いに乗れた。自分たちの力を発揮できたことで、初出場のプレッシャーも消し飛んだのだろう」

「僕は、緊張したなぁ。正面のイージーボールを弾いたことは忘れないと思う」

「オレも、甲子園デビュー戦では、足が地に着かなかった感じだったが、六本木(ろっぽんぎ)のミスで気が楽になった」

「役に立ってなにより。それにしても、ずいぶんと顔ぶれが変わったみたいだね」

 

 ノックを受けているスターティングメンバーは、あかつきが春に戦った頃と半分近く他の選手が入れ替わっていた。

 

「ああ、それな。何人か、御陵へ転校したって話しだぞ。準々決勝で先発した三木(みき)ってヤツも、元は壬生に在籍していたらしい」

「ふむ、オレの調べた情報によると。あの投手、壬生時代は選手登録されていなかったそうだ」

 

 話しを聞いた猪狩(いかり)は、訝しげな表情(かお)を見せる。

 

「......それはまた、妙な話しだ。あれほど能力の高い投手が、選手登録されていなかっただなんて」

 

 これが、伊藤(いとう)が取った抜け道。

 選手登録の管理などを一任されていたことで、目に掛かった選手の実力を隠しながら練習に参加させて、基礎を学ばせ、転校後スムーズに行くよう秘密裏にことを運んだ。中には、伊藤(いとう)の合理的な指導法やメンタルケア、卒業後の進路などを親身になって面倒を見てくれる人格を慕って、自ら転校を選んだ選手も居る。春に一年でベンチ入りした一部の選手たちは、新年度に合わせて転校したため今年度は公式戦には出られないが、図らずも戦力ダウンの要因を担う形になった。

 

「どうにせよ、オレたちには関係ないことだ。それに、あの選手は居るぞ」

 

 画面には、ノックを行う監督の補助を務めている選手が映し出されていた。

 

「お前たちも、忘れていないだろう?」

「ったりめーだ」

「......あの一打、忘れるワケがない」

 

 春のセンバツ甲子園大会準決勝、同点で迎えた試合中盤。エラーで出たランナーをスコアリングポジションに置いて一打負け越しの場面、猪狩(いかり)が投げた勝負球、外角低めいっぱいのストレートを、逆風の浜風が吹く右中間へ叩き込んだ選手、壬生を支える扇の要――土方(ひじかた)

 その後、一打同点の場面で二宮(にのみや)がライトフライに倒れたことで、より一層悔しさが残る試合であり、猪狩(いかり)が、ストレート強化を図るきっかけとなった一戦。

 

「正直、簡単にやられるのはしゃくだよな」

「同地区の代表だしね」

「無様な負けだけは、勘弁して欲しいものだ」

「フン。ボクは、中立で見るぞ」

「ったく、素直じゃねーなって、近藤(こんどう)じゃねーぞ?」

「本当だ。準々決勝で、左腕に受けたデッドボールの影響か?」

「どうかな? 直後の打席で、特大のホームラン打ってるし。守備練習を見る限り、動きも悪くなさそうだけど」

 

 四人が観ている中継映像からやや遅れて、場内にもスターティングメンバーを知らせるアナウンスが流れた。

 告げられた先発の名は――一年、沖田(おきた)

 恋恋高校のベンチも、バックスクリーンに表示された名前に、少しだけざわめき立つ。

 

「ライトでノックを受けていたから、もしかしてって思ったけど、先発投手は、近藤(こんどう)くんじゃないのね。決勝戦へ向けての温存かしら?」

「逆だな。春に対戦しているアンドロメダに対しては、近藤(こんどう)で、ある程度計算出来ると踏んだんだろう。相手にとって、ウチは未知数。本当に温存させるのなら、スタメンを外してるさ」

 

 壬生の監督――松平(まつだいら)の考えの中には、二人の起用方について、データが揃っている近藤(こんどう)よりも、データの少ない沖田(おきた)の方が勝算が高いという理由もあった。

 

「因みにだが、府大会の決勝も、沖田(おきた)が先発している。それも、去年と同じ顔合わせだったそうだ。その時は、近藤(こんどう)はスタメンから外れ、控えがセンターに、本職の背番号九番島田(しまだ)がライトに入っていた」

「つまり、油断はしてない。それどころか、いつでも行けるよう最大の警戒してるということ......?」

「相手の思惑はさて置き、やることは変わらない。華々しく散ってこい。花は、散り際が一番映える。正面切って向かえば、相手も惑う」

「はい! さあ、行こう!」

 

 ベンチ前で一列に整列していたナインたちは、鳴海(なるみ)の号令で、グラウンドへ駆け出して行った。

 

 

           * * *

 

 

『後攻の恋恋ナインがポジションに散ります。先発ピッチャーは、十六夜(いざよい)瑠菜(るな)! 準々決勝に引き続き連投となります。どのような立ち上がりを見せるか注目です! そして、迎え撃つ壬生の先頭バッター原田(はらだ)が、右のバッターボックスに入りました。今か今かと、試合開始を待つ超満員のスタンドの熱気が伝わってきますっ。わたくし、熱盛(あつもり)のボルテージも上がって参りました!』

 

 球審のコールと同時に、サイレンが鳴り響く。

 

『準決勝第二試合、決勝進出をかけた勝負が今、始まりましたー!』

 

 鳴海(なるみ)は、じっくりとバッターを観察。

 

「(壬生は、一番から九番まで長打を打てるバッターが揃っている。この先頭バッターも、予選で二本。内一本は、オープニングホームラン。グリップエンドに小指をかけて、バットを長めに持ってる。先ずは、真っ直ぐの対応を見る......!)」

 

 内外野を下がらせ、瑠菜(るな)にサインを送る。

 

『サインに頷いた。十六夜(いざよい)の初球――ストレート!』

 

「(インロー!)」

 

 初球を振り抜いた当たりは内野の頭を越えて、レフト真田(さなだ)の前へ落ちた。一塁キャンバスを蹴ったところでベースへ戻り、プロテクターをコーチャーに預ける。

 

「伝えてくれ。出所が見辛く、タイミングが合わせにくい。球持ちもいいし。早めに始動しておかなければ、差し込まれる」

「あいよ」

 

 コーチャーは、ベンチから来た控え選手に防具と情報を通達。ネクストバッター、そして、ベンチへと情報が伝達された。

 

「(若干詰まっていたけど、パワーで強引に持っていかれた。それに、大振りって訳でもない。インコースを捌ける技術を持ち合わせてる......)」

 

 原田(はらだ)と同じく右打席に立った永倉(ながくら)へ目を移す。

 

『バントの構えは見せません。それもそのはず、バッターボックスの永倉(ながくら)は長打が売りの攻撃的な二番バッター! 打率も、三割強を誇る強打者です!』

 

「(二番も、バットを長く持ってる。生半可なボールは通用しないぞ。どうする......?)」

 

 目を閉じて、思考をフル回転させる。しかし、なかなか良い考えが浮かばない。その時ふと、東亜(トーア)の言葉を思い出した。

 

「(――そうだった、色気は出しちゃダメなんだ。瑠菜(るな)ちゃんの覚悟が無駄になる。よし、とりあえず、コレで様子見を兼ねて間を取ろう)」

「(ええ)」

 

 セットポジションに着いた瑠菜(るな)は、ファーストランナーを目で牽制し、バッターへ目を戻した刹那、素早くプレートを外して牽制球を投げた。ファーストランナー原田(はらだ)は、手からベースへ戻る。

 

「セーフ!」

 

『スバラシイ牽制でしたが、間一髪セーフ!』

 

 牽制球を投げた瞬間、鳴海(なるみ)永倉(ながくら)の反応を見ていた。

 

「(バッターに小細工をするような動きはなかった。ここは、強攻策で来る。探りを入れられる余地はあるぞ)」

 

 永倉(ながくら)への初球もストレート、今度は外角へ一個分外したボール。鋭い当たりが、一塁線を切れていく。ボール球だろうと、芯で捉えられると判断したら構わずに振り抜いて来るという点は一番と類似している。

 

「(それなら、ゾーンを広く使って......いや、違う。これは俺たちが三回戦で、聖タチバナ学園を攻略した方法と同じだ。際どいコースをしっかり振り抜くことで、相手にプレッシャーを与えて自滅を誘う戦術。ストライクゾーンで勝負しないと、相手の思う壺だ。あの当たりの後だから、恐いとは思うけど......)」

「(気を使ってくれるのはありがたいけど、心配無用よ。私は、覚悟を決めてる。どんな要求にも応えるわ......!)」

 

『さあ、サイン交換が終わりました。十六夜(いざよい)、しっかりとランナーを警戒しつつ、素早く足を上げた!』

 

 永倉(ながくら)へ対する二球目――縦のカーブ。

 

『これもレフトへ上がったーッ! レフト真田(さなだ)、打球を追ってバック! しかし、これはもうひと伸びありません。フェンスの前で足が止まり、ウォーニングトラックの手前で掴みました! 原田(はらだ)は一塁へ戻ります、ワンナウト!』

 

 あと数メートルでホームランという大きな当たりもレフトフライに終わった永倉(ながくら)は、ネクストバッターの沖田(おきた)と言葉を交わす。

 

「珍しいですね。永倉(ながくら)さんが、ストライクゾーンのボールを打ち損じるだなんて」

「若干タイミングがズレた。連投でどうかと想ったが、影響はなさそうだ。データ通り、制球力も高い。そうそう甘いコースには来そうにないな」

「了解です」

 

 入れ替わりで沖田(おきた)が打席に入ると同時に、内外野が共に後退し、やや深めの守備体型へ変更。

 

『おっと、ここは長打を警戒です。それもそのはず、バッターボックスの沖田(おきた)はここまで、打率五割を越すハイアベレージ、本塁打も四試合で三本と、柔と剛を兼ね備えています! 恋恋バッテリー、どう迎え撃つのか!?』

 

「(沖田(おきた)は、追い込まれるまで手を出さない。追い込んでからが勝負だ。下手にかわしちゃいけない、なら決め球は、ストレート。最大限活かすには――)」

 

 初球はカーブから入り、二球目は、ストレートで見逃しのストライクを奪う。二球で、沖田(おきた)を追い込んだ。

 

「(球速は、110キロ前半。今のが、最速なのかな?)」

 

 追い込まれたにも関わらず沖田(おきた)は、余裕のある表情を崩さない。力感もなく、ゆったりと自然体で構えている。

 

「(よし、ここもデータ通り、多少甘いコースでも振らずに見て来た。ランナーからは、動く素振りを感じない。バッターを信頼しているんだ。なら――)」

 

 サインに頷いた瑠菜(るな)、ランナーを目で牽制し、足を上げた。三球目、遊び球なしの三球勝負。内角高めストレート。

 

「(――インハイ、三球勝負......あれ? さっきよりも速いっ?)」

 

 ツイストで振り遅れを修正し、身体に巻き付けるように肘を畳んだ。

 

『捉えたーッ! ライナー性の打球は、深めに守っていた奥居(おくい)のグラブの上を越え、左中間のど真ん中に落ちました!』

 

「――くっ、やられた!? レフト、センター!」

 

 真田(さなだ)矢部(やべ)が全速力で打球を追う間に、ファーストランナー原田(はらだ)はホームへ生還。打った沖田(おきた)も、セカンドへ到達。

 

『ボールは、中継へ返ってきただけ。壬生高校、三番沖田(おきた)のタイムリーツーベースヒットで先制点を奪いました! なおもワンナウト・ランナー二塁、追加点のチャンスで四番近藤(こんどう)を迎えます!』

 

 すぐさまタイムを要求した鳴海(なるみ)は、瑠菜(るな)へ声をかけに走る。

 

「三球勝負、完全に裏をかいたと想ったのに。一瞬で修正して対応してくるなんて......脅威的なコンタクト力ね」

「確かに、胸元の真っ直ぐを、あの角度と方向へ詰まらせずに打ち返すことは至難の業。しかし今の一打は、金属でなければ、奥居(おくい)のグラブに収まっていた可能性もあった」

 

 東亜(トーア)は、小さく笑みを見せる。

 

「ほんの僅かだが、見えてきたな」

 

 ――沖田(アイツ)の性質、次へと繋がるモノが。

 




P.S
本来北斗の最速は149キロですが、サクスペで先行実装されている「北海の狼・北斗」では、選手能力が向上しているため、そちらをベースにしています。

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