「どうかなっ?」
「うーん......確かにスピードは上がったけど。逆に変化量は普段のシンカーよりもずいぶんと小さいね」
「そっか~」
ゴールデンウィークを利用した短期合宿最終日の午前中。あおいは、
投げ込みを始める際
「肩はどう?」
「全然平気だよ。
「そっか、じゃあもう少し続けてみよう。今度はツーシームで」
「うんっ。いっくよー!」
あおいたちが試行錯誤を行いながら投げ込みを続ける一方。マウンドでは
「十球中一球でも俺から空振りを奪うことが出来たら、お前の勝ちだ」
「......お願いします!」
ゆったりとモーションを起こした
「まだまだな」
「......出直して来ます」
十球中十球。その全てを弾き返された
「
「ん? ああ......
合宿所に三部屋ある男部屋の一室のテーブルで、一人ノートパソコンを険しい
「試合見てたんだよ」
「試合? アンドメダ対覇堂......春の準決か」
「ああ、明後日覇堂と試合だろ。だから、研究しておこうと思ってさ」
画面に映るのは今年の春の甲子園準決勝。マウンドには一年の秋からエースナンバーを背負う絶対的エース・
「はっや! こいつが『爆速ストレート』ってヤツか......!」
左のオーバーハンドから放たれる爆速ストレートと吟われるストレートは、まるで砂塵を巻き上げるかの如くノビ・球威共に高校生離れした高水準を誇る。
「ところが結構打たれてるんだな、これが」
「マジ?」
「あ、ホントだ。決勝点も甘く入ったストレートを痛打されたんか」
「ああ、見てて気づいたんだけど。この爆速ストレートってのにはムラがあるんだ。同じストレートでも球速が10km/h以上違うこともある」
「へぇー、何か原因があるのか?」
「それを今、調べてるのさ」
再びキーボードを操作して動画を再生。
二人が
「ナイスボール! いいね。制球かなり安定してきてるよ!」
「サンキュ」
一年生捕手
「(ようやく慣れてきた。あとは
紅白戦では、仮入部の時から地道な体力強化トレーニングを積んだことで生じた身体(筋力)の変化に、思うようなピッチングを出来なかったが。最終日になりリリースポイントも安定し、ストレートに関してはある程度のコントロールを出来るようになってきた。
「......今のは取れないよ?」
「悪い。やっぱ思ったより振れるな......。もう一球!」
「オッケー!」
彼らの隣では
「行きます!」
「いつでもいいよ」
紅白戦では、
「う~ん、やっぱり逆方向を覚えた方が良さそうだね。ピッチングの幅が広がるし」
「はい、あたしもそう思います」
「今までの試した中で、手応え感じたのはある?」
「え~っと......。チェンジアップかな?」
「ああ~、最初に投げた利き腕の方に逃げるサークルチェンジに近いヤツか。うん、真っ直ぐとスライダーと速いボールに対して緩急をつけるボールとしては最適だね。じゃあこれからは、それを重点的に磨いていこう」
「はい、お願いしますっ」
* * *
「おーいッス~!」
「へ?」
「ん、なにかしら。あの子?」
グラウンドを離れ、合宿所から目と鼻の先の海岸線の歩道を走っていたあおいと
「突然呼び止めて申し訳ないッス。お二人は、恋恋高校野球部の女子部員ッスよね?」
「うん、そうだけど......。キミは?」
「申し遅れたッス。ほむらは、ジャスミンの
突如あおいと
ジャスミン学園は女子高のため、今まで公式戦に出場することは叶わなかったが。恋恋高校の署名活動により彼女たちも、公式戦出場の機会を得ることが出来た。
「恋恋高校の野球部の方々には、ぜひ一度お会いしてお礼を言いたかったんッス」
「そんなお礼だなんて......」
「いえいえ、ちゃんと言わせて欲しいッス。ありがとうございましたッスー!」
大きく頭を下げた。小柄な体が更に小さく見える。
「あの、えっと......。そろそろ顔上げて、ね?」
中々頭を上げようとしないほむらに、あおいは困った
あおいに促されてようやく顔を上げたほむらに、
「でもどうして、私たちがここに居るのを知ってるの?」
「フッフフー。それは乙女の秘密ッス!」
得意気な
実は、ほむらの目的はお礼を言うこと以外にもあったそれは......。
「
「ん? ああ、あおいちゃんと
ロードワークから戻ってきた二人と一緒にやって来た見知らぬ女子に、ベンチで
「おじゃましますッス」
「この子は、
「練習試合の申込みに来たッス。監督さんと話をしたんいんすけど」
「ああ~、そうなんだ。
「どうもッス。行ってみるッス」
「練習試合?」
「はいッス。ぶしつけで申し訳ないですけど、お願いします......!」
「そうね。
「あん?」
ロビーのベンチに寝転がって、
「ジャスミン学園って学校から練習......」
「さ、サインお願いしますッス~!」
後ろ向きで被っている。ジャスミン野球部のロゴが入った帽子とサインペンを
* * *
「見つけた......!」
午前の練習に参加せず、四時間。トイレ以外のひとときもノートパソコンの画面から目を離さず覇堂高校の試合、
「ありがとうございます!
「好きにしろ」
あまりのしつこさに折れた
そこへ
「
采配を振るう