「投手経験者は、
「ええ、
「ショート! 二つ!」
「よっしゃー! ほいっ」
「ナイストス! ファースト」
五月初旬。恋恋高校野球部一行は、海の近くにのれんを構える旅館で短期合宿を張ることとなった。
合宿所近くのグラウンドでは、
「しかし、よくもまあ全員生き残ったもんだ」
「それこそ
この一月、仮入部を経て正式に野球部の一員となった新入部員6人は試合前や試合中に、三年生のキャッチボールの相手をする以外ボールに触れる機会はほとんどなかったが、誰一人として腐ることなく練習(基礎体力トレーニング)に参加していた。
「いい意味での誤算はコイツだ」
「
「まあな。一応ひととおり見てみて適性を見極めるさ」
そうは言ったが、夏の予選開始まであと二ヶ月。
「ナイスボール! いいぞ
「まだまだだよっ。次行くよー!」
「
「はいッ!」
あおいは元正捕手の
グラウンドでは内野守備から外野守備練習に変更、センターの
「あいつ、中々の打球勘だ」
「
真正面のセンターフライの落下点へいち早く入り、捕球体制を取った。外野で一番難しいポジションはセンターと言われている。特に真正面の打球は、左右に飛んだ場合と比べて角度がつかないため距離感を掴むことが難しい。
「ふーん。それにしても、いい勘をしている割りには試合経験が少ないな。原因は
「ええ、元々左利きだったらしいんだけど。子どもの頃に、鉛筆とかお箸とかを右に矯正してから、左右どちらとも投げにくくなってみたい。だから中学でも、最終回の守備固めが中心だったそうよ」
「生活面を取った訳だ。まあ今後の長い人生を考えれば無難な選択だわな。でだ」
「オーライ、オーライ......あっ!」
簡単なフライをバンザイし後ろに逸らしたボールを慌てて追いかける、新入部員の中で唯一高校から野球を始めた
「あの子は、完全にあなたのファンね。根性だけで、ここまで残ったわ」
「別に動機は何でもいいさ」
「ふふっ、テレてる?」
「......あとはアイツか」
合宿でも午前は変わらず基礎体力トレーニング。午後から始まったボールを使った練習で新入部員の中で一番目立っていたのが、内外野共に無難にこなし、走塁技術では劣るが部内で1位2位の俊足を誇る
「
「心配ごと? いいセンスしてると思うけど」
「まだ一年だからな。さてと、じゃあそろそろ今日の仕上げと行くか。マネージャー、アイツらを集めろ」
「はい、わかりました。みなさーんっ、集合でーすっ」
はるかの呼び掛けを聞いてナインはベンチ前へ集まり、
「さて、海へ行くか」
* * *
「海でやんすね......」
「ああ、海だぜ......」
「............」
「............」
青い海に白い砂浜、吹き抜ける潮風に一時の沈黙のあと
「水着のお姉さんが居ないでやんすー!」
「こんなの海じゃないぞーッ!」
「そうでやんすー! 神様は無慈悲でやんすーッ!」
「ったく、アンタたちは! ほら、さっさと行くわよ!」
「じゃあ始めるか。
「うっす!」
「あの~、コーチ。これは何の練習ですか?」
「夜はナイターで練習をするグラウンドを濡らすワケにはいかないからな。お前ら知ってるか? 甲子園大会は100年の歴史があるが雨の降らなかった大会は無いそうだ」
「つまり......雨を想定した練習!」
代表して質問をした
「行くぞ」
「おっす!」
「ゲッ!?」
「いきなりトンネルって。アンタねぇ~」
「う、うるさいなぁ。打球が想像より弾まなかったんだよ!」
「それが違いだ」
「どしゃ降りならボールは止まるが。逆に降り始めは、雨がグラウンドの土を固め、弾まず強い当たりになる。さあ次だ」
「今度は滑った......。たった数十センチでこんなに変わるのかよ......」
「本番だったらエラー二つで失点だな。さて、続けるぞ」
「お、おいっす!」
通常の守備との違いに悪戦苦闘しながらも、一人づつノックを受けて宿舎に戻った。夕食を摂りしばしの休息のあとナイターでのフライ処理の練習をして合宿初日は終了した。
『オイラ、最近腹筋がバキバキになったでやんすー』
『オイラもだ。それにこの上腕二等筋を見て欲しいぜ!』
『ほほーう、なかなかでやんすねっ。でもオイラの臀部はもっと――』
『二人とも頼むから目の前で立たないでよ......』
ブブーッ!
大浴場でお互い体の変化を見せ成長を確認し合う男湯。一方女湯は――。
『やっぱ男ってアホね』
『あはは......』
湯船に浸かりながら壁一枚向こうから聞こえる男湯の会話に、飽きて果てる彼女たちだったが......。
『ふぅ......。髪洗おっと』
『あれ?』
『どうしたの
『うーん? あおいさぁ~』
『んー? ひゃっ!?』
『な、なにっ?』
『やっぱり、ちょっと痩せたんじゃない? それにちょっと胸も大きくなってるような』
『へ......? そうかな?』
『きっと、
二人の会話に体を洗っていたはるかが加わる。
無酸素運動(筋トレ)と有酸素運動(ジョギング等)の組合せは身体の代謝を上げて脂肪燃焼に効果があり。そこに
『美容にも良いそうなので。私もお家で作ってこっそり飲んでます。低カロリーですし』
『だから最近、はるかのお肌ツヤツヤなんだ!』
『ちょっと、作り方教えなさいよ!』
『
『適度な運動と適切な栄養管理、質の良い睡眠よ』
『さすがです!』
三人娘がキャピキャピ騒ぐ中、
旅館付近の小料理屋で地場産の一品料理を肴にアルコールをたしなむ
「先ずは初日を無事消化。明日はどうするの?」
「今日と変わらない。ただ、海辺ノックの替わりに紅白戦を組む」
「紅白戦? でも人数足りないわよ」
既存メンバーはマネージャーのはるかを除いて9人。新入部員は
「いくらでもやりようはあるさ。くじを作っておいてくれ」
「くじ?」