7Game   作:ナナシの新人

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お待たせしました。今話から対そよ風高校戦となります。


game52 ~破滅への道~

 準決勝、恋恋高校対そよ風高校戦。三回の攻防終わって、両校共に無得点。恋恋高校先発の片倉(かたくら)は、被安打2四球1。対するそよ風高校先発の阿畑(あばた)は、四球2つ与えたのみの被安打ゼロのノーヒットピッチング。それに加え、奪ったアウト九つのうち奪三振六つと快調なピッチングを披露している。

 

「やっちゃん、ナイスピッチング! ええ調子やんっ」

 

 髪の毛をポニーテールに結った、そよ風高校のマネージャーの芹沢(せりざわ)(あかね)は、意気揚々とグラウンドからも戻って来た阿畑(あばた)やすしに、タオルとドリンクを手渡して褒める。

 

「当たり前や! ワイを誰やと思てんねん“浪速の変化球男”やで! そしてゆくゆくは、“球界の変化球王”として君臨するんやからな!」

 

 そう言って自信満々にグッと親指で自分を指さす。そんな阿畑(あばた)(あかね)は、呆れ表情(かお)でため息をついた。

 

「ちょっと褒めるとコレや。すぐに調子にのるんやから。油断したらアカンで? ウチの占いにも“受難の相”って出とるんやから。なにせ、相手は――」

 

 (あかね)は、恋恋高校のベンチで涼しい顔で座っている東亜(トーア)に顔を向ける。彼女が趣味でやっている占いは、校内でもよく当たると評判。その占いであまり良くない結果が出たことが気になっていた。

 

「ホンマ、(あかね)は、心配性やな~。ワイの“アバタボール8号”がそう簡単に打たれる訳ないやんけ!」

 

 アバタボール8号こと高速ナックルは、阿畑(あばた)やすしが、高校三年間試行錯誤を繰り返し、やっとの思いで取得(モノ)にした変化球。それゆえに絶対の自信を持っている。その自信を裏付けるように、今までヒット性の当たり一本すら打たせていない。ほぼ完璧なピッチングをしている。

 

『四回の表、そよ風高校の攻撃は、四番ピッチャー、阿畑(あばた)くん』

 

「せや、ワイからやったな。ほな、行ってくるでー!」

「あ、うん。やっちゃん、ファイト!」

「おう!」

 

 ヘルメットを頭に被り、右のバッターボックスに入った阿畑(あばた)は、丁寧に足場を慣らしてから構えた。

 

「えろうおまっとさんでした。おおきに」

「うむ、プレイ!」

 

 球審のコールで試合再開。

 片倉(かたくら)新海(しんかい)の恋恋バッテリーは、サイン交換を行う。一回で頷いた片倉(かたくら)は、ゆったりと投球モーションに入った。

 

「ストライク!」

 

 球審の右手が上がる。オーバーハンドから放たれたストレートが、アウトコースへ決まった。

 

「ナイスボール、走ってるよー!」

「(ホンマ、一年の投げる球ちゃうで)」

 

 バックスクリーンには、片倉(かたくら)にとって自己最速とならぶ「138km/h」と球速が表示されてた。ミゾットスポーツクラブでトレーニングを積み、ゴールデンウィークの合宿から更に球速を伸ばして来た。

 

「(せやけど、コイツを打たな勝たれへんのや。一点でええんや。一点あれば、ワイが完封(シャットアウト)して終いや。はなっからレギュラーを出さんかったこと後悔させたるで......!)」

 

 気合いを入れ直し、改めて片倉(かたくら)に対峙。その雰囲気を感じ取ったのは今日、パワフル高校戦以来となるショートのポジションについた、鳴海(なるみ)

 

「(お、バッターの気合いが入ったな。新海(しんかい)くんのサインは、外のまっすぐを続けるのか。二球続けたら、さすがに振ってくるよな。だけど、片倉(かたくら)くんのストレートも走ってるから......)」

 

 キャッチャーのサインと片倉(かたくら)の球速、阿畑(あばた)の打力を計算に入れて、定位置よりも一歩セカンド寄りにポジションを取った。

 

「もろたで!」

 

 構えたところよりも甘く入ったストレートを、阿畑(あばた)は見逃さずに振り抜いた。打球が三遊間へ。

 

「(あっ、甘く入った! 届くか――!?)」

 

 予測と逆をつかれたが鳴海(なるみ)だったが、ショートのやや深いところで打球に追いつき、逆シングルで捕球すると、すばやく一塁へ送球。

 

「――あ、アウトー!」

「な、なんやて!?」

 

『刺した! 間に合った! 今日、ショートに入っている鳴海(なるみ)のファインプレー! 難しい打球をさばき、アウトにしてみせましたー!』

 

「やるじゃんっ。奥居(おくい)~、今でも、あんたより上手いんじゃないの~?」

「へっ、オイラなら正面でさばいてるっての。ファインプレーじゃなくて余裕にな! 難しい打球を簡単なアウトに見せる、それが最高のプレーなんだぞ?」

「ふーん、言うわね。じゃあ決勝で見せてもらおうじゃないっ」

 

 ここ数日、あかつき大附属のエース猪狩(いかり)(まもる)を対策を行って来たベンチスタート組の頭の中は、既に次の試合へと向いてた。

 一方グラウンドの方は、と言うと。カウント3-1から五番を歩かせてしまい、続く六番がきっちり送られ、ツーアウトながらスコアリングポジションにランナーを許してしまった。初回に続いて、この試合二度目のピンチ。だがこのピンチも、七番をライトフライに打ち取り切り抜けた。

 そして、四回裏の攻撃は三番ピッチャー片倉(かたくら)からの打順。

 

『見逃し三振! 先発の阿畑(あばた)、これで七つ目の三振を奪いました!』

 

 続く四番は、ライトの近衛(このえ)

 

「(――低めだ。これは、いらない)」

 

 初球、低めのアバタボールを見逃しワンストライク。二球目、三球目は、初球と同じく低いコースへ来たアバタボールを見逃し、共にボールでカウント2-1のバッティングカウント。そして、次も低めに外れた。

 

「ドンマイ! バッター、手が出ないだけだぞ!」

 

 ボールを受け取った阿畑(あばた)は、プレートを外し、ロジンバッグを手のひらで弾ませる。

 

「(しゃあないしゃあない。なんてたって投げてるワイにも、どう変化するか分からん魔球やからな!)」

 

 調子に乗っている直後の一球。アバタボールが高めに抜けた。このボールを、近衛(このえ)は待っていたと言わんばかりに手を出した。結果は、ピッチャーフライ。

 

「あー、くそっ、上げちまった!」

「おっしゃ、これでツーアウトやでー!」

 

 後ろを向いて、右手を掲げ、バックを盛り立てる。

 

「ナイスピッチ! ツーアウト!」

「ツーアウトー!」

 

 マウンドからの呼び掛けに内外野から元気な返事が返ってくる。阿畑(あばた)は、マウンドでとても満足そうな表情(かお)を見せた。

 

「まったく、お調子者なんやから。やっちゃん、気ぃ抜いたらアカンでー!」

「おう、わーとるわい!」

 

 恋恋高校の五番、鳴海(なるみ)が左バッターボックスに入る。その初球を打った。

 

『打ったー! 引っ張った打球は、一塁線上へ高々と舞い上がったー!』

 

「ファール!」

 

『しかし、これはファールです! ポールの手前で切れていきましたー!』

 

「あっぶな、助かったで~」

「だからゆーたやんっ。気ぃ抜いたらアカンって!」

「わかっとるゆーとるやろがっ」

「......キミたち、私語はベンチに帰ってからにしなさい」

「す、すみません......」

 

 二人揃って球審に謝罪、試合は仕切り直し。

 今のファールで気合いを入れ直した阿畑(あばた)は、より低めの制球を心がけた。そして、カウントをフルカウントまで持っていくも最後は、鳴海(なるみ)を見逃しの三振に切って取った。

 

「これで八個目ね。高めの空振りが二つで、低めの見逃しが六つ。あなたにとっては予定通りなんでしょ?」

「さてね。おい、ちょっと待て」

 

 理香(りか)の質問に対し、小さく笑ってはぐらかした東亜(トーア)は、守備に向かおうとしていた片倉(かたくら)新海(しんかい)のバッテリーを呼び止めた。

 

「三点だ。三点までは取られても構わない。そいつを頭に入れておけ」

「――はい!」

 

 二人は返事をして、グラウンドへ駆け出していった。

 試合が動いたのは直後の五回表、そよ風高校の攻撃だった。先頭バッターにヒットで出塁を許すと。先の回と同じく、送りバントで得点圏にランナーを進められ、一死二塁とピンチを迎えた。次の一番バッターをセカンドゴロに打ち取り、二死三塁。だが、次の二番に緩い当たりながら内野の間を抜ける不運な形でタイムリーを打たれてしまった。

 先制点を奪われた直後の三番には、ユニフォームの袖にボールがかすって死球、二死二塁一塁。四番の阿畑(あばた)には、外に逃げるカーブをライト前へ上手く流し打たれた。スタートを切っていたセカンドランナーがホームイン。二点差とリードを広げられる、が。

 

「あ、アウトーッ!」

 

『ライトからスバラシイ送球! 恋恋高校ライトの近衛(このえ)が、ファーストランナーをサードで刺してみせました! まさに強肩、レーザービーム!』

 

「嘘やろ? なんちゅー肩しとんねん? ......まあ、ええわ」

 

 ――二点もあれば十分。 そう思いながら阿畑(あばた)は、ベンチへ戻りチームメイトたちにタッチで出迎えられ、準備をしてマウンドへ向かった。

 その頃、恋恋高校ベンチでは――。

 

「五回に二失点か」

 

 東亜(トーア)の前に緊張した面持ちで、片倉(かたくら)が立っている。

 

「はるか、球数は?」

「はい。81球です」

 

 1イニングにおける投球数は15球前後の球数が目安と言われている。投球イニングは5回。81球は理想に近い数字と言える。

 

「次の回だが、投げる気あるか?」

「あ......はい!」

 

 三点取られてもいいと言われた直後の失点に、交代を告げられことも覚悟していた片倉(かたくら)は、一瞬固まったが力強く答えた。

 

「じゃあ投げろ。藤村(ふじむら)

「あ、はい、なんでしょうか?」

「一応軽く肩を作っとけ。いいか、軽くだぞ」

「はい、わかりましたっ。鳴海(なるみ)先輩、お願いしますっ」

「うん、行こうか。コーチも言っていたけど軽くだからね?」

「はいっ」

 

 今日レフトで先発のサウスポーの藤村(ふじむら)は、前の回のラストバッター鳴海(なるみ)と一緒にブルペンへと向かった。

 

「ま、そういうことだ。後ろのことは気にせず投げろ」

「......はい!」

 

 返事をした片倉(かたくら)は、ベンチ座って、水分補給。アンダーシャツを着替えて、次の回に備える。

 

「ストライク! バッターアウト!」

「これで九つ目ね」

 

 六番新海(しんかい)も、低めのアバタボールを見逃し三振。これでアウト13個のうち9個が三振と奪三振の山がどんどん高く築かれていく。

 しかし、ベンチに焦りの色はまったく見えない。

 それどころか、東亜(トーア)に至ってはどこか不適に笑っていた。まるで、この一方的な展開を望んでいるかのように――。

 

「クックック......いい、いい、それでいい。もっと奪え、もっと奪われろ。その奪った三振の数だけ阿畑(おまえ)は、確実に破滅(まけ)へと向かって進んでいるのだからな」

 

 




阿畑の打撃能力の補足。
アプリやサクスペではあまり野手能力は高くありませんが、パワプロ9だとパワーDとなかなかの能力をですので、そちらを採用しています。

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