お知らせ。
タグをパワプロアプリからサクセススペシャルへ変更しました。
風邪を引いて学校を欠席していたあおいが、練習に復帰して初めての週末。練習試合後、一年生の
ベンチには、人影が三つ。ベンチ座る
「呼び出してごめんなさいね」
「いえ、それで......」
「予選まであと一月弱。今後の練習試合は本番を見据え、あおいを含めたお前たち三人で、一試合百球を目処にローテを組んで回す」
「毎週じゃないけど。来月からの練習試合は、なるたけダブルヘッダーを組めるように調整しているから、二人とも準備を怠らないようにね」
「はい、わかりました」
すぐに返事を返した
「うん、いい返事。それじゃ空き教室で、いつも通りメンタルトレーニングへいってらっしゃい」
「あの
「あおいのことで、少し話していたの」
「あおい先輩の......」
気まずい空気が、二人の間に流れた――。
あおいが復帰した日、
投手はあおい、捕手は
「本気で行くよ!」
「は、はい!」
マウンドとバッターボックスで対峙する二人。グラウンドの外から勝負を見守るナインたちは、誰もがあおいが勝つと思っていた。もちろん捕手を務める
「(あおいちゃん、気合い入ってるな。よし、じゃあコーチの指示通りに、まずは――)」
「......あっ!?」
「(逆球ッ!?)」
投球は、インコースに構えた
「(来た! 力まずに......!)」
いくら初心者の
「やっぱりあなたの予想通りだったわね。正直、今回ばかりは外れて欲しかったけど......」
ベンチで肩を落とす
「そうでなければ取引した意味がないだろ」
「それはそうだけど......。もう少し気づかってあげたらどうなの?」
「フッ、それこそ俺が出る幕ではない。あいつらが放っては置かないさ」
「
「違うよ! 今のは、ボクの失投だから......」
「そうね。でも
「おう、力みのないシャープな振りだったぜ」
「あ、ありがとうございます!」
グラウンドを見て少しほっとした
「はいはいっ、みんなそろそろ練習を始めましょうっ!」
「はい!」と、ナインは声を揃えて返事をして。きびきびと準備を済ませると、ウォーミングアップを開始した。
* * *
「大丈夫よ」
「え?」
「あおいは、大丈夫。それよりあなたも先発を任されるんだから、人の心配よりちゃんと備えておきなさい」
練習試合後のメンタルトレーニングも終わりグラウンド整備の最中、大きなタメ息をついたあおいに、ベンチで備品のチェックをしていたはるかが声をかけた。
「はぁ~......」
「大きいタメ息ですね、あおい」
「ん......。今日の試合、全然ダメだった......」
もうひとつタメ息をついて、ガックリと肩を落とした。それもそのはず、今日の練習試合先発登板をしたあおいは、二回もたずノックアウト。
「みんなに迷惑かけちゃった」
落ち込むあおいに、はるかは微笑みかける。
「ふふっ、みなさん迷惑だなんてに思っていませんよ。
「コーチがっ? なんか逆に怖いんだけど......」
「だから、いつまでも気にしちゃダメですよー? それに明日は早いんですからね」
「あ、うん、そだね。ありがと、はるか」
トンボを手に他のナインが整備を行っているグラウンドへ戻って行った。
* * *
「経過は良好みたいよ。このまま順調に行けば、来月初めには復帰を見込めるわ」
「ふーん」
「はぁ......まったく相変わらずね。気になると思って、せっかく調べて来てあげたのに」
「ただ電話しただけだろう」
「あなたに取っても他人事じゃないでしょ?」
「さてね」
追及をテキトーにはぐらかし、グラスを口に運ぶ。
「素直じゃないわね。あっそうだ、明日の観戦予定だけど。先方の都合でダブルヘッダーを取り止めて、二手に分かれて行うことになったそうよ」
「戦力は?」
「対覇堂戦がレギュラー、対関願戦は秋以降を想定した編成になるみたい。それからエースは関願戦に登板予定らしいわ」
「覇堂を避けたのは
「ご明察。はるかさんが調べてくれた情報によると、
「ま、好きに分かれて観させればいいさ」
「そう。伝えておくわ」と、スマホを持って一旦店を出ていった
* * *
――翌日。
今日は練習休養日を兼ねた、他校の試合観戦。
キャプテンの
予め許可を貰って、覇道高校野球部専用グラウンドのバックネット裏で観戦させてもらえることになっている。
「お、ちょうど今から試合開始みたいだ」
「ホントだ、間に合ってよかったね」
「あれ?」
「どうしたの? はるか」
マネージャーのはるかは、グラウンドで整列している鮮やかなあさぎ色のユニフォームに身を包む選手たちを見て、あることに気がついた。バッグから資料を出して確認する。
「壬生高校の列の中に、エースピッチャーの
「えっ? でもエースは、関願高校との練習試合に行ってるって......」
「はい、そのハズですけど。ほら、あの方ですっ」
はるかが指を差した先には、常時150km/h越すストレートを武器に勝ち上がり。決勝戦では、同じ速球派のアンドロメダ学園
「うーん、予定を変更したのかな?」
「そうかも知れませんね」
「俺たちと同じ地区の関願高校も強豪だけど、さすがに春ベスト4の覇堂には劣るからね」
「その覇堂にコールド勝ちしたオイラたちは、実質、甲子園ベスト3ってことでやんすね!」
「言ってくれるじゃねーか」
後ろから声をかけられて、話をしていた四人が振り返ると木場兄妹が通路の階段を下って来た。
「
「よう」
「ごぶさたでーすっ」
「なんでここに? ベンチに居なくていいのか?」
「ベンチに居ても暇だからな、どうせ出れねえし。ところで......」
「誰がザコだって!?」
「そ、そんなこと言ってないでやんすーッ!?」
「コラー! いきなり絡むなー!」
「イテッ!?」
「ボコられたのはホントじゃんっ。みっともないことしないでよっ」
妹でマネージャーの
「うぐっ......ちっ!」
「た、助かったでやんす......」
二人が座り直したところで、
「それで、こんなところに居ていいのか?」
「ああ、ベンチよりも
「はいはい、わかってますよー」
グラウンドでは、覇堂ナインが守備に着き、壬生校の一番打者がバッターボックスに入って、試合が始まった。
一方、関願高校の試合を観戦に行った
レギュラー勢が出場している関願高校と一・二年生中心の壬生高校の試合は、三回までどちらも得点は無く、速いテンポで進んでいる。
壬生校の先発投手は、毎回ランナーを出しながらも要所を抑えホームを践ませない。対する関願校の先発投手は、スライダーとシュートで打者の内角を突く強気のピッチングで三回まで死球1個のノーヒットピッチングを披露。
「壬生は、じっくり観察って感じだな」
「ええ。逆に関願の方は、観察しつつも甘いボールは積極的に狙っているわ。だけど――」
「ランナーは出しても、結局得点まではいかない。こりゃ空気が重いな~」
「スクイズでも何でもいいから、取れる時に取っておかないと後々辛くなるわ」
ゲームはそのまま進み六回まで両校無得点。壬生校に至っては、ヒットは一本も無くノーヒットノーランを継続中。しかし、ベンチに焦りの色はまったく見えない。それどころか不気味にも余裕を感じるような空気を醸し出している。
「さて、もう十分だろう。この回で仕留めるぞ」
「はい!」
覇堂高校で指揮を振るう監督の代理を務めるコーチの言葉に、壬生ベンチの空気がいっぺんする。
先頭バッターが、初球のスライダーを叩いて出塁するとエンドランでチャンスを広げ無死一三塁とチャンスを作った。
そして次のバッターは、一年生で四番でピッチャーを務める――
二打席凡退した今までの打席とまったく違う雰囲気を感じ取った
「先輩、アイツのこの打席をよく見ておいてください」
「ついにくるのか? お前が言ってた本気ってヤツが」
「はい......!」
恋恋高校を出発する前、覇堂高校へ行こうとした
「どんなバッティングをするのかしら?」
「さあ? でも、なんかあるんだろう」
「............」
左バッターボックスでバッターを構える
「(この場面一点は仕方ない、内野ゴロを打たせるぞ)」
「(あん!? ここは一点もやっちゃいけない場面だってーの!)」
こちらも一年生投手の
もう一度首を振り、三度目のサイン交換で漸く頷く。
「なんか、ずいぶんかかったな」
「
「そう言えば
「はい、シニア時代のチームメイトでエースナンバーを背負ってました。その時から、上級生と意見が対立しても結果を出して黙らせてました」
奇しくもこの勝負、
そのままの勢いで勝負に行く。
「(見逃しゃ三振だ!)」
勝負球は、頭からストライクゾーンへ滑るシュート。
「(動じねぇッ!?)」
「無理だ、始動が遅い! あんなんじゃ空振り、よくてもレフトフラ......」
「ここからです! よく見てください!」
ボールはミットに収まること無く。快音を響かせ、
「な、なに、今の? 完全に降り遅れていたのに、引っ張ったのっ?」
「ミートポイントでヘッドスピードが上がりやがった。見たことないぞ、あんなの......」
このホームランを皮切りに壬生高校は一気に勝負を決めた。
そして元チームメイト同士の対決は、はっきりと明暗の別れる結果で幕を閉じた。