初登板のルーキーの好投にスタンドから大きな拍手が送られた。その
「良くしのいだ。さあ、ここから反撃だ。トマス、頼むぞ」
「OK、ボス」
六回裏マリナーズの攻撃は、五番トマスから下位打線へと続く打順。
トマスは、ここまで2打数1安打1四球と全打席出塁している。そして、三打席目も――。
『トマス打ったー! 緩い縦のカーブを捉え左中間を破るスリーベースヒットッ! ノーアウト三塁、マリナーズ同点のチャンスです!』
「くっそ、上手く打ちやがったなぁ~」
「(
「クククッ......さあ面白くなってきたな。お手並み拝見といくか」
当然
『おや、どうやらリカオンズベンチが動きます。これはいったい......?』
『リカオンズ選手の交代をお知らせします』
『おっと、ここで選手交代のようですね』
『ショート
『出ましたー! リカオンズが誇る守備職人――
球審の合図で試合再開。
『さあノーアウト三塁から仕切り直しの初球......!』
「ボール」
『ボール、大きく外に一球外した』
初球は外角へ外した半速球のストレート「ほう......」
そして、サインを出し二球目も大きく外した。
『これでツーボールナッシング。バッテリースクイズを警戒しているのか、連続ボールで自らカウントを悪くしてしまったッ! 打者有利のバッティングカウント!』
マリナーズ六番
『リカオンズバッテリー結局最後は敬遠でノーアウト一塁三塁と、自らピンチを広げてしまいました。内野陣はゲッツー体制』
リカオンズベンチはセオリー通り前進守備から、ピッチャーゴロ以外セカンド経由のゲッツーシフトに切り替えた。
しかし――。
「ボール、フォアボール!」
『満塁、満塁です! 七番
ノーアウトフルベースと一打逆転のピンチにも関わらず、リカオンズベンチは微動だにしない。むしろタダ同然でチャンスを貰ったマリナーズの方が、この状況に揺れていた。
「この満塁、やはりわざとか......!」
「ヘイ、どういうことだ?
マリナーズ主砲ブルックリンは
「
内野はゲッツーシフトを敷いているが、サードの
満塁で無ければ足のあるトマスは正面以外の内野ゴロなら一点入る場面。しかし満塁ではタッチプレーではなくフォースプレーになるため、正面でもなくとも十分ホームでサードランナーを刺せる。
更に
「守備範囲の広い
「ハッ、そんなもの外野へ飛ばせばいいだけだろ」
「今日八番に入ってる
マリナーズベンチとすれば、代打も考えられるが守備の要のセンターを六回で代えてしまうのには、やや勇気がいる。それにサードが釘付けにされているとしても深い当たりのゴロなら一点。
更に足のある
『アーッと! 低めのボール球を叩き注文通りの内野ゴロ! ホームフォースアウト!』
リカオンズバッテリーの思惑通り、トマスはホームを踏むことなくベンチに戻り一死満塁。続く九番は、高めのストレートを打つも浅い外野フライでタッチアップ出来ず二死満塁。スリーアウト目は、代わって入った
『
そして、ゲームは進み1-0のまま9回裏――マリナーズ最後の攻撃。マウンドには日本球界最速のMAX165km/hを誇るリカオンズの絶対的クローザー、
『マリナーズ先頭バッターは一番、
プロ野球選手としてはけっして大きくない体だが、全身のバネを利用し投げる独特なトルネード投法から繰り出される豪速球に、
『さあワンナウト、リカオンズ勝利まであとアウト二つです。マリナーズ意地を見せられるかーッ! バッターボックスでは、二番
「フェア!」
『ああーっと! 打球がベースに当たった内野安打です! 同点のランナーが出ました! そして一発が出ればサヨナラの場面、スターの宿命か? 打席には......
この展開を予想していたかのように
「この試合貰いますよ」
「打てるもんなら打ってみろよ。言っとくけど今年の
「へぇ......楽しみしてます」
最初の三連戦は大差でリカオンズが勝利したため
「(やっべー、ひと振り目で真後ろかよ。よし、コイツで......!)」
『空振りー!
「......チェンジ・オブ・ファストか、面白い......!」
スタンドで観戦していた
「どこいくの?」
「先に戻る」
「こんな大詰めの場面で?」
「もう勝負は決まった、サヨナラゲームだ」
「えっ? ちょっとっ!」
* * *
「久しぶりに会いに行かなくてよかったのか? 励ましついでに」
「こんなことで崩れるほどヤワな連中じゃねぇさ」
マリナーズの選手たちがよく訪れるバーで、
試合は
「あのホームラン凄かったわ。バスの中であの子たちずっと話してたんだから」
「ははは、良いところ見せられてよかったよ」
ナインを宿舎に送り届けた後
「
「まあね。僕も実戦で使うとは思わなかった」
「それでお前の方がどうなんだ、甲子園は?」
「さてね。ま、可能性はゼロじゃねぇよ。
「ええ、聞いて驚きなさい!」
「春の甲子園ベスト4――覇堂高校よ!」