7Game   作:ナナシの新人

19 / 111
game19 ~課題~

 合宿二日目。

 午前は普段通りに基礎体力作りに汗を流し、昼食を摂る。しばしの休憩の後、理香(りか)東亜(トーア)に頼まれて作ってきたくじを、鳴海(なるみ)を除いたナインたちに引かせた。

 

「オイラ『A-1』って書いてあるでやんす」

「あたしのは『B-3』ね」

「私は『B-1』よ」

「ボクは『A-7』。あの加藤(かとう)先生、これは何ですか?」

「それはね。今から行う紅白戦のチーム分けと打順よ」

 

 理香(りか)は『A』と『B』の二種類にくじを用意した。『A』には『1~9』の数字『B』のくじには『1~6』の数字がそれぞれアルファベットと付随している。

 

「先攻は『B』チーム。例えば攻撃の際に満塁になった時に『B』チームがバッターを使い切ってしまったら『A』チームの『A-1』の子。今回の場合は矢部(やべ)くんが打席に入る。それで矢部(やべ)くんが抜けた守備位置へアウトになった『B-1』の子――瑠菜(るな)さんが『A』チームの守備に着くのよ」

「じゃあ俺がくじを引かないのは?」

鳴海(なるみ)くんは、基本的に両チームで捕手を務めてもらうから特別。守備の負担が大きいから打順はBチームの7番に入ってもらうわ。鳴海(なるみ)くんが打席や出塁しているに場合のキャッチャーは新海(しんかい)くんにやってもらう事になるからね」

「僕が......? はい、わかりました!」

 

 『B』チームが守備につく場合は、打席に立たない『A』チームの数字が一番遠い順に四人が空いているポジションに着く。なお守備位置に関してもポジション別に数字が振られており固定されるバッテリー以外はローテーション(左利きは『一、外』のみ)で、各ポジションを守ることとなる。

 試合は疲労を考慮し7回制を採用、同点の場合は引き分け。

 

「なるほど。俺以外のみんなはローテーションで複数のポジションで試合を行うんですね」

「なんか、子どもの頃に空き地でプラバットとゴムボールでやってた草野球(ヤツ)みたいだぜ」

「うん、ボクもやったよ。人数が集まらなくても3人居れば出来るんだよね」

「そうそう。ピッチャー、キャッチャー、バッターで三振したら交代みたいなヤツな」

 

 懐かしそうに思い出話に花を咲かせ休憩を取り午後二時、ナインたちはグラウンドへ姿を現した。ベンチ前に集合し東亜(トーア)の指示を聞いてから後攻の『A』チームはグラウンドでポジションに着く。

 マウンドでは捕手の鳴海(なるみ)と、Aチーム先発を指名された藤村(ふじむら)がサインの最終確認をしている。

 

「よし、じゃあサインはこれで行くよ」

「はいっ」

 

 ハッキリと返事をする藤村(ふじむら)鳴海(なるみ)は、キャッチャースボックスで腰を落とし、一番バッターの瑠菜(るな)が左バッターボックスでバットを構える。

 バックネット裏で椅子に座った東亜(トーア)が球審を務め、理香(りか)が一塁塁審判。三塁塁審は、マネージャーのはるかがレフトポール前に設置したカメラの映像をリアルタイムで見ながらベンチで判定する。

 

「プレーボールよ!」

「(先ずはストレート。コースは何処でもいいよ、思いっきり!)」

 

 頷いた藤村(ふじむら)は、セットポジションからモーションを起こし、左の横手投げから第一球を投げた。

 

「ボール」

 

 初の実戦に力が入りすぎたのか低めのワンバウンドになった。瑠菜(るな)は余裕を持って見逃し、鳴海(なるみ)はしっかりと捕球。ボールにキズがないか確認してピッチャーへ投げ返す。

 

「いいよいいよ走ってる! 次は入れていこう!」

「はい!」

 

 二球目もストレート。今度はやや真ん中付近に決まった。判定はストライク。

 

「ふっ......!」

「ショーッ! セカンッ!」

 

 カウント1-1からのアウトコースのストレートを瑠菜(るな)が打つ。叩きつけた打球はマウンド手前で大きく跳ねあがり藤村(ふじむら)の頭を越えてセカンドベース方向へ飛んでいく。

 

藤堂(とうどう)、この当たりはショートのお前の方が投げやすい!」

「うっす!」

 

 久しぶりにセカンドのポジションに着いた真田(さなだ)が声を出して指示。藤堂(とうどう)は回り込んでベース後方で捕球し一塁へ送球。

 

「ギリギリセーフよ」

「今の捕られらたんですかっ?」

「ふふっ。ええ、しかも走り込んでのシングルキャッチじゃなくて回り込んで捕球していたわ」

 

 真田(さなだ)矢部(やべ)とチーム一位二位を争っていた二人をしのぐ自慢の足を見せつけた藤堂(とうどう)だったが、バックネット裏の東亜(トーア)とベンチの奥居(おくい)は余裕の表情を見せていた。

 そんな奥居(おくい)に隣で座る芽衣香(めいか)が、ややおちょくるように話しかける。

 

奥居(おくい)ーっ、アンタもうかうかしてらんないんじゃないの~?」

「へっ。オイラなら今のは余裕にアウトにしてるぜ」

「なによー。強がっちゃって!」

「違うっての。オイラなら前に出てランニングスローだ。ああいう打球は回り込んじゃいけねぇーんだよ」

 

 藤堂(とうどう)のプレーは一見凄いプレーに見えるが、実は一度両足を止めてからのスローイングになってしまっていたことで、送球がワンテンポ遅れてしまっていた。

 

「仮にもオイラとコンビを組んでるんだから際どい場面の判断を誤るなよ?」

「ムカツクわねぇ~っ、その上から目線! アンタに言われなくてもあたしはいつも最善の選択しかしないわ!」

 

 プンプンッ! と頬を膨らませる芽衣香(めいか)。一方グラウンドではBチームの二番バッター葛城(かつらぎ)がバッターボックスで驚異的な粘りを見せていた。

 

「ファール。フルカウント」

「ふぅ~......。あぶねぇ」

「(くっそー、粘るなぁー。これを見られたら仕方ない)」

 

 初球二球と二つ見逃しでストライクを取ったあと、ボール球をみっつ挟んで6球ファールで逃げる粘りを見せ、次が12球目。鳴海(なるみ)は内角高めのボールゾーンにミットを構え、藤村(ふじむら)はそこへ投げ込んだ。

 

「(際どい......ボールか!?)」

「スイング!」

 

 出かかったバットを必死で止めた。鳴海(なるみ)は一塁塁審の理香(りか)に判断を委ねる。

 

「スイングよ!」

「よっし! ワンナウトー!」

「ああー、くそ~っ。迷ったぁー」

 

 ハーフスイングをとられた葛城(かつらぎ)は、悔しそうにメットのつばにコンッと軽くバットで叩き。ベンチへ戻る前にネクストバッターボックスで準備をしていた芽衣香(めいか)に情報を伝達した。

 

「球種は真っ直ぐとスライダー。球は速くはないけど角度がキツい。特にクロスファイヤーはカットで逃げるのがやっとだな」

「そう。で、次はどうすんの?」

「際どいコースは捨てて、甘く入ったボールをミスショットせずにセンターから逆へ叩く」

「オッケー。じゃああたしはそれを実行するわ」

 

 芽衣香(めいか)葛城(かつらぎ)は、お互い長打よりもミートを重視するタイプ。普段は先に打席に立つことの多い芽衣香(めいか)から、葛城(かつらぎ)に伝える事が多いが。その時も二人は、この手の情報のやり取りをして一巡待たず、二度勝負出来る状況を作り出していた。

 

「さぁ来なさい!」

「気合い入ってるね、芽衣香(めいか)ちゃん」

「あったりまえよっ」

「(打ち気に見えるけど。ややオープン気味だな、クロスを警戒してるのかな?)」

 

 バッターボックスの構えをじっくり観察してからサインを出す。藤村(ふじむら)は、うなづきファーストランナーの瑠菜(るな)に一度目をやってから右足を上げた。

 

「(外......からのスライダー!?)」

「ストライク」

 

 アウトコースのボールからストライクゾーンをかすめるスライダーでワンストライク。二球目は同じコースのストレート。ボール球に手を出してファースト方向へのファール。

 

「あんた、性格悪いわね」

「あっ、それキャッチャーとしては褒め言葉だから」

「むっ、絶対打ってやるんだから!」

 

 熱くなりやすい性格の芽衣香(めいか)に対しバッテリーの選択は、やや甘めの内角から膝元へ滑り落ちるスライダー。甘いボールを狙っていた芽衣香(めいか)は、当然手を出し空振りの三振に切ってとられた。

 

「ああ~んっ!」

「はい、残念でした。ツーアウトー!」

 

 不機嫌にベンチに戻る芽衣香(めいか)の後は、Bチームの先発を指名された片倉(かたくら)。右投げだが左のバッターボックスに入る。

 鳴海(なるみ)に一礼してからバットを構える。

 

「(力みの無い構えだ。外で様子を見よう)」

「......んっ」

 

 無駄のない構えに様子見。初球は外のストレートを見逃しボール。外のスライダーを振らせ二球は空振り。三球目、内角へ外す予定のボールが甘く入った。片倉(かたくら)は逃さず引っ張った打球は一塁線を抜けるヒット、長打コース。

 ツーアウトのため、当たった瞬間にファーストランナーの瑠菜(るな)はスタート。ファウルゾーンを転々と転がる打球を見て二塁を蹴り三塁も蹴った。

 

近衛(このえ)!」

「要らねえよ!」

 

 ライトの近衛(このえ)は、中継に入った真田(さなだ)を通り越し自慢の強肩でバックホーム。返球は瑠菜(るな)がホームへたどり着く前にキャッチャーミットへ届きタッチアウト。

 

「アウト。チェンジ」

「ナイスバックホーム!」

 

 Aチームの一部はグラウンドに残りBチームが守備に着く。一番バッターは矢部(やべ)。マウンドでは鳴海(なるみ)片倉(かたくら)がグラブで口を隠しながら打ち合わせ。

 

「これが真っ直ぐで、これがカーブね。あと知ってると思うけど、矢部(やべ)くんは足が速いからセーフティーも警戒しておいて」

「はい、わかりました」

 

 守備位置に戻る。

 

「ずいぶんと入念な打ち合わせだったでやんすね」

「うん、矢部(やべ)くんの弱点を話してたんだよ」

「お、オイラの弱点でやんすか!?」

「まあね。ほら、初球来るよ?」

「ちょ、ちょっと待って欲しいでやんすー!」

「ストライク」

 

 矢部(やべ)が動揺している間に投球はストライクゾーンを通過し、ワンストライク。

 

「ほう。そこそこ速いな」

 

 東亜(トーア)は自分の横に設置してあるスピードガンの表示を見ると「134km/h」と表示されていた。理香(りか)から渡された選手データのファイルを捲り、片倉(かたくら)のデータを見る。

 

「中学時代はシニアの二番手。変化球の制球力はあるが、ストレートに課題あり。シニア時代のMAXは129km/hね。ふーん」

 

 シニアの頃よりも5km/h球速が上がっている。しかもこれはブルペンでの最速であり、試合では平均125km/h前後。実際は平均10km/h近く球速アップしている事となるのだが......。

 

「ボール。フォアボール」

 

 得意のカーブが決まらず、矢部(やべ)を塁に出してしまった。続くバッターも矢部(やべ)と同じく俊足の持ち主で、さらに左打ちの真田(さなだ)。やはりカーブが思った通りに投げられず、外のストレートを当てられた打球は三遊間へ。

 

「オイラの見せどころだぜ! 浪風(なみかぜ)!」

「まっかせなさーい!」

 奥居(おくい)は深い打球を逆シングルで捕球し、全身のバネを使ってジャンピングスロー。鋭い送球で一塁走者の矢部(やべ)をセカンドで封殺。芽衣香(めいか)もスライディングを上手くかわして、すかさず一塁へ送球。

 

「アウト!」

「ええーっ!? マジっすか!?」

 一塁も際どいタイミングでのアウト、ダブルプレー成立。

 

「へへーん、どうだ見たか四ッ谷! 五反田! 六本木! これがオイラの実力だぜ!」

「何言ってんのよ。今のはアタシの素早い送球でしょっ!」

「どうでもいい。さっさと守備に戻れ」

「うーっす......」

「はーい......」

 

 セカンドベースを挟んで言い合う二人は東亜(トーア)に咎められ、素直にポジションに戻った。

 しかし、その後も片倉(かたくら)の制球は定まらず、続く三番藤堂(とうどう)にはフォアボール与え、四番近衛(このえ)には高めのカーブを打たれて一失点を喫し、この回を終えた。

 その後藤村(ふじむら)片倉(かたくら)共に失点を重ねて両者とも三回で交代。リリーフしたあおいと瑠菜(るな)はランナーを出しながらも無失点で切り抜け、最終回七回の表のマウンドには、抑えの近衛(このえ)がマウンドへ上がった。

 

「ツーアウト、あと一人だ!」

「おう!」

 

 芽衣香(めいか)が打ち取られツーアウトランナー無し。バッターはここまで三打数二安打の片倉(かたくら)、ピッチングは課題を残したがバッティングではここまで結果を残している。

 初球、二球と140km/h近いストレートで追い込み三球目――。

 

「ふっ......!」

「オーライ、オーライ......あっ!」

「うげッ!」

 

 真ん中に入ったストレートをライトへ引っ張った。平凡なライトフライに思えたが、シュート回転して捉えられた打球は想像以上に伸び、素人六条(ろくじょう)の頭を超えてそのままフェンスの直撃、ツーベースヒットで一打同点の場面。

 

「やっぱ、オイラ持ってるぜ......」

「ここで奥居(おくい)かよ」

「タイム!」

 

 鳴海(なるみ)はタイムをかけてマウンドへ向かう。同調して内野も集まった。

 

奥居(おくい)くんはここまで三の三。どうする?」

「紅白戦なんだから勝負だろ?」

「まあね。コースさえ間違わなければ勝算はあるよ」

「......なあ、鳴海(なるみ)。練習してた変化球を試してぇーんだけど」

「変化球? 付け焼き刃じゃ通用しないよ」

「決め球にするわけじゃないし。タイミングを外すだけなら出来るだろ」

「......わかった。で球種は?」

「フォーク」

「了解。じゃあパーでフォークね」

 

 各々ポジションに戻る。鳴海(なるみ)は腰を落としてサインを出した。

 

「(先ずは、ストレート)」

 初球、アウトコースギリギリのストレートを見逃しストライク。味方のベンチから野次が飛ぶ。

 

「こら奥居(おくい)! 打ちなさいよー!」

「(ったく、あそこはホームランに出来ねぇんよ)」

 

 奥居(おくい)は打席を外し、一度素振りして再び構える。

 

「(ここしかないな。使ってみよう)」

「(オーライ......)」

 

 近衛(このえ)は、大きく息を吐いてグラブの中でボールを挟むセットポジションから足を投げて投げた。

 投球は――ど真ん中。

 

「(真ん中。もらったぜ!)」

 

 奥居(おくい)は、バットを振る。しかし、ボールはベースの手前でブレーキがかかった。

 

「フォーク......!? ええーいッ!」

「(おっ。ちゃんと落ちた!)」

「(よっしゃ振っただろ!)」

 

 空振り――、と思われたが打球はレフト上空へ飛んでいた。

 

「行けやー!」

「嘘だろ......?」

「レフト! 追い付けるぞー!」

 

 奥居(おくい)は変化球に完全にタイミングを外されたが、とっさに右手を離し左腕一本で落ち際を掬い上げた。打球はレフト上空へ。

 

「(ダメ、私の身長じゃ届かない。よーしっ)」

 

 レフトの香月(こうづき)は、打球の角度とフェンスとの距離を計ってフェンスの手前3メートルの位置で立ち止まった。

 

真田(さなだ)センパイ、中継お願いします!」

「わかった!」

 

 真田(さなだ)は、肩の弱い香月(こうづき)の近くまでダッシュ。打球はフェンスに直撃しドンピシャで香月(こうづき)のところへ勢いよく跳ね返った。跳ね返った打球に合わせて助走をつけながら捕球し中継の真田(さなだ)へ送球。

 

「ナイス! 鳴海(なるみ)ー!」

 

 通常の位置よりもやや深い場所からのバックホーム。ストライク返球が返ってきた。走者片倉(かたくら)と捕手鳴海(なるみ)のホームクロスプレー。

 

「アウト。ゲームセット」

 

 東亜(トーア)の判定はタッチアウト。

 初の紅白戦は数多くの課題を残しながら幕を閉じた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。