去年優勝決定戦で敗れ惜しくもリーグ二位のマリナーズ対四半世紀ぶりのリーグ優勝・日本シリーズ制覇を成し遂げたリカオンズの一戦。
『お待たせしましたーッ! 間もなくプレーボールですッ!』
先攻リカオンズの一番バッター
『今日は去年の夏甲子園をわかせたルーキーが初登板で初先発ですッ! プロの選手相手、しかも去年の日本一のリカオンズ相手とタフな初登板ですが、一体どんなピッチングを見せるのか。う~んッ! わたくし興奮を押さえきれませンッ!』
「プレーボール!」
『さあプレーボール。注目の第一球......振りかぶって投げました!』
「ストライークッ!」
『145km/h! 指にかかったストレートがど真ん中に突き刺さります! 見逃してワンストライーク!』
たった一球ストライクを取っただけで大歓声が沸き起こる。
「オッケー、ナイスボール! 走ってるよ、楽に行こう!」
「......うッス!」
「ストライーク! バッターアウッ!」
「よっシャーッ!」
『ストライクからボールになる縦のスライダーで空振り三振! マウンドでガッツポーズの
一番バッターを最高の形で打ち取ったことで自分のピッチングが日本一のチームに通用するんだと自信を持った
「プロ相手にいきなり三者連続三振......!」
「すげぇー......あの人、オイラたちと一個しか違わないんだよな?」
衝撃的なピッチングに恋恋ナインは釘付けになっていたが、リカオンズは余裕のある表情で談笑しながらベンチを出て、各々ポジションへ着いた。
「オッシャー! 絞まってこーッ!」
「オオーッ!」
先発
『マリナーズの一番バッターは、アメリカ帰りのリードオフマン
「(
「
「はい......!」
ホームに一番近い席に座る
『振りかぶって投げた! 先ずは高めのストレート! しかし球審の手は上がらない! 際どいコースにバットが出かかったが何とか堪えた! ボールです』
「(ふーん......ここに反応するのか。粘られても面倒だ、コイツで一個ストライクを貰って三振させるか)」
『リカオンズバッテリーサイン交換をして第二球を投げた。ああ~とッ! 高めに抜けたー!』
痛恨の失投......と思われたがバットは空を切った。
そして追い込んでからの四球目、
「真ん中高めのストレート! 今の下手したらホームランボールだよねっ」
「ええ、しかも得意のカーブに見せかけてスピードを殺した半速球。スゴいわ」
「シーズン200安打を打った事のある、あの
「なんて......なんて大胆なリードだ」
続く二番バッターは、初球のカーブを打たされファーストゴロであっという間に二死。
アウトになったバッターと入れ替わりネクストバッターボックスから茶髪の男――
「今日は三番なんだな」
「ああ、志願したんだ。初回に
「おお~、怖っ」
前回対戦では絶不調だった事もあり四打数無安打2三振と完全抑え込まれた。
「ふぅ......」
「(ヤバイってコレ......。
バッターボックスでバットを構える
その
「クックック......さあ、どうするかね?
「うっす、ちゃんと見るッス!」
『一軍復帰後、打率七割を誇る天才
「ボール!」
『ボールです、初球は外へ大きく外れた』
初球、
「(なんつー見逃し方しやがるんだ......。勝負するのがバカらしく感じるぜ)」
バッテリーは細心の注意を払い、どうにかフルカウントまでこぎ着けたが
「お前ならどうする」
「俺なら......」
「歩かせます。次のブルックリン選手は一発がありますけど、
「ふーん。さて答え合わせだ」
リカオンズバッテリーの選択はインハイのややボール気味に見えるストレート。見逃せばストライクを取られかねない完璧なコースへ来た。
「(ナイスボール!)」
「フッ......!」
「レフト追えー! 捕れるぞーッ!」
「ムダだ」
『おや、レフトの
しかし、打球はなかなか落ちてこない。レフトはジリジリと後方へ下がっていき背中に当たった感触に驚いた。いつの間にかフェンスまで下がっていたのだ。
フェンスをよじ登り思い切り腕を伸ばす。そこへようやく落ちてきた打球をフェンスの向こう側で捕球した。
『と......取ったァーッ! リカオンズ
リカオンズ応援団の大声援を受けた
彼が捕球した時既に三塁を回っていた
「惜しかったな、
「向かい風で若干押し戻された。次はフェンスに登っても届かない場所へ叩き込む」
「頼もしいな。けど、その前にオレが点を取って先制するさ」
「期待してるよ」
二人は、ポンっとグラブを合わせてお互いポジションに着いた。
「まあ多少の運が絡んだが勝負はバッテリーの勝ちだ」
「でも、完全にフェンスを越えてたわよ?」
「関係無いさ。勝負にいってアウトに取った、その結果がすべてだ。いくら当たっている打者が相手とはいえ、初回のあからさまに勝負を避けるのはチーム全体の士気を下げ、相手を勢いづかせ兼ねない」
チームを引っ張るチームリーダーには大きく二種類のタイプが存在する。
一つは『戦略』を用いるタイプ。
具体的な根拠を示し戦略・戦術を駆使しチームを導く『戦略家』。
もう一つは『鼓舞』を用いるタイプ。
チームを鼓舞し、士気を高めて勢いづける『モチベーター』。
「
「流れが変わる......?」
「さあな、お前の言った通りいったんフェンスを越えた。その事実をマリナーズの投手がどう捉えるかによる」
リカオンズベンチは、
「
「ああ、行ってくる」
二回の表リカオンズの攻撃は四番DHの
『二回の表リカオンズの攻撃は四番
「ボール、ボールスリー!」
『ノースリー、ピッチャー萎縮してるのか? ストライクが入りません』
三者連続三振と完璧な立ち上がりを見せた
更に先制点をやりたくないと言う想いから腕が縮こまってしまっていた。たまらずキャッチャーの
「すみません......腕が振れてないは自分でも分かります......」
「いや、相手は
「ダメです。ここが勝負所です」
サードの
「オレも、
「確かに、最初の三連戦もイージーエラーやツーアウトからの四球をキッカケにビッグイニングを作られた......」
「逆に言えば、ここで
「逃げて弱味をさらけ出すよりマシだな」
「......そうだな。
「はい!」
――必ず逆転する。
「ムッ......」
「ファール!」
3-1から外角低めボールから入ってくるスライダーをファール、フルカウント。
『さあ、マウンドの
マリナーズバッテリーは勝負に行く、勝負球は計らずもリカオンズバッテリーが選択した
『
マリナーズVSリカオンズの四回戦。
二回表、リカオンズ