シナリオの都合上。
「覚悟、か......」
帝王実業戦前夜、時計の針が零時を回っても、なかなか寝付けないでいた
「まだ、起きてたんだ」
「あっ、あおいちゃん......」
隣に座ったあおいは、同じように夜空を見上げた。
「わぁ~、東京よりも、キレイに見えるね!」
「ん? ああー、そうだね」
「悩んでる?」
あまりにも素っ気ない返事に、あおいが若干不満気に訊くと、少しの間があったあと「うん」と、小さく返事を返した。
「だよね」
「あおいちゃんは、どう思う?」とは聞かれなかったが、あおいは、自分から話しを切り出した。
「もし、ピッチャーだったらどうする?」
「ピッチャーだったら?」
「うん。
「俺は......」
あおいの問いに、
「ボクはきっと、ううん、絶対に投げる」
「......それで、投げられなくなったとしても?」
神妙な面持ちで聞かれたあおいは「うんっ」と、迷いの無い笑顔を返した。
「投げれば後悔するかも知れない。でも、投げないと、絶対に後悔するって自信はある。なーんて、ヒロぴーの受け売りだけどね」
「
「うん。晩ごはんの後、メッセージが来たんだよ。明日......もう、今日だね。応援に来てくれるって」
「わざわざ、甲子園まで?」
「ほむらちゃんの、知り合いのバッティングセンターが近くにあって、お手伝いする代わりに泊めて貰えるんだって。それで、今回のことを相談したんだよ。ヒロぴーの話しを聞いて、ボクも、同じ気持ちだって想ったんだ......」
再び夜空を見上げたあおいは、どこか吹っ切れた
「ありがとう」
「どういたしまして。今日の試合、絶対に勝とうね!」
「うん、もちろん」
小さく微笑み合って、もう一度夜空を見上げた。
そして、翌日。甲子園のダグアウトからベンチへ戻ってきた
「朝っぱらから話し合っていたらしいが、答えは出たようだな」
「はい、この試合、本気で“潰し”に行きます。これは俺たち、全員の総意です」
「フッ、そうか。なら俺は、この試合、
「――はい!」
迷いの無い目で、力強い返事をした
「本当に、大丈夫なのかしら......?」
「おい。お前が、そんな不安な
「アイツらは正に、岐路に立っていた。存在するふたつの道。ひとつは、踏み場の無いほどのイバラが足下に張り巡らされた道の先に、微かに光が見える道。もうひとつは、一定の間隔に設置された
前者は、仮に試合中に
「しかしアイツらは、少なくとも選んだのさ。立ち尽くすことなく、痛みを負う覚悟を決めた。ならば、結末を見届けることこそが、指導者の務めだろ」
「......ええ、目は逸らさないわ」
「それでいい。まあ、その相手側は先発ではでないがな」
「あかつきとは、まったく違うチーム作りをしている。よほどのことがない限り、その年の三年をレギュラーに据えるあかつきは、三年引退後の秋になると、ベンチ入りした二年と二軍で育てた連中を軸に戦力を整えて戦う。一方、帝王はと言うと、半ば強引に一・二年をレギュラーやベンチに入れることで、秋の入れ替えによる戦力低下を実質半分に抑えているのさ」
「同じ名門校でも、そうも差があるのね。あかつきは、最大値を。帝王は、安定を求めるチーム作りと言ったところかしら? でも、ベンチ入りメンバーの半分近くに二年生と一年生で抜擢しているとはいえ、大事な初戦で一年生を先発させるの?」
「単なる消去法さ。帝王の投手は、全部で四人」
三年生の
「
「なるほどね、納得。ウチの先発が、彼女なのも」
「
「......んっ!」
「オッケー、ナイスボールッ!」
ミットを構えたところへ寸分の狂いもなく投げ込み、一旦ベンチへ引き上げてきた。試合開始に向けて、各自落ち着いた様子で準備を進める。審判団が、グラウンドへ出てきた。
「さあ、時間よ。みんな、行ってらっしゃい!」
先頭バッター
* * *
『本日お届けする試合は、名門・帝王実業対初出場の恋恋高校。実況担当は、私、
球審のコールを聞き、帝王実業バッテリーは、サイン交換を行う。サインは一度で決まり、マウンド上の
『注目の初球は――おーっと! なんと、先頭バッター
完全に裏をかかれ、内野安打。いきなりランナーを背負ってしまった
『キャッチャー
「動揺するでない!」
監督の
「
「あっ! は、はい!」
叱咤された
「(――初っぱなから奇襲とは、彼奴らの経験不足を狙われたか。さすがは噂に聞く、勝負師。異名は伊達ではないと言うことか。ともかく、試合を壊さず四回まで持たせてくれればよい)」
間を取ったあとの初球は、アウトコースのスライダーで空振りを奪った。今の一球を見た
「ストライクからボールになるスライダー。今の一喝で、立ち直った?」
「いや、一時的なものに過ぎねぇよ。それに本命は、ここからさ」
『カウント3-1からの四球目――
ひとつストライクを取って落ち着きを取り戻しかけていたところへ、再び仕掛けた。一球前と同じ外角のスライダーをハーフスイングで止めるも、スイングと判定されてストライク。しかし、完全に無警戒だったことで、キャッチャー
『地区予選決勝あかつき戦では、
「くくく、油断したな。ひとつストライクを取ったことで、
『大きく外れてしまいました、フォアボールです! これでノーアウト三塁一塁!』
ノーアウト三塁一塁。様々な形で得点を奪えるシチュエーション。そしてバッターは、
「(いくらメンタルが弱い
マウンド上で動揺している
「
「判っています。サードランナーが走るそぶりを見せたら、カットには俺が入ります。ベースカバーは、お願いします」
「(個人的には、そこそこの数字は残したが、春は二回戦で敗退してしまった。もう少しアピールしておきたいところだ。そのためにも、初戦で負ける訳にはいかない。必ずプロへ行くために。例え、どんな
「(このボクの気持ち......同類のあなたなら、理解していただけますよね?