四回裏の攻撃に入る前に
「五回コールドゲーム覚えてるか?」
「はい!」
力強く頷いた。
前の回をダブルプレーという良い形で守備を終えた事で、ナインの士気は高い。
「攻撃は後二回だ、そろそろ追加点を取りに行く。
「は、はい!」
「あとは、そのつど指示を出す」
六番バッターの
「プレイ!」
球審が右手を上げてコール。
アンドロメダバッテリーはサインを交換を行い、ピッチャー
狙い通りの甘いボールをミスショットせず叩き、レフトフェンス直撃の二塁打を放ち、ベース上でガッツポーズ。
「いいぞ、
「ナイバッチ!」
いきなり無死二塁のチャンスを作った。
「セーフティバント。確実にピッチャーに取らせろ」
「わかりました」
「さて、質問は?」
「初球の変化球は分かります」
「でも、どうして高めに浮くまで......」
「わたしも気になるわ。
「答えは、
六番バッターの
「うっ......!」
「うわっ!」
送球は大きく逸れて一塁側フェンスに直撃。ライトが暴投に追いついた時には既に、セカンドランナーはホームに生還、バッターランナーもセカンドへ進塁していた。
「暴投!? あんな余裕のある場合で......」
「そう言うことか......あの子、右手をケガしたのね」
「ケガっつうより痺れだな。
内野がマウンドへ集まる中、
「そう簡単には終わらせねえよ。最低13点取るまではな」
「13点? コールドならあと7点でいいんじゃない?」
「必要なんだよ。五回コールドで終わらせるため」
その後も七番
「おい。次の回頭から投げる気あるか?」
「......はい、投げます!」
「なら、バッターボックスの一番外に立って初球をバントでファーストへ転がせ」
あおいは頷いて、バッターボックスへ。更に
「だけどファーストって、ちょっと無謀じゃないの?」
「100%決まるさ。初球は、真ん中付近のストレートだからな」
しかし、
外に立ち打ち、まったく気を見せないあおいに対して、
ダッシュして来たファーストは、捕球後サードを見る。
「ダメだ! 投げるな、間に合わない!」
「なら!」
「こっちもダメだ!」
重盗が功を奏し、サードセカンド共に間に合わないと手でバツマークを作る。
「ファースト......?」
捕球したファーストは一塁を見て固まった。何故なら誰も居なかったからだ。
セーフティバントで「投・一・三」は打球へ向かいチャージ。ダブルスチールで遊撃手はサードへ、二塁手はセカンドベースのカバーリング。気づいた投手の
「完全に連携ミスね」
「所詮は一年だからな。名門と言っても新年度が始まって一週間そこそこ、一年の連携にまで手は回っていなかった。まあ仮に回っていたとしてもタイミングはセーフだ」
打ち気の無いあおいを見て置きに行ったストレートは、通常と比べると球速・球威ともに出ていなかったためバントは容易い。しかも、右打席のあおいは左足を踏み込んでのセーフティーバントになったことで当たった瞬間には走り出せているという二重の策を仕掛けていた。
この回二回目の伝令を使い、アンドロメダベンチは慌ただしくなり、ようやく控え投手がブルペンで肩を作り出した。
「追加点を許したら代えるって雰囲気ね」
「代えねえよ。まあ代えてくれた方が楽だけどな」
その
そして、その迷いが傷口をさらに広げていく。
犠牲フライで一死は取ったが、四死球と暴投が重なる。手の痺れは取れるも今度は味方のエラーや連携ミス等でさらに3失点を献上。ここでようやく交代を告げるも余りにも遅すぎた。
ここで6点以上取らなければ、
「この回抑えて終わらせるぞー!」
「おおーっ!」
気合いを入れてベンチを出て行く恋恋ナイン。
「五点余裕があることを忘れるな」
「え? あ、はい」
少し首をかしげながらキャッチャースボックスへ向かう。
「もう遅いよっ」
「ごめんごめん。いいよ」
気合いを削がれ形の
「ナイスボール!」
あおいの球威はまだ衰えていない。ミットの手応えを感じながら頷いてボールを投げ返す。
「調子は変わってないみたいだけど、点取られるの?」
「今のままならな」
四回表のアンドロメダの攻撃。
ダブルプレーで切り抜けたとは言え、二巡目に入りアンダースローの球筋に対応してきた。
「まあ問題があるのは
「急造キャッチャーの
「無駄だ。あいつは、いくら普段と球速が違うとは言え
「
「キャッチャーであることを意識しなければ」
アンドロメダの攻撃。
ここまで打ち崩すことが出来ないでいたあおいのピッチングに、ツーストライクと追い込まれてからストレートを流し打ちで一二塁間を破り、ノーアウトからランナーを出した。
次の打者も追い込まれてからヒットで出塁。無死一二塁。
「連打っ。それもどっちも追い込んでから......!」
「さすがは名門校。気づいたようだな」
――さて、ここからどう対処するか見物だ。
今までとは明らかに違う攻撃にたまらずタイムを取り内野をマウンドに集める
「
「しゃんとしなさいよ!」
「ああ、わかってるよ」
一塁に入り
追い込んでから振り逃げやワイルドピッチを怖れての配球。球筋に慣れていない一巡目は、それでも打ち損じてくれたが二巡目はそう簡単には行かない。
「あおいちゃん、低めの変化球を使おう。絶対捕るから」
「うんっ」
ポジションに戻り試合再開。
あおいは、目で牽制しての投球。
見逃し四つでカウント2-2と追い込み、勝負球は狙われているストレートでは無く膝元へ落ちるシンカー。
「スイングアウト!」
バッターはワンバウンドした投球に、空振り三振。一塁が埋まっているため振り逃げは無効だが、
「ゴメン......」
「ううん。それよりワンナウトだよっ、あと二人抑えようっ」
一死二三塁から四番の打席、追い込む前の変化球を後逸し1点を返され15-1なおも一死三塁のピンチ。
カウント1-1からファウルで追い込み四球目。
「――あっ!」
「フンッ!」
甘く入ったカーブを捉えられ、ツーランホームランを打たれた。15-3と追い上げられ、さらにヒットと連続フォアボールで塁が埋まり一死満塁のピンチを迎えた。
「タイム!」
頭が真っ白になりタイムを要求しない
「満塁......指示してあげないのっ?」
心配そうな
「長引かすのも面倒だし仕方ねぇな。おい、お前伝令だ。
「はいっ」
伝令はマウンドで
「ビデオ?」
「あれじゃない。コーチに渡されたやつ」
「あ、ああ~......」
「きっとビデオの中にヒントが有るんだよ」
「ヒント、か......」
――もう、いいかね?
球審がマウンドに行き急かす。
「あ、すみません! すぐに戻ります!」
「
「俺ら絶対守るからさ!」
内野陣は、バッテリーを励ましポジションへ戻った。
「(ビデオを思い出せ、か......。確か満塁の場面も何回か。そうだ、コーチや
「ふぅ......」
目をつむっていた
「(......そうだ。この場面一番緊張するのは、
名門校が弱小校相手にコールドゲーム回避は当然のこと、絶対に勝たなくてはならないという
「(ランナーも同じだ)」
それぞれの塁上ランナーたちも一歩でホームに近づきたいがためリードが大きい。
「(よし。なら先ずは、これで!)」
「(えっ!?)」
それでも、さっきまでとは違う
「ふぅ~......、んっ!」
息を整えて、モーションを起こして投げた。
初球は、真ん中への緩いボール。
「(――遅い! カーブだ!)」
遅く山なりのボールをカーブと読み外角狙いで振った。
――ブンッ! と高い金属音は響かず、その代わりに風を切るスイングの音がホームベース上で鳴る。
「えっ......?」
「ストライク!」
「サード!」
ど真ん中のスローボールを捕球した
「セ、セーフッ!」
「ふぅ~、さすがに無理か」
「ナイス牽制! おしいおしい!」
「(スローボールじゃあさすがに無理か......。空振りを取りつつサードを刺すことは今の俺には出来ない。それなら一点は捨ててゴロで一つアウトをもらおう)」
初球と同じコースからのカーブでファウルを打たせ、カウント0-2。内野に左に動け、とブロックサインを出し、あおいには内角のシンカーを要求。やや甘いコースから内角へシンカーにバッターは食い付き、狙い通りショートゴロを打たせた。
「ホームは無視でいいよ! サード!」
「あいよッ!」
「アウト!」
あと二点余裕があることを頭に置いての冷静な判断で、サードで確実にひとつアウトを取った。15-4と1点を返されるも、これでツーアウト。
「今の判断は、冷静だったわね!」
「まあこんなもんか」
あとアウト一つで勝利となる場面ではしゃぐ
打席では、ラストバッターになるかも知れない選手が額から油汗を流している。ボール球二つを振らせてツーストライク。
「(これで決めよう)」
「(うん!)」
こくっ、とサインに頷いてラストボールを投げた。
あおいの投げたラストボールは――ど真ん中のストレート。
バッターのバットは快音を響かせるどころか
あおい渾身のストレートは