これからの展開の大幅な見直しに時間がかかってしました......。
「あっ、エッチな本みっけ~っ!」
休養日、先日の約束通り
「えっ!?」
「ウソだよー」
「......ビックリさせないでよ」
ほっと胸をなでおろした
「そういう反応するってことは有るんだ?」
「......ノーコメント」
「ふーん」
「そ、そんなことよりDVD! 今日は、コーチの試合を観るために来たんだったよね!」
あおいに冷めた視線を向けられた
動画は、
「これって、オープン戦?」
「そう、去年のオープン戦。コーチがリカオンズに入団して、初登板のときの試合だよ」
テレビ画面に写る
「いきなり三球三振!」
「力んでいるのを見透かして、甘いコースからの低回転ボール。手元で沈むからバッターは消えたと錯覚しただろうね」
「これが......。
「正確には、ちょっと違うけどね」
「えっ?」
――どういうこと? とあおいは首をかしげた。
「
* * *
「
「なによ、突然」
明日の対戦相手、ジャスミン学園の話をしていた中
「コーチとの勝負に負けたから」
「勝負?」
「そう、一打席勝負にね。でも私、元から野球部に入りたかったのよ」
口に運んでいたティーカップを置いてから
「ウチの中学、男子しか練習に参加させてもらえなかったの。そこそこ強豪だったこともあってね。だから私は、仕方なくソフトボール部に入ったわ」
「ふーん。じゃあ高校でどっちも所属してしなかったのは?」
頬杖を突いて窓の外に映る人波を憂いを帯びた
「......女子じゃ甲子園を目指せなかったから、ルールも力でも......。でも野球を諦められなかった。だから、半端な気持ちのままソフトボールを続ける気にもなれなかったわ。本気で打ち込んでいる人たちに失礼でしょ?」
「じゃあどうしてですか?」と、後輩たちが訊ねる。
「去年の春。コーチの、
「それで、また野球を始めたんですね」
「ええ、近所にあるプロの選手も足を運ぶ施設でいちから体を作り始めた。でも最初は、高校で野球をするつもりはなかったわ」
「そこよ、なんでよ? 今年からは、堂々と甲子園を目指せるようになったんだからさぁ」
なんの淀みもなく平然と言ってのける
「......だからこそよ。
「はぁ~? あんた、そんなこと気にしてたの?」
「あたしも高校では部活を止めようと思ってましたし」
「えっ? そうだったのっ」
彼女の向かいの
「うん。肩が弱くて遠投は出来ないし、ソフトボールでも中継に届くのがやっとだったから。高校じゃ絶対無理だって思ってた。でもパワ校戦の、どんなに打ち込まれてもめげないで男子に向かっていくあおい先輩を見てたら、がんばってみようって思えたんだ」
「ふ~ん、へぇ~、決めてはあおいなんだぁ~」
「もちろん
* * *
「ジャスミンのエース
「まっすぐがヤバかったね」
「だな、相当手元でキレてた。
「とにかく粘って引きずり降ろす。二番手以降は問題ないし」
「じゃあバッセンでも寄っていくか?」
「いいね。あれ、アイツたち」
「カーブ行くよ」
「オッケー。でも球数制限10球だけだよ?」
「分かってるって......!」
「オッケーナイスボーッ! どうした?」
ボールを投げ返そうとした腕を止めて、
「悪いけど、打席に立ってくれねぇ?」
「ん? ああ、いいよ」
「本気で打ってくれていいから......!」
バッターを立たせて仕切り直しの一球。ストレートで見逃し、二球目はカーブを一塁線へのファール。そして三球目のカーブを、やや詰まった当たりでセンターへ弾き返された。
「やっぱりな......。ありがと」
「どうしたんだよ? さっきから」
「オレのカーブじゃ左から空振りが奪えないんだよ」
「ああ~、確かに変化が横だもんね」
「当てられちゃうんだよな。なぁ
「うん、スリークォーターだけど。結構落差もあるから右からも空振り取れるね」
「......投げ方分かるか?」
「アイツらも頑張ってるみたいだな」
「負けてられないね」
「だな。よっしゃー! バッセンまで走るぞーッ!」
「はいはい」
一年生たちに刺激を受けた
* * *
「やっぱりガンダーロボは熱いぜ......! なあ
「......オイラもガンダーロボのような必殺技が欲しいでやんす」
「あん? なんだよ、唐突に」
「唐突じゃないでやんす。覇堂高校戦から、ずっと考えていたでやんす」
覇堂高校との試合
「
「スタメンも危ういな」
「はっきり言わないで欲しいでやんすーッ!?」
「あっはっは、わりぃわりぃ。でも
「もちろんセンターを譲る気はないでやんす! でも、オイラのだけの武器が欲しいんでやんすっ!」
「ふーん......武器ねぇ~」
頭の後ろで腕を組んだ
「一塁到達タイムは
「ベースランでやんすか?」
「おう、オイラもベースランには力を入れてるんだぜ」
「言われてみれば
「コンマ一秒で
「確かにそうかもしれないでやんすね」
「パワチューブでプロのベースラン調べて見るかぁ」
二人は、
* * *
「何で、海?」
「気分転換したらって、
「いや、そうだけど......」
――まさか、海に来るなんて思ってもなかったって......。二人の他に誰もいない砂浜。波打ち際に座って、日暮れ前のまだ青い海を眺めながら思った
「ここでもボールが自然に落ちたりするのかな?」
「え?」
「ほら、さっき見た試合だよ。対千葉マリナーズ戦の三回戦」
「ああ~、雨の日の反則合戦かー」
リカオンズVSマリナーズの三連戦。
リカオンズ元オーナー
しかし、これも全て
平均な試合の終了時間後に、スタジアム周辺に大雨警報が発令されることを事前に知っていた
それにいち早く気がついたマリナーズの
試合は両チームとも没収試合寸前まで反則プレーを繰り返した。
しかし、この反則合戦すらも
試合を成立させようと焦り、躍起になっていたマリナーズベンチに突け込み。14点という点差を逆転、最終的には試合放棄を宣言させて記録上完封を達成させた。
「5回表に
「うん、握力とか筋肉の疲労で投げれなかったみたいだからね。あのボールは雨の重みと湿気を利用した落ちるストレートだった。海もグラウンドより遥かに湿度が高いから普段よりも落ちるかもね」
「だよねっ」
「でも、それがどうしたの?」
あおいは、腰を上げて砂を払う。
「ボク、ずっと考えてたんだ。コーチのアドバイス」
「えっと確か『何もボールを変化させるのは回転だけじゃない。別の角度から物事を見ろ』だったっけ?」
「うん、そうそうっ。もしかしたら、このことを指していたんじゃないかなって!」
「なるほど、ね......」
「ちょっと試してみてもいいかな?」
そう言って持ってきた荷物からグラブとミット、ボールを取り出した。あおいは、試行錯誤しながら新変化球――高速シンカーを取得しようと
「いつもより鋭く変化してる気がする」
「やっぱりっ? でも常に雨降らせられる訳じゃないし......」
「そうだね」
「何か良い方法はないかな?」
「雨じゃなくても、ボールが自然に落ちる方法か......。あっ!」
考え事をしながら投げた
「もぅ~、ちゃんと投げてよっ」
「ごめんごめんっ。思った以上に届かなく、て?」
「どうしたの? あっ!」
あおいと
――これだよ! と二人声を揃えて叫ぶ。
「あおいちゃん!」
「うんっ!」
あおいは、
しかし、問題はここから。いつもは変化を求めるとスピードが、スピードを求めると変化が小さくなると云うジレンマを抱えていた。
だが、今回は――。
「いっけーっ!!」
「くっ......!?」
ボールは鋭く変化し、捕球しようと膝を落とした
「す、スゴい変化だ......!」
「ほ、ほんとに?」
「ホントだって! 現に捕球出来なかったし!」
「や、やったーっ!」
「うわぁっ!?」
新変化球の完成に喜びを爆発させて、走ってきたあおいに勢いよく抱きつかれた
「ご、ごめんね......。嬉しくてつい......」
「お、俺の方こそ。ちゃんと支えられなくて......」
頬を紅く染めて慌てて立ち上がったあおいは、胸に手を当てて呼吸を整えてから
「明日の試合。絶対勝とうね!」
「......当然!」
日が落ち始め海と空がオレンジ色に染まる中、二人はガッチリと手を取り合い。明日のジャスミン学園戦へ向けた誓いを交わした。