『あかつき内野陣の要、ショートストップの
ベンチへ戻った
「ボクのボールは、走っていないのか......?」
「んなことねーよ、球は走ってる」
「なら、なぜ三振を獲れなかった?」
それは、
だが、
「
どう答えるべきか悩んでいたところへ、
「(先頭バッターに出会い頭で打たれるほど、今日のボクのストレートは良くないのか......? それとも――)」
「で、どうだ? アイツの印象は」
「データ通り、コントロールはかなり良いです。ストレートも、変化球も、しっかりコーナをついて来ますし。あのストレートは噂以上です。手元でのノビが半端なかったです。初見で攻略するのは難しいかと」
「でも球威は
「オイラも
「ふーん」
「さあ、もう守備の時間よ。話しの続きは守ってからになさい」
「はい!」と三人は揃って返事をして、グラウンドへ駆け出して行く。先発のマウンドを任された
「お待たせ、
「
「いえ、じゃあ戻ります!」
「どうだ? 実際に受けてきた印象は」
「今日の
「フッ、ならこの
そう言って
* * *
あかつきのベンチ前では、
「先発は、軟投の左の女子か。てっきりアンダーの女子で来ると思ったんだけどなー」
「しかし、彼女も一癖ある投手であることは間違いない。準々決勝関願の四番は、まるでボールが突然浮き出てくるようだったと形容していた。油断するなよ、
「わかってるって、じゃあ行ってくるぞー」
場内にアナウンスが流れ、先頭バッターの
「プレイ!」
右手を上げた球審の合図、試合再開。
『さあ、
「――おっとっ!」
「ボール!」
初球は内角胸元に近いストレート。やや仰け反る形で避けた。
『恋恋バッテリー、注目の初球は慎重にボール球から入って来ました』
タイムを要求してバッターボックスを外した
「(118キロ......マジで? 全然スピード出てないじゃん、なのになんであんなに速く感じたんだ?)」
軽く首を捻りながら、バッターボックスで構え直す。
「(よし、もうちょい始動を早めてみるか......)」
「(目に色が変わった、上手く意識させられたみたいだ。これを振らせてストライクをひとつ貰おう)」
「(ええ......!)」
『バッテリー、第二球目を――投げました!』
「(げっ、今度は来ない――!)」
外角低めのストレート。それも、初球よりも球速を落とした低速ストレート。
「こなくそっ!」
始動を早めた
「ダメだ、投げるな!」
「ちっ、くっそ~」
いい反応でダッシュして打球を処理したが、俊足の
「ふぅ、ベンチに伝えて。あの投手、チェンジアップみたいなのを投げてくるって」
「了解しました」
プロテクターを受け取った下級生はベンチへ戻るとさっそく、
「あの球持ちの良い投球に加え、タイミングを外す緩いチェンジアップか。ふむ......ここセオリー通り、一番速いストレートにタイミングを合わせつつ緩いボールに対応していけ。いいな?」
頷いたあかつきナインたちは、各自自分の打席に向け準備をすすめる。グラウンドでは二番セカンドの
「(バントか、やっぱり初回からでも確実に送ってくるよな。この二番は、あかつきで一番チームバッティングに徹するタイプだ。でも、この
「(ええ、分かってるわ。そう簡単に思い通りにはさせるつもりはないわ)」
セットポジションで構えた
「ふぅ、あっぶね~」
と言いつつも、
「(強気だな。ここは、一球外して様子を見よう)」
『
「(よし、かかった! ――って!)」
「(させるか......!)」
外角へ大きく外したのにも関わらず、バッターの
『
「くっ......!」
「フッ」
悔しがる
「あの、
「いや、一連の動作の範疇だ。事実、球審は守備妨害を宣告してねーだろ。あんな小細工やられる方が悪い。頭に当ててやればいいのさ。そうすりゃ二度とやらなくなる」
「それは、それで問題のような......」
「先に邪魔してきたのは相手だ、遠慮することはない。そもそも、送球のコース上に頭を出す方がどうかしてるんだからな。実際に当てた方が、実害が目に見える訳だから堂々と守備妨害を主張出来るだろ」
「確かに。少なくともなにかしらの注意はしなきゃならないから抑止力にはなるわね。やり方は乱暴だけど」
「なるほど、そう言うものなのですね」
二人の話を聞いたはるかはうなづいて、スコアブックに目を戻した。
「(......決まられたのは仕方ない、切り替えて抑えないと。ここは、もう繋がれさえしなけばいいから――)」
無視二塁、ランナーを三塁へ行かせたくないこの場面でインコースのやや甘いコースのストレートが来た。
『バント成功!
場内コールに、あかつきも応援スタンドからは大歓声が沸き起こる。
「
「わかっているヨ」
重いマスコットバットから通常のバットへ持ち代えて、
「どうしたんダ?
「......いや、なんでもない」
「そうカ、では行ってくル」
「ああ、頼んだぞ」
ベンチへ戻った
「どないしたんや?」
「......今の一球、サードへバントしやすいコースに来た」
「それが?」
「あり得ないだろ、クリンナップの前だぞ? 外野フライで同点だ。普通は簡単に送らせたくないから厳しいコースや変化球を使う場面だ」
「そら誰にでも投げミスくらいあるやろ。アウトコースを狙ったのが、ちょいと甘く入っただけと違うかー?」
「......オレの考え過ぎか」
しかし、
『――け、敬遠、敬遠です! なんと恋恋高校、初回から三番の
「な、なんだと......!?」
ネクストバッターの
「ちょっとやりすぎじゃない?」
「クックック、だからいいんじゃねぇーか。確かに
不敵に笑う
「さあ、来んかいッ!」
「(おっ、相当
「(オッケー)」
『さあワンナウト三塁一塁。一発が出ればもちろん逆転! 恋恋バッテリー、強打者
初球は、インコース低めのボール球のストレート。強引に引っ張った打球は、痛烈な当たりで一塁線を切れてファール。カウント0-1。二球目はインハイ。これまた完全なボール球で空振りを奪い、たったの二球で追い込んだ。
「(い、いかん、完全に相手の術中に嵌まっている......!)」
「
「(そ、そうだ......なにを熱くなっている。ただ守りやすいよう一塁を埋めただけだ。チャンスは広がった、外野に飛ばすだけでいい場面ではないか......)」
打席を外した
「(こ、この......!)」
「(よし、良い感じに熱さが戻った。
「(ええ......!)」
『バッテリーのサインが決まった!
「(――外、甘い! もらった!)」
アウトコースやや低めのストレート。
しかし、ミートポイントで小さく沈んだ。バットの下で叩いた速い打球が、一二塁間へ転がる。
『痛烈な当たりーッ! だが、これは――』
打球が飛んだコースは、あらかじめ深めに守っていた
「
「ほいよ、ファースト!」
『セカンドフォースアウト! そして、一塁もアウト! 4-6-3のダブルプレー! あかつき、絶好のチャンスをダブルプレーで逃してしましたー!』
アウトコールのあとに一塁を駆け抜けた
あかつきとは対象的に恋恋高校の方は、スタンドもベンチも盛り上がりを見せている。
「ふっふっふ......すべては、オイラの一撃から始まった流れでやんす!」
「まあ確かに、あのホームランは予想してなかったわねー」
「ああ、まぐれでも大きい先制点だったぞ」
「まぐれじゃないでやんす、オイラの実力でやんすー!」
賑やかいベンチの中、この回先頭バッターの
「狙い通り仕止めたな」
「はい、
「追い込んだあとインハイを狙ったのは、お前のサインだろ」
「あ、はい。バッターが冷静を取り戻しかけていたので」
「フッ、それでいい。冷静さを保たせなかったお前の勝ちだ、今回はな。さてと、追加点を奪いに行くぞ」