合宿二日目。
午前は普段通りに基礎体力作りに汗を流し、昼食を摂る。しばしの休憩の後、
「オイラ『A-1』って書いてあるでやんす」
「あたしのは『B-3』ね」
「私は『B-1』よ」
「ボクは『A-7』。あの
「それはね。今から行う紅白戦のチーム分けと打順よ」
「先攻は『B』チーム。例えば攻撃の際に満塁になった時に『B』チームがバッターを使い切ってしまったら『A』チームの『A-1』の子。今回の場合は
「じゃあ俺がくじを引かないのは?」
「
「僕が......? はい、わかりました!」
『B』チームが守備につく場合は、打席に立たない『A』チームの数字が一番遠い順に四人が空いているポジションに着く。なお守備位置に関してもポジション別に数字が振られており固定されるバッテリー以外はローテーション(左利きは『一、外』のみ)で、各ポジションを守ることとなる。
試合は疲労を考慮し7回制を採用、同点の場合は引き分け。
「なるほど。俺以外のみんなはローテーションで複数のポジションで試合を行うんですね」
「なんか、子どもの頃に空き地でプラバットとゴムボールでやってた
「うん、ボクもやったよ。人数が集まらなくても3人居れば出来るんだよね」
「そうそう。ピッチャー、キャッチャー、バッターで三振したら交代みたいなヤツな」
懐かしそうに思い出話に花を咲かせ休憩を取り午後二時、ナインたちはグラウンドへ姿を現した。ベンチ前に集合し
マウンドでは捕手の
「よし、じゃあサインはこれで行くよ」
「はいっ」
ハッキリと返事をする
バックネット裏で椅子に座った
「プレーボールよ!」
「(先ずはストレート。コースは何処でもいいよ、思いっきり!)」
頷いた
「ボール」
初の実戦に力が入りすぎたのか低めのワンバウンドになった。
「いいよいいよ走ってる! 次は入れていこう!」
「はい!」
二球目もストレート。今度はやや真ん中付近に決まった。判定はストライク。
「ふっ......!」
「ショーッ! セカンッ!」
カウント1-1からのアウトコースのストレートを
「
「うっす!」
久しぶりにセカンドのポジションに着いた
「ギリギリセーフよ」
「今の捕られらたんですかっ?」
「ふふっ。ええ、しかも走り込んでのシングルキャッチじゃなくて回り込んで捕球していたわ」
そんな
「
「へっ。オイラなら今のは余裕にアウトにしてるぜ」
「なによー。強がっちゃって!」
「違うっての。オイラなら前に出てランニングスローだ。ああいう打球は回り込んじゃいけねぇーんだよ」
「仮にもオイラとコンビを組んでるんだから際どい場面の判断を誤るなよ?」
「ムカツクわねぇ~っ、その上から目線! アンタに言われなくてもあたしはいつも最善の選択しかしないわ!」
プンプンッ! と頬を膨らませる
「ファール。フルカウント」
「ふぅ~......。あぶねぇ」
「(くっそー、粘るなぁー。これを見られたら仕方ない)」
初球二球と二つ見逃しでストライクを取ったあと、ボール球をみっつ挟んで6球ファールで逃げる粘りを見せ、次が12球目。
「(際どい......ボールか!?)」
「スイング!」
出かかったバットを必死で止めた。
「スイングよ!」
「よっし! ワンナウトー!」
「ああー、くそ~っ。迷ったぁー」
ハーフスイングをとられた
「球種は真っ直ぐとスライダー。球は速くはないけど角度がキツい。特にクロスファイヤーはカットで逃げるのがやっとだな」
「そう。で、次はどうすんの?」
「際どいコースは捨てて、甘く入ったボールをミスショットせずにセンターから逆へ叩く」
「オッケー。じゃああたしはそれを実行するわ」
「さぁ来なさい!」
「気合い入ってるね、
「あったりまえよっ」
「(打ち気に見えるけど。ややオープン気味だな、クロスを警戒してるのかな?)」
バッターボックスの構えをじっくり観察してからサインを出す。
「(外......からのスライダー!?)」
「ストライク」
アウトコースのボールからストライクゾーンをかすめるスライダーでワンストライク。二球目は同じコースのストレート。ボール球に手を出してファースト方向へのファール。
「あんた、性格悪いわね」
「あっ、それキャッチャーとしては褒め言葉だから」
「むっ、絶対打ってやるんだから!」
熱くなりやすい性格の
「ああ~んっ!」
「はい、残念でした。ツーアウトー!」
不機嫌にベンチに戻る
「(力みの無い構えだ。外で様子を見よう)」
「......んっ」
無駄のない構えに様子見。初球は外のストレートを見逃しボール。外のスライダーを振らせ二球は空振り。三球目、内角へ外す予定のボールが甘く入った。
ツーアウトのため、当たった瞬間にファーストランナーの
「
「要らねえよ!」
ライトの
「アウト。チェンジ」
「ナイスバックホーム!」
Aチームの一部はグラウンドに残りBチームが守備に着く。一番バッターは
「これが真っ直ぐで、これがカーブね。あと知ってると思うけど、
「はい、わかりました」
守備位置に戻る。
「ずいぶんと入念な打ち合わせだったでやんすね」
「うん、
「お、オイラの弱点でやんすか!?」
「まあね。ほら、初球来るよ?」
「ちょ、ちょっと待って欲しいでやんすー!」
「ストライク」
「ほう。そこそこ速いな」
「中学時代はシニアの二番手。変化球の制球力はあるが、ストレートに課題あり。シニア時代のMAXは129km/hね。ふーん」
シニアの頃よりも5km/h球速が上がっている。しかもこれはブルペンでの最速であり、試合では平均125km/h前後。実際は平均10km/h近く球速アップしている事となるのだが......。
「ボール。フォアボール」
得意のカーブが決まらず、
「オイラの見せどころだぜ!
「まっかせなさーい!」
「アウト!」
「ええーっ!? マジっすか!?」
一塁も際どいタイミングでのアウト、ダブルプレー成立。
「へへーん、どうだ見たか四ッ谷! 五反田! 六本木! これがオイラの実力だぜ!」
「何言ってんのよ。今のはアタシの素早い送球でしょっ!」
「どうでもいい。さっさと守備に戻れ」
「うーっす......」
「はーい......」
セカンドベースを挟んで言い合う二人は
しかし、その後も
その後
「ツーアウト、あと一人だ!」
「おう!」
初球、二球と140km/h近いストレートで追い込み三球目――。
「ふっ......!」
「オーライ、オーライ......あっ!」
「うげッ!」
真ん中に入ったストレートをライトへ引っ張った。平凡なライトフライに思えたが、シュート回転して捉えられた打球は想像以上に伸び、素人
「やっぱ、オイラ持ってるぜ......」
「ここで
「タイム!」
「
「紅白戦なんだから勝負だろ?」
「まあね。コースさえ間違わなければ勝算はあるよ」
「......なあ、
「変化球? 付け焼き刃じゃ通用しないよ」
「決め球にするわけじゃないし。タイミングを外すだけなら出来るだろ」
「......わかった。で球種は?」
「フォーク」
「了解。じゃあパーでフォークね」
各々ポジションに戻る。
「(先ずは、ストレート)」
初球、アウトコースギリギリのストレートを見逃しストライク。味方のベンチから野次が飛ぶ。
「こら
「(ったく、あそこはホームランに出来ねぇんよ)」
「(ここしかないな。使ってみよう)」
「(オーライ......)」
投球は――ど真ん中。
「(真ん中。もらったぜ!)」
「フォーク......!? ええーいッ!」
「(おっ。ちゃんと落ちた!)」
「(よっしゃ振っただろ!)」
空振り――、と思われたが打球はレフト上空へ飛んでいた。
「行けやー!」
「嘘だろ......?」
「レフト! 追い付けるぞー!」
「(ダメ、私の身長じゃ届かない。よーしっ)」
レフトの
「
「わかった!」
「ナイス!
通常の位置よりもやや深い場所からのバックホーム。ストライク返球が返ってきた。走者
「アウト。ゲームセット」
初の紅白戦は数多くの課題を残しながら幕を閉じた。