週末、恋恋高校グラウンド。
ジャスミン学園との練習試合前々日、
そして、グラウンド中央では
「一打席勝負。ルールは、三振及び内野でバウンドした場合投手の勝ち。外野へ飛ばせば打者の勝ち。ファールフライはストライクとして換算、四死球は打者の勝ちね」
「ええ」
「オッケー」
ルールの確認をした後、バッテリーは十球の投球練習を行う。最後の一球を投げ込み、ボールを受け取った
「
「ええーっと、まっすぐと......」
「まっすぐ一本よ」
「へ?」
「この勝負、まっすぐ一本でいくわ!」
「あの目、本気だ......」
「マジかよ......」
「いくわよ!」
「お、おう!」
強気な宣言に呆気にとられている二人を尻目に、
「ムッ!?」
球持ちが良い
そして、
「ストライク。ノーワン」
「なるほどな~。どうりで覇堂が手こずるワケだぜ」
「スゴいでしょ? 俺も
覇堂高校との一戦。
女の子である
「いいかしら?」
「おう、いつでもいいぜー」
返事を聞いて二球目を投げる。今度もアウトコース低めのストレート。同じ球種をおなじコースの投球に、
「はい、ストライク。ノーツーね」
「あ、あれ? 振り遅れてた......?」
「うん。振り遅れてたよ」
「おっかしいなぁ~。捉えたと思ったのに」
素振りでスイングを確かめる
「(無駄の無いフォーム......まともに勝負すればやられるわ。
「よっしゃー! 来いッ!」
「(私の球威じゃ外野まで運ばれるわ。それなら今の、私に出来ることのは......!)」
新しいボールを受け取り、足場をならす。
「いくわよ!」
「おうよ!」
マウンド上でゆったりとモーションを起こす
「(二球とも外のストライクゾーン。セオリーなら一球外す場面だけど......。
「(当然、三球勝負よ......!)」
一球外すことも十分ありえる作戦だったが。しかし、
「(勝負球は、これよ......!)」
「(おおっ! ナイスコース!)」
「もらったぜッ!」
しかし
「(ヤバイッ、打たれる!?)」
「私の勝ちね」
「
「そうそう、ミートポイントで逃げたぜ」
「低回転ボールよ」
「今のが......? 完成したの!?」
「まだ二割程度よ。今回は狙い通り投げれたけど、制球もまだまだだわ」
「あおい......」
「大丈夫よ。そんな弱い子じゃないわ」
「はい......」
恋恋高校グラウンドから離れたあおいは、堤防を走っていた。
「はあはあ......」
普段のランニングコースを外れた川沿いの道、橋と橋の中間地点で膝に手をついて立ち止まる。額から流れる汗が、オレンジ色の太陽の光に反射して輝いていた。
「......っ!」
息が乱れたまま前に顔を上げて、再び走り出す。
あおいは焦っていた。
たった
あおいも試行錯誤を繰り返しているが、未だ、新変化球高速シンカーのきっかけを掴めないでいた。
「危ない!」
「えっ? わぁっ......!」
顔を上げると、自転車があおいのすぐ横を通り過ぎっていった。驚いた拍子にバランスを崩して倒れそうになったところを、後ろから誰かに支えられた。
「大丈夫?」
「う、うん......。ありがとう」
「あ、キミは恋恋高校の!」
「へ? あーっ、試合を観にきてたジャスミンの!」
お互いの顔を見た二人は、自己紹介をしてお互い投手と務めている事を知り意気投合。河川敷へと降りて、整備されている川沿いのベンチに座って話をする。
「あおいも、いつもこのコース走ってるの?」
「ううん、今日は気分を変えて来たんだ」
「へぇー、そうなんだ。ところで、その足に着いてるのは?」
「これ? パワーアンクルだよ。コーチの指示で、走るときはいつも着けてるんだ」
「うっ、重いなぁ......」
「でしょ? でも、下半身を鍛えないと上体に頼った手投げになるから、肩とか肘の故障に繋がる恐れを考えると理に叶ってるって、保健の先生が教えてくれたんだ」
「......そっか」
一瞬暗い
「それでどうしたの、何か考え事してたみたいだけど。あたしで良かったら話してみなよ」
「............」
あおいにとって自分の不安や愚痴を話せる相手は親友のはるかくらいなもの。はるかには多少の愚痴を溢すこともあったが、同い年投手は
「新しい決め球かー」
「うん......。なかなか上手くいかなくって」
「あたしも悩んだよ」
「ヒロぴーも?」
「うん、男子に負けたくなくって必死だった......」
どこか懐かしむような表情を見せる。
「一時期、野球から離れてソフトボール部に入ったこともあったんだ。まあ、女子も公式戦に出場出来るようになったからって、ほむほむに説得されてまた野球に戻ったんだけど。それでね、ソフトボールやってた時の経験が野球でも活きてるんだ」
「ソフトボールの経験?」
「そう。ストレートとか中学時代よりもキレが出てるって
「別の視点からか......」
「急がば回れ、だね」
『おーい! あおいちゃーん!』
堤防から、あおいを呼ぶ声。なかなか戻って来ないあおいを心配した
「あ、
「あの人恋恋のキャッチャー? あおい迎えに来たみたいだね」
「うん、学校出てから。結構時間経っちゃったから......」
「ふーん、じゃああたしも帰ろっかな」
ベンチから立ち上がった
「じゃあ明後日の試合よろしく!」
「うんっ。ありがと、ヒロぴー」
立ち去る
「今の誰?」
「ジャスミン学園のエースだよ」
「へぇ......って、あおいちゃん! みんな心配してたんだぞ!」
「えへへ、ごめんなさーいっ」
「はぁ......、まあ無事だったからいいけど。さあ帰ろう」
「うんっ」
「まったくあおいったら心配させるんだから!」
「無事に見つかったんだから、よかったじゃない」
「そうだけどさ~。ところで
「近所の施設で練習するわ」
「ええーっ、せっかくの休みなのに!?」
「だから練習するのよ。私なんて、あおいに比べたらまだまだだもの」
「オーバーワークはダメよ。
「......わかりました」
明日の部活動休日の話で盛り上がっているところへ
「あんたらはどうすんの?」
「決まってるぜ! なっ!
「もちろんでやんす。オイラたちは四月から録り貯めたガンダーロボ大鑑賞会を執り行うでやんすー!」
「はぁ......、ガキね」
「
「まったくでやんす」
――じゃあまた。といつもの分かれ道でそれぞれ帰路へ着く。
「ねぇ、
「俺は、コーチに貰ったDVD(リカオンズの試合)を見て研究しようかなって思ってるけど」
「あっ! それ、見せてもらう約束してたよねっ?」
「へ? あ、ああ~、そう言えばそうだったね」
「一緒に見てもいい?」
「あ、うん、別にいいけど」
「やった、じゃあ明日ねっ」
元気よく駆けていくあおいの