7Game   作:ナナシの新人

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Another Game 二人の決意

 八月某日。

 熱い夏の戦いが幕を閉じた後も、地元挨拶、取材対応、都知事への優勝報告と、恋恋高校を取りまく環境は忙しなさが増すばかりだった。そして、ようやくひと段落がついたと思いきや、新たな話題が飛び込んで来た。

 昼休み、校長室に呼び出された鳴海(なるみ)奥居(おくい)甲斐(かい)真田(さなだ)の四名。恋恋高校の七瀬(ななせ)理事長は、対面して座る四人に用件を伝える。

 

「今朝、事務方から正式に連絡があって、君たち四人がU18日本代表の候補に挙がっているという話しがあった」

「に、日本代表? 俺たちがですか?」

「うむ。急だが、来週正式に発表されることになる。辞退の申し入れは都合上、明後日までに申し出て欲しいそうだよ」

 

 突然のことに、四人とも喜びよりも驚きや戸惑いの方がより強い。四人のうちのひとり、甲斐はやや目を伏せて呟き。この場に同席していた加藤(かとう)理香(りか)は、素速くフォローする。

 

「明後日まで......」

「深刻に考えなくていいわ。故障はもちろんのこと、受験専念とかを理由に辞退する人も珍しくはないそうよ。すぐに答えを出すことはないわ。今はまだ整理がつかないだろうけど、しっかり考えなさい」

「はい」

 

 席を立った四人は、理事長に一礼して校長室を後にする。

 四人が校長室から離れた頃合いを見計らって、理事長は理香に訊ねた。

 

「彼は、悩んでいたようですな」

「甲斐くんは、難関校への進学希望なんです。甲子園滞在中も隙間時間を見つけては、参考書に向かっていましたから」

「そうでしたか。ところで、加藤先生。彼の行方は?」

「......それも、まだ何も。ですが、自分の役目は終わったと言っていました。きっと、還っていったんだと想います。あの人自身の鉄火場へ――」

 

 ※あの人。猪狩夫妻と接触後ヨーロッパ各地を放浪、カジノ等ギャンブルを満喫中。

 

「勝負師ですから」

「そうですか。そうそう、それからもう一つ、今年も開催されることになったそうです」

 

 向かいの席に座り直した理事長は自身の机の引き出しから持ってきたA4サイズ封筒を、理香の前に置く。封を切り、中の書類に目を通す。

 

「これは......」

 

 書かれていたのは、元メジャーリーガー主催の女子選手を招いた特別試合。女子代表チームの監督就任と、メンバー選考の協力を求める旨。

 

「いかがしますか? 加藤先生」

 

 小さく息を吐いた理香は、窓の外へ顔を向ける。

 熱い日差しが降り注ぐソフトボール部と兼用のグラウンドの片隅の木陰で、三年生が抜けて六人しかいない一年生たちが、次期キャプテンを誰が務めるか話し合っている。

 

「お引き受けします。あの子たちの、来年入ってくる生徒たちのために」

「そうですか。では、私の方から返事をしておきます」

 

            * * *

 

 U18代表合宿当日の朝。鳴海、奥居、真田。そして、バックアップメンバーに選ばれた矢部(やべ)を含めたの四人が甲子園へ向かった時と同じ東京駅発の始発の新幹線に乗車し、出発の時を待っていた。

 

「いよいよだな。まさか、日本代表に選ばれるなんてな」

「そうか? オイラは、選ばれると思ってたぜ」

「そりゃ奥居は当然だろ。つーか、同じ学校から20人の枠に三人も選ばれるって地味にスゴくね?」

「派手にだよ。甲斐くんは、残念だったけど」

「仕方ねぇよ、うち進学校だし」

 

 悩み抜いた結果、甲斐は学業を優先するため代表を辞退。

 彼の他にも辞退者が数名出て再選考が行われた結果、恋恋高校からは三名が正式に選出。

 

「ま、三人でも上等だよな」

「だよなー。そういやあ、女子代表の監督は加藤先生が就任するらしいぜ~」

「うん、聞いたよ」

「正直、羨ましいよな。あのスーパーレジェンドと試合できるなんてさ。それに今年は、去年現役引退したも結構参加するって噂じゃん」

「それ、どこ情報?」

「噂だよ、うわさ。現役選手も出るかもって話もあるらしいぞ」

「へぇ、後で訊い――」

「三人とも、オイラを忘れないで欲しいでやんすー!」

「なんだよ? 矢部」

 

 痺れを切らした矢部が、声を荒げる。

 

「シカトとは立派なイジメでやんす、精神的苦痛を受けたでやんす、慰謝料を請求するでやんす!」

「別にシカトなんてしてないよ。むしろ、なんで話に入ってこないのかなーって思ってたし」

「話が、代表に選ばれた三人前提だったでやんすー」

「“正式”にはって話だろ。バックアップメンバーだって、立派な代表選手だろ」

「それはそうでやんすが......」

 

 アナウンスが車内に流れる。ドアが閉まり、ゆっくりと動き出した。隣駅の品川で、覇堂高校の木場(きば)嵐士(あらし)が合流。新横浜で下車、バスに乗り換えて、合宿場最寄りのバス停へ向かう。

 

「俺たちしか乗ってないけど、他の学校の代表選手はもう着いてるのかな?」

「他県のヤツら大抵前乗りしてる。春ん時は俺もそうだった」

「へぇ、そうなんだ。代表の合宿ってどんな感じ?」

「メンツが違うってだけで普段とそう変わんねえよ。全体練習とポジション別練習ってとこだな」

「あ、そっか。全体練習あるんだ。まあ、あるよね普通」

恋恋高校(うち)あんまりやらないからな~」

「でやんすね」

「はあ?」

 

 木場は、すっとんきょうな声を上げる。バス停に着くまでの間、恋恋高校独自の練習内容を四人から聞いた木場は、考えられないといった様子で訝しげな顔をしたままだった。

 

「着いた、あそこだ」

 

 下車したバス停から歩いて数分、合宿場に到着。球場の入り口前には、先に到着した他校からの代表選手が集まっていた。木場を先頭に集団の下へ向かう。

 準優勝校アンドロメダ学園のエース大西(おおにし)=ハリソン=筋金、野手二名。準決勝で死闘を演じた壬生高校からは近藤(こんどう)土方(ひじかた)、唯一の一年生沖田(おきた)。ベスト4の白轟高校、北斗(ほくと)八雲(やくも)。一回戦敗退だった帝王実業からも蛇島(へびしま)桐人(きりと)友沢(ともざわ)(りょう)など、全国区に名を連ねる豪華な顔ぶれが並んでいた。

 

「お、懐かしい顔がいるじゃねぇか。よう」

「......木場」

 

 木場が声をかけたのは瞬鋭高校三年、才賀(さいが)侑人(ゆうと)。広角に打ち分ける抜群の打撃力が持ち味の三塁手。木場とは中学時代からの顔見知り。

 

「相変わらず辛気くせえな」

「ほうっておけ。そのジャージは、恋恋高校か」

「ああ。俺、恋恋の鳴海」

 

 矢部、奥居、真田を紹介し、握手を求めて手を伸ばそうとしたところ。

 

「悪いが、馴れ合うつもりはない」

「気にすんなよ。堅物だけど悪いヤツじゃねぇから。なんだかんだ言いつつ練習中以外はちゃんと答える律儀なヤツだからよ」

「......余計なことを」

 

 憮然とした顔のまま、やや気恥ずかしそうに視線を背ける才賀に恋恋高校の面々は吹き出しそうになった。

 初対面、顔見知りと挨拶を交わしていると、高級外車が集合時間間際に駐車場に乗り付ける。後部座席から姿を現したのは、あかつき大附属のトレーニングウェアを着た二宮(にのみや)瑞穂(みずほ)と、猪狩(いかり)(まもる)

 

「思ったよりかかったな、電車のが正解だったかもな」

「......キミが強引に押しかけたんだろう」

 

 これで、バックアップメンバーを含めた全員が集結。

 スタッフの案内で球場内のロッカールームへ。各自荷物を置き、ミーティングルームへ移動すると、監督、コーチ陣が待っていた。

 

「あん? 誰だ? あのオッサン。どっかで見たような気が――って、うちの監督じゃねーか!」

「......座れ、二宮。他の者も楽にしてくれ」

 

 白髪交じりのオールバックにヒゲ面、サングラスをかけた千石(せんごく)(ただし)はホワイトボードに自らの名前を書き、椅子に座った選手たちと対面。

 

「今回、日本代表監督を務めることになった千石だ」

「監督。どういうことですか?」

 

 猪狩が挙手し、訊ねる。

 

「うむ。本来監督を務めるはずだった方が体調を崩してな。スケジュールは変わらない。至らないこともあると思うが、よろしく頼む」

 

 会釈した千石に「お願いします」と全員で声を揃えて答えた。

 配られたスケジュール表を片手に大まかな説明を受け、練習着の上から名前と背番号入りのゼッケンを着けて、グラウンドに出る。軽いウォーミングアップをしたのち、ポジション別に分かれて本格的な練習が始まった。

 

「おりゃ!」

「フッ!」

『おお~!』

 

 奥居と才賀の打撃練習を見て、スタンドに詰めかけた取材班が声を上げる。

 

「声をかけてみてはどうだい? こういった時にしか得られないこともあるよ」

「そうですね」

 

 蛇島に背中を押して貰った友沢は、打撃練習を終えた二人の下へ。

 

「お二人は、何か気をつけてることってありますか?」

「オイラが一番気にしているのは、風でやんすね。風向きも考慮してバッターごとに守備位置も変えてるでやんす」

「風は、送球も影響受けるから重要だな。あとは足下か。芝の長さ、水を含んだ時の弾み具合とか」

「へぇ、いろいろ考えてやってるんですねー」

 

 真田は、矢部や沖田、バックアップメンバーも交えて意見を交わし。ブルペンは、バッテリー陣が組み合わせを替えながら投球練習を行っている。

 

「ハーッハッハ! ボクの鮮やかな変化球に酔いしれたまえ!」

「オイ、テメェ! サイン通り投げやがれ!」

「解き放たれたボクは、何者にも縛られないのさ!」

「北斗、カットは無理に対角を狙わなくていい。右打者の外角の出し入れを覚えてピッチングの幅を広げろ」

「わかった、いくぞ!」

 

 二宮は、虹谷と。土方は、北斗のボールを受け。鳴海は、猪狩のボールを受けている。

 

「フッ!」

「ナイスボール!」

 

 猪狩にボールを投げ返したところで千石に声をかけられた鳴海は、顔を上げる。

 

「どうだ? 受けてみた印象は」

「この手のボールを受けるのは初めてなので、少し戸惑っています」

「今年は、左右様々なタイプの投手が選ばれている。可能な限り多く受けて経験を積むといい」

「はい! 猪狩、そろそろ変化球も混ぜていこう」

「ああ」

 

 練習に戻る。ネット裏に移動し、投球練習を見守る首脳陣。

 

「投手野手共に豊作ですね。千石監督」

「ええ。喜ばしい反面、責任も重いですが」

「ははは。しかし、信じられませんね。あれ程の捕手が、元遊撃手とは......」

「彼だけではない。みな見出されたのだ、あの男に――」

 

「この試合は、勝負の最中に目を切ったアンタの負けだ」東東京予選決勝戦終了後に指摘された言葉が、千石の脳裏に蘇る。

 

「......いかんな、余計なことを考えていては」

「何か?」

「いや、なんでもない。明後日予定通り、バックアップメンバーも含めた練習試合を行う。我らも気を抜いてなどいられんぞ」

 

 練習試合に向けたチーム分けのため、メンバー表を片手に各選手たちの元を見て回った。

 そして数日の合宿後を終え、U-22日本代表との親善試合を経て、彼らは戦いの地へと飛んだ。世界一の称号を目指して。

仮に続編があった場合どれを中心した話が見たいか、意見をいただけると助かります。

  • 恋恋高校(一年生)
  • 聖タチバナ学園等パワプロに登場する学校
  • オリジナル高校

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