7Game   作:ナナシの新人

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Epilogue
Episode Final ~ネクストゲーム~


 東京都内、東京読読ガラリアンズの親会社が所有するオフィスビル。ガラリアンズの元オーナーで、現在は特別顧問の肩書きの田辺(たなべ)常行(つねゆき)は、次世代を担う選手たちが集う甲子園大会が閉幕し、シーズンの行方と秋に執り行われるドラフトに向けて特集が組まれているテレビの電源を落とし、ワイングラスを口に運んだ。

 

「フン、くだらんな。我が球団の一位指名は、猪狩(いかり)で決まりだ。あのルックスと実力を兼ね備えたスター性は、更なる人気をもたらすことになるだろう。一リーグ化計画と共に我が軍の地位は安定、盤石と言うことだ。クックック......」

 

 他球団のオーナーに対して、一位指名を事前に通告し圧力をかけている。猪狩(いかり)の一本釣りは確実、と上機嫌でワインをたしなむ田辺(たなべ)の肩をマッサージしている、メガネをかけた黒髪ロングの女性秘書が尋ねる。

 

「会長。栄冠を掴んだのは、例の学校でしたね。他球団のスカウトには、獲得へ向けて動いているとの情報もありますが?」

「そんなもの認める訳がなかろう。ヤツの教え子など言語道断だ。そもそも、球界から確実に追放するために研修参加を認めてやったに過ぎん。ん? 誰だ?」

 

 面会の予定は入っていないが、ドアがノックされた。

 デスクでパソコンを操作していた別の女性秘書が、来訪者の応対に向かう。来訪者を確認した彼女は、とても慌てた様子で田辺(たなべ)の元へ急いだ。

 

「か、会長!」

「何ごとだ? 騒々しい」

「それが、その......」

 

 言いあぐねる秘書の後ろから、東亜(トーア)が姿を見せた。

 

「き、貴様は、渡久地(とくち)東亜(トーア)......!」

 

 勢いよく立ち上がった田辺(たなべ)は、目を見開いた。

 

「くくく、そう青筋を立てていると早死にするぞ?」

 

 小馬鹿にしたようにせせら笑う東亜(トーア)は、空いていた正面のソファーに腰を降ろし、ふてぶてしく、取り出したタバコを咥えて火を付けた。

 

「キサマァ、いったい誰の許可を得て座っている!? それ以前に、どうやって――」

「金で動くヤツは金で裏切る。よーく知っているだろ?」

「くっ......!」

「まあ、固いことを言うなよ。今から、面白いショーが始まるのさ」

「ショーだと......?」

「おい、テレビ付けろ」

 

 テレビを付けるよう指示された秘書は戸惑いながらも、言われた通りテレビの電源を付ける。先ほどまで放送されていた番組は中断され、緊張感のある画に変わっていた。

 

『さて、番組の途中ですが。ここで、臨時ニュースをお伝えします。別室に中継が繋がっています。響乃(ひびきの)アナウンサー』

 

 画面が切り替わり、パワフルテレビの女性アナウンサー響乃(ひびきの)こころが、とても緊張した面持ちで現場の様子を伝える。

 

『はい。こちらは、パワフルテレビ局内の一室です。ただ今から、プロ野球の選手会が臨時会見を行います』

 

 田辺(たなべ)は、食い入るようにテレビ画面を見入る。

 画面内には、選手会を代表して、リカオンズの児島(こじま)、ブルーマーズの捕手沢村(さわむら)。そして、ブルーマーズの元ヘッドコーチの白丘(しろおか)が映し出されていた。

 

『司会進行は、わたくし、響乃(ひびきの)が務めさせていただきます。それでは、児島(こじま)選手、お願いします』

『はい』

 

 指名された児島(こじま)が席を立ち、同席しているブルーマーズの沢村(さわむら)と、元ヘッドコーチの白丘(しろおか)も立ち上がった。

 

『まず最初に、この場と時間を用意していただけたことに深く感謝の意を申し上げます。ありがとうございます』

 

 三人揃って深々と頭を下げ、本題に入った。

 一部で報道されている、ブルーマーズの不正行為について。不正の主導・手引きした白丘(しろおか)が包み隠さず全てを告白し、沢村(さわむら)と共に膝を付いて深々と頭を下げた。

 

「な、なんだ? これは......いったい、どう言うことだ!?」

「ご覧の通り。ブルーマーズの連中は、不正行為を全て認めたのさ。厳罰を覚悟した上でな」

「だから何だと言うのだ、こんなことをしたところで何も変わらん! むしろ、不正行為が確定し、世間の反感を買うだけに過ぎん! ブルーマーズの親会社の球団経営権剥奪は確定、シーズン途中であろうが球団は即消滅! リーグを維持出来なくなるパ・リーグの命運は決まったも同然だ!」

 

 その後児島(こじま)は、腐敗しているプロ野球界の現状と問題解決に尽力するため、残り試合の全ての欠場を公表。当初の予定通り、新規参入企業の募集を訴えかけた。

 

『これから夢を、希望を持って、プロの世界に飛び込んでくる若い選手たちのため。どうか、お力を貸してください!』

 

 必死の形相で訴えかける児島(こじま)の姿に、田辺(たなべ)は笑みを浮かべた。

 

「フン、バカめが。イメージダウンに繋がる球団を欲しがるような企業など無い。万が一申し出があろうとも、我々が認めなければ承認されん。全ては、ワシのシナリオ通り。我が軍中心の一リーグ化は、もはや誰にも止められん既定路線だ......!」

「クックック......さーて、そいつはどうかな?」

 

 意味深に笑う、東亜(トーア)

 

『あ、はい。えっ......? ほ、本当ですかっ?』

 

 様子が慌ただしい空気が流れる。児島(こじま)も、顔を上げたブルーマーズの二人も、何ごとかと戸惑っている。

 

『そ、速報です! たった今、情報が入りましたっ! 新規参入を希望する企業が名乗り出ましたっ!』

『なっ!?』

 

 響乃(ひびきの)アナウンサーの発言に衝撃が走る。

 

「な、なんだと!?」

 

 身を乗り出した田辺(たなべ)は、聞き逃さないように耳をすませる。

 

『手元の情報によりますと、新規参入の意思を表明したのは――』

 

 会見の最中、新規参入を表明した企業は、ガラリアンズの田辺(たなべ)はおろか、政財界の重鎮ですらも迂闊に口を挟めない程の、世界で指折りの大企業。日本が世界に誇る大企業――猪狩コンツェルン。

 

「......猪狩コンツェルンだと? バ、バカな......なぜ、こんなことに――」

 

 まさかの相手に、膝から崩れ落ちた。

 

「お前の負けだ。部外者がこれ以上、鉄火場を土足で踏み荒らすな」

 

 席を立った東亜(トーア)は、放心状態で膝を付く田辺(たなべ)を蔑むような目で見下し、悠然と部屋を後にした。

 

 

           * * *

 

 

 そして、季節は巡り、秋。

 レギュラーシーズンの全日程が消化され、ドラフト会議が執り行われようとしていた。

 

『今年も、この日がやってまいりました。プロ野球ドラフト会議。実況は私、熱盛(あつもり)でお送りさせてイタダキマス! まず最初に登場するのは、神戸ブルーマーズ改め、新球団として初参加の――猪狩カイザース! 猪狩コンツェルンの社長兼オーナーである猪狩(いかり)(しげる)氏、自らが登場です。そして、御曹子である猪狩(いかり)(まもる)の一位指名を表明しています!』

 

 猪狩カイザースを先頭に、各球団の代表が会議室へ順番に姿を現す。

 

『続いては、彩珠リカオンズ。今期もシーズン終盤まで、千葉マリナーズとの死闘を演じましたが。主砲児島(こじま)が、球界再編のため一時離脱した事が響き、惜しくもリーグ優勝を逃がして二位でフィニッシュ。残念ながら、連覇の夢は潰えました。しかし! ドラフト会議後は、マリナーズとのプレーオフが待ち受けています! 下剋上を果たし、日本シリーズ連覇を成し遂げるられるか!? そして今期、長年リカオンズを率いた三原(みはら)監督は勇退を表明。来期からは、球界のレジェンド、児島(こじま)弘道(ひろみち)が、新監督としてチームを率います! 狙うは、自身の後釜を担うスラッガー候補か?』

 

児島(こじま)さん、緊張してるな」

「見るからにな。そう言えば、ウチの一位指名は誰なんだ?」

「さあ? 球団も、監督も、最後まで公表しなかったからね。ただ、投手中心の指名になると思うけど」

「よう。何を真剣に語り合ってるんだ?」

 

 プレーオフへ向け、練習場で行っていた調整を中断し、設置されたモニターでドラフト会議の様子を見守る、高見(たかみ)とトマス。彼らの下へ、ひとりの男が姿を現した。

 

渡久地(とくち)!?」

「お前、どうやって入ったんだ?」

「お前たちに用があると言ったら、すんなり通してくれたぜ? 多少謝礼は弾んだがな」

「ウチのセキュリティ大丈夫かよ......?」

 

 呆れ顔の二人を後目に、壁に寄りかかって腕を組んでモニターを眺める。

 

『第一回希望選択選手、猪狩カイザース――猪狩(いかり)(まもる)。投手、あかつき大学附属高校』

 

「新規参入のカイザースは表明通り、御曹子か」

「実力、人気共に兼ね備えている。貴重なサウスポー、新チームの軸に据えるつもりだろうね」

「くくく、それだけじゃねーんだな」

 

 東亜(トーア)の台詞に、高見(たかみ)は勘づいた。

 

「まさか、お前か! 猪狩コンツェルンに新規参入を進言したのは......!」

「おいおい勘違いするなよ。別に、球団を獲得しろだなんて一言も言っちゃいねーよ。ただ、セーヌ川のほとりで夫婦仲むつまじくブランチを楽しんでいたところに偶然出くわして、少しばかり世間話しをしただけさ。ご子息の希望進路先には、教育に悪影響を及ぼし兼ねない重大な懸案事項がある、とな」

「暗どころか直球じゃないか......」

「それで? 僕たちに何の用なんだ? 大事な決勝戦を前に行方を眩ませた、お前が――」

「まあ、大したことではないが。少しばかり、面白いモノを見せてやろうと思ってな。ポスティングシステムでの移籍を検討している、今期二冠王の天才打者に――」

 

 室内練習場内のバッティンゲージで、東亜(トーア)高見(たかみ)が対峙する。

 

「お前、痛めた肩は......?」

「確かめて見ろよ、その目でしかとな」

 

 振りかぶって、第一球を投じる。ど真ん中にストレートが決まった。審判役のトマスはジャッジを下し、スピードガンの数字を読み上げる。

 

「ストライクだ。127キロ」

 

 二球目は、外角へ沈む高速低回転ボールでファウルを打たせた。

 

「どうやら、本当に全快したようだな。ならば、こちらも遠慮はしない、来い!」

「フッ、さて、遊び球なしだ。次で決めるぜ?」

 

 勝負の三球目――バットに触れることなく、後ろに設置された防球ネットを揺らした。

 

「なっ!? (いつき)が、空振り......!」

「......完全に捉えたハズなのに」

「くくく、面白かっただろ? さて、これで用向きは済んだ。おいとまさせて貰う」

「ま、待て! 何だ、今のは!? 回転は完全にストレートだった。なのになぜ、スライドしたんだ!」

「変化球......!?」

「マジシャンがタネを明かすか? 自分で考えろよ」

 

 背中を向け、出入り口へ向かう東亜(トーア)の足が止まる。

 

「言い忘れていた。来シーズン、とある球団とマネージメント契約を結んだ。リーグのお荷物、アメリカの弱小球団だ」

「アメリカ......」

「フッ、まあ、そう言うことだ。じゃあな」

 

 去っていく東亜(トーア)の背中を高見(たかみ)は、ただただ見送ることしか出来なかった。そして、決断した。ポスティングシステムによる海外移籍を――。

 

 

           * * *

 

 

 そして、冬が過ぎて春。出会いと別れの季節。

 

「ねぇ、聞いた? 今年の入部希望者、20人以上居るんだって。選手希望の女子も何人か居るみたいだよっ!」

「はぁ、嬉しいけど、大変だよ~」

 

 春休み中に新設された恋恋高校野球部の女子更衣室で、香月(こうづき)藤村(ふじむら)の二人が着替えながら話しをしている。

 鳴海(なるみ)たち三年生が引退し、新キャプテンに選ばれたのは、男子部員ではなく、女子の香月(こうづき)だった。

 

「それらしいこと言ってたけど。絶対、面倒ごとを押し付けただけだよね?」

 

 話し合いの結果残った男子四人、片倉(かたくら)藤堂(とうどう)新海(しんかい)六条(ろくじょう)の順番で、新チームのエースとして飛躍するため、主軸を担うため、正捕手として必要なスキルアップを図るため、素人のため、と言って辞退。投手の藤村(ふじむら)よりも、野手の方がいいという理由だけで、香月(こうづき)がキャプテンに選ばれた。

 

「ガンバって、キャプテンっ!」

「もぅ、人事だと思って......よし、行くよ!」

 

 ロックを解除し、意を決して更衣室のドアを開け放った。

 ベンチ前に集まっている人集りの下へ行くと。凜とした佇まいの女性が、一部の入部希望者の態度を咎めていた。

 

「口を慎みなさい。それほどの大口をたたく自信があるのなら、結果で示すことね」

 

 女性の正体は甲子園で対戦した、聖タチバナ学園の夢城(ゆめしろ)優花(ゆうか)。東京の大学へ進学を志望していたことを聞きつけた理香(りか)が、直接口説き落とし、研修生兼サポートトレーナーとして招いた。

 

夢城(ゆめしろ)さん、何かあったんですか?」

「大したことではないわ。少々身の程知らずの新入生が居たから、口の利き方を指導しただけよ」

「そ、そうですか」

「まあ、想像つくけど......」

 

 香月(こうづき)は改めて、入部希望者の前に立った。

 

「みなさん、ようこそ、恋恋高校野球部へ! わたしは、キャプテンの香月(こうづき)と言います。ご存じかと思いますが、現在正式な部員は九人を割っています。秋季、春季大会共に参加することも叶いませんでした。それと、ウチは、渡久地(とくち)前監督の理念で、学年も男女の優劣もありません。完全実力主義です、全体練習も殆ど行いません。各自の判断力が試されます。ですので、ここに居る全員に、レギュラーになれるチャンスがあります」

 

 入部希望者たちの目の色が変わる。特に、ある程度の実績を引っさげて来た男子の目の色が。

 しかし、彼女の言葉には続きがあった。

 

「――ですが。試合で使えるレベルに達していないと判断した場合、ベンチ入り可能人数の上限20人以下で参加します。背番号が欲しければ、予選までの九十日で使えるようになってくださいね」

 

 ニッコリと笑顔を見せて言ったが、目は笑っていない。

 

「では。マネージャー志望の人以外は、藤村(ふじむら)さんの指示に従ってください」

「はーい、それじゃあ、アップを始めるよー。え? 何周走るのかって? そんなの決まってるでしょ? 動けなくなるまでだよ。先ずは、受験で鈍った足腰を戻さないとね。はい、スタート!」

 

 走り出した藤村(ふじむら)の後に続いて、一斉に走り出した。優花(ゆうか)はタブレット端末を片手に、入部希望者のデータ収集を行う。

 

「どうしたのっ? まだ、三キロも走ってないよー!」

 

 グラウンドを走る姿を、更衣室と共に新設されたトレーニングルームで自主トレを行っていた四人の男子が、危機感を持った表情(かお)で見つめていた。

 

「想像以上にヤバいな。甲子園云々の話しじゃない」

「だね。このあと、地獄の筋トレが待ってるのに。まあオレたちも、人のことは言えなかったけどさ」

「ホント、凄い先輩たちだったんだって。改めて実感したよ」

「自分たちの練習を欠かさず、俺たちのフォローもしてくれてたんだもんな」

 

 今度は、自分たちがしっかりせねばと強い責任感が芽生えた。

 その頃、理事長室では、理香(りか)倉橋(くらはし)理事長は話しをしていた。

 

「いよいよ、始まりましたな。新しいチャレンジが」

「はい。ですが、こう言うことなのですね。新しく始めるとは」

「前途多難ですかな?」

「ええ。ですが、大丈夫です。彼の教えは――」

 

 ――確実に生きています。あの子たちの中で......。

 

 

           * * *

 

 

奥居(おくい)さんが、いらっしゃいましたよー」

「よっす! 久しぶりだな~」

「遅いわよ!」

 

 約束の時間より少し遅れてやって来た奥居(おくい)は、芽衣香(めいか)から浴びせられた非難の声をテキトーにあしらい、空いている隣の席に座った。

 はるかの実家のゲストルームに、瑠菜(るな)を除いた元恋恋ナインが全員集合。

 

「結構、忙しいんだよ。取材とかさ。まあ、新人王は、猪狩(いかり)に持っていかれるだろうけど」

「高卒新人で開幕投手を務めて二桁勝利だもんねー。最後の方は、息切れして連敗してたけど。あんたも、二桁打ったのに、相手が悪かったわね」

「それよりも、規定に届かなかったのが悔しい。来年は、開幕から出るぜ!」

 

 来シーズンへ向けて息巻く、奥居(おくい)芽衣香(めいか)は、奥居(おくい)と同じくプロに進んだ鳴海(なるみ)に話題を振る。

 

「俺は、順位が決まってからの昇格だったから体験みたいなものだよ。二軍で経験を積んで、結果を残さないと」

「そこは、絶対奪うっていいなさいよねー。あおいも、一軍で投げたんだし」

「ボクも、顔見せで一試合だけだよ。それに、打たれちゃったし......」

「打者二人を打ち取ったあと、奥居(おくい)に打たれたってのがポイント高いわよね。だけど、複雑。同じチームメイトだった二人が、プロの世界でぶつかり合うんだもん」

「そうですね。私は、あおいを応援しましたけど。奥居(おくい)さんにも負けて欲しくないと想いましたし。鳴海(なるみ)さんも加わるとなると、ますます困ってしまいます」

「ホントよね。三人全員が同じリーグじゃなくて良かったわ。交流戦と日本シリーズ以外、少しは応援に迷わなくて済むし」

「......みんな、オイラのことを忘れないで欲しいでやんす!」

「え? だってあんた、育成じゃん?」

「来シーズンから支配下登録選手になったでやんすー!」

「おい。中継が始まったぞ」

 

 真田(さなだ)葛城(かつらぎ)近衛(このえ)とダベっていた甲斐(かい)が、鳴海(なるみ)たちに知らせる。全員の視線が、超大型テレビに集まった。

 

『世界一を決める決戦も、いよいよ最終戦を迎えます!』

 

「すんごい熱気、さすが野球の本場アメリカ!」

「世界一を決める、優勝決定戦だからね。瑠菜(るな)ちゃんは、現地に観に行ってるんだよね?」

「うん。チケット取れたって言ってたよ」

「まさか、アメリカの独立リーグへ挑戦するなんてね。指名の話しもあったみたいなのに。あの向上心と行動力は、素直に見習いたいわ」

「そうですね。あっ、高見(たかみ)選手ですよ」

 

 画面には今季、ポスティングシステムを使って、レッドエンジェルスへ移籍した高見(たかみ)が、打席に向けての準備をしていた。

 

『三勝三敗で迎えた第七戦。王者を決める戦いが今、始まろうとしています! 先攻は高見(たかみ)神童(しんどう)、マイルマン、バンガードを要するレッドエンジェルス! 対するは、数々の記録を打ち立てて日本球界を去った、あの伝説の勝負師――渡久地(とくち)東亜(トーア)! そして、高校時代はまったくの無名選手、ドラフト会議で指名漏れした田中山(たなかやま)が、シーズン中盤以降守備固めから信頼を積み重ね、セカンドのポジションを確立しました。打率は二割そこそこ、決してプレーに派手さはありません。しかし、犠打の数は両リーグ1位。広い守備範囲、ポジショニングの上手さ、堅実な守りで幾度となくチームの危機を救って来ました。今では、チームに欠かせない内野守備の要です!』

 

 後攻チームの先発のマウンドには、弱小球団をプレイングマネージャーとして一年でリーグ制覇へと導いた東亜(トーア)が不敵な笑みを浮かべて立っている。

 

「さあ、始めようじゃねーか。真の世界一を決める運命の第七戦、優勝決定戦を」

 

 東亜(トーア)はまるで挑発するかのように一瞬、高見(たかみ)へ視線を向ける。両の手に自然と力が入る。前の打者二人は簡単に打ち取られた。大歓声を背中に浴びながら、ネクストからバッターボックスへ向かう。

 

「(そうだ。僕は、ずっと待ち望んでいたんだ。この瞬間を――)」

 

 打席に立ち、真っ直ぐと東亜(トーア)を見据える。

 

「フッ、さあ、行くぜ?」

「――来い!」

 

 二人の天才が醸し出すただならぬ空気に、スタジアム内にも独特な雰囲気が漂っている。それは、画面越しにも充分に伝わっていた。

 

「俺たちも、いつかここで――」

「うんっ!」

 

『投手タイトルを総なめした渡久地(とくち)東亜(トーア)。打率、打点二冠王の高見(たかみ)(いつき)。両雄が相見えます! 渡久地(とくち)東亜(トーア)、大きく振りかぶって第一球を――投げました!』

 

 この最高の舞台で、恩師である東亜(トーア)と真剣勝負が出来るように更なる高みへ、新しいステージへ向かってスタートすることを、強く心に誓い合った。

 

 ―7Game fin.―




これで完結となります。長々と最後までお付き合いくださりありがとうございました!

簡単な設定公開です。

タイトルの「7Game」は七つの挑戦を意味しています。
理香(りか)との契約」
「甲子園出場までの七試合の道のり」
「ナインの成長、東亜(トーア)依存からの脱却」
「プロ野球界改革」
「海外挑戦」
「優勝決定戦が七戦目、高見(たかみ)との再戦」
「将来、成長したナインたちとの真剣勝負」
多少苦しいこじつけの様な部分もありますが。基本的には、上記七つの意味を持つ形での構成を考えました。

シナリオ上の最終戦がオリジナル校だった理由ですが。これには当然、賛否があると想います。自身の中では当初から、最後は捕手同士の駆け引きでと決めていました。ただ、既存の高校で駆け引きを得意とする捕手に焦点が当てられている高校が無いこと、フライボール革命やピッチトンネルなどの理論を持ち込むため、総合的に判断し、オリジナル校でと言う決断に至りました。
この判断が正しかったのか間違っていたのかは、正直、今でも判りません。
いつか、振り返るときがあるかのも知れませんが。今は、ただただ最後までお付き合いいただけたことに感謝しかありません。
繰り返しになってしまいますが、最後までお付き合いくださりありがとうございました!

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